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もう1人の探し人
待機していた警備隊の馬車に乗り込んだエヴァンドロ。オセロもその後に続くのだと思いきや、彼は直前で立ち止まり俺の元へ戻ってきた。
長い前髪の奥、何やら酷く思い詰めた表情で目の前の俺を見下ろしている。
「あのっ……!き、聞きたいことがあるんですが!」
「お、おう。何?」
拳を強く握りしめ、おどおとしつつも意を決した感じで問いかけてくるオセロ。一体何を聞きたいんだろうか。不思議に思いながら俺は頷いた。
「あんなことがあって、つつつ、辛くはないのですか?身勝手なアルファに、暴力を振るわれて……それにっ、うう、運命だと決めつけられるなんて」
どうやらオセロは俺の精神状態を気にしていたらしい。当然と言えば当然か。誘拐に暴力に強制性交、どれを取ってもトラウマレベルは間違いない。
今まで気を使って誰も触れようとしなかったし、俺自身あえて深く考えないようにしていた部分だ。同じオメガのアンジェラでさえ言葉にはしない。そこを真正面から問いかけられて俺は改めて考えた。
あの時のこと、俺自身はどう思っているのか。
「そうだなぁ……確かに、思ったよりは平気かも」
「へい、き?」
「思ったよりは、ね?思い出して吐きそうになることはあるよ」
発情期の間はルキーノのことで頭がいっぱいで現実に目を向ける余裕がなかったから平気だった。でも発情期が終わってからは時々ダメになってる。ふいにあの時のことがフラッシュバックして吐き気をもよおしてしまうのだ。
それでもずっとじゃない。本当に時々。頸に触れてルキーノの存在を感じれば落ち着いてくるから、あんな目にあったにしては安定してる方なんじゃないかと個人的には思う。それをそのまま口にした。
「あなたは、とて、とても強い、人なんですね」
理解し難いものを見るような目で俺を見るオセロ。思わずといった感じで口にしたその言葉に俺は曖昧に笑って首を横に振った。
俺が強い?とんでもない。
「そんなことないさ。ルキーノ様が俺を番にして、側にいてくれたからだよ。この発情期を番にならずに対処されたり、あの糞に番にされてたりしたら酷いことになったよ。正直こんな風に立ってなんかいられなかったと思う」
抑制剤を飲まされただけで捨てられると取り乱したのだ。混乱して後悔して泣き叫ぶだろうことは想像に難くない。俺が安定してるのはルキーノの存在あってこそだろう。
俺は今、望む相手と番になるということがどれだけオメガの精神安定に大切なのか身をもって実感している。
「そうか。あなた方は、幸福な番なんですね……ずるいなぁ」
「ん?なんて?」
小さく呟いた言葉は俺には聞き取れない。聞き返したが何でもないと濁されてしまった。
「おいオセロ、何してるんだ?」
「あぁ、今行く」
いつまでも戻ってこないオセロに痺れを切らしたエヴァンドロが馬車から顔を出している。何を言ったか気になるが、どうやら時間切れみたいだな。
「その……ベネディクティス辺境伯夫君殿、私の不躾な質問にお答えいただきありがとうございました。私はこれで」
「うん、気をつけて帰れよ。事件の件も諸々よろしく頼むね」
「はい、お任せください」
聞きたいことが聞けたのか今度こそオセロは俺に背を向ける。なんと、そのオセロの襟の下にちらりとネックガードが見えて俺はぴたりと固まった。
「あ……」
あいつ、オメガだったんだ。
それならなんであんなことを聞いてきたのか理解できる。そりゃオメガとしては無視できない事件だろう。2人を乗せて去って行く馬車を見送りながら1人納得する。
「ネロ様、そろそろお部屋に戻りましょう」
「ん、そうだね」
少し後ろで控えていたブリジッタに促されて自分の部屋に戻る。部屋ではアンジェラがばっちりお茶の準備を整えていて、俺はゆっくりと先ほどまでのやり取りを振り返った。
事情聴取自体は想定していた内容だったし、特に負担は感じなかった。ルキーノたちもいたし、派遣されたのが事情を知るエヴァンドロとオメガのオセロだったことがよかったんだろう。オメガというだけでこちらに非があると言いがかりをつける奴もいるからな。それがなかったのは助かる。
あいつを裁くのは誰か問題は残ってるけど、まあ収まるところに収まるだろう。俺はそれを待つだけだ。優雅に芳しい紅茶の香を楽しんでいて、はたと気づく。
待てよ?
エヴァンドロの知り合いの、黒髪のオメガ?
「いや……まさかな」
突然の閃きを緩く首を振って否定する。
オセロは王都警備隊の所属だ。原作の黒髪オメガはルキーノの私設傭兵団にいて、エヴァンドロを調べるために彼に近づいた結果『ミイラ取りがミイラに』なった。そもそものポジションが違う。裏切るどころかオセロは初めからエヴァンドロ側の人間だ。
色々あって忘れてたけど黒髪オメガも探さないと。この先何があるかもわからないし、エヴァンドロの出世の芽を摘むだけじゃ不安だ。
さてどうするか……
「ネロ様、こちら新作のスイーツだそうですわ。お試しになりますか?」
「え?食べる食べる!」
でもまずは目の前の新作スイーツからだな!
長い前髪の奥、何やら酷く思い詰めた表情で目の前の俺を見下ろしている。
「あのっ……!き、聞きたいことがあるんですが!」
「お、おう。何?」
拳を強く握りしめ、おどおとしつつも意を決した感じで問いかけてくるオセロ。一体何を聞きたいんだろうか。不思議に思いながら俺は頷いた。
「あんなことがあって、つつつ、辛くはないのですか?身勝手なアルファに、暴力を振るわれて……それにっ、うう、運命だと決めつけられるなんて」
どうやらオセロは俺の精神状態を気にしていたらしい。当然と言えば当然か。誘拐に暴力に強制性交、どれを取ってもトラウマレベルは間違いない。
今まで気を使って誰も触れようとしなかったし、俺自身あえて深く考えないようにしていた部分だ。同じオメガのアンジェラでさえ言葉にはしない。そこを真正面から問いかけられて俺は改めて考えた。
あの時のこと、俺自身はどう思っているのか。
「そうだなぁ……確かに、思ったよりは平気かも」
「へい、き?」
「思ったよりは、ね?思い出して吐きそうになることはあるよ」
発情期の間はルキーノのことで頭がいっぱいで現実に目を向ける余裕がなかったから平気だった。でも発情期が終わってからは時々ダメになってる。ふいにあの時のことがフラッシュバックして吐き気をもよおしてしまうのだ。
それでもずっとじゃない。本当に時々。頸に触れてルキーノの存在を感じれば落ち着いてくるから、あんな目にあったにしては安定してる方なんじゃないかと個人的には思う。それをそのまま口にした。
「あなたは、とて、とても強い、人なんですね」
理解し難いものを見るような目で俺を見るオセロ。思わずといった感じで口にしたその言葉に俺は曖昧に笑って首を横に振った。
俺が強い?とんでもない。
「そんなことないさ。ルキーノ様が俺を番にして、側にいてくれたからだよ。この発情期を番にならずに対処されたり、あの糞に番にされてたりしたら酷いことになったよ。正直こんな風に立ってなんかいられなかったと思う」
抑制剤を飲まされただけで捨てられると取り乱したのだ。混乱して後悔して泣き叫ぶだろうことは想像に難くない。俺が安定してるのはルキーノの存在あってこそだろう。
俺は今、望む相手と番になるということがどれだけオメガの精神安定に大切なのか身をもって実感している。
「そうか。あなた方は、幸福な番なんですね……ずるいなぁ」
「ん?なんて?」
小さく呟いた言葉は俺には聞き取れない。聞き返したが何でもないと濁されてしまった。
「おいオセロ、何してるんだ?」
「あぁ、今行く」
いつまでも戻ってこないオセロに痺れを切らしたエヴァンドロが馬車から顔を出している。何を言ったか気になるが、どうやら時間切れみたいだな。
「その……ベネディクティス辺境伯夫君殿、私の不躾な質問にお答えいただきありがとうございました。私はこれで」
「うん、気をつけて帰れよ。事件の件も諸々よろしく頼むね」
「はい、お任せください」
聞きたいことが聞けたのか今度こそオセロは俺に背を向ける。なんと、そのオセロの襟の下にちらりとネックガードが見えて俺はぴたりと固まった。
「あ……」
あいつ、オメガだったんだ。
それならなんであんなことを聞いてきたのか理解できる。そりゃオメガとしては無視できない事件だろう。2人を乗せて去って行く馬車を見送りながら1人納得する。
「ネロ様、そろそろお部屋に戻りましょう」
「ん、そうだね」
少し後ろで控えていたブリジッタに促されて自分の部屋に戻る。部屋ではアンジェラがばっちりお茶の準備を整えていて、俺はゆっくりと先ほどまでのやり取りを振り返った。
事情聴取自体は想定していた内容だったし、特に負担は感じなかった。ルキーノたちもいたし、派遣されたのが事情を知るエヴァンドロとオメガのオセロだったことがよかったんだろう。オメガというだけでこちらに非があると言いがかりをつける奴もいるからな。それがなかったのは助かる。
あいつを裁くのは誰か問題は残ってるけど、まあ収まるところに収まるだろう。俺はそれを待つだけだ。優雅に芳しい紅茶の香を楽しんでいて、はたと気づく。
待てよ?
エヴァンドロの知り合いの、黒髪のオメガ?
「いや……まさかな」
突然の閃きを緩く首を振って否定する。
オセロは王都警備隊の所属だ。原作の黒髪オメガはルキーノの私設傭兵団にいて、エヴァンドロを調べるために彼に近づいた結果『ミイラ取りがミイラに』なった。そもそものポジションが違う。裏切るどころかオセロは初めからエヴァンドロ側の人間だ。
色々あって忘れてたけど黒髪オメガも探さないと。この先何があるかもわからないし、エヴァンドロの出世の芽を摘むだけじゃ不安だ。
さてどうするか……
「ネロ様、こちら新作のスイーツだそうですわ。お試しになりますか?」
「え?食べる食べる!」
でもまずは目の前の新作スイーツからだな!
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