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狂気の恋愛

#36.楽しむ女帝

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ユルトの町を含むイルモニカの大都市周辺に突然と雨を降らせた雨雲の中をこの日の夕方も魔力監視船と呼ばれる飛行船が飛んでいた。 

その独特な形体から空を飛ぶ城とまで言われイルモニカのシンボルの1つとしても有名であるこの飛行船だが、

いざとなれば空から地上にあるものに攻撃も出来る言わば戦闘艦にもなるという事は、

実は余り知られていないのだ。

そんな船を指揮するのは、

イルモニカ傭兵団ハ・58隊を率いる女騎士のオリビア・リザ・ヘイレンである。

オリビアは、イルモニカ傭兵団の中でも大変優れた戦士であり、ありとあらゆる魔法を扱う事でも知られている。

その腕はこのイルモニカ傭兵団の中でも特殊であり、実力だけなら賢者と呼ばれる存在にも引けを取らないとも言われる。

だからこそ

特にイルモニカ傭兵団の中でも揃いと呼ばれる"ハ・58隊"の指揮を任され笑う、

そんな彼女の存在を"女帝"と呼ぶのだ。

そのオリビアにとってもここ数ヶ月は、

不安なる気配を感じていた。

理由は、予言者イアナダの存在があったからだ。

そのイアナダが不吉なるものを感じると騒ぎ始めたからだった。

オリビア「...どうだ、魔力炉の周辺に不審者はいたか?」

傭兵a「いえ...特にこれといった者の存在は見当たりませんね?

先程も各地にある魔力炉施設からの連絡を受けましたが...

これといった人物は見当たらないと..

それに魔力炉自体にも大きな変化は無いようです?」

オリビア「..そうか、分かった。

念の為に今後も警戒を怠るなと伝えろ?」

傭兵a「了解です!」

オリビア「...ふん、婆さんはいったい何を見たのだ? 何の畏れだ?」

オリビアが不満そうに魔力監視船の中に据えられた玉座に腰を下ろすと、そこへ預言者のイアナダがそわそわしながら向こうからやって来た。

イアナダ「......やはり地上の森の精が騒いでおった...きっと何かが起こる前兆だ..」

オリビア「どう騒いでいるのですか?」

イアナダ「私にもはっきりとは言えませんが..この天候といい、森の精といい...何か不吉なものを感じます?」

オリビア「..不吉とは? もっと具体的に仰有って頂かないと..」

イアナダ「人です。..人が何処かに行こうとしている..それを止めなくては..若しくは、向かって来る者を咎めなくては..」

オリビア「止める?...咎める? ふふ..歳だな...」

オリビアは、嘲笑するかのようにイアナダのその言葉を鼻で笑い呟くと、その表情のまま言葉を続けた。

オリビア「..ですが先程、傭兵からは各地の魔力炉には何の異変も無いとの連絡を受けましたが?」

イアナダ「異変が無いからと...では何故、森がああして騒いでいるのです?!」

オリビア「だから、それが何だと私は聞いているのだ!」

船の外を指差し理解を求めるイアナダにオリビアは、声を荒らげる。

イアナダ「...オリビア様?

これは単なる私の思い違いではありませぬ?

ですから、過去の過ちから得た教訓を生かし、

万が一の事に備えて警戒をしているのです。

..この国に住む市民等を守る為にも..

それが魔力監視船に乗る我々の役目な筈です?」

オリビア「..しかし、その不吉なるものがいったい何なのか分からん以上は、市民にどう伝えるのだ?

取り敢えずは、逃げて下さいとでも言うのか?」

イアナダ「それは...」

オリビア「うん? ..どうなんだ?

...イアナダよ、お前は少し疲れているのではないか?

確かにここ最近の天候といい、その森の精霊の騒ぎといい..

心配なるのは分かるが...ちょっと考え過ぎではないか?」

イアナダ「....オリビア様?

...結構です! この私を地上にへと降ろして下さい?

私自らが原因を突き止めれば貴女も納得するでしょう?」

オリビア「その体でか?」

オリビアは、高齢で痩せ細ったイアナダの体に顎をしゃくった。

そんな態度を見せるオリビアにイアナダは、見開いた目のまま肩を落とし、少し間を置いて俯いた。

静まり返った船内に魔力監視船のエンジン音がこだましていて、それが異様な空間を助長している。

それは、この空間の中にいる者たちの誰が、

次の声を出すのか待っているかのようであった。

イアナダ「...オリビア様...

私は決して冗談を言っているのでは無いのです?

お願いです...どうか地上を..」

それは、ため息のように。

オリビア「...分かったよ? 貴女の思いは...おい!

地上の魔力炉を含む各地の警備を徹底して強化しろ!

後で私自身も街の様子を見に出掛ける。..これでいいな...

イアナダ?

あとは、任せて貴女は休め? 顔色が優れんぞ?」

そのオリビアの気遣いにイアナダは、力を抜くように表情を弱らせてた。

イアナダ「...ええ..そうさせて頂きます...」

力ない足取りでイアナダは、その部屋から出て行った。

そして、その足音が完全に向こうに行った事を確認するとオリビアは、操縦席の前に居る傭兵に声をかける。

オリビア「...おい」

傭兵b「はい?」

オリビア「警備だがな...いつも通りで構わん?」

傭兵b「...え?」

オリビア「あの婆さんは、もう歳なんだ?

ああ言っとけば満足するだろ?

だからそうしたんだよ...」

傭兵a「ですが...」

オリビア「私がいいと言ってるんだから...

そうしろ?」

傭兵a「..はい」
傭兵b「...」

オリビア「..私を誰だと思ってる?

あの変態魔法使いどもが集まる"ハ・58隊"の隊長だぞ?

...不吉な事か....

ふふふふ..凄く楽しそうじゃないか?」

"オリビア・リザ・ヘイレン"

その性格は非常に冷酷で自身の為ならその立場を無視してでも行動に出ることから

"氷の女"とも言われる

それが、女帝と呼ばれるもう1つの所以でもあるのだ。
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