玉の輿だったはずなのに!

木島

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伴侶のお仕事

「だが時に伴侶の振る舞いが大勢に影響を及ぼすこともある。お前が私の夫君として受け入れられ、良好な関係を作れるならそれに越したことはない」
「それじゃあルキーノ様は俺にこわぁいご婦人方にイジワルされてもニコニコ笑って我慢しろって?」
「違う、その厚い面の皮で奴らを手玉に取れと言っている」
「えぇ~俺にそういうの期待してないって言ってたくせに……」

 なんか非常に面倒臭そうなことを要求されて文句を言いつつ唇を尖らせる。
 俺は好ましい男の横で左団扇の悠々自適なお貴族様生活を送るために転職(結婚)したのに、この3ヶ月ずっとなんかしらやってんだよな。まあ全部俺が勝手にやってるんだけど。
 おかしい。何でこうなったんだ。前世の記憶のせいだ。アレがなければ俺は呑気に後夫ライフをエンジョイして……そして一族全員処刑ルートまっしぐらか。それも嫌だな。くるりんとされるがままのターンをしながら遠い目をする。

「じゃあさ、前の奥さんはそういう貴族の人付き合い上手かったんですか?」
「いや。アレはお前と違って気の弱い女だった。テーブルの隅で聴き耳を立てて無害に微笑んでいるのが精一杯だったろうよ」

 優しいだけの女だったとルキーノは言う。
 家同士の益のための政略結婚で迎えた妻。貴族としての振る舞いは身に付いているが気が弱く体まで虚弱で、容易く手折れる小さな花のような人だった。だから貴族主義、アルファ至上主義の乳母の言うことを否定できず我が子に選民的な教育を施されてしまったのだろう。病がちだったせいで夜会にも数えるほどしか出たことがなく、こうやって共にダンスを踊る機会もほとんどなかったとか。

「だが彼女は辺境伯夫人としてあの2人を産んだからな。それだけで賞賛に値する十分な働きだ。社交が不得手なことで不満を感じたことはない」

 だからお前にも過度に期待はしていないと続く。それをいろんな方向に裏切ってトラブルを起こしているのは他でもない俺なのだと。何も否定できないな。

「ともかく、カミッロが追っているならカサヴォーラ子爵の息子たちが何を企んでいるかはそのうちわかるだろう。お前はただ余計なことをせずに堂々としていればいい」
「わかりました。努力します」

 そうこうしているうちに曲が終わり、俺たちは寄り添ってダンスの輪の外に出る。俺の腰に回された腕は俺たちの関係が良好だというアピールだ。
 チラチラと見られていることに変わりはないが、今この場でこれ以上どうすることもできないので放っておくしかない。ルキーノが言うように堂々としていればそのうち彼らも飽きて忘れていくだろう。

「ああ、公爵閣下が居られるな。行くぞ」
「あ……そうだった」

 忘れてたわ、まだイベント終わってなかった。苦虫を噛み潰したような顔をすると腰を叩かれた。仕方がない。ララサバル男爵代理として挨拶回りをしている母を置いて公爵の元へ向かう。
 紹介されたプロカッチーニ公爵閣下は白髪混じりの黒髪に少し年齢を感じるが、60代にしては若々しくてガタイのいい男性アルファだった。しかも例の紳士クラブで俺の話を聞いていたらしく実に友好的に接してくれる。

「君の話は彼らからよく聞いているよ。新婚早々大活躍だったらしいね」
「そうなんですよ!彼は私たち夫婦の恩人です」
「うんカヴァッリ伯爵、それは前も聞いたよ」
「それにですよ、ネロ殿は先日もうすぐ産まれる我が子のために愛らしい靴下やビブを贈ってくれたのです。いやぁ、ルキーノと違って細かい気遣いのできるいい伴侶殿です」
「どう言う意味だカヴァッリ」

 しかも公爵と一緒にいたカヴァッリがなぜか俺をベタ褒めする。ルキーノに睨まれているがどこ吹く風だ。
 ていうかカヴァッリ、お前ちょっと俺に懐きすぎじゃないか?あと子供用靴下とビブは商会で買ったやつだから遠回しの販促だよ。今後ともステッラ商会をよろしく。
 
「辺境伯は確かにいい男だがね、君はどこが気に入ったんだい?この通りとっつき易くはないだろう?それともバース性の相性が良かったのかい?」

 カヴァッリの作る空気のせいなのか元々の性格か、興味津々といった様子で尋ねてくる公爵。隣のルキーノは鉄仮面を貫いているが、よく見るといつもより眉間の皺が多かった。

「相性の問題もありますが……旦那様は物慣れない私にも大変よくしてくださいます。とてもお優しい方ですよ。お顔はまあ無愛想で普通に怖いですけどね」
「はは!本人の前で言うとは随分肝が据わってるな」
「ネロ殿はこういうところがいいんですよ」
「光栄です」

 当たり障りのないことを言えば公爵がからからと笑う。そして訳知り顔で頷くカヴァッリ。いや何なのお前。

「辺境伯はイ・プルームとの国境を守る国防の要であり私にとっても信頼できる人物だ。番であり伴侶の君がよく支えてやってくれたまえ」
「はい。精一杯させていただきます」

 ぽんと肩を叩かれる。ルキーノは公爵の派閥に属しているという。派閥の長として、この国のふたつしかない公爵家の長としての言葉に俺は気を引き締めて言葉を返した。
 いざという時公爵家の後ろ盾があるとないでは大違いだからな。俺もちゃんとしないと。

「ネロ殿ならば心配無用でしょう。オメガだがルキーノに物怖じしない強さがある。十分辺境でもやっていけますよ」
「さっきから……なんでお前が言うんだ。ネロは私の伴侶だぞ」
「んへ?」

 不機嫌そうな声のルキーノ。彼の言葉を耳にして俺は勢いよく彼の顔を見上げた。ルキーノは俺を見ていない。
 でも、私の伴侶……私の。ベッドの上でしか聞いたことのない言葉が公の場で飛び出してきて心臓が跳ねた。
 これは彼の独占欲だろうか。それとも所有欲?番になって少しはそういう気持ちが育ったんだろうか。本人にそのつもりがあるかはわからないけど、そう思うとじんわりと頬が熱を持っていくのがわかった。照れる。

「おやおや、これは」

 俺の反応に気付いた公爵がしたり顔で己の顎髭を撫でている。少なくとも俺がルキーノに好意を抱いていることは理解しただろう。見透かされる羞恥にそっと視線を逸らせた。

「いい番を見つけたみたいだな辺境伯。番は得難い幸福だ。大事にするといい」
「承知しております」

 番は得難い幸福か、いいこと言う。俺も同感だ。
 公爵もアルファだ。俺がオメガであることを気にしている様子はなかったし、こんなふうに言えるってことは、番がいるのかな。

「これからも辺境伯夫君として、番として努力していくつもりです。公爵閣下、今後ともどうぞ我々ベネディクティス家にお力添えいただけますと幸いです」

 俺の言葉ににこやかに笑って頷く公爵の姿を見てほっと息を吐く。

 これで今日の俺の仕事は終わり。ちょっとしたモヤモヤを残したものの、大きなトラブルもなく辺境伯夫君として結婚以来初の大仕事を終えたのだった。





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