2 / 77
精霊のギフト
さて、一旦冷静になろう。
俺の名前はネロ。家名はない。いや、昔はあるにはあったんだけど諸事情あってなくなった。サルビエト王国のお貴族様、そして超優良アルファのルキーノ・デ・ベネディクティス辺境伯と昨日婚姻を結び、初夜も恙無く終えたばかりの新婚オメガである。
……うん、恙無くは嘘だ。初夜と言えば初めての床入りが定石だけど、これから暮らす王都のタウンハウスに着いた頃にとうとう耐えられなくなった俺はぶっ倒れ、夜が明けるまで1人で寝ていた。まあ正直大失態である。
それでもルキーノは怒るでもなく俺を寝かせておいてくれたし、朝起きた時も『婚礼の準備で疲れていたのだろう』と体調を気遣ってから仕事に向かった。結婚翌朝にもう仕事行くわけ?と自分のやらかしを棚に上げて思ったのは内緒ね?
で、その新婚ホヤホヤの俺は結婚宣誓書にサインをした時におかしなビジョンを見た。
見たこともない物に溢れた世界を『誰か』を介して見る。その『誰か』は今俺が生きる世界を物語を通して知っていて、この先訪れるだろう不幸を娯楽として楽しんでいた。そんなビジョン。
最初は訳がわからず随分と混乱したが、ぶっ倒れて一晩明けたらそれがなんであるか理解できるようになっていた。一度寝たことで頭の中が整理されたのかもしれない。
昨日倒れたせいで今日一日安静を言いつかった俺はひろーいベッドの上で胡座を組んで頭を捻る。
あれは俺の前世と言うやつなんじゃないかな。今俺が住む国にも生まれ変わりという概念があるし、そういう物語が流行っているとビジョンの中の女の子が話していた。
ビジョンの中では生前と全く違う世界に生まれ変わることを異世界転生と呼んでいた。そしてそれは大抵が実際に存在する物語とよく似た世界に転生するらしい。俺は多分それをしたんじゃないかと思う。
「サルビエト王国再生記。その小説の世界に、生まれ変わった?」
声に出して言ってみる。しっくりくるような、こないような。ちなみに『サルビエト王国再生記』はビジョンの中で女の子と『俺の視点』が読んでいた小説のタイトルだ。
国王の庶子であった日陰者の主人公が、数々の問題を知恵と勇気と時々力技で解決しながら平民から貴族、果てはサルビエトの国王へと登り詰めていくサクセスストーリー。その壮大な物語の舞台であるサルビエト王国は俺が生まれ育ったこの国の名前である。
現在の国王陛下の名前も、町の名前や景観、生活水準に至るまで物語のサルビエト王国と同じ。その上俺の夫になったルキーノは物語に登場している。それも国賊として断罪される悪人として。
「俺の頭がイカれたわけじゃないなら、めちゃくちゃマズい状況だよねぇ……」
妄想と片付けるには目にしたビジョンは世界観がちゃんとし過ぎてる。こことは似ても似つかないあの世界が、頭の中で作り上げた妄想や幻覚だとは思えないのだ。
だからあのビジョンは前世だと思う。きっと精霊様が気紛れに授けてくれたギフトなんだ。この国では時々説明できない不思議なことがあるって聞くもの。これもその類なんじゃないかな。
「せっかくこの先安定した生活ができると思ってたのに、困ったなぁ~。本当どうしよう」
顔を顰め、腕を組んだままゆらゆらと前後左右に揺れる。新婚早々こんな予想外のことで悩むなんて思わなかった。
ルキーノが断罪されれば俺も連座で処刑は確実。俺はこの若さで死にたくはないし、ルキーノにも死んでほしくない。彼は俺が長く待ち望んだ番候補だもの。俺は上品だけど頑丈なネックガードの上から真っ新な頸を撫でる。
ここに番の証を刻む日を夢見ていた。そうしてもいいと思える相手に会える日を待ち望んでいた。なのにその先待ち受けるのが断頭台なんてあんまりじゃないか。
「うん、助けないと。俺の、番を」
俺は俺の幸せのため、彼の命を救わないと。だってそのために結婚したんだから!
さあそのためにまず何をしよう。そう気合を入れた途端に空気を読まない俺の腹がぐうと鳴いた。
「まず……腹ごしらえだな。さすがに昨日から何も食べてないからお腹すいてきちゃった」
俺の名前はネロ。家名はない。いや、昔はあるにはあったんだけど諸事情あってなくなった。サルビエト王国のお貴族様、そして超優良アルファのルキーノ・デ・ベネディクティス辺境伯と昨日婚姻を結び、初夜も恙無く終えたばかりの新婚オメガである。
……うん、恙無くは嘘だ。初夜と言えば初めての床入りが定石だけど、これから暮らす王都のタウンハウスに着いた頃にとうとう耐えられなくなった俺はぶっ倒れ、夜が明けるまで1人で寝ていた。まあ正直大失態である。
それでもルキーノは怒るでもなく俺を寝かせておいてくれたし、朝起きた時も『婚礼の準備で疲れていたのだろう』と体調を気遣ってから仕事に向かった。結婚翌朝にもう仕事行くわけ?と自分のやらかしを棚に上げて思ったのは内緒ね?
で、その新婚ホヤホヤの俺は結婚宣誓書にサインをした時におかしなビジョンを見た。
見たこともない物に溢れた世界を『誰か』を介して見る。その『誰か』は今俺が生きる世界を物語を通して知っていて、この先訪れるだろう不幸を娯楽として楽しんでいた。そんなビジョン。
最初は訳がわからず随分と混乱したが、ぶっ倒れて一晩明けたらそれがなんであるか理解できるようになっていた。一度寝たことで頭の中が整理されたのかもしれない。
昨日倒れたせいで今日一日安静を言いつかった俺はひろーいベッドの上で胡座を組んで頭を捻る。
あれは俺の前世と言うやつなんじゃないかな。今俺が住む国にも生まれ変わりという概念があるし、そういう物語が流行っているとビジョンの中の女の子が話していた。
ビジョンの中では生前と全く違う世界に生まれ変わることを異世界転生と呼んでいた。そしてそれは大抵が実際に存在する物語とよく似た世界に転生するらしい。俺は多分それをしたんじゃないかと思う。
「サルビエト王国再生記。その小説の世界に、生まれ変わった?」
声に出して言ってみる。しっくりくるような、こないような。ちなみに『サルビエト王国再生記』はビジョンの中で女の子と『俺の視点』が読んでいた小説のタイトルだ。
国王の庶子であった日陰者の主人公が、数々の問題を知恵と勇気と時々力技で解決しながら平民から貴族、果てはサルビエトの国王へと登り詰めていくサクセスストーリー。その壮大な物語の舞台であるサルビエト王国は俺が生まれ育ったこの国の名前である。
現在の国王陛下の名前も、町の名前や景観、生活水準に至るまで物語のサルビエト王国と同じ。その上俺の夫になったルキーノは物語に登場している。それも国賊として断罪される悪人として。
「俺の頭がイカれたわけじゃないなら、めちゃくちゃマズい状況だよねぇ……」
妄想と片付けるには目にしたビジョンは世界観がちゃんとし過ぎてる。こことは似ても似つかないあの世界が、頭の中で作り上げた妄想や幻覚だとは思えないのだ。
だからあのビジョンは前世だと思う。きっと精霊様が気紛れに授けてくれたギフトなんだ。この国では時々説明できない不思議なことがあるって聞くもの。これもその類なんじゃないかな。
「せっかくこの先安定した生活ができると思ってたのに、困ったなぁ~。本当どうしよう」
顔を顰め、腕を組んだままゆらゆらと前後左右に揺れる。新婚早々こんな予想外のことで悩むなんて思わなかった。
ルキーノが断罪されれば俺も連座で処刑は確実。俺はこの若さで死にたくはないし、ルキーノにも死んでほしくない。彼は俺が長く待ち望んだ番候補だもの。俺は上品だけど頑丈なネックガードの上から真っ新な頸を撫でる。
ここに番の証を刻む日を夢見ていた。そうしてもいいと思える相手に会える日を待ち望んでいた。なのにその先待ち受けるのが断頭台なんてあんまりじゃないか。
「うん、助けないと。俺の、番を」
俺は俺の幸せのため、彼の命を救わないと。だってそのために結婚したんだから!
さあそのためにまず何をしよう。そう気合を入れた途端に空気を読まない俺の腹がぐうと鳴いた。
「まず……腹ごしらえだな。さすがに昨日から何も食べてないからお腹すいてきちゃった」
あなたにおすすめの小説
王太子に「戦友としか思えない」と言われたので、婚約を解消しました
明衣令央
恋愛
婚約者である王太子ヘンリーから「君のことは戦友としか思えない」と告げられた、公爵令嬢アリスティア。
十年以上の王妃教育を積んできた彼女は、静かに婚約解消を受け入れる。
一年後、幸せな結婚を迎えた彼女にとって、ヘンリーのその後は――もうどうでもいいことだった。
夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。
古森真朝
ファンタジー
「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。
俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」
新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは――
※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる
猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。
しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。
当然そんな未来は回避したい。
原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。
さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……?
平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。
ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)
愛する公爵と番になりましたが、大切な人がいるようなので身を引きます
まんまる
BL
メルン伯爵家の次男ナーシュは、10歳の時Ωだと分かる。
するとすぐに18歳のタザキル公爵家の嫡男アランから求婚があり、あっという間に婚約が整う。
初めて会った時からお互い惹かれ合っていると思っていた。
しかしアランにはナーシュが知らない愛する人がいて、それを知ったナーシュはアランに離婚を申し出る。
でもナーシュがアランの愛人だと思っていたのは⋯。
執着系α×天然Ω
年の差夫夫のすれ違い(?)からのハッピーエンドのお話です。
Rシーンは※付けます
※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。
※画像はpicrewさんよりお借りしました。
Xアカウント(@wawawa_o_o_)
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
ただのハイスペックなモブだと思ってた
はぴねこ
BL
神乃遥翔(じんの はると)は自分のことをモブだと思っていた。
少年漫画ではいつだって、平凡に見えて何か一つに秀でている人物が主人公だったから。
その点、遥翔は眉目秀麗文武両道、家も財閥の超お金持ち。
一通りのことがなんでも簡単にできる自分は夢中になれるものもなくて、きっと漫画のモブみたいに輝く主人公を引き立てるモブのように生きるのだと、そう遥翔は思っていた。
けれど、そんな遥翔に勉強を教わりに来ている葛城星 (かつらぎ ほし)は言った。
「BL漫画の中では、神乃くんみたいな人がいつだって主人公なんだよ?」
そう言って、星が貸してくれた一冊のBL漫画が遥翔の人生を一変させた。
自分にも輝ける人生を歩むことができるのかもしれないと希望を持った遥翔は、そのことを教えてくれた星に恋をする。
だけど、恋をした途端、星には思い人がいることに気づいてしまって……
眉目秀麗文武両道で完璧だけど漫画脳な遥翔が、お人好しで気弱な星の心に少しずつ少しずつ近づこうと頑張るお話です。
神子の余分
朝山みどり
BL
ずっと自分をいじめていた男と一緒に異世界に召喚されたオオヤナギは、なんとか逃げ出した。
おまけながらも、それなりのチートがあるようで、冒険者として暮らしていく。
途中、長く中断致しましたが、完結できました。最後の部分を修正しております。よければ読み直してみて下さい。