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第25話 ヒイロ班!? ネネカ班でしょ!
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翌日の出発時にコハクは人前にでて僕を見ることができなかったけれど、隠れながらも手を振ってくれて、僕は九の船の甲板からほとんど身投げするみたいに手すりに上って乗り出して手を振った。
ちなみにマジで身投げをするとでも思ったのか、ネネカが僕の襟首を掴んで、
「コラ! あたしとの勝負から逃げるつもりでしょ!! まだあたしが主役なんだからね!」
身投げじゃなくて逃走すると思っていたらしかった。
キキョウ島から充分離れてコハクの姿が見えなくなると、僕は手すりから降りて涙をぬぐう。
「なに? 泣いてんのあんた」
「当たり前だろ! 愛する妹との別れなんだから!」
「ふん! 愛するねえ。どうせ今のうちだけよ。そのうち反抗期に入って嫌われるようになるんだから! あたしがそうだったもの! 昔はお兄ちゃんのお嫁さんになるとか言ってたみたいだけどね、もう黒歴史よ。まっくろくろよ!」
「黒歴史を自分から開示していく種類の人間かよ。というか、お前、反抗期じゃなかった時期あるのか?」
生まれてこの方、黒歴史なんじゃないかという気がしてきた。スナオと恋仲だったことも嫌みたいだし。
コハクとは比較にならないな。
「んだと! 今のあたしは白歴史よ! あたしを主役にした輝かしい白! そして真っ白な未来!」
きっと振り返ったら真っ黒だと思う。
あたしが主役とか言ってる時点で。
「…………ネネカは昔は素直だった。スナオより素直だった。だから生まれてからずっと反抗期ってのは間違い」
と、いつの間にやら近くにいたユラがぼそりと言うと、ネネカの誇らしげな笑みが引きつった。
「止めなさい、ユラ」
「…………その頃の名残で今も子供っぽいところがたくさんある」
「止めなさい」
「…………甘いもの大好きで、すぐ笑うしすぐ泣くし」
「止めなさい」
「…………お気に入りのぬいぐるみがないと眠れないし」
「止めてよ!! 主役のあたしがそんな軟弱だったらみんな付いてきてくれないでしょ!」
「……………………かわいいよ」
「かわいさは求めてない!」
顔を赤くしてユラに怒鳴ったネネカは、ばっと視線を僕に戻して睨むと、話題を無理矢理もどして、
「とにかく、まだ主役の座は渡してないんだからね! 勝負よ勝負。魔動歩兵を討伐した数で勝敗が決まるの! いい!? これであたしが勝ったらあたしが主役なんだからね!!」
「僕のことを護衛する班だった気がするんですけど!」
「そんなこと知らないわ! そもそもどうしてあたしがスナオと同じ班なのよ! おかしいでしょ!」
おかしくない。お似合いだと思う。
ネネカは昨日、この四人が班だと言われた直後もぎゃあぎゃあ騒いでいたけれど、未だに納得していないらしく、地団駄を踏みそうな勢いで憤っている。
「ヒイロ班、ちょっといいかな」
と、そこで船長こと九の字がやってきて、その銀の波打つ髪をかき上げた。
ネネカがぎょっとして目を剥き、
「ヒイロ班!? ネネカ班でしょ!」
「ヒイロ君護衛班だから、ヒイロ班なンだよ。アタシ命名。かっこいいでしょ」
「こんな奴の名前を班につけたら間抜けになる! と言うか埋もれるでしょ! 主役のあたしの名前が付けば活躍する班だってすぐわかるのに!」
「はっはあ。活躍する気まんまんなンだね、ネネカちゃん。主役が頑張ンなきゃ誰が頑張るのって話だもンね」
「そうよ! さすが九の字。わかってる!」
「うんうん。頑張れるように、飴ちゃんをあげよう。そっちの方で食べるといいよ」
「ほんと!? やったあ!」
ネネカはぱあっと顔を輝かせて九の字から飴玉を受け取ると、ユラと一緒に隅の方へ歩いて行った。
……邪魔だからって、言いくるめられただけだこれ。
班の名前の話をしていたのも忘れてネネカは、さすが九の字だわ、とか、主役があたしだってことちゃんとわかってるのよ、とか言ってる。
不憫だ。
適当にあしらわれた主役。丸め込まれた主役。
よくこれまで変な大人に付いて行かずに育ってこられたな。ああいや、ネネカは良家の出なんだっけ?
そういう機会はなかったのかもしれない。
九の字は腕を組んでうんうんと頷くと、
「あの子は、ちょっと心配になるね。お金に執着しだしたらおかしな商法にひっかかって大損してしまう種類の人間だ。名誉欲でいっぱいで主役主役って言ってた方がネネカちゃんのためだよね」
「教育してあげてください。僕のためにも。主役主役って突っかかられて大変なんですから」
僕が言うと九の字は笑って、
「でもそこが可愛いよね。庇護欲がそそられるというか、危なっかしくて見てられない感じが世話のしがいがあるって言うかさ。だからヒイロ君がお世話してあげるといいよ」
問題児の対応を押しつけ合っている感が否めない。
「僕にはコハクがいるので、それで手一杯です」
「あはは。そうだよね。ヒイロ君には愛する妹がいたもンね、知ってた。じゃあネネカちゃんはユラちゃんに任せよう」
妥当なところに押しつけると九の字は頷いて、
「さて、本題に入ろうか。と言ってもうーん。訓練生なら当然知ってることをヒイロ君に話すだけだから、ヒイロ班として話さなくてもいいか」
もうすでに四人の内二人は離脱している。
班として崩壊している。
「んじゃ、ヒイロ君だけついてきて、あとで必要なことはヒイロ君からみんなに伝えてもらうから」
言って九の字は歩いて行く。
僕はスナオと目を合わせて、促されて、すぐに九の字のあとを追った。
――――――――――――――
次回は明日12:00頃更新です。
ちなみにマジで身投げをするとでも思ったのか、ネネカが僕の襟首を掴んで、
「コラ! あたしとの勝負から逃げるつもりでしょ!! まだあたしが主役なんだからね!」
身投げじゃなくて逃走すると思っていたらしかった。
キキョウ島から充分離れてコハクの姿が見えなくなると、僕は手すりから降りて涙をぬぐう。
「なに? 泣いてんのあんた」
「当たり前だろ! 愛する妹との別れなんだから!」
「ふん! 愛するねえ。どうせ今のうちだけよ。そのうち反抗期に入って嫌われるようになるんだから! あたしがそうだったもの! 昔はお兄ちゃんのお嫁さんになるとか言ってたみたいだけどね、もう黒歴史よ。まっくろくろよ!」
「黒歴史を自分から開示していく種類の人間かよ。というか、お前、反抗期じゃなかった時期あるのか?」
生まれてこの方、黒歴史なんじゃないかという気がしてきた。スナオと恋仲だったことも嫌みたいだし。
コハクとは比較にならないな。
「んだと! 今のあたしは白歴史よ! あたしを主役にした輝かしい白! そして真っ白な未来!」
きっと振り返ったら真っ黒だと思う。
あたしが主役とか言ってる時点で。
「…………ネネカは昔は素直だった。スナオより素直だった。だから生まれてからずっと反抗期ってのは間違い」
と、いつの間にやら近くにいたユラがぼそりと言うと、ネネカの誇らしげな笑みが引きつった。
「止めなさい、ユラ」
「…………その頃の名残で今も子供っぽいところがたくさんある」
「止めなさい」
「…………甘いもの大好きで、すぐ笑うしすぐ泣くし」
「止めなさい」
「…………お気に入りのぬいぐるみがないと眠れないし」
「止めてよ!! 主役のあたしがそんな軟弱だったらみんな付いてきてくれないでしょ!」
「……………………かわいいよ」
「かわいさは求めてない!」
顔を赤くしてユラに怒鳴ったネネカは、ばっと視線を僕に戻して睨むと、話題を無理矢理もどして、
「とにかく、まだ主役の座は渡してないんだからね! 勝負よ勝負。魔動歩兵を討伐した数で勝敗が決まるの! いい!? これであたしが勝ったらあたしが主役なんだからね!!」
「僕のことを護衛する班だった気がするんですけど!」
「そんなこと知らないわ! そもそもどうしてあたしがスナオと同じ班なのよ! おかしいでしょ!」
おかしくない。お似合いだと思う。
ネネカは昨日、この四人が班だと言われた直後もぎゃあぎゃあ騒いでいたけれど、未だに納得していないらしく、地団駄を踏みそうな勢いで憤っている。
「ヒイロ班、ちょっといいかな」
と、そこで船長こと九の字がやってきて、その銀の波打つ髪をかき上げた。
ネネカがぎょっとして目を剥き、
「ヒイロ班!? ネネカ班でしょ!」
「ヒイロ君護衛班だから、ヒイロ班なンだよ。アタシ命名。かっこいいでしょ」
「こんな奴の名前を班につけたら間抜けになる! と言うか埋もれるでしょ! 主役のあたしの名前が付けば活躍する班だってすぐわかるのに!」
「はっはあ。活躍する気まんまんなンだね、ネネカちゃん。主役が頑張ンなきゃ誰が頑張るのって話だもンね」
「そうよ! さすが九の字。わかってる!」
「うんうん。頑張れるように、飴ちゃんをあげよう。そっちの方で食べるといいよ」
「ほんと!? やったあ!」
ネネカはぱあっと顔を輝かせて九の字から飴玉を受け取ると、ユラと一緒に隅の方へ歩いて行った。
……邪魔だからって、言いくるめられただけだこれ。
班の名前の話をしていたのも忘れてネネカは、さすが九の字だわ、とか、主役があたしだってことちゃんとわかってるのよ、とか言ってる。
不憫だ。
適当にあしらわれた主役。丸め込まれた主役。
よくこれまで変な大人に付いて行かずに育ってこられたな。ああいや、ネネカは良家の出なんだっけ?
そういう機会はなかったのかもしれない。
九の字は腕を組んでうんうんと頷くと、
「あの子は、ちょっと心配になるね。お金に執着しだしたらおかしな商法にひっかかって大損してしまう種類の人間だ。名誉欲でいっぱいで主役主役って言ってた方がネネカちゃんのためだよね」
「教育してあげてください。僕のためにも。主役主役って突っかかられて大変なんですから」
僕が言うと九の字は笑って、
「でもそこが可愛いよね。庇護欲がそそられるというか、危なっかしくて見てられない感じが世話のしがいがあるって言うかさ。だからヒイロ君がお世話してあげるといいよ」
問題児の対応を押しつけ合っている感が否めない。
「僕にはコハクがいるので、それで手一杯です」
「あはは。そうだよね。ヒイロ君には愛する妹がいたもンね、知ってた。じゃあネネカちゃんはユラちゃんに任せよう」
妥当なところに押しつけると九の字は頷いて、
「さて、本題に入ろうか。と言ってもうーん。訓練生なら当然知ってることをヒイロ君に話すだけだから、ヒイロ班として話さなくてもいいか」
もうすでに四人の内二人は離脱している。
班として崩壊している。
「んじゃ、ヒイロ君だけついてきて、あとで必要なことはヒイロ君からみんなに伝えてもらうから」
言って九の字は歩いて行く。
僕はスナオと目を合わせて、促されて、すぐに九の字のあとを追った。
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次回は明日12:00頃更新です。
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