監禁された私には、時空の監視者の愛情は伝わらない

茂栖 もす

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◆◇第一幕◇◆ 時空の監視者の愛情は伝わらない 

ここでまさかの超監禁生活②

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 突然現れたこの人に私は、驚いて瞬きを繰り返す事しかできない。

 バルドゥールがここにいることも、怖い顔をしていることも、一方的な言い方をすることも、私の言葉を聴こうとしてくれないことも。

 そんな風に頭の中でたくさんの言葉が溢れかえってきたけれど、どれを口にして良いのかわからなくて、選んだ言葉はこんなありきたりのものだった。

「…………どうして、ですか?」

 掠れた声はバルドゥールに届くか心配だったけれど、ちゃんと彼は聞き取ってくれたようだ。でも、次の行動は私の予想を裏切るものだった。

「理由など、必要ない」

 私の言葉を打ち捨てるようにそう断言すると、足音荒くこちらに向かって来た。そして、問答無用で私を抱き上げてベッドに運ぶ。

 抱き上げられた拍子に手が滑って、折り紙の入った箱が床に落ちるのが視界の端に映り込む。でも、私があっと声をあげる前に、フィーネが拾い上げてくれた。

 けれど、バルドゥールはその一連の出来事など興味がないという感じで、カイナに向かって私の夜着を用意しろと指示を出す。

「ちょっと待ってくださいっ。バルドゥールさん、私の話を聞いて下さい」

 感情を抑えたつもりだったけれど、自分でも驚くほど尖った声を出してしまった。バルドゥールの表情はさらに険しくなる。

「聞く必要など無い。とにかく外出はさせない。お前は今すぐ休め」

 久方ぶりに聞いたその威圧的な言い方と、有無を言わせない強い力に、びくりと身体が竦む。でも私は気づけば口答えをしていた。

「ただの風邪です。大げさすぎます」
「誰が決めた?」

 さらりと棘のある返事が返ってきた。けれど、今日だけはどうしても外出したい。普段ならこの辺りで押し切られてしまいそうになる私だけれど、今日の彼の一方的な態度に反発心という感情がむくむくと沸き上がる。

「自分の体のことは自分が一番良く知っています。これはただの風邪です。寝ていなくても、すぐに良くなります」

 語尾を強めて言い切れば、バルドゥールの眉がぴくりと撥ねた。

「お前は何度も死にかけている。それは不可抗力のものもあるが、アカリの軽率さから招いたことだってあるはずだ。それでも、自分の身体のことは自分が良くわかるなどと言い切れるのか?」
「……………………」

 澱みのないその口調が、なぜだろう無性に腹が立つ。でも、バルドゥールの言っていることは正論で、私は何一つ言い返すことができず、ただぐっと唇をかみ締めることしかできない。

 そんな私にバルゥールは顔を近付け、私の顎を乱暴に掴んだ。
 
「それとも、あの日のように無理矢理抱いて、否が応でもベッドから出れなくした方が良いか?お前に罵倒されようが、俺は一向に構わない」

 この言い方はあんまりだ。

 だって、ここにはカイナがいる。リリーとフィーネだってオロオロとした表情を浮かべたまま、ずっと私達の動向を伺っている。

 バルドゥールは聞き分けの無い私を窘める為に、こんな脅すような言い方をしたのだろう。

 でも私にとったら、二人っきりですらないこんな状態で、しかも情交を匂わすようなことを言って欲しくなかった。

 恥ずかしさでいたたまれない。こんなんじゃ素直に言うことなんて聞けるわけがない。

「バルドゥールさんに抱かれて動けるなら、ルークさんの屋敷に行って良いってことですよね?」

 口元を歪めてそういえば、バルドゥールは荒々しく私の肩を掴んだ。

「アカリ、いい加減にしろ。本気で怒るぞ」
「…………...........................すいませんでした」

 少し考えて、謝罪をした。けれど自分の感情を表すかのように、まるで気持ちの籠っていない声だった。そしてその声音の通り、私はぶっちゃけ悪いとは思っていない。

 無理難題を言って、バルドゥールを困らせたい訳でもない。ただ、ルークの屋敷に行って、リンさんにこの折り紙を渡したい。たったそれだけだ。
 
 もし仮にそれがいけないことなら、きちんと言葉にして欲しい。だってバルドゥールはやり直しを始めてから、ずっとそうしてきてくれたのだから。

 なのに、どうして今日に限って,、こんな一方的に決められてしまうのだろう。

 けれど、バルドゥールは理由もなくこんなことをする人ではない。ということだけは理解している。そしてそれを言わないのは、言えないからなのだろうか。でも、一つ我侭を言って良いのなら、ちゃんと理由を教えて欲しかった。

「…………言われた通り、休みます」

 これはきっと不毛な争いだ。そして私はバルドゥールとこんなことで、ぎくしゃくなんてしたくない。

 でも、気持ちを切り替えるのには、時間が足りなくて、私はそう口にした途端、ぷいっとバルドゥールに背を向けてしまった。そしてそのまま、ベッドに横になろうとすれば、その太い腕は軽々と私を抱き上げる。

 ついさっきの荒々しさなど嘘だったかのように、自分の膝に私を乗せたその人の手はとても優しいものだった。

「…………頼むから、自分を労わってくれ」
「……………………………」

 頷くことが、どうしてもできなかった。 

「あれを渡せば良いのか?」

 バルドゥールは黙ったままの私の頬をひと撫でして、フィーネが両手に抱えている折り紙が入った箱に視線を向けた。

「嫌です」

 それは、箱を取り上げようとしからではない。もっともっとたくさんの【嫌】が含まれていた。

 何も説明してくれないことも、要求を受け入れた途端、手の平を返したかのように優しくすることも、必要以上に重病人扱いするところも。

 つい数日前にあんなに嬉しそうな笑みを浮かべてくれたバルドゥールから、こんな扱いを受けたくなかった。

 それに何より、こんな憎まれ口を叩いてしまう自分も、心配をかけてしまう自分も、嫌だった。

「…………ルークを呼んでください。直接私が渡します」

 震える声でそう言えば、バルドゥールはしぶしぶといった感じで深い溜息と共に頷いた。
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