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第二章 魔女の森編
第38話 友人は、冒険者たちを救おうとしたらしい。それで、奴隷に……
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「ま、きっとその友人とやらも奴隷になってるなら魔女の命令で攻撃してくるだろうけどな」
俺は第五階層を歩きながら言った。
「絶対斬ることになるぞ」
「それは構わない。私だって斬る。この身体は傷ついても痛みがないからな。気にせずにやってほしい」
「お前さっき蹴られたとき痛がってたろうが」
「あれは反射的に声が出ただけだ。痛くもかゆくもない」
俺とライラは、すでに骸骨の仮面をつけて骸骨野郎に戻った彼の尻を蹴る。
「おい! 止めろ! 痛くはないが不快だ! ライラたんは許してあげよう。むしろもっと蹴ってくれ!」
「気持ち悪いです! あなたが不快です!」
ライラは引いた。
俺はおまけにもう一発蹴ってから、
「で、その友人とやらは王立騎士団の人間なのか?」
「まあ、私と同じく元だがね。親族から連絡があって私もここに入り、こうなったというところだな」
そいつは『聖遺物』を持ってなかったんだろうな。
「友人は、冒険者たちを救おうとしたらしい。それで、奴隷に……」
「殊勝な奴だな。俺は絶対そんなことはしない」
ライラがむっとして俺を見る。
「なんだ」
「シオンさん、もっとこう、『正義のために』とか『大義のために』とかそういう考えできないんですか?」
「できるわけねえだろ。そんなことして俺になんのメリットがある? というかそもそも、奴隷になった奴らだって、奴らなりの欲望があって入ってきたはずだ。金のため、名誉のため、自分の身近な人を助けるため。何でそいつらが自分のメリットのために動いて奴隷になったのに、それを助ける俺は俺のメリットのために動いちゃいけねえんだ?」
ライラは頬を膨らませる。
「いいですもう! シオンさんは理屈ばっかこねてればいいんです! アタシはシオンさんのそばにいても正義を忘れませんから!」
骸骨野郎は感動したようにぐっと拳を握りしめた。
「えらいぞ、ライラたん! きっとアイツも喜ぶだろう! さあそんな奴のそばじゃなくて、私のそばに来るんだ!」
「あなたのことは嫌いです! 正義以前に嫌いです!」
「ううう……」
骸骨野郎は唸った。
第五階層の奥に行き着く。
そこには最下層へ降りる階段があって、森のようになっていた木々が消え、そこだけただのダンジョンのように見える。
ライラは唾を飲み込んで、
「それで、魔女を倒す準備って何をするんです」
「んー、まあいくつかあるが、ライラがすることはあんまりねえかもな」
「どうしてアタシはダメなんです? タバコしか持ったことがないほどか弱くありませんよ」
「なぜヤニカスを引き合いに出す」
タバコ臭さが思い出されて顔をしかめる。
「単純に危険だからだ。この骸骨はいくら死んでも良いけど」
「もっと私をいたわれ」
骸骨野郎が文句を言う一方で、ライラはどこか不満げだった。
「ま、どう危険なのかは先に進めば解るはずだ。俺がやろうとしてることがどれだけ脳筋なのかもふくめてな」
「はあ、そうですか」
ライラは何も解らないと言ったように首を傾げた。
降りる前にいくつか準備をして(その準備段階でもライラは首を傾げている)、俺たちは階段を降り、最下層に出る。
骸骨野郎は声を潜めて、
「ここから先の地理は魔女の住処周辺と私が逃げてきた道しか知らない。どこに罠があるのか、どこに魔物が潜んでいるか、まったく解らないから、気をつけるように」
「解ってる」
言って先に進もうとしたまさにそのとき、
目の前に一人分の影が出現した。
最下層も今までと同じく森で、天井の空は夕暮れ時。
まるで誘うかのようにまっすぐ切り開かれた道があって、夕暮れの空から降り注ぐ西日に木々は整列した影を伸ばす。
その影と影の間。
一人立つその影は、元は女性だろう、冒険者然とした鎧を身につけ、剣を抜いている。
その目は骸骨野郎とは違い、赤く光り、こちらをじっと見つめていた。
……睨んでいた。
俺は第五階層を歩きながら言った。
「絶対斬ることになるぞ」
「それは構わない。私だって斬る。この身体は傷ついても痛みがないからな。気にせずにやってほしい」
「お前さっき蹴られたとき痛がってたろうが」
「あれは反射的に声が出ただけだ。痛くもかゆくもない」
俺とライラは、すでに骸骨の仮面をつけて骸骨野郎に戻った彼の尻を蹴る。
「おい! 止めろ! 痛くはないが不快だ! ライラたんは許してあげよう。むしろもっと蹴ってくれ!」
「気持ち悪いです! あなたが不快です!」
ライラは引いた。
俺はおまけにもう一発蹴ってから、
「で、その友人とやらは王立騎士団の人間なのか?」
「まあ、私と同じく元だがね。親族から連絡があって私もここに入り、こうなったというところだな」
そいつは『聖遺物』を持ってなかったんだろうな。
「友人は、冒険者たちを救おうとしたらしい。それで、奴隷に……」
「殊勝な奴だな。俺は絶対そんなことはしない」
ライラがむっとして俺を見る。
「なんだ」
「シオンさん、もっとこう、『正義のために』とか『大義のために』とかそういう考えできないんですか?」
「できるわけねえだろ。そんなことして俺になんのメリットがある? というかそもそも、奴隷になった奴らだって、奴らなりの欲望があって入ってきたはずだ。金のため、名誉のため、自分の身近な人を助けるため。何でそいつらが自分のメリットのために動いて奴隷になったのに、それを助ける俺は俺のメリットのために動いちゃいけねえんだ?」
ライラは頬を膨らませる。
「いいですもう! シオンさんは理屈ばっかこねてればいいんです! アタシはシオンさんのそばにいても正義を忘れませんから!」
骸骨野郎は感動したようにぐっと拳を握りしめた。
「えらいぞ、ライラたん! きっとアイツも喜ぶだろう! さあそんな奴のそばじゃなくて、私のそばに来るんだ!」
「あなたのことは嫌いです! 正義以前に嫌いです!」
「ううう……」
骸骨野郎は唸った。
第五階層の奥に行き着く。
そこには最下層へ降りる階段があって、森のようになっていた木々が消え、そこだけただのダンジョンのように見える。
ライラは唾を飲み込んで、
「それで、魔女を倒す準備って何をするんです」
「んー、まあいくつかあるが、ライラがすることはあんまりねえかもな」
「どうしてアタシはダメなんです? タバコしか持ったことがないほどか弱くありませんよ」
「なぜヤニカスを引き合いに出す」
タバコ臭さが思い出されて顔をしかめる。
「単純に危険だからだ。この骸骨はいくら死んでも良いけど」
「もっと私をいたわれ」
骸骨野郎が文句を言う一方で、ライラはどこか不満げだった。
「ま、どう危険なのかは先に進めば解るはずだ。俺がやろうとしてることがどれだけ脳筋なのかもふくめてな」
「はあ、そうですか」
ライラは何も解らないと言ったように首を傾げた。
降りる前にいくつか準備をして(その準備段階でもライラは首を傾げている)、俺たちは階段を降り、最下層に出る。
骸骨野郎は声を潜めて、
「ここから先の地理は魔女の住処周辺と私が逃げてきた道しか知らない。どこに罠があるのか、どこに魔物が潜んでいるか、まったく解らないから、気をつけるように」
「解ってる」
言って先に進もうとしたまさにそのとき、
目の前に一人分の影が出現した。
最下層も今までと同じく森で、天井の空は夕暮れ時。
まるで誘うかのようにまっすぐ切り開かれた道があって、夕暮れの空から降り注ぐ西日に木々は整列した影を伸ばす。
その影と影の間。
一人立つその影は、元は女性だろう、冒険者然とした鎧を身につけ、剣を抜いている。
その目は骸骨野郎とは違い、赤く光り、こちらをじっと見つめていた。
……睨んでいた。
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