贄の神子と月明かりの神様

木島

文字の大きさ
51 / 71
苛むもの

しおりを挟む
 正直納得はしていない。けれどすばるが神子の機能ではなく個人を見てほしいと願うなら、今の九朗にこれ以上言えることはなかった。

「わかったよ……でもマジで、無理だけはすんなよ。お前は大事なダチなんだから、何かありゃ普通に心配すんだよ」
「ダチ……!」
「ん?」

 もどかしさを誤魔化すように頭をぐしゃぐしゃと掻き回しながら告げれば何故かすばるが嬉しそうな顔をする。一気に場の空気が軽くなって、妙にキラキラ輝いている瞳に九朗と皓月は首を傾げた。

「嬉しそうだな」
「あい。ダチって、とっても仲のいい友達みたい!うふふ、嬉しいです」

 不思議そうに皓月が問えばすばるはそう答える。稚い子供のような言葉に皓月は苦笑し、同意を表すようにその頭を優しく撫でてやった。
 九朗が自分で言った癖に『友達』で大喜びされて複雑な気持ちになっていると皓月に勝ち誇ったかのような顔で見下ろされる。『残念だったな』と無言の煽りを受けて、九朗は引き攣り笑いを浮かべながら己の袂に手を突っ込んだ。
 そっちがその気ならこっちにも手はあるのだと。

「じゃあ、そのダチから贈り物だ」
「なになに、なんですか?」
「お前と俺の共同作業」
「きょう……なんだと?」

 皓月が怪訝な顔をしているのを無視して取り出した木箱をすばるの前に置く。ピンときたすばるはあっと声を上げて手を叩いた。

「帯留め!仕上がったんですね!」
「ああ、綺麗にできたぜ」

 木箱の蓋をそっと外せば中に収まっているのはあの日すばるが作った桜の細工が施された帯留め。金粉が撒かれ、綺麗に上塗りを施されたそれは小さな木箱の中でキラキラと輝いていた。

「うわぁ……!凄い!とてもきれいです」
「触ってみろよ」
「あい」

 促されて木箱の中から帯留めを取り出すと掌に乗せたそれをいろんな角度からとっくりと眺める。手を加えたのはほんの一部分だが、自分の手で作り上げたものが一つの形として存在している。そのことに酷く感動してすばるは喜びで薄らと目元を朱に染めた。
 喜んでもらえたようでよかったと、ついでにめちゃくちゃ可愛いなと思いながら九朗も頬を弛める。

「見て、皓月。これね、九朗と一緒に作ったんです」
「ああ、以前言っていたな」

 上機嫌で帯留めを皓月の掌に乗せるすばる。手渡された皓月も丁寧な仕草で摘まみ、顔の近くに寄せたり光に翳してみたりと興味深げに観察している。

「下地や仕上げは俺がやったけど、貝を貼って金粉乗せたのはすばるですよ。綺麗なもんでしょう」
「そうだな。初めてとは思えん」
「そうですか?九朗が手伝ってくれたからですよ」

 ね、と笑いかけられて心臓がキュッとする。笑顔が眩しい。そしてその横から刺すような視線を感じる。肝が冷える。最初に挑発してきたのは皓月だろうに。

「ありがとうございます。大事にしますね」
「おう。またやりたくなったら言ってくれや。師匠もいつでも来ていいってよ」
「いいんですか?じゃあ、是非また。あっ、団子屋と草子屋にもまた行かなくちゃ」

 すばるが最後に町に出たのはこの帯留めを作った時だ。二月近く間が空いて、そろそろ馴染みの店の人たちが恋しくなってきた。
 途中蛍が出してくれた茶と茶菓子を摘まみながらすばるは九朗との雑談に花を咲かせる。暫く会わなかった分言いたいことが沢山あったのか話が尽きない。いつの間にか日が傾き始め、それでも話足りないと言った様子の九朗は名残惜しそうに帰っていった。

「今は仕事も落ち着いてるし、またすぐ来るからな。身体、大事にしろよ」
「あい。九朗も気をつけて」

 そう言って笑顔で見送ってくれたすばるは七日後に再び神域へ訪れた時、しばらく歩けなくなったと人形のように力なく垂れる両足を見せてきた。

「足が治るまで外には行けそうにないんです……残念」

 呆然とする九朗にそう言ってつまらなさそうに唇を尖らせるすばる。まるで悲観した様子のないその姿に、やはりあの時言葉を飲み込むべきではなかったと九朗は後悔した。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

僕の、しあわせ辺境暮らし

  *  ゆるゆ
BL
雪のなか3歳の僕を、ひろってくれたのは、やさしい16歳の男の子でした。 ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります! ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

寂しいを分け与えた

こじらせた処女
BL
 いつものように家に帰ったら、母さんが居なかった。最初は何か厄介ごとに巻き込まれたのかと思ったが、部屋が荒れた形跡もないからそうではないらしい。米も、味噌も、指輪も着物も全部が綺麗になくなっていて、代わりに手紙が置いてあった。  昔の恋人が帰ってきた、だからその人の故郷に行く、と。いくらガキの俺でも分かる。俺は捨てられたってことだ。

処理中です...