玉の輿だったはずなのに!

木島

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精霊のギフト

 さて、一旦冷静になろう。
 俺の名前はネロ。家名はない。いや、昔はあるにはあったんだけど諸事情あってなくなった。サルビエト王国のお貴族様、そして超優良アルファのルキーノ・デ・ベネディクティス辺境伯と昨日婚姻を結び、初夜も恙無く終えたばかりの新婚オメガである。
 ……うん、恙無くは嘘だ。初夜と言えば初めての床入りが定石だけど、これから暮らす王都のタウンハウスに着いた頃にとうとう耐えられなくなった俺はぶっ倒れ、夜が明けるまで1人で寝ていた。まあ正直大失態である。
 それでもルキーノは怒るでもなく俺を寝かせておいてくれたし、朝起きた時も『婚礼の準備で疲れていたのだろう』と体調を気遣ってから仕事に向かった。結婚翌朝にもう仕事行くわけ?と自分のやらかしを棚に上げて思ったのは内緒ね?

 で、その新婚ホヤホヤの俺は結婚宣誓書にサインをした時におかしなビジョンを見た。
 見たこともない物に溢れた世界を『誰か』を介して見る。その『誰か』は今俺が生きる世界を物語を通して知っていて、この先訪れるだろう不幸を娯楽として楽しんでいた。そんなビジョン。
 最初は訳がわからず随分と混乱したが、ぶっ倒れて一晩明けたらそれがなんであるか理解できるようになっていた。一度寝たことで頭の中が整理されたのかもしれない。

 昨日倒れたせいで今日一日安静を言いつかった俺はひろーいベッドの上で胡座を組んで頭を捻る。

 あれは俺の前世と言うやつなんじゃないかな。今俺が住む国にも生まれ変わりという概念があるし、そういう物語が流行っているとビジョンの中の女の子が話していた。
 ビジョンの中では生前と全く違う世界に生まれ変わることを異世界転生と呼んでいた。そしてそれは大抵が実際に存在する物語とよく似た世界に転生するらしい。俺は多分それをしたんじゃないかと思う。

「サルビエト王国再生記。その小説の世界に、生まれ変わった?」
 
 声に出して言ってみる。しっくりくるような、こないような。ちなみに『サルビエト王国再生記』はビジョンの中で女の子と『俺の視点』が読んでいた小説のタイトルだ。

 国王の庶子であった日陰者の主人公が、数々の問題を知恵と勇気と時々力技で解決しながら平民から貴族、果てはサルビエトの国王へと登り詰めていくサクセスストーリー。その壮大な物語の舞台であるサルビエト王国は俺が生まれ育ったこの国の名前である。
 現在の国王陛下の名前も、町の名前や景観、生活水準に至るまで物語のサルビエト王国と同じ。その上俺の夫になったルキーノは物語に登場している。それも国賊として断罪される悪人として。

「俺の頭がイカれたわけじゃないなら、めちゃくちゃマズい状況だよねぇ……」

 妄想と片付けるには目にしたビジョンは世界観がちゃんとし過ぎてる。こことは似ても似つかないあの世界が、頭の中で作り上げた妄想や幻覚だとは思えないのだ。
 だからあのビジョンは前世だと思う。きっと精霊様が気紛れに授けてくれたギフトなんだ。この国では時々説明できない不思議なことがあるって聞くもの。これもその類なんじゃないかな。

「せっかくこの先安定した生活ができると思ってたのに、困ったなぁ~。本当どうしよう」

 顔を顰め、腕を組んだままゆらゆらと前後左右に揺れる。新婚早々こんな予想外のことで悩むなんて思わなかった。
 ルキーノが断罪されれば俺も連座で処刑は確実。俺はこの若さで死にたくはないし、ルキーノにも死んでほしくない。彼は俺が長く待ち望んだ番候補だもの。俺は上品だけど頑丈なネックガードの上から真っ新な頸を撫でる。

 ここに番の証を刻む日を夢見ていた。そうしてもいいと思える相手に会える日を待ち望んでいた。なのにその先待ち受けるのが断頭台なんてあんまりじゃないか。

「うん、助けないと。俺の、番を」

 俺は俺の幸せのため、彼の命を救わないと。だってそのために結婚したんだから!
 さあそのためにまず何をしよう。そう気合を入れた途端に空気を読まない俺の腹がぐうと鳴いた。

「まず……腹ごしらえだな。さすがに昨日から何も食べてないからお腹すいてきちゃった」

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