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◆◇第一幕◇◆ 時空の監視者の愛情は伝わらない
ここでまさかの超監禁生活①
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バルドゥールに抱かれれば2~3日は体を動かすことができない。どんな抱かれ方をしても。
それはこの世界に合わない私の体質のせいだということは、何となく気付いている。だから体調が戻るまでは、ただ大人しく部屋で過ごすのが一番だということも理解している。
けれど、今回はそうはいかなかった。なぜなら、やっぱり自分の目でリンさんとルークが無事なことを確認したかったから。
という訳で、私は抱かれた翌日だけ大人しくベッドで過ごして、それ以降は、起きている全ての時間を折り鶴作りに充てることにした。
バルドゥールは再び忙しい日常に戻ってしまって、抱かれた晩から顔を会わせていない。無理を言えば、時間を取って貰えるかもしれないけれど、それは申し訳なく思ってしまう。激務に追われるバルドゥールにも、間に入ってもらうカイナにも。
だから手元にある折り紙を全部折り鶴にしてルークと連絡を取ろうと決めたのだ。
……………ほんの少しだけ、バルドゥールに向かう気持ちを整理したいということもあって黙々と手を動かしたかったというのもあるけれど、それは、ここだけの話ということで。
そんなこんなこともあり、ここ数日の私の行動は気持ちも整理できて、折り鶴も完成できる。まさに一石二鳥と思っていた。
けれど、うっかりしていた。季節の変わり目というのは、体調を崩しやすいということを。
「アカリさま、顔色が悪いですが…………本日は外出されるのですか?」
カイナの口ぶりは伺うものだけれど、その表情はどちらかというと、外出を拒むものだった。
「そうですか?きっと曇っているからそう見えるのかと思います」
私はワンピースのボタンをはめる手を止めないで、しれっと天気のせいにする。けれど内心、やっぱり気付かれたかと舌打ちをしてしまう。
今朝は頭痛で目を覚ましてしまったのだ。まぁそういう目の覚め方は、今日が初めてではないので、あまり気にしなかった。ただ朝食を普段より食べることができなかったり、着替えが妙に億劫に感じたり…………今の私は、カイナの言う通り、ほんの少しだけ体調不良だったりもする。
でも、どうしても外出したい私は、少々の不調なんて気のせいだと片付けてしまう。
ただ幼い子供を持つカイナは、そういう類いの誤魔化しには慣れているのだろう。表情を厳しくして、口を開いた。ご丁寧に『恐れながら』という前置きをして。
「あいにく今日は、それほど雲は多くありません。それに部屋の明かりは昨日と変わりません。それを踏まえてお聞きしております」
「………………………」
日頃から私に、屋敷で2番目に尊いと口にするだけあって、その言葉使いはとても丁寧なものだった。けれど、その眼も、表情も5歳児に向けるもの。
多分ここで、意固地になって行きたいと言い張っても、子供の駄々とあしらわれてしまうだろう。それは困る。今日は何としても外出させて欲しい。
ここは素直に認めないといけないところは認めて、それから主張をすべきだ。なにせ私は5歳児ではなく、大人なのだから。
「体調が悪いのは認めます。でも、本当に聞かれて、あれ?って思うぐらい微々たる不調です。それに、どうしても外出は、今日じゃないとダメなんです。………………お願いです。1時間なんて言いません。これを渡したらすぐに戻ってきます」
そう言って私は折り鶴が入った箱を両手で持って、カイナに掲げて見せる。
この言葉に嘘偽りはなかった。
本当にルークに完成した折り鶴を手渡したら、すぐに戻るつもりだ。というか、私の完成報告を受けて連絡をくれたルークから、そうして欲しいと言われているし、それが屋敷を訪問する際の条件なのだ。
もっと言うなら、日時も細かく指定されてしまったのだ。それが今日。
言い換えるなら、今日を逃せば次はいつになるかわからないということ。
それは先日のクズ野郎の一件のせいだということは重々承知しているので、無理を言うつもりはないし、迷惑をかける行動もするつもりはない。
と、言うことをカイナ達に全て話して良いのかわからないので、私は自分の主張だけをさせてもらう。でも、譲歩してもらうには十分の内容のはずだ。
けれど、カイナは渋った表情のままで、なかなか頷いてくれない。
「ですが…………」
「戻ってきたら大人しく寝ます。ちょっとだけ…………もし、心配ならリリーさんとフィーネさんも付き添ってください」
カイナの困惑した言葉を被せるようにそう言った、途端、後ろに控えていた侍女の二人の表情がまんざらでもないという風に変わった。
もしかして、この二人が援護射撃をしてくれるかもしれない。思わぬ助っ人に、これはイケると確信を持つ。
そして3対1になったこの状況で、カイナは大きく息を吐きながらこう言った。
「………………わかりました。では、少々お待ちください」
馬車の用意の為に席を外したのだろうか。いや、多分そうだろう。わかりましたと言ってくれたのだから。
けれど、どうやら違っていた。実は、カイナも助っ人を呼びに行っていたのだ。
そんなことに気付かないまま、待つこと数分。
何の前触れもなく扉が開いたと思ったら、すでに出勤しているはずのバルドゥールが姿を現したのだ。
そして驚いて声を上げる前に、私の顔を見た途端、彼は表情を厳しいものに変え、こう言った。
「アカリ、今日の外出は中止だ」
それは、中止にしよう、という同意でもなく、中止にしないか、という提案でもない。────否とは言わせない威圧的な命令だった。
それはこの世界に合わない私の体質のせいだということは、何となく気付いている。だから体調が戻るまでは、ただ大人しく部屋で過ごすのが一番だということも理解している。
けれど、今回はそうはいかなかった。なぜなら、やっぱり自分の目でリンさんとルークが無事なことを確認したかったから。
という訳で、私は抱かれた翌日だけ大人しくベッドで過ごして、それ以降は、起きている全ての時間を折り鶴作りに充てることにした。
バルドゥールは再び忙しい日常に戻ってしまって、抱かれた晩から顔を会わせていない。無理を言えば、時間を取って貰えるかもしれないけれど、それは申し訳なく思ってしまう。激務に追われるバルドゥールにも、間に入ってもらうカイナにも。
だから手元にある折り紙を全部折り鶴にしてルークと連絡を取ろうと決めたのだ。
……………ほんの少しだけ、バルドゥールに向かう気持ちを整理したいということもあって黙々と手を動かしたかったというのもあるけれど、それは、ここだけの話ということで。
そんなこんなこともあり、ここ数日の私の行動は気持ちも整理できて、折り鶴も完成できる。まさに一石二鳥と思っていた。
けれど、うっかりしていた。季節の変わり目というのは、体調を崩しやすいということを。
「アカリさま、顔色が悪いですが…………本日は外出されるのですか?」
カイナの口ぶりは伺うものだけれど、その表情はどちらかというと、外出を拒むものだった。
「そうですか?きっと曇っているからそう見えるのかと思います」
私はワンピースのボタンをはめる手を止めないで、しれっと天気のせいにする。けれど内心、やっぱり気付かれたかと舌打ちをしてしまう。
今朝は頭痛で目を覚ましてしまったのだ。まぁそういう目の覚め方は、今日が初めてではないので、あまり気にしなかった。ただ朝食を普段より食べることができなかったり、着替えが妙に億劫に感じたり…………今の私は、カイナの言う通り、ほんの少しだけ体調不良だったりもする。
でも、どうしても外出したい私は、少々の不調なんて気のせいだと片付けてしまう。
ただ幼い子供を持つカイナは、そういう類いの誤魔化しには慣れているのだろう。表情を厳しくして、口を開いた。ご丁寧に『恐れながら』という前置きをして。
「あいにく今日は、それほど雲は多くありません。それに部屋の明かりは昨日と変わりません。それを踏まえてお聞きしております」
「………………………」
日頃から私に、屋敷で2番目に尊いと口にするだけあって、その言葉使いはとても丁寧なものだった。けれど、その眼も、表情も5歳児に向けるもの。
多分ここで、意固地になって行きたいと言い張っても、子供の駄々とあしらわれてしまうだろう。それは困る。今日は何としても外出させて欲しい。
ここは素直に認めないといけないところは認めて、それから主張をすべきだ。なにせ私は5歳児ではなく、大人なのだから。
「体調が悪いのは認めます。でも、本当に聞かれて、あれ?って思うぐらい微々たる不調です。それに、どうしても外出は、今日じゃないとダメなんです。………………お願いです。1時間なんて言いません。これを渡したらすぐに戻ってきます」
そう言って私は折り鶴が入った箱を両手で持って、カイナに掲げて見せる。
この言葉に嘘偽りはなかった。
本当にルークに完成した折り鶴を手渡したら、すぐに戻るつもりだ。というか、私の完成報告を受けて連絡をくれたルークから、そうして欲しいと言われているし、それが屋敷を訪問する際の条件なのだ。
もっと言うなら、日時も細かく指定されてしまったのだ。それが今日。
言い換えるなら、今日を逃せば次はいつになるかわからないということ。
それは先日のクズ野郎の一件のせいだということは重々承知しているので、無理を言うつもりはないし、迷惑をかける行動もするつもりはない。
と、言うことをカイナ達に全て話して良いのかわからないので、私は自分の主張だけをさせてもらう。でも、譲歩してもらうには十分の内容のはずだ。
けれど、カイナは渋った表情のままで、なかなか頷いてくれない。
「ですが…………」
「戻ってきたら大人しく寝ます。ちょっとだけ…………もし、心配ならリリーさんとフィーネさんも付き添ってください」
カイナの困惑した言葉を被せるようにそう言った、途端、後ろに控えていた侍女の二人の表情がまんざらでもないという風に変わった。
もしかして、この二人が援護射撃をしてくれるかもしれない。思わぬ助っ人に、これはイケると確信を持つ。
そして3対1になったこの状況で、カイナは大きく息を吐きながらこう言った。
「………………わかりました。では、少々お待ちください」
馬車の用意の為に席を外したのだろうか。いや、多分そうだろう。わかりましたと言ってくれたのだから。
けれど、どうやら違っていた。実は、カイナも助っ人を呼びに行っていたのだ。
そんなことに気付かないまま、待つこと数分。
何の前触れもなく扉が開いたと思ったら、すでに出勤しているはずのバルドゥールが姿を現したのだ。
そして驚いて声を上げる前に、私の顔を見た途端、彼は表情を厳しいものに変え、こう言った。
「アカリ、今日の外出は中止だ」
それは、中止にしよう、という同意でもなく、中止にしないか、という提案でもない。────否とは言わせない威圧的な命令だった。
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