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第一章 ライラ・マリー編
第9話 帰りましょうよ! 帰りましょうよ! お願いです!
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グウェン・フォーサイスは今年、十八歳にしてSランク冒険者に上り詰めた女冒険者で、正確無比の弓術と魔法、そして、準荒れ地での戦闘もものともしない強靱さで有名だけれど、俺は【荒れ地】で戦ってきたから俺の勝ちだ。
俺と年齢的には変わらないからなおのこと俺の勝ちだ!
とか、つまらない意地を張ってみたけれど、どう考えたってグウェンの方が人気だし、グウェンの方が憧れのまなざしで見られている。
と言うかすげえ美人らしいし。
俺たちの街から結構離れたところにあるギルドに所属しているのに俺が知っているくらいだし。
一方の俺はゴミを見る目で見られているのに。
悲し!
で、そんな人気者の彼女がどうしてこんなダンジョンにいるんだろうか。
「一体何しに来たんだろうな。観光かな」
「んなわけないでしょ! そんなことより! シオンさん! 入るの止めましょうよ! だって誰も戻ってきてないんでしょ!?」
「戻ってきたよ!」
門番の魔動人形が言うとライラは一瞬固まって、息を吸い込み、ほっと胸をなで下ろして、
「なあんだ。じゃあ馬がいなくなったから馬車だけ置いて帰ったんですね。そりゃそうですよね。Sランク冒険者ですもんね。全員無事に決まってます」
「違うよ!」
今度はもう一方の魔動人形が言う。
「戻ってきたのは、ヘイグ・スコデラリオだけだよ!」
「あとの……あとの三人はどうしたんです!? Sランク冒険者は!? グウェン・フォーサイスは!?」
「知らないよ!」「死んだんじゃないの!」
冷たい。
さすが心がないだけある。
「よし、話も聞いたし行くかあ」
俺が言って、ちょっとしか開いていない門に体をねじ込むようにしてダンジョンの中に入ろうとすると、ライラが俺の腕をひっしと掴んでいやいやと首を横に振った。
「待って! 待ってください! アタシ死にたくないです!」
もう腕に抱きついていると言っていい。
胸の鎧を押しつけるな。
痛えんだよ。
「じゃあ待ってろ!」
「アタシDランクですよ! こんなところに置き去りにされたら死にます!」
「俺だってDランクだよ! おっそろいー!」
「じゃあ帰りましょうよ! 帰りましょうよ! お願いです! 今までのこと謝りますから! だから一緒に帰ってください!」
ライラはもう本当に拒絶をしていて、首を大きく横に振って、俺の身体を門の隙間から引き抜こうとしている。
彼女からしてみればここに置いていかれるのも、ダンジョンの中に入るのもどちらにも死が待っていて、ただ唯一帰ることだけが生き残る道なんだろう。
勝手についてきた彼女は、多分今たくさんのことを後悔して俺に懇願して一緒に帰ってくれといっているのだろう。
俺にとっちゃ、そんなこと知ったことではない。
まったく、知ったことではない。
「ったく、わがままな奴だなあ!」
俺はライラに掴まれた腕を振って、いとも簡単にほどいてしまう。
その瞬間、ライラは、完全に絶望した表情を浮かべ、「あ……」と呟いた。
ライラの身体が後傾して、門から離れていく。
すでに潤んでいたライラの目から涙がこぼれ落ちる。
頬を伝って、顎先に達し、
落ちる瞬間、
俺は、ライラの腕を掴みなおし、その体を支えた。
「良いから一緒についてこい。何があってもお前のことは守ってやるから」
ぐいとその体を引っ張って、ほとんど抱きしめるようにして、ダンジョンの中に無理矢理連れ込んだ。
【荒れ地】に置き去りにされた俺が、ライラを置き去りにするわけがないだろ。
門から中に入って数歩進んでもライラは俺の胴体にしがみついていて、「あ……あ……」とこぼれるように呟いている。
いつまで抱きついてんだこいつ。
しばらくそんなふうにライラは呆けていたが、俺の胸の中で俺の顔を見上げて、ダンジョンの奥をみて、通ってきた門をみて、まるで赤子が離乳食を食べるみたいに徐々に事態を飲み込むと、息を吸い込み、
そして、
「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!! 死ぬううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!!」
叫んだ。
なに魔物呼び寄せてんだてめえ!!
危険度Sランクだって聞いてただろうが!
発光石が壁に埋まり、ランプを使わなくても明るいダンジョンの奥から、案の定、ライラの悲鳴を聞いた四つ足の魔物が突撃してくる。
「いや! いや! シオンさん! どうにかしてください!」
「いつまで抱きついてんだボケ! 離れろ! お前が邪魔で攻撃できねえんだよ!」
「守ってくれるって言いましたよね! 言いましたよね!」
「守るから離せって言ってんの!! 聞けよ話をよ!」
そんな中でも四つ足の魔物は迫る。
仕方なく俺は剣を取り出すのを諦めて、片足を振り上げ、魔物の首を蹴り抜く。
ボキンと骨の折れる音がして、ボロ布みたいにその魔物は地面にへばりつき、ドロップ、魔石と肉なんかの素材を落とした。
ライラはそれを見ると、ようやく俺の身体に抱きつくのを止めてその場にへたりこんだ。
「は、は、……はあああ」
大きく溜息をつく。
「すみません、取り乱しました」
「次から気をつけるように」
俺は溜息をついて、ライラに締め付けられていた身体を動かし、深呼吸をする。
呼吸止まるんじゃないかってくらい、あばら折れるんじゃないかってくらい抱きつかれたからな。
ライラは座ったまま俺のことを見上げていて、しばらくもごもごと何か口を動かしていたけれど、突然立ち上がり、「よし」と気合いを入れた。
「正気に戻りました! ええ、きっと! 大丈夫。アタシ、大丈夫!」
「うるせえ、また魔物を呼び出したいのか」
「はい、すいません」
ライラはしょぼんとした。
「いくぞ。絶対離れるなよ。ただ……抱きつくなよ」
「抱きつきませんよ! 二度と!」
ライラは顔を真っ赤にして言った。
俺と年齢的には変わらないからなおのこと俺の勝ちだ!
とか、つまらない意地を張ってみたけれど、どう考えたってグウェンの方が人気だし、グウェンの方が憧れのまなざしで見られている。
と言うかすげえ美人らしいし。
俺たちの街から結構離れたところにあるギルドに所属しているのに俺が知っているくらいだし。
一方の俺はゴミを見る目で見られているのに。
悲し!
で、そんな人気者の彼女がどうしてこんなダンジョンにいるんだろうか。
「一体何しに来たんだろうな。観光かな」
「んなわけないでしょ! そんなことより! シオンさん! 入るの止めましょうよ! だって誰も戻ってきてないんでしょ!?」
「戻ってきたよ!」
門番の魔動人形が言うとライラは一瞬固まって、息を吸い込み、ほっと胸をなで下ろして、
「なあんだ。じゃあ馬がいなくなったから馬車だけ置いて帰ったんですね。そりゃそうですよね。Sランク冒険者ですもんね。全員無事に決まってます」
「違うよ!」
今度はもう一方の魔動人形が言う。
「戻ってきたのは、ヘイグ・スコデラリオだけだよ!」
「あとの……あとの三人はどうしたんです!? Sランク冒険者は!? グウェン・フォーサイスは!?」
「知らないよ!」「死んだんじゃないの!」
冷たい。
さすが心がないだけある。
「よし、話も聞いたし行くかあ」
俺が言って、ちょっとしか開いていない門に体をねじ込むようにしてダンジョンの中に入ろうとすると、ライラが俺の腕をひっしと掴んでいやいやと首を横に振った。
「待って! 待ってください! アタシ死にたくないです!」
もう腕に抱きついていると言っていい。
胸の鎧を押しつけるな。
痛えんだよ。
「じゃあ待ってろ!」
「アタシDランクですよ! こんなところに置き去りにされたら死にます!」
「俺だってDランクだよ! おっそろいー!」
「じゃあ帰りましょうよ! 帰りましょうよ! お願いです! 今までのこと謝りますから! だから一緒に帰ってください!」
ライラはもう本当に拒絶をしていて、首を大きく横に振って、俺の身体を門の隙間から引き抜こうとしている。
彼女からしてみればここに置いていかれるのも、ダンジョンの中に入るのもどちらにも死が待っていて、ただ唯一帰ることだけが生き残る道なんだろう。
勝手についてきた彼女は、多分今たくさんのことを後悔して俺に懇願して一緒に帰ってくれといっているのだろう。
俺にとっちゃ、そんなこと知ったことではない。
まったく、知ったことではない。
「ったく、わがままな奴だなあ!」
俺はライラに掴まれた腕を振って、いとも簡単にほどいてしまう。
その瞬間、ライラは、完全に絶望した表情を浮かべ、「あ……」と呟いた。
ライラの身体が後傾して、門から離れていく。
すでに潤んでいたライラの目から涙がこぼれ落ちる。
頬を伝って、顎先に達し、
落ちる瞬間、
俺は、ライラの腕を掴みなおし、その体を支えた。
「良いから一緒についてこい。何があってもお前のことは守ってやるから」
ぐいとその体を引っ張って、ほとんど抱きしめるようにして、ダンジョンの中に無理矢理連れ込んだ。
【荒れ地】に置き去りにされた俺が、ライラを置き去りにするわけがないだろ。
門から中に入って数歩進んでもライラは俺の胴体にしがみついていて、「あ……あ……」とこぼれるように呟いている。
いつまで抱きついてんだこいつ。
しばらくそんなふうにライラは呆けていたが、俺の胸の中で俺の顔を見上げて、ダンジョンの奥をみて、通ってきた門をみて、まるで赤子が離乳食を食べるみたいに徐々に事態を飲み込むと、息を吸い込み、
そして、
「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!! 死ぬううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!!」
叫んだ。
なに魔物呼び寄せてんだてめえ!!
危険度Sランクだって聞いてただろうが!
発光石が壁に埋まり、ランプを使わなくても明るいダンジョンの奥から、案の定、ライラの悲鳴を聞いた四つ足の魔物が突撃してくる。
「いや! いや! シオンさん! どうにかしてください!」
「いつまで抱きついてんだボケ! 離れろ! お前が邪魔で攻撃できねえんだよ!」
「守ってくれるって言いましたよね! 言いましたよね!」
「守るから離せって言ってんの!! 聞けよ話をよ!」
そんな中でも四つ足の魔物は迫る。
仕方なく俺は剣を取り出すのを諦めて、片足を振り上げ、魔物の首を蹴り抜く。
ボキンと骨の折れる音がして、ボロ布みたいにその魔物は地面にへばりつき、ドロップ、魔石と肉なんかの素材を落とした。
ライラはそれを見ると、ようやく俺の身体に抱きつくのを止めてその場にへたりこんだ。
「は、は、……はあああ」
大きく溜息をつく。
「すみません、取り乱しました」
「次から気をつけるように」
俺は溜息をついて、ライラに締め付けられていた身体を動かし、深呼吸をする。
呼吸止まるんじゃないかってくらい、あばら折れるんじゃないかってくらい抱きつかれたからな。
ライラは座ったまま俺のことを見上げていて、しばらくもごもごと何か口を動かしていたけれど、突然立ち上がり、「よし」と気合いを入れた。
「正気に戻りました! ええ、きっと! 大丈夫。アタシ、大丈夫!」
「うるせえ、また魔物を呼び出したいのか」
「はい、すいません」
ライラはしょぼんとした。
「いくぞ。絶対離れるなよ。ただ……抱きつくなよ」
「抱きつきませんよ! 二度と!」
ライラは顔を真っ赤にして言った。
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