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第二章 魔女の森編

第35話 ま、これでただの無謀野郎じゃねえのが解ったろ

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「おーい、終わったぞ」


 俺は山になった丸太を身体強化を使って移動しつつ道を作りつつ、ライラと骸骨野郎のところに戻る。

 骸骨野郎は唖然として丸太の山を見て、それから、俺を見て、


「な……なんだ、あれは。トレントを、一人で倒した? 訳がわからない。普通は燃やすだろ?」

「仕方ねえだろ、そんなスタイリッシュな魔法は知らねえんだよ。俺が戦闘で使えるのは脳筋魔剣術ぐらいだ」

「のうき…………は?」


 ライラと同じ反応をしてやがる。



「ま、これでただの無謀野郎じゃねえのが解ったろ」

「あ、ああ。それはそうだが……どうなんだ? 魔女相手に通用するのか……。むうう……」


 骸骨野郎は言って考え込んでいる。

 俺はライラに張っていた防御魔法を解くと、


「トレントの素材って高価で売れるのか?」

「ええ。高級品のはずです」

「じゃあ、放置しとくと他の冒険者が持ってくかもしれないな。よし、ライラ。いつものように素材は奈落に落とすんだ」
 
「アタシにこれ全部運べって言うんですか!? 押しつぶされて死にますよ! アタシをなんだと思ってるんですか!」

「ま、冗談はさておき。これは放置していくしかねえだろうな」

 
 俺の目的は最下層にある装備品たちだ。

 もしかしたらそれだって運び出すのに苦労するかもしれない。

 うーん。


「こう大量に物があると、運搬係ポーターがほしくなるな。と言って、いつもはいらねえけど」


 俺が運ぶのは基本一つか二つの高級品だ。

 大量に運ぶことなんてめったにない。


「荷車を持ち込んでシオンさんが運べば良いじゃないですか。準荒れ地でアタシたちを運んだときと同じです。アタシが御者になって奴隷みたいに鞭を打ってあげます」

「何でお前から攻撃を受けなきゃならねえんだ!」


 それにダンジョンには狭い場所もあるし、足場だってでこぼこしているし、荷車は無理だろ。

 だったら背負った方が良い。

 人はほしいけど、守るのが面倒。
 かといって稼ぎを増やすには運び人が必要。

 うーん。


「俺もわがままだな」


 そう呟きつつ骸骨野郎の尻を蹴った。


「痛っ! おい! 何するんだ!」

「いつまで固まってんだ。先進むぞ」


 ライラと共に俺が先に進むと、骸骨野郎はついてくる。

 部屋の奥にある扉から出るとまたもや風景は森に戻り、天井は昼に戻って、煌々と光が降り注いでいる。

 今のところ装備品の類いは見つかっていない。
 と言うことは探索者シーカー冒険者ダイバーもあのトレントはすんなりとすり抜けて先に進んだのだろう。

 ちんちくりんのイーヴァなら当然のように見つかって死にかけながら先に進んだだろうが生憎ここに彼女は来ていない。

 先に送り込めばよかったかもしれない。

 ゴキブリみたいな生命力で生き延びていろんな情報を手に入れてくれただろう。

 俺はイーヴァをそれほど信頼していないがアイツの生命力だけは信頼している。

 なんなら不死身だと思っている。

 即死級の罠にかかって死なないとか人間止めてるとしか思えない。

 先に進むにつれて、骸骨野郎の魔物よけが効かなくなってきたのか、効いていても気にしない魔物が増えてきたのか、木々の影から突然出現しては攻撃してくる。

 俺、ライラ、骸骨野郎の順番で進み、後ろからの魔物は骸骨が、前方と左右の魔物は俺が処理する。


「ライラたんのことは私が守ってあげるよ!」


 骸骨野郎はそう言いながら、背負っていた巨大な剣を振っているが、ライラはどちらかと言えば俺の近くにいて、ほとんど骸骨のことを無視している。

 俺は剣を引き抜くこともせず、魔物たちを足蹴にして進みながら、骸骨野郎の戦闘をチラチラと見ていた。

 あんだけ巨大な剣をよく振れるな。

 脳筋魔剣術を使えば可能だろうけど、こいつが使っているとは思えないし。

 骸骨野郎の剣は、背負っている状態だと刀身の長さが肩から太ももの中程あたりまであって、幅も胴体のほとんどを隠している。

 一見すると剣を振っていると言うよりは盾を振っているようにも見え、実際に、結構な頻度でその剣を防御に使っているようだった。

 剣の腹で魔物を叩く。

 シールドバッシュを剣の腹で。

 おそらくは『聖遺物』だろう、よくよく見れば刀身には盾に描かれているような模様が細かに入っていて、それはあるいは、王立騎士団であったことの証明なのかもしれない。

 今はこんな変態下衆野郎でも。

 ライラもそれは思ったようで、


「骸骨の人、冒険者をやったらきっと簡単にSランクになっちゃいそうですよ。Aランク冒険者でもあんな動きできる人見たことありません」

「お前が見てきたAランク冒険者は本当は雑魚で、もっと下のランクだったろうが」

「むー!」


 ライラは頬を膨らませる。


「ま、でも確かにそうかもな。元王立騎士団ってのは本当なのかもしれねえ」


 俺たちが話していると、骸骨野郎は戦闘を終えて近づいてきて、


「やっと信じてくれたかな、ライラたん! 私のかっこいい姿を見て感動したんだね! じゃあ手を繋ごう、そうしよう!」

「嫌です、近づかないでください!」


 駆け寄ってくる骸骨野郎の腹に、俺は蹴りを入れようとしたが、いつの間に構えたのか剣で防がれる。


「ふん、良い蹴りだね、イケメン野郎。だがしかし、私の剣の前ではそれも無意味さ。滑稽なほどに、ね」


 接近戦での反応も、巨大な剣を振るスピードも、尋常ではないくらい速い。

 だからこそ、


「元王立騎士団で、今なおそこまで技術があって、どうして今そんな格好でここにいる?」


 俺が足を下ろして尋ねると、骸骨野郎は剣を脇に退けて、その切っ先を見下ろすように首を傾けた。


「いいだろう。さっきは話さなかったが、君の戦闘も見た。ただの無謀野郎じゃない君になら、話してやろう」


 言って、彼は剣を握っていない方の手で仮面に――骸骨の仮面に触れ、
 外した。

 ライラが小さく悲鳴を上げる。

 骸骨の下には暗闇がある。

 黒い影のような凹凸のない顔。

 目のある部分だけが青く光り輝いている。

 王立騎士団、元第四部隊長、エゼキエル・サイフリッドの身体は闇に飲み込まれていた。

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