玉の輿だったはずなのに!

木島

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よくある昔話3

 その日からルキーノはうちを子爵との会食の場所に決めたのか子爵と2人で訪れるようになった。ただし、ルキーノは毎回泊まる子爵と違って会食さえすめばさっさと帰っていく。娼館として利用する気は全くないのだろう。
 正直言うとそんな人は初めてで、顔も好みだった分ルキーノに対して好意を抱くようになっていた。

 まあ、好意といってもまだ恋にもならないような淡いものだ。ここでのぼせ上がるほど俺はもう純粋ではなかったからね。

 そんな日々が続くこと3年、ある日前触れなく1人でやってきた彼はそこから俺の元へ通うようになった。

 2回、3回、4回、5回。娼館なのに実に健全に酒と食事だけを堪能してルキーノは去っていく。子爵との会食と違って話し相手は俺1人。酒の席の話題は色々。王都の平民や貴族の今の流行りみたいなごくありきたりなことに始まり、政治経済芸術とそれはもう多岐に渡った。一体俺は何を試されているのだろうと何度思ったか知れない。めちゃくちゃ予習復習した。

 あ、でもお客様の個人情報はネタにしたりしなかったよ。娼館も信用商売だからね。そこは徹底していますとも。ただ、なーんかその辺の口滑らすの狙われてる気がするから物凄く気を使う。

 何度会っても眉間に寄った皺は一向に緩む気配はなかったけど、暫くするとそれが別に不機嫌でも怒っているわけでもないことも3年も経てばわかるようになってきた。この人これが通常なんだ。人付き合いで損してそう。

 そして6回目にルキーノが1人でやってきた日、俺たちはようやく床入りした。
 ルキーノは声も表情も淡々としていたが触れる手はひどく丁寧で、俺の快楽までも引き出すような交わりだった。仕事なのに奉仕するのを一瞬忘れるくらいに気持ちがいい。発情期でもないのに身体中がうずうずして堪らなかった。

「ベネディクティス様、いい匂いがします……なんか、ずっと嗅いでたい匂い……」

 している最中から漂っていたスパイスのたくさん入ったケーキみたいな甘い中にもスパイシーな香り。シナモン、クローブ、アニス、カルダモン?俺にとっては物凄く好みの匂い。俺は隣で寝転がるルキーノの首筋に顔を埋めてすんすん鼻を鳴らした。

「アルファのフェロモンの匂いだろう。バース性の相性がいい相手は好ましい香りがするそうだ」

 はしたなく匂いを嗅ぐ俺を引き離すでもなくルキーノはされるがまま。そのままいい匂いの理由を説明されて俺は顔を上げた。

「じゃあ俺の匂いもベネディクティス様いい匂いって思います?」
「悪くはない」
「ふぅん、好きな匂いってことか」
「そんなことは言っていないが」
「そうですか?ベネディクティス様の悪くないはかなり良いってことだと思いますけど」

 今までの圧迫面接みたいな会話による分析だ。結構自信ある。
 ルキーノは俺を褒めない。普通男娼にそんなこと訊かないだろってことばっかり訊いて、なんとか絞り出して答えても褒めたりはしない。大体が「悪くない」だ。おかしなことを言うとこれ見よがしにため息を吐かれるので、その態度を見るに彼の「悪くない」は良い、又は上出来の部類に入ると踏んだ。
 まあ、だからなんだと言う話なんだけど。

「お前自身は悪くない人材だと思っている」
「人材て」

 本当に人事採用の人みたいなことを言う。
 俺この人に男娼としてご奉仕してるつもりだったんだけど、実はリクルートされてたの?おかしくなってけらけら笑う。

「じゃあ俺のことベネディクティス様の家で雇ってもらえます?俺の家元商人だから金勘定も習ってますよ」
「雇う?」

 勢いで言った俺の言葉にルキーノが不可解そうに眉を顰める。ちょっと馴れ馴れしくし過ぎたか、と焦った俺は慌てて身を起こした。

「あっ、冗談ですよ。冗談。平民の男娼が何言ってんだって感じですよね。ピロートークだと思って大目に見てくださいな」
「雇う、か。それも手だな」
「へぁ?」

 おっと変な声出た。聞き間違いかな?物凄く前向きなお返事が聞こえましたけど。
 ルキーノも身を起こしてベッドの上で2人向き合う。さっきまでのふわふわしてちょっと甘かった空気は霧散し、俺は妙な緊張に包まれる。へなりと眉を下げてルキーノを伺うと、彼はいつもの不機嫌顔で淡々ととんでもないことを告げたのだ。

「お前が私を裏切らないと言うのなら雇ってもいい。役職は辺境伯夫人。期間は一生涯。必要なら番契約も可能だが、どうだ?」
「どうだ???」

 頭の中が疑問符で埋め尽くされる。彼は何を言っているんだ?
 百歩譲って使用人として採用されるならまだわかる。でもルキーノは辺境伯夫人と言った。しかも一生契約。番にまでなると言う。ちょっと何言ってるかわかりませんね。




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