玉の輿だったはずなのに!

木島

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俺の運命の人 side ???

*いらんわい、と思われるかもしれませんが護衛視点です。



 俺は弱いアルファだった。
 生まれたのは平民の中でもごく平均的な、裕福でも貧しくもない家。親兄弟の全員がベータの中にたった1人生まれたアルファが俺だ。
 幼い頃から飛び抜けたものなど何一つない俺は家族と同じベータだと誰もが思っていたし、俺自身もそう思っていた。判定検査でアルファと出た時皆が皆何かの間違いだと思ったくらいだ。アルファだと分かった後も大して環境は変わらず、平凡な家庭の平凡な俺は自立を目指してベネディクティス辺境伯が出資する騎士学校へと通った。
 幸いだったのはそれなりに武芸の才があったこと。就職先は王都のベネディクティス辺境伯家だ。家族の中で一番の出世頭になった俺はここにきて漸く「さすがはアルファ」と喜ばれた。

 だが辺境を守る武の家紋、ベネディクティス家に入ってしまえば俺は瞬く間に埋没した。得意だと思った剣術も体術もベータの兵士にさえ劣ったのだ。上には上がいると気づき、バース性はただの性別でしかないと悟った。
 俺にはアルファの華やかな要素はない。ずっと数の少ないオメガに会うことも殆どないので自分がアルファと自覚できる機会などないにも等しかった。

「ようこそいらっしゃいました。本日お相手させていただきますリザと申します」

 だがそんな俺にも運命は用意されていたのだ。
 俺が自身の才のなさに落ち込んでいる頃、騎士学校時代の先輩に連れて行かれた高級娼館で俺はネロと初めて会った。

「側付きのネロと申します」

 顔を上げたネロとばちりと目が合った瞬間、心臓が跳ねた。
 まだ幼い、少年と言ってもおかしくない面立ちに化粧を施し細く小さな体を煌びやかな衣服に身を包んでいるオメガ。薄く笑みを浮かべた彼からは今まで嗅いだことのない芳しい香りが漂ってくる。夜の照明の中でもキラキラと輝く灰色の瞳に目を奪われて、隣に立つ娼婦など目に入らなかった。

「君、は」
「おい、勝手に立つな」

 呆然としたまま無意識に椅子から腰を上げかける。腕を掴まれてなお止まる気にならずそのまま彼の元へ歩み寄ろうとして、彼の様子がおかしいことに気付いた。
 隣の娼婦も気付いたようだ。胸を押さえて俯くネロを心配そうに覗き込んでいる。

「ネロ?どうしたの」
「姐さ……なんか急に、おかしい……なにこれ」

 苦しげに顔を歪めたネロの息は荒い。頬が真っ赤に染まり、鼻腔を擽る甘い香りがますます強くなっていった。
 突然の変化に戸惑う彼が彷徨わせる視線にもう一度かち合うと、どくどくと心臓が早鐘を打ち全身が熱くなってきた。

 これはまさか。

「ネロ、ネロ?あぁ……ヒートが来たのね。ねえ、黒服を呼んできてちょうだい。早くね」
「は、はい!」

 もう1人の側付きの少女が慌てて部屋を出ていく。その間に娼婦はネロを自身の後ろに隠してしまった。

「ネロ、歩ける?ここはいいから部屋を出なさい」
「……ぇ、なに?ねえさん、なんて?」
「ああ、不味いわね。この子初めてなのに……」

 焦ったように俺を見る様子から俺から漏れ出るアルファのフェロモンを感じ取っているのだろう。ヒートを起こしたネロを庇って俺から見えないようにしている。
 何故隠すのか。普段なら納得できる行動が何故か酷く許し難い行為に思えた。

「申し訳ございません。この者は体調が優れないようですので下がらせます。暫しお待ちを」
「仕方ないな。酒でも飲んで待っ……おい、何してるんだ」
「いけません、落ち着いてくださいお客様!旦那さん、お連れ様をお止めしてください。ラットを起こしかけています!」
「お、おお!」

 ネロを奪おうと立ち上がると焦った2人に引き止められる。先輩が後ろから羽交い締めにしてきてますます頭に血が昇った。
 2人は俺から彼を引き離そうとしている。俺を誘うためにヒートを起こしたオメガを奪おうとしている。
 俺のオメガを。

「止めないでください。この子は俺が、俺の……!」
「落ち着け馬鹿野郎!」
「放してください!放せ!」
「ああクソ!早くそいつを外に出してくれ!」
「ネロ、ネロ立てる?ひとまず部屋を出るのよ。個室までは黒服が連れて行ってくれるからね」
「う……はぃ……」

 娼婦の肩に捕まりながら覚束ない足取りで部屋を出ていくネロ。俺は先輩に拘束されて去っていくその背中を見送ることしかできない。

「待って、待ってくれ。行かないでくれ」

 出ていく時、潤んだ瞳が俺を見た。助けを求めているように見えてもがいたが、結局俺はベータの先輩の力に敵わなかった。
 無情にも閉じられた扉。薄くなっていく恋しい香り。それに伴って引いていく熱に酷く寂しくなった。

「先輩……あの子はきっと俺の運命です。だって、だってあの子は俺を見てヒートを」
「わかった、わかったから。でもな、例え娼館でもヒートに任せて襲いかかるなんて恥もいいとこだぞ。知られれば仕事をクビにされたって文句は言えない」
「はい……」

 冷静になってから懇々と説教をされて、その日は家に帰された。
 でもあの時の甘い匂いが忘れられない。救いを求めるように俺を見ていた灰色の瞳が目に焼きついて離れない。
 だから俺は給料を注ぎ込んであの娼館に通った。あの娼館はデビューしたてや指名の少ない娼婦、男娼は広いフロアを使って複数人で客の酒の相手をする。初めてのヒートを終えたばかりのネロもそこにいて、一目見たいがために通い詰めたのだ。
 しかし俺は問題行動を起こした身。しばらくは指名をすることは許されず遠目から他の客の相手をする彼を見るだけだった。
 そしてようやく指名を許されて酒の席で2人きりになった日、この機会を逃してはならないと俺は想いを告げたのだ。

「俺は君に一目惚れした。運命だと思うんだ。身請けしたいと言ったら……受けてくれるだろうか?」
「え?身請け?会ったばっかりなのに?」
「そんなの関係ない。君のことが好きなんだ」

 ヒートを迎えたとはいえまだ少年の域を出ないネロの手を取り真っ直ぐに目を見つめる。ネロは真剣な俺に困ったように笑った。

「ええ?うーん、どうかな。一目惚れとか運命とか嫌いじゃないけど。でも俺の借金凄いからただの平民の兵士じゃ無理だよ」
「そんなに……?」
「そんなに」

 幼い頃からここにいるならその借金は親の作った物だろう。なんて不憫な。
 俺が救ってやらないと。俺のオメガを。俺をアルファにしてくれる運命を。

「ま、期待しないで待ってるよ」

 そう言って彼は笑った。待ってると、そう言ったのだ。
 だから俺は我武者羅に働いた。金を作るまで彼に会わないと誓いを立てて必死に働いた。あの娼館に閉じ込められている彼を救うのだと。会えなくともその気持ちは消えることはなく、俺の原動力になっていたのだ。

 それなのに、それなのにこいつは……!

「お前は俺を裏切った!俺を忘れて!金持ちの貴族……アルファと結婚した!そんなもの許せるはずがないだろう!?」

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