聖女じゃない私たち

あんど もあ

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後編

「まったく。あの王子様ったら何を考えてるのよ! 苑子を追い出したって聞いてびっくりよ! どう考えたって聖女なのは苑子の方でしょう!」
 皆の前でひと泣きして落ち着いたけど、積もる話もあるでしょうと私の部屋で話すように言われた。絨毯にクッションを置いて座り込み、用意してくれたお茶とお菓子をいただきながら遠慮なく愚痴大会だ。

「あー……、それは私のせいなの。一人ずつ面談された時、『こいつ、私のこと値踏みしてるなー』ってムカついちゃって、返事を『はい』と『いいえ』だけにしたら、アホだと思われて、城を出されちゃった。あの決断力の速さは予想外だったわ」
「苑子ぉ……」
「もう一つゴメン。美悠夏をお城から出すように、美悠夏が数学で赤点を取って夏休みに補習だったのを盛って王太子に伝えちゃった」
「道理で、あんなド派手なドレスをプレゼントしてたのが急にゴキブリを見るような目になったと思った……」
 美悠夏は今、ドレスを脱いで私のワンピースに着替えている。

「あれ、王太子のプレゼントだったんだ……」
「ちょっと無いよね。聖女にどんだけ期待しているんだって。婚約者の人も、『彼にはシヤキョーサの所がある』って言ってた」
「視野狭窄、ね」
 確かに視野狭窄だ。美悠夏をうとましく思うはずの婚約者とも上手くやっていける美悠夏のコミュニケーション能力に気付かないなんて。
 私だって、美悠夏がいなかったらきっと高校で浮いてた。

「あの王子様って、私が前の世界の食材をこの世界に合わせて料理して自分の前に持って来るのを座って待ってるだけなんだよね。自分で料理してみろっての!」
「あー、美悠夏の嫌いなタイプだ。だから何もしなかったんだ」
「アイディアだけは出したよ?」
 王子様には活用出来ないみたいだったけど、と他人事のように言う。いや、他人事か。

「そうだ、お城の人に28年前に隣の国に転移して来たって人を調べてもらったんだけど、グエン・ティ・ゴンって名前しか分からなかったー。すぐに教会に入ったんだって」
「それ、多分、ベトナム人の女性だわ」
「女性ぇぇ? ゴンさんだよ?」
「名前にティが入ってるのは女性なのよ」
「へぇー。良く知ってるね」
「黒塚爆の小説『私立探偵ドラゴン』シリーズにベトナムシンジケートが登場してたから」
「ああ、月のオススメ小説!」
「私は探偵の雨竜じゃなく、相棒の陰険メガネ推しだったけど」
「そうそう、月が『理解できないー!』って言ってたね!」
「ハードボイルド小説を読んだ感想が『雨竜は受け!』って言ってるヤツが言うなっての」
 二人で笑い転げる。

 視野狭窄だったのは私だ。
 進学校の受験に失敗して女子高に入学して美悠夏たちに出会うまで、教科書を覚えることだけに夢中で教科書に載っていない事には価値が無いって思ってた。
 美悠夏や月や花蘭に色んな物を教えてもらって、たくさん好きな物が出来た。
 
 
 
 その後、男爵家の人たちと仲良くなった美悠夏はすっかりここに馴染んだ。
 今日から私の授業に美悠夏も参加だ。歌とダンスの先生になる。私の授業中の今は、生徒に交じって女の子の髪を編み込みしている。

「この世界って、ゴムはあるけど髪ゴムは無いんだよね。シュシュは無いの?」
 私の授業が終わって、美悠夏が聞いてきた。
「シュシュって何だっけ」
「ほら、ゴムを布でぐるっとくるんでるやつ」
「ああ、花蘭がよく手首につけてた。……見た事ないから無いんじゃない? 詳しい事は男爵夫人に聞いてみて。彼女、ハンクラ好きだよ」
「そう言えば娘さんの部屋に可愛い小物が一杯あった!」
 男爵領から新しい名物が生まれるかもしれない。

 次は美悠夏の授業。美悠夏の歌に合わせて、私がぎこちなく笛で伴奏する。
 歌が終わった時、いつも大人しいギオ君が私の笛を取り上げて今聞いたばかりの曲を滑らかに奏でた。
 私と美悠夏は大絶賛。
 でも、ギオ君や皆は何がすごいの?という顔だ。

 どうやら、家の仕事の役にも立たない事が出来たからって何なんだ、と思ってるらしい。
 それでも私と美悠夏がすごいすごいと言い続けると、ちょっと表情が変わってきた。

 そうだよ。
 教科書に載ってなくても素晴らしい事はたくさんあるんだよ。

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