どうぞ添い遂げてください

あんど もあ

文字の大きさ
2 / 3

中編

 満足げな殿下に何か言うべきかと口を開こうとしたら、目の前に旋風つむじかぜが起こり、次の瞬間、そこには黒髪黒瞳の大柄な美丈夫が黒いマントをたなびかせて立ってました。

「スカーレット。迎えに来た」
「ルア様。もう約束の時間ですか?」
「ああ。皆が待っている。スカーレットのご家族も」
「まあ、お待たせしてはいけませんね。それでは皆様、これにて失礼い」
「そいつは誰だ!」
 空気を読め、殿下。
「スカーレットの夫だ」
 ルア様も売られた喧嘩を買わないで。ああっ、皆の目が「このまま帰らせ無い!」と言ってる!

「……殿下、こちらはお隣の魔族国の国王のルア様です。私たち、これから結婚しますの」
 会場中にざわめきが起こる。
 ルア様が言うには、「国王と言っても魔族は独立独歩でな。私は人間で言う『管理人』みたいなもので、別に偉くは無いんだ」だそうですけど。
 ってか、隣の国の国王の顔も覚えて無いの? 殿下!

「…魔、魔族国の国王と言えば、妃が何人もいるではないか!」
 何でそう中途半端な知識は有るの……。
「殿下、『妃が何人も』ではなく、『何度も結婚した』の間違いですわ。ルア様は魔族。見た目は二十代ですが、実年齢は227歳です。結婚の一度や二度や三度あって当然です」
 そして全て円満に離縁してますよ!

「お前は、私の妃の座を狙いながら、他の男にも粉をかけていたと言うのか!」
「殿下の妃の座なんて、狙った事ありません! 私は八年前からルア様一筋ですわ!」
「八年も私を裏切ってたのか!」
 なんでそうなる!

「スカーレット。何なんだ? この愚かな男は」
「この国の第一王子ですわ……」
「ああ、今回の生贄か」
 それ言っちゃ駄目ーーー!

 私の反応に、「冗談では無い」と気付いたようだ。
「な…何をふざけている。生贄になるのはスカーレットだろう。この毒婦が!」
 さすがに殿下の顔が引き攣ってるが、人を罵るのは忘れない。
「スカーレットが毒婦? お前は本当に愚かだな。八年前から何も変わって無い」
 あー、もう言うしかないか。

「殿下。『八年前』と聞いて何か思い出しませんか?」
「?」
 うん、忘れてますわね。そうだろうと思ってました。

「私たちは十歳でした。皆で離宮に行った時、殿下が『黒くてキラキラするデーモンラビットの毛皮が欲しい』と言い出して、側近三人と離宮を抜け出して魔境の森に入ったもののデーモンラビットの群れに襲われそうになり、殿下たちを探しに来た私をデーモンラビットの中に突き飛ばして自分たちは逃げたのが、八年前です」
 会場が静まり返る。 
「その時、私を助けてくれたのがルア様だったのです。殿下は謝罪にも来なかったので、私がどうやって助かったのか知らなかったのでしょう」
 殿下たちはやっと思い出したようだ。気まずそうだが、今更だ。

「ルア様に助けられて、そのまま転移で王宮に送ってもらった血塗れ傷だらけの私を見て、国王陛下は殿下たちを見限ったのです。人を犠牲にして自分が助かろうとする者なら、他の人のために犠牲にされても自業自得と……。八年前から、殿下たちはいずれ来る噴火のために生かされていたのですわ」
 それでも、成長して変わるかもしれないと期待していた陛下の親心は無駄に終わりましたわね。今頃、婚約破棄をやらかした報告が行ってるでしょう。
「間もなく、人身御供となる人が公示されるでしょう」

「ただ、八年の間に側近の一人が、あまりの殿下の身勝手さに離れてしまいまして、四人の予定が三人になってしまいましたの」
 離れた所にいた元側近がへたり込んだのが見えた。隣に、多分婚約者が寄り添ってる。目が覚めて良かったですわね。

「けれど、その代わりに殿下と添い遂げるお覚悟のアリサ様がいらっしゃる。なんて素晴らしい真実の愛!」
 三人より四人の方が魔力が大きくなって、噴火も抑えられます。今回は歴史に残る軽被害で済むかもしれませんわ。
 アリサ様が真っ青です。自分が言った事ですのに。
 撤回は出来ませんわ。と言うより、させませんわよ、我が身が生贄になりたく無い全貴族が。
 

「それでは皆様、ごきげんよう」
 すっかり静かになった殿下たちを置いて、私たちは今度こそ会場から去った。

あなたにおすすめの小説

眠りから目覚めた王太子は

基本二度寝
恋愛
「う…うぅ」 ぐっと身体を伸ばして、身を起こしたのはこの国の第一王子。 「あぁ…頭が痛い。寝すぎたのか」 王子の目覚めに、侍女が慌てて部屋を飛び出した。 しばらくしてやってきたのは、国王陛下と王妃である両親と医師。 「…?揃いも揃ってどうしたのですか」 王子を抱きしめて母は泣き、父はホッとしていた。 永く眠りについていたのだと、聞かされ今度は王子が驚いたのだった。

悪役令嬢は蚊帳の外です。

豆狸
ファンタジー
「グローリア。ここにいるシャンデは隣国ツヴァイリングの王女だ。隣国国王の愛妾殿の娘として生まれたが、王妃によって攫われ我がシュティーア王国の貧民街に捨てられた。侯爵令嬢でなくなった貴様には、これまでのシャンデに対する暴言への不敬罪が……」 「いえ、違います」

完結 婚約破棄は都合が良すぎる戯言

音爽(ネソウ)
恋愛
王太子の心が離れたと気づいたのはいつだったか。 婚姻直前にも拘わらず、すっかり冷えた関係。いまでは王太子は堂々と愛人を侍らせていた。 愛人を側妃として置きたいと切望する、だがそれは継承権に抵触する事だと王に叱責され叶わない。 絶望した彼は「いっそのこと市井に下ってしまおうか」と思い悩む……

初恋の終わりは

あんど もあ
ファンタジー
おてんばで無邪気な少女と婚約した、第一王子の私。だが十年後、彼女は無表情な淑女となっていた。その事に耐えられなくなって婚約解消したのだが、彼女は「これからは、好きな物は好きだと突き進ませていただきます!」と言わんばかりに豹変! そんな彼女と反対に、私には問題が降りかかり……。

魅了から覚めた王太子は婚約者に婚約破棄を突きつける

基本二度寝
恋愛
聖女の力を体現させた男爵令嬢は、国への報告のため、教会の神官と共に王太子殿下と面会した。 「王太子殿下。お初にお目にかかります」 聖女の肩書を得た男爵令嬢には、対面した王太子が魅了魔法にかかっていることを瞬時に見抜いた。 「魅了だって?王族が…?ありえないよ」 男爵令嬢の言葉に取り合わない王太子の目を覚まさせようと、聖魔法で魅了魔法の解術を試みた。 聖女の魔法は正しく行使され、王太子の顔はみるみる怒りの様相に変わっていく。 王太子は婚約者の公爵令嬢を愛していた。 その愛情が、波々注いだカップをひっくり返したように急に空っぽになった。 いや、愛情が消えたというよりも、憎悪が生まれた。 「あの女…っ王族に魅了魔法を!」 「魅了は解けましたか?」 「ああ。感謝する」 王太子はすぐに行動にうつした。

婚約破棄は嘘だった、ですか…?

基本二度寝
恋愛
「君とは婚約破棄をする!」 婚約者ははっきり宣言しました。 「…かしこまりました」 爵位の高い相手から望まれた婚約で、此方には拒否することはできませんでした。 そして、婚約の破棄も拒否はできませんでした。 ※エイプリルフール過ぎてあげるヤツ ※少しだけ続けました

《完結》悪役聖女

ヴァンドール
ファンタジー
聖女になり、王妃となるため十年間も教育を受けて来たのに蓋を開ければ妹が聖女の力を持っていて私はには聖女の力が無かった。そのため祖国を追放されて隣国へと旅立ったがそこで……

契約破棄された聖女は帰りますけど

基本二度寝
恋愛
「聖女エルディーナ!あなたとの婚約を破棄する」 「…かしこまりました」 王太子から婚約破棄を宣言され、聖女は自身の従者と目を合わせ、頷く。 では、と身を翻す聖女を訝しげに王太子は見つめた。 「…何故理由を聞かない」 ※短編(勢い)