玉の輿だったはずなのに!

木島

文字の大きさ
32 / 77

悪妻?のおねだり

「お帰りなさいルキーノ様。ちょっと顔貸してくださいます?」
「あ?」

 ジュリエッタのナニー、カルロッタとちょっとだけバトった翌日の夕方。俺は王宮から帰宅したルキーノを出迎えがてらにっこり笑顔でツラ貸せオラオラをかました。ルキーノが不審そうに眉を寄せるが知ったことではない。とっても大事なことがあるのだ。
 さあさあと背中を押して自室へと押し込み着替る間も待てないと我が家の問題を口に登らせた。 

「ルキーノ様、うちの採用基準どうなってんですか?使用人教育ちゃんとやってます?」
「どういう意味だ」

 ジャケットをカミッロに預けたルキーノはぴたりと手を止める。ソファに座った俺を見てくる鋭い眼は睨みつけているようだが大丈夫。ルキーノはまだ怒ってない。場合によってはこれから怒るかもだけど。

「どういう意味もこういう意味も、子供たちのグローバルな思考を育てるのに今の教育は良くありません。思考が凝り固まって良いことなしです」
「グローバル?」
「グローバルってのは国際的とかなんかそんな感じの……じゃなくて!子供たちの教育のことですよ?ベネディクティス家は能力主義で男も女もバース性も関係ないって聞いたんですけど」
「その通りだが。我が家は辺境の守護を担う家。そんなことで能力の高い者を弾いていては有事の際に国防を全うできん」
「ですよね、ですよね?」

 アルファ、オメガ、ベータが普通に働いているこの家で極端なバース性の差別は方針としてないはずだ。それはルキーノの発言からも間違いない。自信を得た俺はソファから立ち上がらんばかりの勢いで身を乗り出した。
 が、その勢いに全くついていけていないルキーノは顔を顰めるばかり。

「何が言いたいんだお前は」
「まずそこだけ確認したくて。今から説明します」

 座ってください、と己の隣をポンポン叩くと素直に隣に腰かけるルキーノ。カミッロは計ったようなタイミングでメイドが運んできたお茶をテーブルにサーブした後空気と化して部屋の隅に佇んだ。ある意味従者である彼も関係なくはない話なのでこのまま聞いていてもらおう。
 ここからが大事な話だ。目の前に置かれた芳しい紅茶で喉を潤し、ゆらゆらと揺れるカップの水面を見つめて口を開いた。

「ステファノ様もジュリエッタ様もそれぞれのナニーに言われていたそうです。オメガは繁殖以外には役に立たない愚鈍で、人に寄生せねば生きていけぬ最も卑しい性。美しいのは見た目だけ。中身は藁が詰まった人形と変わらない。バース性がオメガであればお父上はあなたたちを捨てるだろう。アルファか、さもなくばベータであらねばならないって」
「……は?」

 ルキーノに似合わぬ間の抜けた声。普段なら面白がるところだけど、今はそんな場合じゃない。
 父親であるルキーノ様にも知ってほしい。子供たちが誰にも言えなかった苦しみを。

「ステファノ様は言ってました。オメガなら捨てられるんじゃないかってずっと怖かったって」
「ステファノが、そんなことを……」

 衝撃を受けたようにどこか呆然としているルキーノ。この様子では彼は本当に知らなかったのだろう。我が子がナニーから極端なバース差別的思考を植え付けられそうになっていたことを。
 そのまま何事かを考え込み始めたルキーノの横で俺はその時のステファノの様子を思い返す。

『ネロが父上のはんりょとしてここへ来て、実は私もジュリも安心したんだ。父上はナニーたちが言うようにオメガを嫌ってるわけじゃないんだって。とくにジュリはまだバース性がわからないから、心の中じゃこわかったんだと思う』
『ステファノ様……』

 話を聞いて、力なく笑うステファノをぎゅっと抱きしめたのは言うまでもない。その後顔を真っ赤にした彼に『オメガがけいけいにアルファにだきついてはだめだ!』と怒られた。さすが倫理観がしっかりしている。まだ9歳なのになぁと残念に思いつつも俺は反省した。

「2人の乳母がアルファ至上主義であることは知っていた。腹の中がどうだろうが当家の方針に意を唱えず私情を挟まず働いていると思っていたのだが……違うようだな」
「バリバリ私情入ってましたけど。俺なんて敵意剥き出しにされてるし。ねえルキーノ様、由緒あるベネディクティス辺境伯家が一枚岩じゃないのって問題あると思うんですよ」

 俺が言いたいこと、わかりますよね?とぴたりと身を寄せ上目遣いでルキーノを見つめる。
 なんか今俺ものすごく悪女っぽくない?自分が気に入らない相手を伴侶におねだりして処分させるってめっちゃ悪役夫人っぽい。おもしろ。

 そしてルキーノは何か思案する様子を見せた後、独り言のように呟いた。

「意に沿わぬ使用人は我が家には不要だ」

 即断即決。その場で何事かを決めた様子のルキーノは翌日にはカルロッタとそれに同調して俺批判を井戸端会議していたメイドたちを一斉解雇した。
 彼曰く、これは明確なベネディクティス辺境伯家に対する裏切りである。これを看過すればいずれ家の存続をも危ぶむような行為をしかねない。災いの芽は早いうちに摘むべきである、とのことだ。

 さすがにこの先家の存続を危ぶむどころか断絶する原因作るのあんたなんですけど、とは言えなかった。当たり前だ。俺も命は惜しい。

「うむ、これでよし。家内の空気がよくなったな!」

 次は外。クソ野郎もといミケランジェロとの報告会だ。


感想 0

あなたにおすすめの小説

王太子に「戦友としか思えない」と言われたので、婚約を解消しました

明衣令央
恋愛
婚約者である王太子ヘンリーから「君のことは戦友としか思えない」と告げられた、公爵令嬢アリスティア。 十年以上の王妃教育を積んできた彼女は、静かに婚約解消を受け入れる。 一年後、幸せな結婚を迎えた彼女にとって、ヘンリーのその後は――もうどうでもいいことだった。

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる

猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。 しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。 当然そんな未来は回避したい。 原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。 さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……? 平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。 ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)

愛する公爵と番になりましたが、大切な人がいるようなので身を引きます

まんまる
BL
メルン伯爵家の次男ナーシュは、10歳の時Ωだと分かる。 するとすぐに18歳のタザキル公爵家の嫡男アランから求婚があり、あっという間に婚約が整う。 初めて会った時からお互い惹かれ合っていると思っていた。 しかしアランにはナーシュが知らない愛する人がいて、それを知ったナーシュはアランに離婚を申し出る。 でもナーシュがアランの愛人だと思っていたのは⋯。 執着系α×天然Ω 年の差夫夫のすれ違い(?)からのハッピーエンドのお話です。 Rシーンは※付けます ※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。 ※画像はpicrewさんよりお借りしました。 Xアカウント(@wawawa_o_o_)

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

ただのハイスペックなモブだと思ってた

はぴねこ
BL
 神乃遥翔(じんの はると)は自分のことをモブだと思っていた。  少年漫画ではいつだって、平凡に見えて何か一つに秀でている人物が主人公だったから。  その点、遥翔は眉目秀麗文武両道、家も財閥の超お金持ち。  一通りのことがなんでも簡単にできる自分は夢中になれるものもなくて、きっと漫画のモブみたいに輝く主人公を引き立てるモブのように生きるのだと、そう遥翔は思っていた。  けれど、そんな遥翔に勉強を教わりに来ている葛城星 (かつらぎ ほし)は言った。 「BL漫画の中では、神乃くんみたいな人がいつだって主人公なんだよ?」  そう言って、星が貸してくれた一冊のBL漫画が遥翔の人生を一変させた。  自分にも輝ける人生を歩むことができるのかもしれないと希望を持った遥翔は、そのことを教えてくれた星に恋をする。  だけど、恋をした途端、星には思い人がいることに気づいてしまって……  眉目秀麗文武両道で完璧だけど漫画脳な遥翔が、お人好しで気弱な星の心に少しずつ少しずつ近づこうと頑張るお話です。

神子の余分

朝山みどり
BL
ずっと自分をいじめていた男と一緒に異世界に召喚されたオオヤナギは、なんとか逃げ出した。 おまけながらも、それなりのチートがあるようで、冒険者として暮らしていく。 途中、長く中断致しましたが、完結できました。最後の部分を修正しております。よければ読み直してみて下さい。