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再会と始まり
それは私の知らないあなたの過去①
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カーディルは私の願い通り、もう一人の私の過去を話してくれた。包み隠さず、ありのままに。
それはとても長い話で、耳を塞ぎたくなるような内容だった。
何度も休憩を挟んだ。カーディルは何度も、止めようかと問うてくれた。でも、私はそれを拒み、続けて欲しいと懇願した。
そして、全てを聞き終えたのは、空が白み始めた頃だった。
「……はぁ、はぁ……はっ……はぁ、はぁ」
私は宿屋を抜け出し、息を切らして走っている。
日の出はまだだから、視界に入る全てが、海の中にいるかのように青一色だ。
脇腹がズキズキと痛む。めっきり身体を動かしていなかったせいで、何度も足がもつれ転びそうになる。
それでも、奥へ。――もっともっと、人がいないところへ。皆が居ないところへ。
私の頭の中は、とにかく独りになりたい。ただ、それだけだった。
街道へ続く舗装された道を逸れ、目に付いた林に飛び込む。そして、がさがさと音を立てながら腰まである茂みを抜け、もっと低い草は踏みつぶす。
部屋履きのまま飛び出した私の足の裏を、小さな枝や短い雑草の茎が刺してゆく。
でも、痛みなんか感じない。そして、こんな痛みごときでは足を止めることができなかった。
一心不乱に進んでいた私だったけれど、森の小道のような茂みを通り抜け、とうとう足がもつれ派手に転倒してしまった。
瞬間、脇腹が引き裂かれる感じがしたけれど、そんなこと気にしてはいられない。
そして目の前には、樹齢百年と思わせる程の大きな樹があった。
「……はっ……はぁ、……はぁ……はぁ、はぁ」
喘ぐように息をしながら、私はよったよったと大木に近づく。
言うことを聞かない足のせいで、視界がぐらぐら揺れる。でも本当は、とうに体力は限界で、まだ歩けることが不思議なのだ。
でも、私はあんなに全力疾走したはずなのに頬が熱くない。その逆で、ガタガタと震えている。きっと顔色は真っ青になっているだろう。
けれど、心の臓は暴れ狂いそうな程の動悸だ。片手で押さえていても、その暴れ方は尋常なないことがわかる。
そんなことを考えながら大木の前に歩みを進めた私は、一度だけ枝葉を見上げる。
青々とした葉の隙間から少し明かりが差し込んでいる。
……ああ、夜が明けたのだ。
でも、すぐに崩れ落ちる。
「うっ…ふぇ…うっ、ううっ、うっ」
両手を口元で押さえて、私は必死に歯を食いしばる。
でも、そんなことは無駄な努力で嗚咽は止まらない。ただ、手を外すことはできない。そうでもしていないと、今度は叫んでしまいそうになるから。
どうか許してくださいと。でも、私がそんなことを、口にしていいはずがない。
そして、もし仮に感情のまま声に出したとしても私の罪は消えない。それほどの大罪を私は犯したのだ。
いや、そもそもそれは罪だったのだろうか。過ちだったのだろうか。それすらわからない。
ただ一つ言えることは、私はとても幸せだったのだ。とても、とても。例え、大切な仲間を失ったとしても、それでも私は幸せだった。
それが罪。それが過ち。
でも、私は誰に許しを乞えば良いのだろう。誰に贖罪をすればいいのだろう。
カーディルに?リジェンテに?クウエットに?ファレンセガに?───それとも、この世界に生きる人達、全員に?
……いや、違う。私が、一番、許しを乞わなければならないのは、もう一人の私に、だ。
私ともう一人の私の運命が違えたのは、この世界に戻ってきてからではなかった。
日本で過ごした最後の日に、私達の運命は別れてしまったのだ。それは、学校から帰る途中の30分という短い時間の出来事で。
………たった、30分。されど、30分。
それが私と、もう一人の私の運命を分けた瞬間だったのだ───。
それはとても長い話で、耳を塞ぎたくなるような内容だった。
何度も休憩を挟んだ。カーディルは何度も、止めようかと問うてくれた。でも、私はそれを拒み、続けて欲しいと懇願した。
そして、全てを聞き終えたのは、空が白み始めた頃だった。
「……はぁ、はぁ……はっ……はぁ、はぁ」
私は宿屋を抜け出し、息を切らして走っている。
日の出はまだだから、視界に入る全てが、海の中にいるかのように青一色だ。
脇腹がズキズキと痛む。めっきり身体を動かしていなかったせいで、何度も足がもつれ転びそうになる。
それでも、奥へ。――もっともっと、人がいないところへ。皆が居ないところへ。
私の頭の中は、とにかく独りになりたい。ただ、それだけだった。
街道へ続く舗装された道を逸れ、目に付いた林に飛び込む。そして、がさがさと音を立てながら腰まである茂みを抜け、もっと低い草は踏みつぶす。
部屋履きのまま飛び出した私の足の裏を、小さな枝や短い雑草の茎が刺してゆく。
でも、痛みなんか感じない。そして、こんな痛みごときでは足を止めることができなかった。
一心不乱に進んでいた私だったけれど、森の小道のような茂みを通り抜け、とうとう足がもつれ派手に転倒してしまった。
瞬間、脇腹が引き裂かれる感じがしたけれど、そんなこと気にしてはいられない。
そして目の前には、樹齢百年と思わせる程の大きな樹があった。
「……はっ……はぁ、……はぁ……はぁ、はぁ」
喘ぐように息をしながら、私はよったよったと大木に近づく。
言うことを聞かない足のせいで、視界がぐらぐら揺れる。でも本当は、とうに体力は限界で、まだ歩けることが不思議なのだ。
でも、私はあんなに全力疾走したはずなのに頬が熱くない。その逆で、ガタガタと震えている。きっと顔色は真っ青になっているだろう。
けれど、心の臓は暴れ狂いそうな程の動悸だ。片手で押さえていても、その暴れ方は尋常なないことがわかる。
そんなことを考えながら大木の前に歩みを進めた私は、一度だけ枝葉を見上げる。
青々とした葉の隙間から少し明かりが差し込んでいる。
……ああ、夜が明けたのだ。
でも、すぐに崩れ落ちる。
「うっ…ふぇ…うっ、ううっ、うっ」
両手を口元で押さえて、私は必死に歯を食いしばる。
でも、そんなことは無駄な努力で嗚咽は止まらない。ただ、手を外すことはできない。そうでもしていないと、今度は叫んでしまいそうになるから。
どうか許してくださいと。でも、私がそんなことを、口にしていいはずがない。
そして、もし仮に感情のまま声に出したとしても私の罪は消えない。それほどの大罪を私は犯したのだ。
いや、そもそもそれは罪だったのだろうか。過ちだったのだろうか。それすらわからない。
ただ一つ言えることは、私はとても幸せだったのだ。とても、とても。例え、大切な仲間を失ったとしても、それでも私は幸せだった。
それが罪。それが過ち。
でも、私は誰に許しを乞えば良いのだろう。誰に贖罪をすればいいのだろう。
カーディルに?リジェンテに?クウエットに?ファレンセガに?───それとも、この世界に生きる人達、全員に?
……いや、違う。私が、一番、許しを乞わなければならないのは、もう一人の私に、だ。
私ともう一人の私の運命が違えたのは、この世界に戻ってきてからではなかった。
日本で過ごした最後の日に、私達の運命は別れてしまったのだ。それは、学校から帰る途中の30分という短い時間の出来事で。
………たった、30分。されど、30分。
それが私と、もう一人の私の運命を分けた瞬間だったのだ───。
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