玉の輿だったはずなのに!

木島

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継子との対面

 昨日は結婚式の準備で朝から碌に食べてなかったうえに、屋敷に来て早々に倒れたせいで夕食は何も食べてない。朝も食欲がなくてお茶しか飲んでないのでさすがに空腹。何か出してもらおうとベッドサイドのベルをチリチリ鳴らしてメイドを呼んだ。
 すると程なくして扉を叩く音がする。

「失礼致します」

 入ってきたのは一人のメイド。婚礼衣装の着付けや昨日の夜倒れた俺の面倒をみてくれた女の人だ。確か名前はブリジッタ。俺よりちょっと年上かな。黒髪をピッチリ後ろへ撫で付けて切れ長の目でつんと澄ました顔をしているからだろうか、何だかちょっと怖そう。

「奥様。もうお加減はよろしいのですか?」
「うん、よく寝たから楽になったよ。迷惑かけたね」
「とんでもございません。奥様の体調が最優先ですので」

 表情筋死んでる?って言うくらいの無表情で彼女は言う。この人昨日からずっとそうなんだけど俺本当は嫌われてるのかな。心配になってきた。

「楽になったらお腹空いてきちゃって。何か軽く食べられる物もらえるかな」
「畏まりました。用意して参りますので少々お待ちください」

 そう言って出て行ったブリジッタはすぐにワゴンを押して戻ってきた。慣れた様子で持ってきた食事を2人がけの小さなテーブルに並べていく。
 用意されたのは柔らかそうなパンとポタージュスープ。どちらも温めてくれたのかほんのりと湯気が立っていて美味しそうだ。

「復調なされたばかりですのでお食事は胃に負担のかかりにくい物をご用意しました。どうぞ」
「そうなの?ありがとね」
「礼は不要です。我々には当然の働きでございますので」

 ああ、そうだった。貴族って使用人に感謝とかあんま口にしちゃダメなんだっけ。これからこういうのも覚えていかないとなぁ。席に座ってパンを口に放り込みながら考える。

 俺が食事を摂る間、ブリジッタは部屋の隅に気配を殺して佇んでいる。何だか落ち着かない気分になりながらも俺は食事を続けた。
 パンはふわふわで甘く、小麦の香ばしいいい香りがするし、ポタージュはカボチャの甘みととろりと滑らかな口当たりでするする入っていく。前にいたところでもそこそこいい物食べてたけどやっぱり上位貴族が食べる物は素材からして違うんだろうな。これは今日のディナーが楽しみだ。

 そうやってゆっくり食事を摂っているとふいに部屋の扉を叩く音がした。

「ネロ様、今お時間よろしいですか?」
「ん?はーい、どうぞぉ」

 応じた俺に反応してサッと動いたブリジッタが部屋の扉を開ける。そこには一人の若い従僕と仁王立ちした小さな少年が立っていた。

「ええと……?」
「何だそのまのぬけた返事は!」
「はい?」

 俺を見て眉を吊り上げた少年は肩を怒らせながら部屋に入ってくる。えっと、この子誰だろう。思わずブリジッタを見るが彼女はすんと澄ました顔のままだ。
 年齢は10歳くらいだろうか、ルキーノによく似たプラチナブロンドに青い目の少年はずかずかと俺の部屋に乗り込んできて、俺の姿を見て驚愕に目を見開き叫んだ。

「昼もすぎようという時間なのにねまきだと?しかもそのまま食事なんて!なんてだらしのない奴だ!」
「あ」

 確かに。指摘されて俺は視線を落とした。でもさっきまで寝てたからなぁ。
 しかし少年はそんなことはお構いなしだ。

「おまえ、何で昨日あいさつに来なかった!?このベネディクティス家のちゃくなんである僕にあいさつもないとはどういうことだ!父上のオメガとてふそんな振るまいはようしゃしないぞ!」

 大きな目を吊り上げてびし!と俺を指差すこの少年は多分ルキーノの息子ステファノだろう。前妻との間に2人子供がいるって言ってたのを思い出した。
 昨日は着いて早々倒れてしまったし、子供たちには会わなかったからそれを怒ってるんだな。納得した俺は立ち上がり、せめてと寝巻きの皺を伸ばしてから礼をとった。

「このような姿で御前に立つ無礼をお許しくださいませ。初めてご挨拶を致します。私の名はネロ。昨日ベネディクティス辺境伯家当主ルキーノ様に輿入れいたしました。畏れ多くもベネディクティス家の末席に名を連ねたこと、誠に嬉しく思っております。これからどうぞよろしくお願いいたします、ステファノ様」

 そう言ってゆっくりと、ふんわりと花が綻ぶように微笑みを浮かべる。するとどうだろう、ステファノはぽかんと大きな口を開けて固まった。
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