玉の輿だったはずなのに!

木島

文字の大きさ
39 / 77

帰り道の馬車で

「ネロ、こちらへ」
「はぁい」

 カヴァッリが思案するように黙しているとひと段落ついたらしいルキーノに呼ばれる。こちらも言いたいことは言えたので、素直に囲みの人々を散らした彼の横へと戻る俺。そして考え込みながらも何故か後をついてくるカヴァッリ。
 ルキーノもそれに気付いてちらと彼の方を見た。

「何を話していた」
「世間話をちょっと。大したことじゃないですよ」

 ね、とカヴァッリの方を振り返ればこちらを見た彼も曖昧に笑って頷く。カヴァッリも今この場で問い詰めるつもりはないようで、フロアの中心で躍る人々を見ながら俺たちに問いかけた。

「そう言えば、君たちは踊らないのか?新婚夫夫の初めての夜会だ。みんな期待してるんじゃないかな」
「お前が声をかけてきたからタイミングを逃した」
「え、そうだったのか。そりゃ悪いな」

 水を差したのが自分だったと知って申し訳なさそうに頭を掻くカヴァッリ。そういう彼も躍る姿を見ていない。
 というか、パートナーがいない。声をかけてきた時から彼は1人だ。俺ははてと首を傾げた。

「カヴァッリ様も踊っておられませんけど、今日は奥様とご一緒ではないのですか?」
「ああ、妻は先日妊娠がわかってね。大事をとって今シーズンの社交は控えているんだ」
「そうだったんですか!おめでとうございます。ではお生まれになったらお祝いを贈らないといけませんね。ね、ルキーノ様」
「ああ、そうだな」

 まさか夫人が妊婦だったとは。おめでたい話に目を輝かせて見上げるとルキーノも頷いてくれた。それを聞いてはにかむカヴァッリは嬉しそうだ。

「ありがとう2人とも。無事産まれるよう祈っていてくれ」

 エヴァンドロの功績がどうこうとか関係なく、こりゃ絶対に誘拐なんて起こさせてはダメだ。カヴァッリがどう思おうと夫人の誘拐を阻止せねば。
 これ以上不審に思われないように危機感を煽るにはどうしたら……と、この場を離れようとしているカヴァッリを見て焦る俺。そんな俺の焦りを知ってか知らずか、すれ違い様にカヴァッリは小声で囁いた。

「何を企んでいるのかわからない君の言葉を無条件に信じるわけにはいかない……が、一考する価値はある。情報提供に感謝するよ、ベネディクティス辺境伯夫君」

 それだけ告げるとカヴァッリはひらりと手を振って俺たちの元を離れていく。その後ろ姿を見送って、心の中でガッツポーズをキメた。

(よし、よしよし良い感じ!)

 少なくともカヴァッリはこれで身の回りの警戒を強めるはずだ。彼がルキーノの友人かつ俺の顔見知りでよかった~!見ず知らずの他人じゃこうもうまくはいかなかったはずだ。俺は本当に運がいい。
 ほっとした俺はその後の夜会を存分に楽しんだ。ダンスに関してはルキーノの足を踏んだので減点されてしまったが、その他については小言はナシ。伯爵夫君として及第点は貰えたようだ。

 だがしかし。

「お前、カヴァッリに何を言った?」

 安心して帰りの馬車に乗りやれやれと息を吐いた矢先、正面に腰掛けたルキーノが再び突っ込んできた。

「だから世間話ですって。何を疑ってるんですか?」
「アレの様子が妙だった。お前が何かを言ったからだろう」

 さすが鋭い。俺を真正面から見つめてくるルキーノの眼光は鋭く、決して嘘や誤魔化しを許さない雰囲気だ。
 でも全部正直にゲロってしまうわけにはいかない。大体説明が難解すぎる。なので俺は嘘は言わないけど肝心なことは秘密にすることにした。

「んー……実は」

 俺は彼が一時期目当ての男娼を求めて娼館に通い詰めていて顔見知りだったというところだけを話した。俺的には本当に世間話の一つだと思ったんだけど、聞いていたルキーノの顔はみるみるうちに凶悪に変わっていった。
 え、何で?俺何か怒らせること言った?

「あの、ルキーノ様?なんか顔が怖いんですけど……」
「お前、アレに触られたのか?」
「い、いえ!お座敷のお供はありましたけど床入りはありません。あの方は馴染みの男娼一筋だったので」

 変な誤解をされている!俺は慌てて首も手もぶんぶんと横に振った。
 カヴァッリが他の男娼や娼婦に手を付けた話は聞かなかったし、彼は先輩男娼が年期明けして娼館を去ると同時に来なくなった。
 2人の関係が今どうなっているのかは知らないけど、少なくともあの時彼は馴染みの男娼だけだったのだ。なんなら手を触れられた記憶すらない。

「ならいい」

 そう言いながらルキーノが俺を手招く。狭い馬車の中隣同士に座り直すとルキーノは俺の頸に手を伸ばした。
 最初はネックガードの上から撫でていたかと思うと徐々にその指をネックガードと首の間に侵入させようとし始める。時にカリカリと軽く爪を立てられて俺はふるりと震えた。

「有象無象が触れた体だということは重々承知しているが、相手が目の前に現れて気分のいいものではないからな」
「ルキーノ様……」

 自分の恋人や伴侶の昔の相手なんて知りたくはないのは人間の心理か。ましてや人一倍番への執着が強いのがアルファという生き物。ルキーノは面白くないと元々険しい顔を更に険しくして俺の頸を撫で続ける。
 あの、あんまり触らないで欲しいんだけど。そこは敏感な場所で……!

「ちょ、ルキーノ様それやめて」
「知らんな。我慢しろ」

 嫉妬なのか所有欲なのかわからないが、ちょっと機嫌を損ねてしまったルキーノは馬車が帰り着くまでひたすら俺の頸を撫で続けた。

 はぁ……最後の最後にどっと疲れた。



感想 0

あなたにおすすめの小説

王太子に「戦友としか思えない」と言われたので、婚約を解消しました

明衣令央
恋愛
婚約者である王太子ヘンリーから「君のことは戦友としか思えない」と告げられた、公爵令嬢アリスティア。 十年以上の王妃教育を積んできた彼女は、静かに婚約解消を受け入れる。 一年後、幸せな結婚を迎えた彼女にとって、ヘンリーのその後は――もうどうでもいいことだった。

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる

猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。 しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。 当然そんな未来は回避したい。 原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。 さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……? 平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。 ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)

愛する公爵と番になりましたが、大切な人がいるようなので身を引きます

まんまる
BL
メルン伯爵家の次男ナーシュは、10歳の時Ωだと分かる。 するとすぐに18歳のタザキル公爵家の嫡男アランから求婚があり、あっという間に婚約が整う。 初めて会った時からお互い惹かれ合っていると思っていた。 しかしアランにはナーシュが知らない愛する人がいて、それを知ったナーシュはアランに離婚を申し出る。 でもナーシュがアランの愛人だと思っていたのは⋯。 執着系α×天然Ω 年の差夫夫のすれ違い(?)からのハッピーエンドのお話です。 Rシーンは※付けます ※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。 ※画像はpicrewさんよりお借りしました。 Xアカウント(@wawawa_o_o_)

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

ただのハイスペックなモブだと思ってた

はぴねこ
BL
 神乃遥翔(じんの はると)は自分のことをモブだと思っていた。  少年漫画ではいつだって、平凡に見えて何か一つに秀でている人物が主人公だったから。  その点、遥翔は眉目秀麗文武両道、家も財閥の超お金持ち。  一通りのことがなんでも簡単にできる自分は夢中になれるものもなくて、きっと漫画のモブみたいに輝く主人公を引き立てるモブのように生きるのだと、そう遥翔は思っていた。  けれど、そんな遥翔に勉強を教わりに来ている葛城星 (かつらぎ ほし)は言った。 「BL漫画の中では、神乃くんみたいな人がいつだって主人公なんだよ?」  そう言って、星が貸してくれた一冊のBL漫画が遥翔の人生を一変させた。  自分にも輝ける人生を歩むことができるのかもしれないと希望を持った遥翔は、そのことを教えてくれた星に恋をする。  だけど、恋をした途端、星には思い人がいることに気づいてしまって……  眉目秀麗文武両道で完璧だけど漫画脳な遥翔が、お人好しで気弱な星の心に少しずつ少しずつ近づこうと頑張るお話です。

神子の余分

朝山みどり
BL
ずっと自分をいじめていた男と一緒に異世界に召喚されたオオヤナギは、なんとか逃げ出した。 おまけながらも、それなりのチートがあるようで、冒険者として暮らしていく。 途中、長く中断致しましたが、完結できました。最後の部分を修正しております。よければ読み直してみて下さい。