監禁された私には、時空の監視者の愛情は伝わらない

茂栖 もす

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◆◇第一幕◇◆ 時空の監視者の愛情は伝わらない 

♪あの日のやり直し②

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 夜着を脱がされた私は、全身に夜の空気を感じて、恥ずかしさで両手で胸を押さえて身体を丸く縮める。そんな私を見てバルドゥールは少し眉を上げ、首を傾げた。

「なぜ隠す?」

 その質問の中に、微かに私に拒まれるのを恐れているのが感じ取れた。

 もうどうにでもなれと、腹をくくったのだ。今更、やっぱりナシにしてっという気はない。ただ単純に身体を隠しているのは、部屋が明るすぎるから。

 今までとは違って、バルドゥールの金色の瞳は私を見つめているのだ。

 刺さる視線ではなく、包み込まれるような眼差しを受けてしまうと、変に意識してしまう。

「………身体を見られるのが恥ずかしくて………その、できれば暗くしてくださ」
「駄目だ」
「………っ!?」

 バルドゥールは私がしどろもどろに説明を始めた途端、なんだそんなことかといった表情に変わった。

 そして、結局最後の【い】まで言い切れないまま、私の申し出をあっさりと却下してしまった。

 恐ろしいほどの変わり身に、思わずジト目で睨んでしまう。そんな私を見てバルドゥールは苦笑を零しながらこう言った。

「こうすれば良いだけだ」

 こうすれば、そう言いながらバルドゥールは何の抵抗もなく自分の上着を脱ぎ、シャツを床に脱ぎ捨てた。そして鍛えられ、均整のとれた体があっという間に視界を覆った。

 初めて目にする成人男性の素肌を直視するのが、これまた恥ずかしくて思わず目線を避ける。そうすれば、逃げるなと言わんばかりに私の顔を覆うように、バルドゥールは両手をついた。その腕には、ルークと同じ紋章が刻まれていた。

 そこで思わず息を呑んでしまったけれど、よくよく考えたら、正直、何の解決策にもなっていない。けれど、そのことを口にする前に、唇を塞がれてしまう。

 触れるだけの口づけを何度も落とされ、くにゃりと身体の力が抜けていく。

 少し空いてしまった唇に、バルドゥールがそっと舌を差し入れた。あれほど不快なものでしかなかったはずのそれは熱く、今までにない感覚を私にもたらす。

 そして私の舌を救い上げるように絡ませると、ゆっくりと動き出した。

「…………はぁ、………あっ」

 息苦しさを覚えて顔を背けようとすれば、それを察してバルドゥールは舌を抜き取る。そして、私の息が整えば、再び舌を差し入れる。

 それを何度か繰り返したのち、その唇は頬からうなじ、鎖骨へとゆっくりと移動する。だが胸へと辿り付いた途端、バルドゥールはそこで一旦、唇を放した。

 じっと注がれる視線の先は、先日、力任せに歯型を付けられたところ。きっとバルドゥールはあの時のことを思い出しているのだろう。

「………大丈夫。もう、消えてますよ」

 なんでもないことのように言えば、金色の瞳は胸から移動して、私の顔を映し出した。

 そうすれば、ちょっと困った顔をしている自分が写る。反対に私の瞳には、彼の顔を映し出しているのだろう。くしゃりと歪めた、泣き出す寸前のような顔を。

 された事実は記憶となって消えることはない。でも、積み重ねていけば、思い出す頻度も減っていく。そしていつか、あの時は痛かったと、軽口を叩けるようになるのだろうか。

 でも今の私たちは、やり直しをしたばかりで、まだ距離がある。そうできるような関係になるには、きっと多くの時間を積み重ねていかなければならないのだろう。

「────………あっ」

 そんなことを考えていたら、不意に胸の先端を、舌でやさしく舐め上げられ、ぞくりと身体の芯が震える。

 思わず声を上げてしまったけれど、それはさっきの口づけより、甘い声になってしまっていた。

 バルドゥールは私が生きていくために、こうして抱こうとしている。なのに、自分がこんなはしたない声を上げるのは、場違いなような気がしてならない。

 そう思っていても、バルドゥールは胸の刺激をやめることはしない。

 熱い舌で、私の胸の先端を転がし、唇で軽く吸う。それだけで私は自分でわかる程、身体の中心が潤い初めていた。それがとても恥ずかしい。

 けれど、バルドゥールはそんな私の戸惑いなどお構いなしに、胸への刺激をやめないまま、下腹へと手を滑らせる。そしてその手は、ゆっくりと降りていき、太ももを優しく撫で上げた。

 羞恥と与えられる刺激で熱を帯びてしまった私の体より、バルドゥールの手のひらは冷たい。そして、今までとは違う羽のような軽さで触れられていることが、未だに信じられなくて混乱してしまう。

 これは私が生きて行くのに必要なことで、彼もその為だけに私を抱こうとしている。そう自分に言い聞かせても、私の身体は更に潤いが生じてしまう。

 そんな自分を知られたくなくて、足をきゅっと閉じようとしたけれど、いつの間にかバルドゥールは膝を割り込ませていた。

 そしてぬぷりと蜜が滴る音と共に、ごつごつとして節張った彼の指が私の中に入ってきた感触に身を竦ませる。けれど、それは一瞬のことでしかなかった。

「……っあ………はぁ」

 自分じゃない声を自分が上げている。でも、どんなに声を押し殺そうとしても、自分の意志とは無関係に漏れてしまう。

 今まで感じたことがない、ゾクゾクとした疼きにも似た感覚が怖くて、小さく首を振って、やめてと懇願する。けれど、バルドゥールは私を抱え込み、指の動きを止めようとはしない。
 
 しかも、その動きは今までのような荒々しく単調なものではない。私の中でゆっくりと動いている。まるで何かを探しているかのように。

「………あっ、ああっ」

 痛みとはまた違う尖った刺激に身体が震え、思わず仰け反ってしまう。そんな私を見て、バルドゥールは熱い息を吐いた。
 
「ここか」

 それは私に答えを求めるものではなく、彼の心の中の声が零れたものだった。

 熱を孕んだ彼の掠れた声が、これから起こり得ることを容易に想像させる。それは、以前、私が粗末な小屋で抱かれた時に、泣いてやめてと懇願したことなのだろう。

「お願い。やめて……んっ」

 身体を起こして、彼の指の動きを遮ろうとしたけれど、既に彼は予期していたのだろう。私が身じろぎをした瞬間、抱く腕に力を込めた。

「動くな」

 大きな体躯に抱え込まれてしまえば、逃げることなどできるわけがない。そして彼の指は止まることなく、私のある一点だけを執拗に攻め続ける。

「…あっ……い、嫌……だめ……んっ」

 掠れた声でそう紡げば、少しだけ動きが緩くなる。そして私を覗き込んだ瞳に微かに不安な色が見えた。

「お願い。これ以上は、やめて。………怖いの」

 痛くもない、苦しくもない。でも、生きるために抱かれているのに、彼が与える刺激に溺れそうになっている。

 そんな自分が恥ずかしくて、半泣きになってそう言えば、何故か彼は小さく笑った。それは初めて見る彼の冷笑ではない笑顔だった。

「大丈夫だ。怖くない」

 私の耳元で囁くそれは、はぞくりとするほど優しい声音だった。
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