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第1話3 転生と無自覚な活躍
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【聖女】――フルール・ダストフィンガーは、それから数日後、自宅の一室で騎士から調査結果を聞いていた。
「どうもあの貴族の男の子は、部下を雇ってフルール様を襲わせ、そこを助けることで自分の評価を上げようとしていたようです」
いわゆるマッチポンプという奴である。
騎士は続けて、
「あの日は社交デビューみたいなものでしたから印象づけたかったのでしょう」
「そう……ですか。では危険ではなかったんですね」
「いえ……それが……」
騎士は一瞬口を噤んだがすぐに言った。
「あの方たちは魔紋を背に入れていました。確かにあれには魔力を増幅する効果がありますし、石版を欺く効果もあって違法なものでした」
「レイヴン様が言っていた通りですね」
正確にはヨルが言っていたのだけれどフルールにしては同じようなものだった。
騎士は眉間に皺を寄せる。
「フルール様。他の大教会で事故があったのはご存じですか?」
「ええ……小規模な爆発や火災があったと聞いていますけど……なぜいまその話を?」
「そこで死亡した方の多くが、同じ魔紋をつけていたことが解っています」
「……え?」
「あの魔紋はつけた人間を爆発させる効果があったんですよ。瞬間的な魔力の増大で、魔力爆発を起こす力があったんです。つけていた本人たちは知らなかったようですが」
「……じゃ、じゃあ……アタシは……本当に狙われて……」
「ええ。ただそのあたりは調査中です。――少なくとも今は同時多発的に【聖女】を狙った犯行と言うことだけ解っています」
フルールは手を口に当てて震えた。
知らず知らずのうちに殺されかけて――そして救われていた。
騎士はふっと息を吐き出して、
「それにしても、フルール様を救った貴族は運が良いですね。もしも魔紋をつけていた貴族たちを気絶させる以外の方法で捕らえていたら、彼らが逃げようと魔法を使った瞬間、爆発していたでしょう」
(本当に運が良かっただけ? もしかするとレイヴン様は全部解っていたんじゃ? だからあんなに迅速に行動出来たんじゃないかな?)
アイツはなにも考えていない。
何も解っていない。
そう、なにも。
フルール・ダストフィンガーがゲームに登場することも、
今回の事件で本当は怪我をして失明し、両腕を不自由にするはずだったことも、
そのせいで実力が出せず、ゲームでは低レアキャラとして登録されていることも。
無自覚に、無意識に、
レイはシナリオを改編している。
ただ、身を守ろうとしただけで。
◇◇◇
「レイヴン様、帰ろうぜー」
数日後、レイは自分の家の領地へと戻ってきていた――【漆黒の霧】が目と鼻の先にある領地に。
巨大な【漆黒の霧】は遙か彼方まで続いていて、大陸どころか海まで続いて魔界と人間界を隔てている。
レイとヨルはその目の前まで来ていた。
「じゃあ、ウチはここまでだから。人間界のことはおまかせあれ。心配しなくていいぜ」
「ああ、うん」
(僕が心配してるのはやらかしたことと、ろくに社交ができなかったことなんだけどね!!)
レイは溜息をつくと、ヨルに手を振って、
【漆黒の霧】の中へと足を踏み入れた。
真っ暗な中をすいすいと進んでいき、向こう側へと到達する。
レイは額を触る。
そこには小さな二つの角。
両手は骨と、それ取り巻くような真っ黒な魔力みたいなもので作られている。
レイヴン・ヴィランは貴族にして魔族。
だからこそヨルは「普通は【聖女】になんて近づかない」といっていたし、【聖女】に近づくなんて悪手中の悪手だった。
教会は魔族を嫌っているから。
レイはそれをようやく思い出して、
「あれ!? 僕間違えた!?」
と今更ながらに叫んだ。
「どうもあの貴族の男の子は、部下を雇ってフルール様を襲わせ、そこを助けることで自分の評価を上げようとしていたようです」
いわゆるマッチポンプという奴である。
騎士は続けて、
「あの日は社交デビューみたいなものでしたから印象づけたかったのでしょう」
「そう……ですか。では危険ではなかったんですね」
「いえ……それが……」
騎士は一瞬口を噤んだがすぐに言った。
「あの方たちは魔紋を背に入れていました。確かにあれには魔力を増幅する効果がありますし、石版を欺く効果もあって違法なものでした」
「レイヴン様が言っていた通りですね」
正確にはヨルが言っていたのだけれどフルールにしては同じようなものだった。
騎士は眉間に皺を寄せる。
「フルール様。他の大教会で事故があったのはご存じですか?」
「ええ……小規模な爆発や火災があったと聞いていますけど……なぜいまその話を?」
「そこで死亡した方の多くが、同じ魔紋をつけていたことが解っています」
「……え?」
「あの魔紋はつけた人間を爆発させる効果があったんですよ。瞬間的な魔力の増大で、魔力爆発を起こす力があったんです。つけていた本人たちは知らなかったようですが」
「……じゃ、じゃあ……アタシは……本当に狙われて……」
「ええ。ただそのあたりは調査中です。――少なくとも今は同時多発的に【聖女】を狙った犯行と言うことだけ解っています」
フルールは手を口に当てて震えた。
知らず知らずのうちに殺されかけて――そして救われていた。
騎士はふっと息を吐き出して、
「それにしても、フルール様を救った貴族は運が良いですね。もしも魔紋をつけていた貴族たちを気絶させる以外の方法で捕らえていたら、彼らが逃げようと魔法を使った瞬間、爆発していたでしょう」
(本当に運が良かっただけ? もしかするとレイヴン様は全部解っていたんじゃ? だからあんなに迅速に行動出来たんじゃないかな?)
アイツはなにも考えていない。
何も解っていない。
そう、なにも。
フルール・ダストフィンガーがゲームに登場することも、
今回の事件で本当は怪我をして失明し、両腕を不自由にするはずだったことも、
そのせいで実力が出せず、ゲームでは低レアキャラとして登録されていることも。
無自覚に、無意識に、
レイはシナリオを改編している。
ただ、身を守ろうとしただけで。
◇◇◇
「レイヴン様、帰ろうぜー」
数日後、レイは自分の家の領地へと戻ってきていた――【漆黒の霧】が目と鼻の先にある領地に。
巨大な【漆黒の霧】は遙か彼方まで続いていて、大陸どころか海まで続いて魔界と人間界を隔てている。
レイとヨルはその目の前まで来ていた。
「じゃあ、ウチはここまでだから。人間界のことはおまかせあれ。心配しなくていいぜ」
「ああ、うん」
(僕が心配してるのはやらかしたことと、ろくに社交ができなかったことなんだけどね!!)
レイは溜息をつくと、ヨルに手を振って、
【漆黒の霧】の中へと足を踏み入れた。
真っ暗な中をすいすいと進んでいき、向こう側へと到達する。
レイは額を触る。
そこには小さな二つの角。
両手は骨と、それ取り巻くような真っ黒な魔力みたいなもので作られている。
レイヴン・ヴィランは貴族にして魔族。
だからこそヨルは「普通は【聖女】になんて近づかない」といっていたし、【聖女】に近づくなんて悪手中の悪手だった。
教会は魔族を嫌っているから。
レイはそれをようやく思い出して、
「あれ!? 僕間違えた!?」
と今更ながらに叫んだ。
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