玉の輿だったはずなのに!

木島

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手持ちのカード

「こういうのってどうするのが普通ですか?謝罪で済むもの?」
「相手による。相手が侯爵、公爵レベルなら莫大な賠償金、もしくは除籍されても不思議ではないな」

 なるほどと俺は頷く。
 カミッロから話を聞いた子爵は何とか秘密裏に済ませてほしいとカミッロに懇願したらしい。相手は別派閥とはいえ格上の辺境伯家。しかも裏で貴族たちの後ろ暗い情報も集めている性質の悪い男だ。睨まれてはひとたまりもない。子爵は表沙汰にしない代わりに次男を家から切り捨てるとはっきり言ったそうだ。
 自分から賠償金ではなく除籍を言い出すあたり、案外子爵も次男を切りたがってたのかもと勘繰ってしまうな。

「私は一介の従者に過ぎませんからお約束は出来かねると言いましたがね、それでもいいからと真っ青な顔で泣きつかれて往生しました」

 その様子を思い出して肩を竦めるカミッロ。主人の指示を仰いでからまた連絡すると言って戻ってきたらしい。
 そして話し合いの結果、俺たちは子爵の提案を飲むことにした。カサヴォーラ子爵家から次男を放逐するならそれ以上の責任は問わないというものだ。後はうちが何か困った時にちょっと融通を利かせてくれたらいいなという一言も添えて。彼らはきっと逆らえない。
 子爵からすればどう転ぼうとカサヴォーラ家がベネディクティス家に弱みを握られたのは同じ。なら表沙汰にされないほうがまだマシと言うものだろう。
 既に触れ回ってしまった噂は静観する。にっこり笑って『しょうもない噂ですね』と言っていればいずれ鎮火するだろう。

「ではカサヴォーラ家に関してはそのように。後はお任せください」
「ああ。任せた」

 この件はこれでひと段落。小休止とカミッロがお茶を淹れてくれた。
 俺が好きな茶葉のお茶を楽しみながらサクサク進んだ話を振り返る。昨日の今日で仕事の早いことだ。この速さがベネディクティス家の強みなのかもしれないな。

「それでお前は今日ララサバル男爵の見舞いに行っていたんだろう。何を話した」
「あ、そうそう。そのことも話したかったんですよ」
「何かあったか」

 ルキーノの方から今日の話を振ってきた。ルキーノの許可も必要なことだしちょうど良いとお菓子を齧る手を止めた。

「辺境領にステッラ商会の支店を作りたいんです」
「支店を?それは何故だ」

 辺境でも王都の情報を得るためにどうすればいいか。そう考えた時に俺が切れる一番のカードはステッラ商会だ。だから俺は辺境伯領にステッラ商会の支店を開き、商売がてら王都の情報を仕入れてもらおうと考えたのである。

「お互いメリットはあると思うんですよ。辺境伯領にはイ・プルームからの輸入品があるでしょ?それを直接仕入れて王都で販売したいなって。今も店での取り扱いはあるんですけど品数が限られてるし、何個か仲介が挟まってるんで割高なんですよね」

 ステッラ商会は王都周辺をメインにした商会だが辺境領と縁が繋がったこれを機会に販路を拡大したい。イ・プルームとの交易品だけじゃなくてまだ見ぬ良いものがあるはずだし、俺個人だけでなくそれぞれにメリットはあると力説した。
 それに商会のスタッフにミケランジェロが商会長の方がよかったなんて言われたくないしね!ちゃんと利益を産まないと。

「王都で流行りのものを持ち込めば領民の興味もそそられるでしょうし、売り込みたい特産品があれば王都や他の領地に持っていけます。どうですか?」
「それはララサバル男爵の入れ知恵か?」
「違います。俺が考えて、ミケランジェロに幾つか確認を取りに行っただけです」
「概ねお前の意見か……ふむ」

 祈る気持ちで思案しているルキーノを見つめる。基本的に俺に甘い感じのあるルキーノだが、事業に関しては別だろう。固唾を飲んで待っていると、暫くしてルキーノは口を開いた。

「いいだろう、ではまず具体的な事業計画書の提出を。内容が良ければ領地まで担当者を連れて行っても構わない」
「ほ、本当ですか?!え、やった~!ルキーノ様大好き!」
「やめろ鬱陶しい。まだ本決まりというわけではないぞ」
「でもチャンスはあるってことでしょ?ありがとうございます!」

 喜び勇んで抱きつきにいくとあっさり引き剥がされた。ちょっと、旦那様冷たいんだけどぉ。文句を言うが無視されて、それを見ているカミッロは密かに笑っていた。仕方ないのでルキーノの隣に立ったまま話を続ける。

「我がベネディクティス家は実力主義。お前がなんらかの形で結果を残せば領民もお前を認めやすくなるだろう」
「それじゃ何にもしなかったら……?」
「空気扱いになるだろうな」
「えぇ、それはちょっとヤダな」

 厳しい現実にむうと唇を尖らせた。ベネディクティス家の方針は領全体の方針らしい。
 ルキーノ自身は俺に何かを期待して結婚したわけじゃないから、伴侶の椅子に座っていれば他に何もしなくても文句はないだろう。
 でも領民や血縁の貴族たちは違う。何もしないでチヤホヤしてもらえるなんて虫のいい話あるわけない。なんだかんだといつも仕事してるルキーノの伴侶がぐうたらだと印象悪そうだ。

「実力主義はわかりましたけど、ルキーノ様は辺境で領主として領の経営をして国境の治安維持もして、王都でもなんかしら働いてるんでしょ?ちゃんと休む暇ある?」
「問題ない。優秀な部下もいるしな」
「恐縮です」

 ちらとルキーノから視線を寄越されてカミッロは頭を下げる。気難しいルキーノの従者兼側近という非常に忙しい役割をこなす彼もまた主人と同様いつも働いている。ちゃんと休んでいるのか心配だ。
 結婚前の想像と違って貴族は忙しい。金持ち貴族は湯水のように金を使い、贅沢三昧してるというイメージとはかけ離れていた。

「貴族って大変なんだなぁ。札束風呂でシャンパン飲んでるイメージなんて幻想だったわ」
「なんだそれは。そういう生活をしたかったのなら尻尾を振る相手を間違えたな」
「俺は別に間違えたなんて思ってませーん」

 元は誰の相手でもした男娼だけど、本当に誰でもよかったわけじゃない。ルキーノと番ったことを後悔なんてしていない。ルキーノは笑いながら言う俺を暫く見つめ、何も言わずに静かに視線を逸らした。

「出発は1週間後だ。支店の話、今年中に進めたいなら早くするんだな」
「1週間?!うわ、急がなきゃ!」

 思ったより時間がなかった。せめて草案だけでも出さないとと慌てた俺は明日も商会に行くことを決め、ルキーノが呆れていることにも気付かず執務室をバタバタと出て行くのだった。

 





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