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悪妻?のおねだり
「お帰りなさいルキーノ様。ちょっと顔貸してくださいます?」
「あ?」
ジュリエッタのナニー、カルロッタとちょっとだけバトった翌日の夕方。俺は王宮から帰宅したルキーノを出迎えがてらにっこり笑顔でツラ貸せオラオラをかました。ルキーノが不審そうに眉を寄せるが知ったことではない。とっても大事なことがあるのだ。
さあさあと背中を押して自室へと押し込み着替る間も待てないと我が家の問題を口に登らせた。
「ルキーノ様、うちの採用基準どうなってんですか?使用人教育ちゃんとやってます?」
「どういう意味だ」
ジャケットをカミッロに預けたルキーノはぴたりと手を止める。ソファに座った俺を見てくる鋭い眼は睨みつけているようだが大丈夫。ルキーノはまだ怒ってない。場合によってはこれから怒るかもだけど。
「どういう意味もこういう意味も、子供たちのグローバルな思考を育てるのに今の教育は良くありません。思考が凝り固まって良いことなしです」
「グローバル?」
「グローバルってのは国際的とかなんかそんな感じの……じゃなくて!子供たちの教育のことですよ?ベネディクティス家は能力主義で男も女もバース性も関係ないって聞いたんですけど」
「その通りだが。我が家は辺境の守護を担う家。そんなことで能力の高い者を弾いていては有事の際に国防を全うできん」
「ですよね、ですよね?」
アルファ、オメガ、ベータが普通に働いているこの家で極端なバース性の差別は方針としてないはずだ。それはルキーノの発言からも間違いない。自信を得た俺はソファから立ち上がらんばかりの勢いで身を乗り出した。
が、その勢いに全くついていけていないルキーノは顔を顰めるばかり。
「何が言いたいんだお前は」
「まずそこだけ確認したくて。今から説明します」
座ってください、と己の隣をポンポン叩くと素直に隣に腰かけるルキーノ。カミッロは計ったようなタイミングでメイドが運んできたお茶をテーブルにサーブした後空気と化して部屋の隅に佇んだ。ある意味従者である彼も関係なくはない話なのでこのまま聞いていてもらおう。
ここからが大事な話だ。目の前に置かれた芳しい紅茶で喉を潤し、ゆらゆらと揺れるカップの水面を見つめて口を開いた。
「ステファノ様もジュリエッタ様もそれぞれのナニーに言われていたそうです。オメガは繁殖以外には役に立たない愚鈍で、人に寄生せねば生きていけぬ最も卑しい性。美しいのは見た目だけ。中身は藁が詰まった人形と変わらない。バース性がオメガであればお父上はあなたたちを捨てるだろう。アルファか、さもなくばベータであらねばならないって」
「……は?」
ルキーノに似合わぬ間の抜けた声。普段なら面白がるところだけど、今はそんな場合じゃない。
父親であるルキーノ様にも知ってほしい。子供たちが誰にも言えなかった苦しみを。
「ステファノ様は言ってました。オメガなら捨てられるんじゃないかってずっと怖かったって」
「ステファノが、そんなことを……」
衝撃を受けたようにどこか呆然としているルキーノ。この様子では彼は本当に知らなかったのだろう。我が子がナニーから極端なバース差別的思考を植え付けられそうになっていたことを。
そのまま何事かを考え込み始めたルキーノの横で俺はその時のステファノの様子を思い返す。
『ネロが父上のはんりょとしてここへ来て、実は私もジュリも安心したんだ。父上はナニーたちが言うようにオメガを嫌ってるわけじゃないんだって。とくにジュリはまだバース性がわからないから、心の中じゃこわかったんだと思う』
『ステファノ様……』
話を聞いて、力なく笑うステファノをぎゅっと抱きしめたのは言うまでもない。その後顔を真っ赤にした彼に『オメガがけいけいにアルファにだきついてはだめだ!』と怒られた。さすが倫理観がしっかりしている。まだ9歳なのになぁと残念に思いつつも俺は反省した。
「2人の乳母がアルファ至上主義であることは知っていた。腹の中がどうだろうが当家の方針に意を唱えず私情を挟まず働いていると思っていたのだが……違うようだな」
「バリバリ私情入ってましたけど。俺なんて敵意剥き出しにされてるし。ねえルキーノ様、由緒あるベネディクティス辺境伯家が一枚岩じゃないのって問題あると思うんですよ」
俺が言いたいこと、わかりますよね?とぴたりと身を寄せ上目遣いでルキーノを見つめる。
なんか今俺ものすごく悪女っぽくない?自分が気に入らない相手を伴侶におねだりして処分させるってめっちゃ悪役夫人っぽい。おもしろ。
そしてルキーノは何か思案する様子を見せた後、独り言のように呟いた。
「意に沿わぬ使用人は我が家には不要だ」
即断即決。その場で何事かを決めた様子のルキーノは翌日にはカルロッタとそれに同調して俺批判を井戸端会議していたメイドたちを一斉解雇した。
彼曰く、これは明確なベネディクティス辺境伯家に対する裏切りである。これを看過すればいずれ家の存続をも危ぶむような行為をしかねない。災いの芽は早いうちに摘むべきである、とのことだ。
さすがにこの先家の存続を危ぶむどころか断絶する原因作るのあんたなんですけど、とは言えなかった。当たり前だ。俺も命は惜しい。
「うむ、これでよし。家内の空気がよくなったな!」
次は外。クソ野郎もといミケランジェロとの報告会だ。
「あ?」
ジュリエッタのナニー、カルロッタとちょっとだけバトった翌日の夕方。俺は王宮から帰宅したルキーノを出迎えがてらにっこり笑顔でツラ貸せオラオラをかました。ルキーノが不審そうに眉を寄せるが知ったことではない。とっても大事なことがあるのだ。
さあさあと背中を押して自室へと押し込み着替る間も待てないと我が家の問題を口に登らせた。
「ルキーノ様、うちの採用基準どうなってんですか?使用人教育ちゃんとやってます?」
「どういう意味だ」
ジャケットをカミッロに預けたルキーノはぴたりと手を止める。ソファに座った俺を見てくる鋭い眼は睨みつけているようだが大丈夫。ルキーノはまだ怒ってない。場合によってはこれから怒るかもだけど。
「どういう意味もこういう意味も、子供たちのグローバルな思考を育てるのに今の教育は良くありません。思考が凝り固まって良いことなしです」
「グローバル?」
「グローバルってのは国際的とかなんかそんな感じの……じゃなくて!子供たちの教育のことですよ?ベネディクティス家は能力主義で男も女もバース性も関係ないって聞いたんですけど」
「その通りだが。我が家は辺境の守護を担う家。そんなことで能力の高い者を弾いていては有事の際に国防を全うできん」
「ですよね、ですよね?」
アルファ、オメガ、ベータが普通に働いているこの家で極端なバース性の差別は方針としてないはずだ。それはルキーノの発言からも間違いない。自信を得た俺はソファから立ち上がらんばかりの勢いで身を乗り出した。
が、その勢いに全くついていけていないルキーノは顔を顰めるばかり。
「何が言いたいんだお前は」
「まずそこだけ確認したくて。今から説明します」
座ってください、と己の隣をポンポン叩くと素直に隣に腰かけるルキーノ。カミッロは計ったようなタイミングでメイドが運んできたお茶をテーブルにサーブした後空気と化して部屋の隅に佇んだ。ある意味従者である彼も関係なくはない話なのでこのまま聞いていてもらおう。
ここからが大事な話だ。目の前に置かれた芳しい紅茶で喉を潤し、ゆらゆらと揺れるカップの水面を見つめて口を開いた。
「ステファノ様もジュリエッタ様もそれぞれのナニーに言われていたそうです。オメガは繁殖以外には役に立たない愚鈍で、人に寄生せねば生きていけぬ最も卑しい性。美しいのは見た目だけ。中身は藁が詰まった人形と変わらない。バース性がオメガであればお父上はあなたたちを捨てるだろう。アルファか、さもなくばベータであらねばならないって」
「……は?」
ルキーノに似合わぬ間の抜けた声。普段なら面白がるところだけど、今はそんな場合じゃない。
父親であるルキーノ様にも知ってほしい。子供たちが誰にも言えなかった苦しみを。
「ステファノ様は言ってました。オメガなら捨てられるんじゃないかってずっと怖かったって」
「ステファノが、そんなことを……」
衝撃を受けたようにどこか呆然としているルキーノ。この様子では彼は本当に知らなかったのだろう。我が子がナニーから極端なバース差別的思考を植え付けられそうになっていたことを。
そのまま何事かを考え込み始めたルキーノの横で俺はその時のステファノの様子を思い返す。
『ネロが父上のはんりょとしてここへ来て、実は私もジュリも安心したんだ。父上はナニーたちが言うようにオメガを嫌ってるわけじゃないんだって。とくにジュリはまだバース性がわからないから、心の中じゃこわかったんだと思う』
『ステファノ様……』
話を聞いて、力なく笑うステファノをぎゅっと抱きしめたのは言うまでもない。その後顔を真っ赤にした彼に『オメガがけいけいにアルファにだきついてはだめだ!』と怒られた。さすが倫理観がしっかりしている。まだ9歳なのになぁと残念に思いつつも俺は反省した。
「2人の乳母がアルファ至上主義であることは知っていた。腹の中がどうだろうが当家の方針に意を唱えず私情を挟まず働いていると思っていたのだが……違うようだな」
「バリバリ私情入ってましたけど。俺なんて敵意剥き出しにされてるし。ねえルキーノ様、由緒あるベネディクティス辺境伯家が一枚岩じゃないのって問題あると思うんですよ」
俺が言いたいこと、わかりますよね?とぴたりと身を寄せ上目遣いでルキーノを見つめる。
なんか今俺ものすごく悪女っぽくない?自分が気に入らない相手を伴侶におねだりして処分させるってめっちゃ悪役夫人っぽい。おもしろ。
そしてルキーノは何か思案する様子を見せた後、独り言のように呟いた。
「意に沿わぬ使用人は我が家には不要だ」
即断即決。その場で何事かを決めた様子のルキーノは翌日にはカルロッタとそれに同調して俺批判を井戸端会議していたメイドたちを一斉解雇した。
彼曰く、これは明確なベネディクティス辺境伯家に対する裏切りである。これを看過すればいずれ家の存続をも危ぶむような行為をしかねない。災いの芽は早いうちに摘むべきである、とのことだ。
さすがにこの先家の存続を危ぶむどころか断絶する原因作るのあんたなんですけど、とは言えなかった。当たり前だ。俺も命は惜しい。
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