【荒れ地】で育った嫌われ者のDランク冒険者は拾遺者《ダイバー》として今日も最下層に潜る

嵐山紙切

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第一章 ライラ・マリー編

第16話 『銅貨洗いの沼』へ向かう、ルフで。

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 これもあきらかに権利の乱用ではないかと思ったのだけど、それは俺が金儲けのために動いているからそう思うのであり、実際グウェンの立場からしてみれば、Sランク冒険者である自分の殺人未遂、並びに、Aランク冒険者二人の殺人の容疑がかかっている人間を捕まえるのは正当な理由で、ギルド側としても断る理由がなかったらしい。


 と言うことで、俺たちは今現在ルフに乗っている。





◇◇◇





 あの後、俺はアーティファクトの入っていた箱を背負い、ライラはグウェンを背負って、『笑う頭蓋骨の穴』から外に出た。


「あ、お帰り! シオン・スクリムジョー!」「ライラ・マリー!」
「生きてたんだ! グウェン・フォーサイス!」

 
 門番の魔動人形はそう叫んで、


「門を直すように言うの忘れないでね!」「絶対だよ!」

「直さねえよ。もう誰も来ねえよ、こんなとこ」

「ヒドい!」「僕たちの命をなんだと思ってるんだ!」
「命って何!?」「わかんない!」
「「ぎゃはは!」」
 

 うるせえから、無視。

 さすがにライラとグウェンと金になる箱を同時に背負って運ぶことはできず、並べてみてから、頷いて、箱を背負って立ち去ろうとすると、


「なんてこと考えてるんですか!!」


 とライラに言われてしまった。


「冗談に決まってるだろ。はあ……。仕方ないあれを使おう」

 
 と、俺は馬車を指さした。

 ライラたちを馬車に乗せて、俺が引っ張る。
 脳筋魔剣術は脳筋なので、ここら辺の身体強化はお手のもの。

 で、一番近い街のギルドに向かうと予想通り、ヘイグはこの街から馬で『銅貨洗いの沼』に向かったようで、グウェンは急いでルフを呼び寄せた。

 知らぬ街を観光する気にもなれず、俺はルフが来るまでの一日を宿で眠って過ごし、今に至るというわけ。





◇◇◇





「そもそもルフに王族しか乗れないってのが問題だとボクは思うんだよね。それこそ職権乱用だよ」
 

 俺たちの前にまたがっているグウェンがそう言った。

 準荒れ地を渡っていた三日(馬車を運んでいたので時間がかかった)+ルフが来るまでの一日の計四日眠っていたのに加え、特級ポーションと街に戻ってきたとき飲んだ上級ポーションのおかげでピンピンしてはいるものの、両腕両足の完全回復には時間がかかるらしく戦闘はまだできないだろう。


「文句を言うなら乗るな。降りろ」

 
 俺が言うと、グウェンは「ふん」と鼻を鳴らした。


「お前は乗らなくていいんだよ。今すぐ降りろ。ボクとママだけ乗ってればいいんだ!」

「てめえ誰のおかげで『笑う頭蓋骨の穴』から外に出れたと思ってる!」

「まあまあ」
 

 ライラが俺とグウェンの間で苦笑いをしている。


「アタシたちDランクなんですから、グーちゃんがいないとルフなんて乗れないですよ」

「ほら見たことか、ママはボクの味方なんだぞ!」

「グーちゃんも、助けてもらったお礼はしないとダメなんですよ」

「ううう」


 グウェンは唸った。

 ライラの言った「街から『銅貨洗いの沼』まで五日」という話は陸路でそれだけかかると言うことであり、それは山を二つ越えなければいけないからで、空からルフで行けば一日でつく。

 Aランク冒険者であるヘイグがルフを使える訳もなく、馬で行ったのは確からしいから、ヘイグが向こうについた頃、ちょうど俺たちもたどり着けるだろう。





 で、夜。

 俺たちは『銅貨洗いの沼』にほど近い街にやってきた。

 ちなみに俺は相変わらず箱を背負っていてそれは、ヘイグにアーティファクトを盗まれたようにこの箱まで盗まれることを恐れたからだった。

 誰にも預けねえ。
 俺が何よりもまず守ってやる。
 こういうこと言うとライラにまたどやされそうだけど。

 ギルドに向かうとまだヘイグはやってきていないとのこと。
 よし。


「見つけたらボコボコにして奪って帰るぞ」

「奇遇だ。ボクもボコボコにするのを手伝う」


 と、グウェン。

 
「お前病み上がりで両手足使えないんだから戦闘できないだろ」

「唾吐きかける」


 嫌な戦い方だった。

 ライラはDランクで経験が浅いにもかかわらず、準荒れ地を通り抜ける、危険度Sのダンジョンに入る、ルフに乗る、などの濃すぎる経験を数日のうちにしてかなり疲れているようだったけれど、


「アタシもついて行きます。当然です」


 そう言って拳を握りしめていた。


「ママは休んでなよ」


 グウェンもそう言っているのにライラは首を横に振った。


「自分がSランクになるってただそれだけのためにグーちゃんを置き去りにして、二人も殺した冒険者なんて許せるはずがありません!」

「ママ……。ママああああぁぁあ!!」


 グウェンはライラに抱きついた。

 グウェンのためというか正義のためだろ。
 そもそも俺についてこようとした最初の理由は「俺の不正が許せないから」だったはずだ。

 不正じゃねえけどな!


「それに、グーちゃんとシオンさん二人だけだとケンカするでしょう。捕まえるどころじゃなくなりますよ」

 
 何も言えねえ。


「なのでついて行きます。そして疲れたので寝ます」

「ボクもママと一緒に寝る!」

「止めろ、より疲れるだろ」


 俺はグウェンの襟首を掴んで止めた。

 ルフを待っていた街でもそうだったけど、ライラの入っていった部屋はグウェンと同じく高級な部屋でそれはグウェンが金を払ったからだったけれど、俺の部屋はここでも安い部屋だった。


「グウェン。俺に金を返すのを忘れてんじゃないだろうな」

「返すって、うるさいなあ」

 
 グウェンは言って、俺を見上げた。


「お前……えっと、名前なんだ」

「シオンだ」

「……シオン。何でDランク冒険者なんかやってるんだ。準荒れ地で二人を乗せた馬車を引っ張って三日走り続けるとか正気じゃない。やってることバカだ」

「うっせ。ランクは上げねえことにしてんだ。いろいろめんどくせえ」

「ふうん。ボクのパーティやってた奴らと真逆だな。あいつらSランクになるために必死だったぞ。『銅貨洗いの沼』に挑んだのも一度や二度じゃない」

「結構なこったな」


 そういう奴らが一定数いるのは知っている。

 なぜSランクにそれほどなりたいのかは解らない。
 いや理由はわかるが、心情的に理解できない。

 かつて聞いた話が、いくつかある。

 家族の病を治すために必要な素材を手に入れるにはSランクになるしかないと言う奴もいた。
 金を稼いで街を救うためという奴もいた。
 生まれ育った教会に恩返しをするためと言う奴もいた。

 殊勝な奴らだよほんと。
 俺は鼻から息を漏らす。


「お前はどうなんだ。敬えとか、Sランクだぞとか言ってるけどよ。必死こいてSランクになった口じゃねえのか?」

「ボクは天才だから」


 ふふんと胸を張る、同い年のちびっ子Sランク。


「ま、と言っても、師匠に無理矢理いろんなところ連れて行かれて死ぬ思いしてたらいつの間にかSランクになってたんだけど」


 ほほう。
 ここにもゴミクズ師匠を持つ同士がいたか。


「奇遇だな俺もひでえ師匠だったぞ。およそ人が生きていけねえ場所で生活させられてた。最後置き去りにされたし」

「ボクも同じようなもの。でもボクは、師匠に感謝してる。生き方を教えてくれたのは師匠だから」

 
 俺は感謝してない。

 次会ったら殺そうとすら思ってる。

 ……多分殺せないけど。


 グウェンはふっと息を吐きだして、


「だからさ、きっとなろうと思ってなるもんじゃないんだ。Sランクってのは。なっちゃうのがSランクなんだ。で、有名になって妬まれて、色々言われてボクみたいにヒドい目に遭う。そういう意味では、シオン。お前がやってることは正しい。Dランクで有名にならなければ、誰にも敬われず、誰にも求められず、そして、誰にも恨まれない」

「恨まれてはいる。これでもかってほど、ギルド全体から」

「…………お前Dランクだろ。何でそんな名前が知られてんだ。一体何した?」

「俺だって知らねえよ」


 深く溜息をつく。


「さて、俺は寝る。明日はヘイグを待ち伏せねえとな」

「ボクも、あいつに唾吐くために寝ておく」

「勝手にしろ」

 
 そう言って俺たちは部屋に入った。




 
 翌日、ヘイグ・スコデラリオは『銅貨洗いの沼』の目の前で俺たちを待ち構えていた。
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