【荒れ地】で育った嫌われ者のDランク冒険者は拾遺者《ダイバー》として今日も最下層に潜る

嵐山紙切

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第二章 魔女の森編

第28話 あーしの後輩がピンチでね。ちょっと手伝ってほしいんだ。

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「あーしの後輩がピンチでね。ちょっと手伝ってほしいんだ。なあに損はさせないよ。話によるとそのダンジョン、最下層には手つかずの装備品がたんまりあるみたいだからねえ。数々の名のある冒険者が挑戦して、失敗したダンジョン。それが『魔女の森』だよ」
 
 
 そうアザリアに言われてやってきたのはひどく寂れた街だった。

 大通りにもかかわらず人はまばらで、店だってやってるのかやってないのか解らない。

 歩く人たちはみんな前屈みで、溜息と共に身体のいろんな部分が外に飛び出してしまったかのようにしおれて見える。

 
「なんだか、落ち込んじゃいますね」

 
 一緒についてきていたライラが言った。

 アザリアの助言で彼女も連れて来るようにと言われていたけれど、確かにこの状況だと連れてきて正解だったと思う。

 
「アザリアの助言から察するに、呪いの類いかもな」

 
 空にはどんよりと厚い雲がかかっている。

 一つ前の街、どころか、少し離れただけで晴れやかな青空が広がっているのに、まるで【荒れ地】かのように、このあたりだけ暗くじめついている。

 ま、知ったこっちゃないけどな。

 
「俺たちの目的はあくまでダンジョンの地下にある装備品集めだからな」

「あの……アザリアさんの後輩を手伝うとかって話だったと思うんですけど?」

「そんなのついでだ、ついで。できたらやる。できなきゃ仕方ない。でも装備品はもらう」

「困ってる人がいたら助けなきゃダメなんですよ!」

「わーってるけどよ、俺だって万能じゃねえんだ。そもそもアザリアの後輩がピンチってのがヤバい状況だろ。よく考えてみろ。こっちにだって俺みたいな奴がいるはずで、それでもピンチってことは、そいつらが達成できねえ依頼って意味だぞ」

「…………」

「だからできるところをやる。助けられる範囲で助ける。それで俺たちが死んだら意味ねえだろ。ま、そこが冒険者との違いだな。冒険者は死んだら英雄になれる。俺はそれに興味がない」

「むううう」

 
 ライラは唸りながらもついてくる。

 教会は町外れにあって、そこだけ空が明るくなっていた、
 なんてことはなく他と同じくらい、じめっとしていた。

 神の恩恵は受けられないらしい。
 どうせ偽物の教会だしな。

 扉を開けて中に入る。





 礼拝堂の造りはアザリアの教会と似たようなもので長椅子が並ぶ先に大きな十字架。
 説教台のそばに椅子をおいて腰掛け、何かを読んでいるシスターがいる。

 アザリアと違って改造することなくきちんとシスター服を着こなしている……ように見えたが、腰から下は黒いプリーツスカートでそれが足元まで伸びている。

 あと、髪をツインテールにしていた。
 二十代に見えるのに、ツインテール。

 彼女は入ってきた俺たちに気づくとぱっと立ち上がってパタパタとやってくる。
 立ち止まって二つの髪が揺れる。

 それから、
 開口一番、


「きゃぴ! キシリアたんだお!」

「きっっっっっっつ!」


 と声に漏らしてしまった。

 瞬間、


「あぁん? なんつったてめぇ!」


 突然ドスのきいた声で言ったキシリアは俺の胸ぐらを掴んで睨んできた。

 顎を突き出し、めつける。

 こっちが本性か。

 と言うか情報屋にはこういうわけわかんねえ奴らしかいねえのかよ。

 案の定、「けっ」と俺の胸ぐらから手を離したキシリアはポケットからタバコを取り出して吸い始めた。


「あぁ、うま。ぶち切れたときにはヤニに限るわぁ。っすー、うぇーい」


 それから、はっとしたように、

 
「あ、ごめんなさぁい。てへ!」

 
 煙をくゆらせながら片目を閉じて、片手でげんこつをつくり頭を小突くキシリア。

 ライラが俺のとなりでぷるぷる震えて怯えている。

 この時点で俺はすでに、こいつのピンチ助けなくて良いかな、とか思っていた。
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