聖女じゃない私の奇跡

あんど もあ

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前編

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 私はクレア。赤茶色の髪と目を持つ17歳。
 田舎の村の農家に生まれ、田舎の村で育った生粋の平民。
 だけど、平民には珍しく聖魔法が少~しだけ使える。

 「聖魔法」なんて言うと仰々しいけど、他の魔法が土や水を動かすように、精神に働きかける魔法を一まとめにしてそう名付けているんだと神父様が説明してくれた。
 私の魔法で出来るのは、本人の持ってる回復力に語りかけてナイフで切った傷を塞いだり、風邪の熱を下げたりという程度で、大怪我や重体の病気では役に立たない。でも、医者もいない田舎ではそこそこ役に立っている。

 そう、あくまでも「そこそこ」。

「それなのに、何で聖女だなんて事になるんですか~!」
 今、私は領主様の館で頭を抱えている。
蝗害こうがいを防いだからなぁ」
 コロンとした体型の領主様が申し訳なさそうに身をすくめていると、それ以上責められない。
「イナゴを空き地に誘導しただけですよぉ」

 蝗害。バッタやイナゴが大量に発生して広大な畑の農作物を食べ尽くしてしまう恐ろしい自然災害。
 この夏、イナゴが大発生したので、領主様に使用してない土地を提供してもらい、イナゴをそこに誘導して集め、寿命の尽きた秋に土地に火をかけてイナゴの死骸と卵を燃やしたのだ。

 ささやかな魔力だが、私はイナゴくらいなら操れる。でも、犬猫や馬なんかには無理。むしろエサを運ぶ下僕という認識をされてる気がする。
 更に言えば、人間なんか全然無理。魔法に目覚めた幼い頃、もちろん試してみたのだ。友人たちのおやつをかすめ取れないものかと。

 結果、肉体的にボコボコにされ、「こーゆう事やってると、魔女として火炙りになるんだぞ!」と精神的にもボコボコにされ、二度と試していない。(子どもって容赦ないわー) 私を矯正した友人ジョセフとデイジーは、先月結婚した。めでたし。


「だからって何で王都に報告するんですかぁ」
「よそじゃ畑が全滅した所もあるそうだ。なら、『こういう方法がありますよ』って教えてあげたくて」
 全滅…。
 大発生したヤツらは、何故かいつものヤツより食欲が旺盛で、繁殖力が旺盛で、あっという間に何万匹に増える。そんなのに群がられたらあっという間に食いつくされたんだろうなぁ…。
「でも、それで何で私が聖女ってなるんです!」
「それを色々聞きたいから、王都の役人がこっちに来るそうだよ。悪いけど相手してあげて」
「私、マナーとか礼儀とか知りませんよ? 知らずに無礼な事をするかも」
「クレアなら大丈夫だよ。じゃあ、明日のお昼に来るからよろしくね」
「明日?!」


 翌日、周りを馬に乗った騎士に囲まれた三台の馬車がやって来たが、話す暇は無かった。
 一台目の馬車から降りて来た、同じお仕着せを着た三人の女性にあっという間に空き部屋に連れ込まれ、服を脱がされ複雑な作りの白い法衣を着せられた。
 見るからに高価そうな艶のある白い布地、これって聖女の衣装じゃありません? 
 着たら有無を言わさず馬車へ連れて行かれる。

 二台目の馬車から、中年の男性が降りてくる。
 身長は男性にしては低く私くらいで、にこやかな表情だけど、何この怖いオーラ。何たらかんたら局の何とか長官のジャーヴィス様らしい。ごめん、一回で覚えるのは無理。
 挨拶を返そうとしたら、馬車の中に詰め込まれて馬車は出発してしまった。え? 話をしたいんでしたよね~?

 私の困惑などお構いなしに馬車は進む。
 …気まずい。馬車の中にジャーヴィス様と二人きり。せめて、三人の綺麗なお姉さんの馬車に混ぜて欲しい。
「あの…、どこに行くんでしょう?」
「王都です」
「お…?! あのっ! 私は聖女じゃなくて」
「私にはそれは判断出来ません」
 にこやかだけとキッパリとした態度。こりゃ何を言っても無駄だな…。 
 諦めて座り直す。デイジー、私、誘拐されちゃったよぉ。




 夕方、小さな宿場町に馬車が止まった。今日はここに泊まるらしい。

 部屋に入るなり三人の女性に法衣を脱がされ、お風呂に入れられて洗われて磨かれる。お風呂を上がると、肌触りのいい肌着とワンピースが用意されていた。なぜかサイズぴったり。不思議に思ってると、色々なサイズを用意してきたらしい。まさか三台目の馬車の中身はこれ…? 同じくサイズぴったりの寝着も出てきた。
 部屋で夕飯を食べて、やっと落ち着いた。怒涛の一日だったな…。

 しかし、ずっと座ってただけなので、体力は有り余ってる。
「ちょっと夜の街の散歩に行くか…」
と、部屋のドアを開けたら外に背の高い騎士様が立ってた。監視? 監禁??
 あたふたしてる私に、彼は優しく訊たずねてきた。
「何かご不自由がありますか?」
「いっいえ! 散歩に行こうかと思って」
「ご自由にどうぞ。護衛のため後ろに控えています」
「いや、申し訳ないので!」
 必死に抵抗しても、優しく言い負かされてしまう。さすがジャーヴィス様の部下。

 彼を従えて宿を出た…はずなのだが、全然彼に見られてる気配を感じない。実は有能な人なんじゃなかろうか。

 町は、夜の街ものどかなもの。娼館や飲み屋もあるが、道なりに地元の料理を売る小さな屋台が並んでいるのが面白い。一軒一軒覗いて、美味しそうなのは帰ってから作ってみようなんて楽しんでいたら、少し外れた一角にも数軒の屋台があるのに気付いた。
 近づこうとして、周りにハエが飛び回っているのに気付く。見ると、料理にもハエがたかっている。
 私は、ハエが停まらないように料理の上で必死に布を振っているお店の人に声をかけた。

「おばさん、すごいハエね」
「この場所はねぇ…。その分、場所代が安いんだけど」
「ねえ、私魔力持ちなんだけど、そのハエ払ってあげようか。ここの四軒分、小銀貨一枚でどう?」
 話が聞こえた他の三軒も乗り気だ。話はすぐにまとまった。

 私は目を閉じ、ハエの“波”を探す。
 私の場合、生き物によって違う“波”を見つけ、その“波”に乗せて意思を伝える事が出来る。
 やがて見つけたハエの“波”に乗せて
「去れ!」
と伝えると、ハエたちはまるで竜巻に飲み込まれたように一匹残らず空に飛んで行った。

 おばさんたちは喜んで、値切らずに約束通りの小銀貨一枚を払ってくれた。なので、サービスにハエ除けの草を教えてあげる。農家じゃ皆知ってる事なんだけどね。うちでは家畜小屋に使ってる。

 話が盛り上がってると他の客が近づいてきたので、手を振って笑顔で別れた。

 宿への帰り道、「これで何かあったらこの小銀貨で乗り合い馬車に乗って逃げられる!」と思っていたのは内緒だ。
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