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第一幕:露光される盤上
未露光の静寂 ― 書架の檻、硝子の瞳
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シャーペンを返され、逃げるように席を立った私の背後を、静かな足音が追ってきた。
図書室の最奥、古い全集が並ぶ高い本棚の列。そこは、西陽さえ届かない、埃と紙の匂いが沈殿する影の領域。
「……っ」
行き止まりの書架。振り返るよりも早く、千尋さんの腕が私の肩の横、木製の棚を叩いた。
150cmの私の視界が、彼女の制服の白に遮られる。
逃げ場を失った私の背中に、重厚な革表紙の感触が冷たく伝わる。
「芽衣ちゃん。盤上ではあんなに大胆なのに、どうして私の前ではそんなに『守り』に入っちゃうの?」
千尋さんの顔が、ゆっくりと降りてくる。
157cmの彼女が少し膝を折るだけで、私たちの視線は逃れようのない一直線上に固定された。
彼女のオレンジブラウンのピクシーカットが、影の中で微かに揺れる。
彼女は、瞬きさえも忘れたような、深く、鋭い眼差しで私を覗き込んできた。
それは、ファインダー越しに獲物を狙う、あの「執行官」の瞳だった。
「……やめて、見ないで」
私は視線を逸らそうとした。
けれど、彼女の指先が私の顎をそっと掬い上げ、無理やり正面を向かせる。
逃げられない。
至近距離で対峙する彼女の瞳の中には、恥辱に震え、AAAカップの平坦な胸を激しく上下させている私の無様な姿が、鮮明に映り込んでいた。
「瞳が泳いでるよ。……今、何を考えてる? 私に弱みを握られたこと? それとも、ここで何が始まるか期待してること?」
彼女の吐息が、私の唇をかすめる。
私の脳内の将棋盤は、今や完全に白く飛び、思考という名の駒は一歩も動かせない。
彼女の瞳の奥、硝子玉のような透明な闇に吸い込まれていく感覚。
逸らしたいのに、吸い付いて離れない。
これは、視線による「精神的露光」だ。
私の内側に隠していた、支配されたいという歪んだ渇望が、彼女の視線という強い光に晒され、じりじりと焼き付いていく。
「……参りました、って……言いなよ。芽衣ちゃん」
彼女の左手が、私のブラウスのボタンに触れた。
AAAカップの平原。その薄い皮膚の下で、心臓が爆発しそうなほどの音を立てている。
その振動さえも、彼女は見逃さない。
「その声、私のシャッター音と一緒に、暗室でゆっくり現像してあげる」
私は、彼女の瞳から目を逸らすことを、ついに諦めた。
敗北を受け入れた私の瞳が、ゆっくりと、熱を帯びた涙で潤んでいく。
図書室の深い影の中で、私は、彼女という名の完璧な「記録」の一部になることを受け入れていた。
図書室の最奥、古い全集が並ぶ高い本棚の列。そこは、西陽さえ届かない、埃と紙の匂いが沈殿する影の領域。
「……っ」
行き止まりの書架。振り返るよりも早く、千尋さんの腕が私の肩の横、木製の棚を叩いた。
150cmの私の視界が、彼女の制服の白に遮られる。
逃げ場を失った私の背中に、重厚な革表紙の感触が冷たく伝わる。
「芽衣ちゃん。盤上ではあんなに大胆なのに、どうして私の前ではそんなに『守り』に入っちゃうの?」
千尋さんの顔が、ゆっくりと降りてくる。
157cmの彼女が少し膝を折るだけで、私たちの視線は逃れようのない一直線上に固定された。
彼女のオレンジブラウンのピクシーカットが、影の中で微かに揺れる。
彼女は、瞬きさえも忘れたような、深く、鋭い眼差しで私を覗き込んできた。
それは、ファインダー越しに獲物を狙う、あの「執行官」の瞳だった。
「……やめて、見ないで」
私は視線を逸らそうとした。
けれど、彼女の指先が私の顎をそっと掬い上げ、無理やり正面を向かせる。
逃げられない。
至近距離で対峙する彼女の瞳の中には、恥辱に震え、AAAカップの平坦な胸を激しく上下させている私の無様な姿が、鮮明に映り込んでいた。
「瞳が泳いでるよ。……今、何を考えてる? 私に弱みを握られたこと? それとも、ここで何が始まるか期待してること?」
彼女の吐息が、私の唇をかすめる。
私の脳内の将棋盤は、今や完全に白く飛び、思考という名の駒は一歩も動かせない。
彼女の瞳の奥、硝子玉のような透明な闇に吸い込まれていく感覚。
逸らしたいのに、吸い付いて離れない。
これは、視線による「精神的露光」だ。
私の内側に隠していた、支配されたいという歪んだ渇望が、彼女の視線という強い光に晒され、じりじりと焼き付いていく。
「……参りました、って……言いなよ。芽衣ちゃん」
彼女の左手が、私のブラウスのボタンに触れた。
AAAカップの平原。その薄い皮膚の下で、心臓が爆発しそうなほどの音を立てている。
その振動さえも、彼女は見逃さない。
「その声、私のシャッター音と一緒に、暗室でゆっくり現像してあげる」
私は、彼女の瞳から目を逸らすことを、ついに諦めた。
敗北を受け入れた私の瞳が、ゆっくりと、熱を帯びた涙で潤んでいく。
図書室の深い影の中で、私は、彼女という名の完璧な「記録」の一部になることを受け入れていた。
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