悪役令息は結託することにした

木島

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ハリスン公爵令嬢の企み? 1

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 と、意気込んだ僕だったんだけど、犯人は驚くほどあっさりと見つかった。何故なら彼女本人が僕に堂々と接触してきたからだ。

 ある日の放課後、今まで挨拶程度しか交わしたことのなかった女生徒二人が僕を呼び出し、小サロンへと連れて行かれた。そこでは彼女、アリス・ハリスン公爵令嬢が待っていて、僕を座るように促した後はずっと一人で話し続けている。僕も僕を連れてきた取り巻きの子たちも相槌くらいしか打っていない。何この人。

「私、常々あの方は殿下の婚約者に相応しくないと思っておりましたの。殿下のようにお優しく誠実な方にはあなたのような朗らかで誰にでも親切な方がお似合いですわ」
「は、はあ……」

 アリス・ハリスン公爵令嬢はギリアン卿に好意を持っていて、彼と親しい間柄であるヴィンセント様に対抗意識を持っている。金髪縦ロールという、僕の前世では漫画に出てくる『お嬢様の定番』といういでたちのハリスン嬢。ゲームでもギリアン卿攻略ルートで彼女はライバルとして登場し、婚約者騒動を起こして主人公とギリアン卿が仲を深めるきっかけを作るのだ。
 結局彼女はギリアン卿に婚約を正式に断られたと聞いていたけど、まだ何かしようとしているのかな。僕は彼女の目的を知るため、お喋りな彼女が勝手にボロを出してくれやしないかとただひたすら相槌を打って紅茶を飲んでいた。

「そう言えば、手の傷は残りませんでしたのね」
「手の傷?」
「あの時私偶然レッドメインさんがあなたを激しく叱責しているのを耳にしてしまって。その翌日にあなたは手に傷を作っていらしたから、あの方に暴力を振るわれたのだと確信いたしましたの」

 僕の左手を見つめてそう語るハリスン嬢。それは野良猫に引っかかれた傷を放置していたら、ヴィンセント様が『化膿したらどうする!』と怒って手当をしてくれた時のことだろう。ヴィンセント様は確かに僕を叱責していたし、僕は消毒が思いの外沁みて泣き言を言っていた。その瞬間を偶々彼女が聞いてしまって、それを暴力に結びつけたということか。
 あの噂の出どころはこの人だったのか。

「それ、噂になっている話ですよね……?もしかして、ハリスン様が?」
「あら、だって皆さんには真実を伝えて差し上げないといけないでしょう?あなたは伯爵家、侯爵家の人間に振るわれた非道を訴えることは難しいですもの」

 ねえ、と回りを見て取り巻きのお嬢さんたちに同意を取る。それに彼女たちもこくこくと頷いていた。
 他にも男性と外に遊びに出て抱きしめられていた話や隣国の公爵に気に入られていると言う話。どちらも火元は彼女だった。正義感からの行動だと彼女は言うが、噂としてばら撒くのは真っ当なやり方と言えるのだろうか。僕が何も言わずに押し黙っていると、ふいに彼女は僕の手を取り微笑みかけてきた。

「安心なさって?私はあなたの味方ですわ」

 淑女らしく美しい微笑み。僕が本当に心無い仕打ちに悩んでいたらきっと心を動かされたことだろう。そんな風に笑いながら彼女はまた語り始めた。
 今日僕をここへ呼んだ理由。話の核心を。

「あなたへの非道な行い以外にも、レッドメインさんには殿下の婚約者として相応しくない振舞いが見られます。醜聞の種となるような方を王族に迎え入れることは我が家としても歓迎できないこと。我が家はエイマーズ伯爵家を支援し、あなたを殿下の婚約者に推挙したいと思っておりますの」
「ええっ?!」

 彼女とんでもないことを言い出しちゃったぞ。あまりのことに僕は素直に驚いて、慌てて取り巻きのお嬢さんたちを見た。が、目が合った瞬間に気まずそうに視線を逸らされた。まるでこれ以上巻き込まれたくないと言うかのように。

「でも、それじゃあレッドメイン様はどうなるんですか?悪い噂を立てられた上にそんなことになったらこの先結婚も、働くことも難しくなるじゃないですか」
「ああ、レッドメインさんなら殿下に婚約を解消されても引く手数多でしょうから、勝手にどこかから縁談を探すでしょう。あなたが気に病むことはないわ」

 言葉は柔らかいけど心底どうでもよさそうな反応。僕を気遣うようなことを言っているけれど、要するに彼女の目的はヴィンセント様を排除すること。ギリアン卿の近くにいる彼を追い落とすために僕を利用したいだけなんだ。

 ていうかそれ本当に実家の名前出して大丈夫な奴?ハリスン公爵から了承取ってる?
 相変わらず取り巻きのお嬢さんたちとは視線が合わない。これは駄目な奴なのでは。取り巻きなんだからちゃんと止めてあげなよぉ!

「あの、僕はレッドメイン様に暴力を振るわれたことなんてありません。あの方は確かに言い方はきついけど、僕の振る舞いの未熟さを指摘してくださっているだけなので……あまりことを荒立てないでいただけると」

 好きな人の傍にいるヴィンセント様が妬ましいのかもしれないが、このまま続けたって彼女の望む結果は手に入らない。そう思って暴行の事実を否定するが、何故か彼女は感激したように目を潤ませて僕の手を力一杯握りしめてきた。

「まあ!あなたはなんて優しいんでしょう!あの方を庇おうとなさらなくていいのよ。堂々としていらっしゃい。あなたこそ殿下の伴侶に相応しいわ!」
「いやあの、庇っているわけでは」
「あの方にはきっと他に輝ける場所があるでしょう。そこは殿下の隣でも、ギリアン伯爵の隣でもありません。ギリアン伯爵の隣に相応しいのは私ですからね!」
「だから違うんですってば!」

 話にならない!この人とうとうギリアン卿の名前も出しちゃったよ!取り巻きのお嬢さんたちは諦めたように首を横に振っている。そう言えばこの子たちここに来てから挨拶以外一言も喋ってないな。自分の身が可愛いのか言うのを諦めたのか、どっちだろう。

「もう!噂がどこまで真実かどうかなんてどうだっていいのよ。あなたもヴィンセント・ナサニエル・レッドメインが邪魔でしょ?一緒に邪魔者を排除しましょうって言っているだけなの!」

 ああ……僕も人のこと言えないのわかってるけど、恋って怖いなぁ……
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