【荒れ地】で育った嫌われ者のDランク冒険者は拾遺者《ダイバー》として今日も最下層に潜る

嵐山紙切

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第一章 ライラ・マリー編

第7話 拾遺者《ダイバー》よ、漏れ落ちた作品たちを集め、補いたまえ

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 俺は五日くらいなら平気で歩き通せるけれど、ライラは毎日睡眠と食事を取らなければならない。
 途中から面倒になって背負って走ることにした。


「あの、乗合馬車を使えば……」

「んなもんあるわけねえだろ。お前が言ったように準荒れ地に行きたい奴なんて頭がおかしい奴しかいねえ。そして頭がおかしい奴を乗せる乗合馬車なんてねえ。おわかり?」

「……準荒れ地に行くのは本当だったんですね。……あの、何のために?」

「何のためって、俺がいつも何してるか知ってんだろ?」

 
 ライラはきょとんとしたように、一瞬、俺の背で黙って、


「それは……冒険者の遺品を集めるためですよね? でも準荒れ地なんてところに行く冒険者なんていないですよ?」

「ああ、いまはな。でも昔はいただろ。最初から準荒れ地って訳じゃねえんだからな」

「そりゃそうでしょうけど……、え? そんな前の装備品まで回収してるんですか!?」

 
 ライラは俺の肩をぎゅっと掴んで驚く。
 痛いなあ。


「いつもじゃない。今回向かう『笑う頭蓋骨の穴』にはお宝が眠ってるって情報があってな。だから向かう」

「そんな情報どこから?」

「秘密。ま、情報は金で買えるからな」


 俺は正確な依頼について思い出していた。




 
 ◇◇◇





 今回の『依頼』は正確には、二年前に準荒れ地となったシネアルタス地方にある『笑う頭蓋骨の穴』というダンジョンに向かい、アーティファクトと呼ばれる宝を取ってくると言うものだった。
 
 アザリア曰く、
 

「『笑う頭蓋骨の穴』ってダンジョンはねえ、まああんまり知られてないんだけど昔は結構冒険者が潜ってたみたいだよ。噂ではアーティファクトが眠ってるってさ。探索者シーカーの話じゃそりゃものすごいものが眠ってるってよ」


 とのこと。

 探索者シーカーってのは言ってみれば斥候で、噂や情報を頼りに俺たち拾遺者ダイバーより先にダンジョンに潜って、情報が正しいかを確かめるのが役目。

 魔物の目をくらまして、天井に張り付いて、戦闘をせずに先に進み、地形を調査して目的物を見つけるのを得意としている。
 
 小さな目的物なら彼女らだけで回収できるが大きいものだと不可能。
 だから俺みたいな拾遺者ダイバーが回収しに行くというわけ。
 懸念点は、


「……今回の探索者シーカーってだれだ?」

「……イーヴァだよ」

 
 俺は溜息をついた。


「あのちんちくりん信用できねえんだよ」

「仕方ないでしょう、準荒れ地で生き残れるのあの馬鹿くらいしかいないんだからさあ」


 探索者シーカーは、暗殺者みたいな身を隠すスペシャリストであるはずなのに、イーヴァは馬鹿なので魔物を起こす、蹴る、罠にはまる。

 なのに毎回無傷で帰って来るから驚きだった。

 ちなみにバカさ加減は俺の仕事にも影響していて、「Cランク級の魔物しかでないよっ」とか言うから行ってみたらふっつうにAランク級がゴロゴロしていたり、「罠はないから安心してねっ」と言われて行ってみると落とし穴に落ちたりする。


「イーヴァが探索者シーカーなら情報料とんなよ。これ他の情報と違って『依頼』だろ?」

「君が誰にも邪魔されたくないって言うから情報料を取ってるんだよ。あーしだって君だけに任せるのはリスクとってるんだからね。他のに教えて、向かった先で鉢合わせして、早い者勝ちの戦闘になっても良いなら情報料は返すよ」

「イーヴァなら俺にだってリスクあるだろ」

「準荒れ地に行くんだからイーヴァじゃなくてもリスクはあるでしょう。この仕事はそういう仕事だからねえ」


 違いない。
 溜息を吐く。
 諦めた俺は続きを促す。


「で、詳細は?」


 アザリアは説教台の裏から折りたたまれた紙を取り出して手渡した。


「はい、これ渡しておく、イーヴァから。いつものように追加料金ね」


 俺はさらに銀貨を数枚手渡す。


「まいど。『笑う頭蓋骨の穴』は元はDランク以上推奨のダンジョンだったけどねえ、いまでは周りが準荒れ地になっちゃったえいきょーもあって誰も潜らないから魔物が溢れてるんだってさ。イーヴァが入るために門に魔石を補充したら門にくっついてる魔道人形が警報ケーホーを鳴らしたみたいだよ。門自体も壊れてるし。だから危険度はSランク。心して懸かると良いよ」


 危険度Sランクなら問題ない。
【荒れ地】は、それよりずっと危険だったからな。


「アーティファクトの大きさは」

「うーん、イーヴァが言うには小さな樽くらいだってさあ。箱が置いてあるからそれを持ってきてほしいんだよ。抱えてもってこれるはずだよ」


 なら、問題ないな。

 俺が立ち上がると、アザリアはぴょんと軽快に説教台から降りてきて、俺の胸に手を当てる。


拾遺者ダイバーよ、漏れ落ちた作品たちを集め、補いたまえ。神のご加護があらんことを。あーしのご加護をあげてもいいよ」


 尻をなでるな。
 ぱっと手を払って、


「靴を履け」

「はーい、ママ」
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