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家族の団欒
ミケランジェロが訪れたその日の夜。この日はルキーノも早く帰宅したので4人で夕食を食べることになった。
揃って夕食を摂っていると様々な話題が食卓に上る。子供たちが1日何をしていたかの報告を父親であるルキーノにする姿はとっても微笑ましい。
他の貴族は知らないが、子供たちの楽しげな笑い声が聞こえるいい食卓だと思う。
「なあ、ネロは夜会には行かないのか?しょうたいの手紙、たくさん来てるんじゃないのか?」
子供たちの話を肴にほろほろと崩れるほど柔らかな若鳥のコンフィを食べていると、ステファノが話を振ってきた。今日は俺も子供たちと一緒にダンスの授業を受けたと話をしていたからそれで思いついたんだろう。
夜会。未だ経験したことがないが、いずれは出なきゃいけないだろうなと思っている貴族の代名詞だ。
「王家主催の大夜会だけは出るように言われましたけど、他は特には」
「なんだ、そうなのか。まあ、父上も全部にさんかしてるわけじゃないからな」
「でもお母さまはよくやかいにおよばれしてたってカルロッタが言ってたよ。社交ははくしゃく夫人のおしごとなんだって」
夫人のお仕事。そうなのだ。夜会への参加は貴族として欠かせない社交というお仕事。伴侶として雇われている俺としては当然こなさなければならない課題なのである。そこに関しては今はなきナニー、カルロッタの言い分は正しい。
ちなみにカルロッタがクビになってから新しくナニーになったのは家政婦長の実の娘だ。若いが家政婦長によく教育されていて、俺より年下なのにとてもしっかりした娘さんだった。
「うーん。そうですねぇ……」
いやあ、やっぱり元平民には貴族ばかりのパーティーは気が引けるんだよね。娼婦や男娼の中には愛人として堂々と夜会に同伴する人もいた。でも俺にはそこまでを求める客はいなかったのだ。華やかな場所になんて一度だって行ったことがない。
俺が知ってる世界なんて本当にちっぽけなものだ。
まあこれに関しては決定権は当主であるルキーノにある。ちら、と斜め前で優雅に若鳥のコンフィをカットしているルキーノを見た。
「出たいのか?」
「出たくはないです」
「しょうじきものだな」
わざわざ手を止めたルキーノの問いにノータイムで首を横に振る。やる気のない俺に聞いていたステファノが呆れた。
とはいえそれで済ませていい問題でもない。
「実際どうなんですか?招待とかそのへん」
俺個人に宛てた招待状は今のところ届いていない。多分、俺が平民の男オメガだからほとんどの家が夫夫揃って夜会に出てくるまでは様子見しているのだろう。
当主のところにはどれだけ届いているのか。確認するとルキーノは俺にとってはあまり嬉しくない事実を教えてくれた。
「結婚したばかりだからな。是非夫夫でと例年より招待は多い」
「多いんだぁ……」
「やっぱりそうなのですね。なあネロ、ひとつくらい行った方がいいんじゃないか?その方が後々困らないと思うぞ」
ルキーノの返事を聞いてステファノが参加するよう勧めてくる。その隣で話を聞きながらもぐもぐしていたジュリエッタは、口の中のパンを飲み込むと目を輝かせて口を開いた。
「やかいに出るときはね、お父さまもお母さまもとってもキラキラしててカッコよくてきれいだったんだよ。ジュリ、ネロさまとお父さまでも見たいなぁ」
「え、そ、そうですか?」
在りし日の両親の姿を思い出しているのだろう、ジュリエッタはうっとりと頬を染めている。
両親の輝かしい姿。その姿を俺とルキーノでも見たいと言えるこの子はなんで懐の深い子なのだとじんと来てしまった。ルキーノまでも意外だと言った様子で俺とジュリエッタを見ている。
「随分と気に入られたものだな」
「うん!ジュリ、ネロさまのこととっても好きよ」
「ジュリエッタさま~!」
なんて可愛いこと言うんだ!今すぐ君を抱きしめたい。思わず腰を上げかけたが、察したイラーリオが小さく咳払いしたことで踏み止まった。危なかった。
気持ちを落ち着けようと水を一口飲む。
「確かに、夜会用に仕立てた衣装も使わないと勿体ないし……ルキーノ様、初心者にも優しめの家のご招待とかありませんか?」
「あれ、出る気になったのか?」
「ええ。考えたらいきなり大夜会はちょっとハードル高すぎますしね……」
「たしかにな」
ステファノも出た方がいいと言うし、ジュリエッタのあんな目を見せられて嫌だと言うのも男が廃る。それに実際王家の夜会で失敗しないためにもデモンストレーションは必要だろう。
ルキーノは俺の意思を尊重してくれる。本気だと理解したルキーノは静かに頷いた。
「わかった。調べさせよう」
「ネロさまやかいに出るの?うふふ、ジュリも楽しみ!」
我がことのように嬉しそうにふにゃふにゃと笑うジュリエッタ。その笑顔を見ているとなんだか夜会に行くのも悪くないような気がして俺もふにゃりと笑った。
***
そして1週間が過ぎた頃、俺の元に一通の手紙が届く。
差出人はミケランジェロ。そしてその手紙の内容はというと、俺が探していたギャンブル狂いの使用人が使い込みがバレて主家から解雇されたというものだった。
「ふ、ふふふ。ちょ~ぅどいいじゃないの。俺ってばほぉーんと運がいいかも」
これは朗報だ。この情報があれば夜会への参加が決まった今、即座に次の手が打てる。俺はジュリエッタに向けたものとはまた違う、悪どい笑みを浮かべてうふふと声を上げた。
揃って夕食を摂っていると様々な話題が食卓に上る。子供たちが1日何をしていたかの報告を父親であるルキーノにする姿はとっても微笑ましい。
他の貴族は知らないが、子供たちの楽しげな笑い声が聞こえるいい食卓だと思う。
「なあ、ネロは夜会には行かないのか?しょうたいの手紙、たくさん来てるんじゃないのか?」
子供たちの話を肴にほろほろと崩れるほど柔らかな若鳥のコンフィを食べていると、ステファノが話を振ってきた。今日は俺も子供たちと一緒にダンスの授業を受けたと話をしていたからそれで思いついたんだろう。
夜会。未だ経験したことがないが、いずれは出なきゃいけないだろうなと思っている貴族の代名詞だ。
「王家主催の大夜会だけは出るように言われましたけど、他は特には」
「なんだ、そうなのか。まあ、父上も全部にさんかしてるわけじゃないからな」
「でもお母さまはよくやかいにおよばれしてたってカルロッタが言ってたよ。社交ははくしゃく夫人のおしごとなんだって」
夫人のお仕事。そうなのだ。夜会への参加は貴族として欠かせない社交というお仕事。伴侶として雇われている俺としては当然こなさなければならない課題なのである。そこに関しては今はなきナニー、カルロッタの言い分は正しい。
ちなみにカルロッタがクビになってから新しくナニーになったのは家政婦長の実の娘だ。若いが家政婦長によく教育されていて、俺より年下なのにとてもしっかりした娘さんだった。
「うーん。そうですねぇ……」
いやあ、やっぱり元平民には貴族ばかりのパーティーは気が引けるんだよね。娼婦や男娼の中には愛人として堂々と夜会に同伴する人もいた。でも俺にはそこまでを求める客はいなかったのだ。華やかな場所になんて一度だって行ったことがない。
俺が知ってる世界なんて本当にちっぽけなものだ。
まあこれに関しては決定権は当主であるルキーノにある。ちら、と斜め前で優雅に若鳥のコンフィをカットしているルキーノを見た。
「出たいのか?」
「出たくはないです」
「しょうじきものだな」
わざわざ手を止めたルキーノの問いにノータイムで首を横に振る。やる気のない俺に聞いていたステファノが呆れた。
とはいえそれで済ませていい問題でもない。
「実際どうなんですか?招待とかそのへん」
俺個人に宛てた招待状は今のところ届いていない。多分、俺が平民の男オメガだからほとんどの家が夫夫揃って夜会に出てくるまでは様子見しているのだろう。
当主のところにはどれだけ届いているのか。確認するとルキーノは俺にとってはあまり嬉しくない事実を教えてくれた。
「結婚したばかりだからな。是非夫夫でと例年より招待は多い」
「多いんだぁ……」
「やっぱりそうなのですね。なあネロ、ひとつくらい行った方がいいんじゃないか?その方が後々困らないと思うぞ」
ルキーノの返事を聞いてステファノが参加するよう勧めてくる。その隣で話を聞きながらもぐもぐしていたジュリエッタは、口の中のパンを飲み込むと目を輝かせて口を開いた。
「やかいに出るときはね、お父さまもお母さまもとってもキラキラしててカッコよくてきれいだったんだよ。ジュリ、ネロさまとお父さまでも見たいなぁ」
「え、そ、そうですか?」
在りし日の両親の姿を思い出しているのだろう、ジュリエッタはうっとりと頬を染めている。
両親の輝かしい姿。その姿を俺とルキーノでも見たいと言えるこの子はなんで懐の深い子なのだとじんと来てしまった。ルキーノまでも意外だと言った様子で俺とジュリエッタを見ている。
「随分と気に入られたものだな」
「うん!ジュリ、ネロさまのこととっても好きよ」
「ジュリエッタさま~!」
なんて可愛いこと言うんだ!今すぐ君を抱きしめたい。思わず腰を上げかけたが、察したイラーリオが小さく咳払いしたことで踏み止まった。危なかった。
気持ちを落ち着けようと水を一口飲む。
「確かに、夜会用に仕立てた衣装も使わないと勿体ないし……ルキーノ様、初心者にも優しめの家のご招待とかありませんか?」
「あれ、出る気になったのか?」
「ええ。考えたらいきなり大夜会はちょっとハードル高すぎますしね……」
「たしかにな」
ステファノも出た方がいいと言うし、ジュリエッタのあんな目を見せられて嫌だと言うのも男が廃る。それに実際王家の夜会で失敗しないためにもデモンストレーションは必要だろう。
ルキーノは俺の意思を尊重してくれる。本気だと理解したルキーノは静かに頷いた。
「わかった。調べさせよう」
「ネロさまやかいに出るの?うふふ、ジュリも楽しみ!」
我がことのように嬉しそうにふにゃふにゃと笑うジュリエッタ。その笑顔を見ているとなんだか夜会に行くのも悪くないような気がして俺もふにゃりと笑った。
***
そして1週間が過ぎた頃、俺の元に一通の手紙が届く。
差出人はミケランジェロ。そしてその手紙の内容はというと、俺が探していたギャンブル狂いの使用人が使い込みがバレて主家から解雇されたというものだった。
「ふ、ふふふ。ちょ~ぅどいいじゃないの。俺ってばほぉーんと運がいいかも」
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