49 / 52
第二章 魔女の森編
第49話 おい逃げんな!
しおりを挟む
あたりを見回したがどうやらあらかた影の奴隷は倒せたらしい。
すでにライラが《守護者》スキル持ちの冒険者と一緒に冒険者パーティの影と、骸骨友人、冒険者、探索者の影を奴隷の呪いから解き放っていて、全て青い目に変わっていた。
最初の方に球体にした奴らはそろそろ身体ができあがっているから早めに解放しないといけない。
また攻撃を始められると困る。
そう考えてライラと今まで倒した奴隷たちを解放して回ってはいたのだけど、
「で、なんでお前はそのホウキを大事そうに抱いてるんだ?」
俺は耳栓をしているライラにも解るようにジェスチャーを交えて口を大きく開けて言った。
「だって可愛いじゃないですか。もうきっと襲ってきませんよ。そうですよね? よしよし」
穂先をまるで犬みたいに撫でている。
さっき念のため防御魔法をかけてみたが、こいつはまったく興味を示さなかったから本当にもう大丈夫なんだろう。
穂先はこれまた犬みたいにライラの胸に身体を押しつけるようにして「きゅいきゅい」と鳴いている。
「おい! ホウキのくせにずるいぞ! 私の天使、私のことも撫でてくれ!」
《守護者》の青い目の影が後ろからついてきていてライラに言う。
俺は彼女を見て、
「で、お前はやっぱりもう奴隷じゃなくなったんだな」
「お前って言うな。私はブレアだ。ブレア・スロラだ。お前が私をぶった切ったのを忘れた訳じゃないからな」
「お前って言うな。俺はシオンだ」
「聞いてない。どうでも良い」
「んだとこら! また球体にされてえか。心もきっと丸くなるだろうよ」
一度球体になったのにこの言いようだから、多分これ以上ブレアは丸くはならないと思うけど。
「まあまあ」
とライラは苦笑しつつ、すでに身体を作りかけている影たちを撫でて奴隷から解放していく。
「ライラ、後は任せた。俺は骸骨野郎と一緒に魔女をなんとかする。で、ブレア、ライラを守ってくれ」
「お前に言われなくても守る。私の天使だからな」
もう完全に信者二号になってしまっている。
もちろん一号はSランク冒険者、グウェン・フォーサイス。
「じゃあ、任せた」
俺は言って、骸骨野郎と魔女のところへと向かった。
アイツ大丈夫かな。
死にはしないだろうけど。
近づいて行くと、
骸骨野郎はマンドレイクを両手に握りしめて叫んでいた。
「こっちがドー! こっちがレー! あっちがミー! あー! マンドレイクごとに音程があるんだなあ! これで楽器作れるなあ!」
「何やってんだお前、バカか」
そんな殺人楽器、誰が演奏するんだ。
「バカにもなるわ! どんだけ長い間マンドレイクの叫び声を至近距離で聞いていたと思ってる!」
いや、それは悪かったけどさ。
「で! 終わったのか!? 影の奴らは大体やったんだな!?」
「片付けた。いまライラが奴隷契約の呪いを解いてる」
「ライラたん! あとでぎゅーしてあげよう!」
「嫌われたいんだな? そうなんだな?」
「嫌われたいわけあるか!」
骸骨野郎が八つ当たり的にマンドレイクを魔女に投げつける。
魔女は嫌がるように大きく口を開けてそれを避け、耳を塞いでいない手でスパンとマンドレイクの首を切り裂く。
叫び声が止む。
魔女は目のない顔であたりを見回すようにして、影がほとんど奴隷から解放されてしまっているのを確認すると、ホウキを掴んでまたがり逃げようとした。
「おい逃げんな!」
俺のアーティファクトだぞ!
俺はまた遠くの方に防御魔法を発動したがホウキは反応しない。
命令の優先順位的には、魔女を逃がす方が上か。
まずい。
このままだと逃げられる。
と、そこで俺はあることを思いついた。
ライラがホウキの穂を撫でたとき、穂は甘えるようにライラに身体を擦りつけていた。
つまり、ホウキには意思がある。
感情がある。
多分だけど。
試してみる価値がある。
俺は売れるかと思って背中にくくりつけていたホウキの柄を取り出して空に浮かぶ魔女とホウキに向かって掲げた。
ホウキの残骸を、掲げた。
「オラ! これ見ろ!」
この柄はホウキの本体じゃない。
だから多分、人間で言えば装備品みたいな物で、俺がやっているのは「これはお前の友人の装備品だよなあ? 友人がどうなったか知りたいか?」みたいな行動だと思う。
我ながら悪役的だと思う。
魔女は家のある方向だろうか、遠くを指さして進め進めとホウキを叩いていた。
が、俺が柄を見せて叫んだ瞬間、
ホウキが魔女を乗せたままブルブルと震えだして、
「きーーーーーーーーーーー!!!!」
叫び声を上げ、魔女の命令を無視して突進してきた。
決定だ。
このホウキ、ただ操られてる道具じゃない。
独立して、意思がある。
すでにライラが《守護者》スキル持ちの冒険者と一緒に冒険者パーティの影と、骸骨友人、冒険者、探索者の影を奴隷の呪いから解き放っていて、全て青い目に変わっていた。
最初の方に球体にした奴らはそろそろ身体ができあがっているから早めに解放しないといけない。
また攻撃を始められると困る。
そう考えてライラと今まで倒した奴隷たちを解放して回ってはいたのだけど、
「で、なんでお前はそのホウキを大事そうに抱いてるんだ?」
俺は耳栓をしているライラにも解るようにジェスチャーを交えて口を大きく開けて言った。
「だって可愛いじゃないですか。もうきっと襲ってきませんよ。そうですよね? よしよし」
穂先をまるで犬みたいに撫でている。
さっき念のため防御魔法をかけてみたが、こいつはまったく興味を示さなかったから本当にもう大丈夫なんだろう。
穂先はこれまた犬みたいにライラの胸に身体を押しつけるようにして「きゅいきゅい」と鳴いている。
「おい! ホウキのくせにずるいぞ! 私の天使、私のことも撫でてくれ!」
《守護者》の青い目の影が後ろからついてきていてライラに言う。
俺は彼女を見て、
「で、お前はやっぱりもう奴隷じゃなくなったんだな」
「お前って言うな。私はブレアだ。ブレア・スロラだ。お前が私をぶった切ったのを忘れた訳じゃないからな」
「お前って言うな。俺はシオンだ」
「聞いてない。どうでも良い」
「んだとこら! また球体にされてえか。心もきっと丸くなるだろうよ」
一度球体になったのにこの言いようだから、多分これ以上ブレアは丸くはならないと思うけど。
「まあまあ」
とライラは苦笑しつつ、すでに身体を作りかけている影たちを撫でて奴隷から解放していく。
「ライラ、後は任せた。俺は骸骨野郎と一緒に魔女をなんとかする。で、ブレア、ライラを守ってくれ」
「お前に言われなくても守る。私の天使だからな」
もう完全に信者二号になってしまっている。
もちろん一号はSランク冒険者、グウェン・フォーサイス。
「じゃあ、任せた」
俺は言って、骸骨野郎と魔女のところへと向かった。
アイツ大丈夫かな。
死にはしないだろうけど。
近づいて行くと、
骸骨野郎はマンドレイクを両手に握りしめて叫んでいた。
「こっちがドー! こっちがレー! あっちがミー! あー! マンドレイクごとに音程があるんだなあ! これで楽器作れるなあ!」
「何やってんだお前、バカか」
そんな殺人楽器、誰が演奏するんだ。
「バカにもなるわ! どんだけ長い間マンドレイクの叫び声を至近距離で聞いていたと思ってる!」
いや、それは悪かったけどさ。
「で! 終わったのか!? 影の奴らは大体やったんだな!?」
「片付けた。いまライラが奴隷契約の呪いを解いてる」
「ライラたん! あとでぎゅーしてあげよう!」
「嫌われたいんだな? そうなんだな?」
「嫌われたいわけあるか!」
骸骨野郎が八つ当たり的にマンドレイクを魔女に投げつける。
魔女は嫌がるように大きく口を開けてそれを避け、耳を塞いでいない手でスパンとマンドレイクの首を切り裂く。
叫び声が止む。
魔女は目のない顔であたりを見回すようにして、影がほとんど奴隷から解放されてしまっているのを確認すると、ホウキを掴んでまたがり逃げようとした。
「おい逃げんな!」
俺のアーティファクトだぞ!
俺はまた遠くの方に防御魔法を発動したがホウキは反応しない。
命令の優先順位的には、魔女を逃がす方が上か。
まずい。
このままだと逃げられる。
と、そこで俺はあることを思いついた。
ライラがホウキの穂を撫でたとき、穂は甘えるようにライラに身体を擦りつけていた。
つまり、ホウキには意思がある。
感情がある。
多分だけど。
試してみる価値がある。
俺は売れるかと思って背中にくくりつけていたホウキの柄を取り出して空に浮かぶ魔女とホウキに向かって掲げた。
ホウキの残骸を、掲げた。
「オラ! これ見ろ!」
この柄はホウキの本体じゃない。
だから多分、人間で言えば装備品みたいな物で、俺がやっているのは「これはお前の友人の装備品だよなあ? 友人がどうなったか知りたいか?」みたいな行動だと思う。
我ながら悪役的だと思う。
魔女は家のある方向だろうか、遠くを指さして進め進めとホウキを叩いていた。
が、俺が柄を見せて叫んだ瞬間、
ホウキが魔女を乗せたままブルブルと震えだして、
「きーーーーーーーーーーー!!!!」
叫び声を上げ、魔女の命令を無視して突進してきた。
決定だ。
このホウキ、ただ操られてる道具じゃない。
独立して、意思がある。
0
あなたにおすすめの小説
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる