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◆◇第一幕◇◆ 時空の監視者の愛情は伝わらない 

♪あの日のやり直し③

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 怖くない。そう言われたけれど、こんな感覚は初めてで、素直に身を任すことなどできるわけがない。

 与えられる刺激が強すぎて、何かに掴まっていないと意識が飛ばされそうになる。………そう思った時には、バルドゥールの背にしがみついていた。

「あっ……んっ、いやっ……こわ……んんっ」
「怖いことは無い。……大丈夫だ……ほら、もうすぐだ」

 力任せに爪を立てて掴んでいるのだから、そこそこ痛いはず。なのに、彼は回した腕を振り払うことも、刺激をやめることもしない。

「いや、怖いっ………あ、ああ、───………ああっ」

 自分の身体のはずなのに自由を失い、導かれるまま声を上げ、私の頭は白く弾けた。そしてそのまま、意識が遠のいていった。

「───……達したようだな」

 朦朧とした意識の中、抑揚の無いバルドゥールの声が遠くで聞こえた。

「たっした?」

 ちょっと何言ってるのかわかんない。

 片言のような言葉を呟いて首を傾げる私に、バルドゥールが今度は小さく声を上げて笑いながら私の髪を撫でた。

 その仕草は幼い子供をあやすようなものに似ていたけれど、それより、もっと甘さと熱を含んでいた。 

 なぜ今、バルドゥールがこんな表情をするのか、私にはわからない。

 でも、すっぽりと私を包んでいる胸板は硬いのに、威圧的でもなければ、鏡のように私を片割れの自分として見ているわけでもない。

 それだけで十分なはずなのに。なのに、彼の感情が読めないことにもどかしさを感じるのは、きっと、バルドゥールが抱えている感情を私が持っていないからなのだろう。

【あなたは、今、何を考えていますか?】

 そう思い切って彼に聞いてみたくなる。けれど、それを素直に口にして良いものなのだろうか。

 元の世界では、例外もあるけれど、愛し愛された先に、抱かれるという行為がある。

 けれど、私とバルドゥールの間には、そういった恋慕の感情はない。強いてゆうなら、責務から生まれた情があるだけだ。

 私とバルドゥールの関係は対等だけれど、当然のことながら恋人同士ではない。

 そんな私が彼の心情に深く踏み入れて良いのだろうか。もし踏み込んでいいのなら、どこまでが許される距離なのだろうか。

 そんなことを考えていても、バルドゥールは私を慈しむように抱きしめている。どうか、そんな温かい眼で私を見詰めないで欲しい。

 そう目で訴えれば、彼は私の額に口付けを落として、素早く足の間に移動した。そして今回も脚を閉じる間もなく、膝裏に手を入れられ、ゆっくりと広げられる。

 じくじくと熱を帯びた私の敏感なところに、夜の冷たい空気が当たる。そう、部屋は決して寒くないのに、冷たいと感じるのは、それほど私の中心は熱くなっているから。

 そして敏感になったそこに、バルドゥールはふっと息を吹きかけた。

「ああぅ………はぁ………」

 軽い息が当たるだけで、びくんと身体が撥ねてしまう。そんな私をバルドゥールを優しく抑え込み、潤いが止まらないそこに顔を近づける。

「…待って。………口付けを拒んでないです……私」

 だからそこに唇を当てるのはやめて、そう言いたかったけれど、それよりも前にバルドゥールは私の花芯をぺろりと舐め上げてから顔を上げた。

「駄目だ」

 そう言って、バルドゥールは、くるりと私に瞳を向けて笑った。でもその笑みは先ほど浮かべた柔らかなものでもなければ、過去の冷笑でもない。少し意地悪な笑みだった。

 そこで私は気づいてしまった。彼の嗜虐趣味は、もともとの性格であったことを。そして、これがやり直しであっても、もって生まれた性格までは変える気がないことを。

 でも、私の敏感なそこに触れる唇は恐ろしいまでに優しい。

「あっ………だめ、やめて………ああ……んんっ」

 駄目といっても、やめてといっても、彼の舌先は花芯を弄ぶ。そして、とめどなく溢れる私のそこに、彼の指が再び入れられる。

「はぁ……んんっ、………いや」

 ぴちゃぴちゃとした、卑猥な音と、私の鼻にかかった甘い声が部屋を満たす。そして時折、バルドゥールの熱を孕んだ吐息が聞こえてくる。

 濃密な空気で身体中が熱くて、のぼせてしまいそうだ。そして、いつの間にか私に触れている彼の身体も熱い。

 絶対に彼と素肌を触れ合わせることなどないと思っていた。もし仮に、そんなことがあったら、そう想像するだけで不快極まりないことだと思っていた。

 なのに、どうしてだろう。今、自分と彼の肌の熱さが同じであることに、気持ち悪さを覚えるどことか、ほっとしている自分がいる。

 けれど、それ以上考えることはもうできなかった。

 いつの間にかバルドゥールの指は2本に増えていた。私の中を解すように、ゆっくりと動いていたそれが、潤いが増えるごとに激しさを増していく。

 そして私は導かれるように、体に熱い衝撃が走る。 

「いやぁ………だ、だめっ、あ………ああっ」

 男性に触れられて、こんな感覚が産まれるなんて知らなかった。

 そんな驚きと困惑を抱えたまま、導かれるように進んだ快楽の先には、満足げに目を細めるバルドゥールがいた。

 達したは、絶頂を迎えることを差す言葉。それは私も、もうさすがに気づいた。ちなみに今度は、私が絶頂を迎えても、バルドゥールは何も言わなかった。

 でも彼が私が絶頂を迎えたことに、ちゃんと気づいているのだろう。その証拠に、彼は身を起こして、私の中心に、そそり立つのものを当てがった。

「あっ」

 押し入られた瞬間、びくりと身体が震える。でもそれは怯えているからではなく、今まで感じた事のない快楽が押し寄せてきたからだった。

 少しだけ入れられた彼のものは、そのまま一気に最奥へと突き上げるのかと思った。けれど、ゆっくり私の中を押し進めていく。

 そして、徐々に熱く硬い身体が私に近づいて来る。

「………アカリ」
 
 バルドゥールが私に完全に覆いかぶされば、彼のものを私が全てを受け入れた証拠。そして体を密着させた途端、そう低い声で囁かれ、ぞくりと体が震えた。

 そんな切なく熱を含んだ声で名を呼ばれたことなんか、元の世界でだって一度も無い。これは本当に、あのバルドゥールなのだろうか?

 そう思ったけれど、耳朶を唇で弄られ、堪え切れず声が漏れて思考が途切れてしまう。

「そろそろ、良いか?」

 何が。そんなことは聞かなくてもわかる。

 でも、どうぞと自分から口にするのは阻まれる。困惑する私だったけれど、バルドゥールは察してくれたようで、ゆっくりと動き始めた。

 浅く、深く、彼のものが私の中で抜き差しを繰り返している。でも、決して力任せに打ち付けることはしない。私に注ぐ視線は気遣う色すら見える。

 ああ、そっか。バルドゥールはこんな始め方をしたかったんだ。

 そう確信が持てるほど、彼は優しく私を抱いている。決して独り善がりの行為ではない。ただ、それを実感してしまうと、触れ合う肌の熱さとか、私の中でぴくぴくと波打つ彼のものが、私を更なる快楽へと導いてしまい───。
 
「………そんなに、締め付けるな」

 と、バルドゥールに戒められてしまった。そんな彼は苦しげに眉を顰め、とても辛そうだった。

「あの、ご………ごめんなさい」

 自覚はないが、彼に苦痛を与えてしまったことに、素直に申し訳なく思い咄嗟に謝罪の言葉を口にしてしまう。

 そうすれば、彼は苦笑を浮かべた後、すぐに私に激しい口付けをした。そして狂おしいほどの口づけを受けてしまえば、吐き出す息が甘く震えてしまう。

「もう、限界だ」

 その一言を合図に、バルドゥールは私の中で暴走を始めた。

 強く抱き締められて、濡れた音をさせながら激しく腰を打ち付けられる。でも、それは私を押さえつけ蹂躙し、雄の力で服従させているわけではない。

 でも、バルドゥールが私に惜しみなく快感を与え続けるこれを何と呼ぶのか、わからない。

「ああっ、いやっ。これ以上は、駄目っ」

 はしたない声を上げることも、必要以上に身体が潤うことも、何度も絶頂を迎えることも、彼の責務からはみ出してしまう行為となってしまう。なのに───。

「何も怖くない」

 力強いその声が、なけなしの自制心を消し去ろうとする。

 そして、私の中を満たしている猛々しいそれで、最奥を抉れられれば、私の身体はびくびくと震え、最後の理性があっけなく砕け散る。
 
「ああっ」

 悲鳴なのか嬌声なのかわからない声を上げた瞬間、私は再び頭の中が真っ白になってしまった。

 そして遠のく意識の中で、バルドゥールが低く呻き、私の中で断続的に熱いものを吐き出した。
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