監禁された私には、時空の監視者の愛情は伝わらない

茂栖 もす

文字の大きさ
21 / 133
◆◇第一幕◇◆ 時空の監視者の愛情は伝わらない 

跛行する私達

しおりを挟む
 バルドゥールがこうと決めたら止められない事は、今までの経験から私は身をもって知っている。それはそれは嫌という程に。

 彼はもう私以上に、私の身体を知り尽くしている。どこをどうすれば、私が快楽に溺れるかということなど、聞かなくてもわかっているはずだ。でも彼の意のままに与えられるこの快感は、拷問以外、当てはまる表現が浮かばない。

 そして膝を割られ、大きく足を開かれ、一気に最奥まで突き上げられると思った。.........でも、違った。

「これが最後通告だ。今すぐ、さっきの言葉を取り消せ。でなければ、今度は泣こうが喚こうが容赦はしない。忘れているかもしれないが、俺は気が長い。お前が取り消さなければ、どんな手を使ってでも、その言葉をお前の口から引きずり出す」

 両手を押さえつけられ、間近に顔が迫る。彼の瞳におびえた顔をする自分が映る。息が触れ合うほど顔を近づけていても、彼はまったく表情が動かない。淡々と私を見下ろすだけ。

「それとも、媚薬を使って、死ぬことすら考えられないようにされたいか?それが嫌なら、お前の足の健を切って、手枷を付けて強制的に死ねないようにされたいか?」

 どれもこれも、最悪な選択だ。

 思いっきり顔を歪めた私に、バルドゥールは溜息を零しながらこう言った。

「………酷い顔だ」

 瞬間、かっと怒りで頬が熱くなる。

 ぎりぎりと歯ぎしりせんばかりに睨みつけた私に、彼は拘束を解いて身を起こした。

「なぁ……俺がお前を無理矢理抱いて、何も思わないとでも思っているのか?」

 だったら何故、私を抱くのだろう。………ああ、そうか。権利を放棄する気はないけれど、我が身は守りたいからこんなことを言うのか。そう思った途端、乾いた笑いが出た。

 こんなぼろ雑巾のような私を抱いて、何が面白いのだろう。でも、説明など受けたくない。加虐趣味の人間の心理なんて知りたくはない。

 そして気付いてしまった。この人は母と同じ人種だということを。

 母は自分が産んだ子供には、何をしても良いと思っていた。子供は、命令を素直に受け入れることが当たり前で、自分の思い通りになると信じて疑わない人だった。

 だから、命令を拒めば火が付いたかのように怒りだし、容赦なく手を挙げた。そして利用価値が無いと知ればゴミのように私を捨てた。

 あ、そうか。なら、バルドゥールだって今は私に執着を見せているけれど、そのうち飽きるだろう。そして私をあっけなく捨てるのだろう。

 その結論に至った途端、更に笑いが込み上げてきた。なんだ。そんなことなら、わざわざ死にたいなど、口にしなくても良かったのだ。

「なにが可笑しい?」

 訝しげに眉を寄せたバルドゥールに、私は小首を傾げてこう言った。

「死にたいなんて、もう言いません」

 ────だって、あなたも近い将来、私を捨てるのだから。………その一文は口にせず、胸に留めた。

 そして急に笑い出し、突然、前言撤回した私に、バルドゥールはどうしてと追及することはなかった。

 そう、やっぱりバルドゥールは母と同じなのだ。

 言われたことを、命令されたことを、ただ機械のように実行すれば、それで良いと思う人なのだ。相手が何を思って、それを口にしたかなんて、これっぽちも考えない人間なのだ。

「二度とそれを口にするな」

 バルドゥールは念を押すように、重い口調でそう言い放つ。それを私は、機械の動作のように、こくりと頷いた。

 それから部屋は静寂に包まれる。パチパチと薪が爆ぜる音だけが部屋に響き、ゆらゆらと暖炉の炎が私達の影を揺らす。

 その影をぼんやりと見つめていたら、バルドゥールは静かに寝ろと言って、ベッドから降りていった。





 瞼に温かさを感じて目を開ければ、部屋には朝日が差し込んでいた。

 結局バルドゥールはあの後、私を抱かなかった。でも、私の身体は鉛のように重たい。少し目を動かすだけで、こめかみから尖った痛みが走る。

 身体を横にして眠っていた私は身体の向きを変えれないまま、見るともなし前方に視線を向ければ、テーブルに着いているバルドゥールがいた。

 彼は小さな箱を開け、思い詰めた表情でじっと中を見つめていた。箱の中身は見えない。けれど、彼をそんな表情にさせるものとは一体何なのだろうか。 

 そしてまた新たな発見があった。

 こうして客観的にバルドゥール見れば彼の表情が何となく読み取れる。でも、まっすぐ見つめられると、どれだけ目を凝らしても月を掴もうとするかのように、宙をさまよってしまう。何故なのだろう………。

 どうでも良い人に持つ疑問など捨て置けば良いのに、ぽんっと湧いて出たそれは何故か私の胸にひっかかり、そのままぐるぐると頭の中で考えてしまう。けれど、その答えが出る前に、バルドゥールがこちらに視線を向けた。

「起きたか」

 その声と同時に、彼が片手で箱を閉じる。そして、コツコツと足音を響かせこちらに向かって来た。 

「帰るぞ」

 何の感情も読み取れない淡々とした口調で彼が言う。そしてベッドから起き上がることすらできない私を担ぎ上げた。

「嫌っ」

 私は一糸まとわぬ姿のまま、バルドゥールの上着を掛けられているだけ。乱暴に抱き上げられれば、はだけた隙間から肌が露わになってしまう。せめて、夜着を着させて欲しい。

 そんな私を見てバルドゥールは一度私をベッドに降ろし、自分の上着を私に肩から羽織らせた。そして金具を止め、今度ははだけないようしっかりと巻き付けた。そして再び担ぎ上げられ、外に出る。

 痛いくらいの朝日の眩しさに、顔を顰める。さわさわと吹く爽やかな風が憎たらしい。

 そんな悪態を付くけれど、私は彼の屋敷に連れ戻されてしまう。いつか捨てられる囚人として。
しおりを挟む
感想 114

あなたにおすすめの小説

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

放蕩な血

イシュタル
恋愛
王の婚約者として、華やかな未来を約束されていたシンシア・エルノワール侯爵令嬢。 だが、婚約破棄、娼館への転落、そして愛妾としての復帰──彼女の人生は、王の陰謀と愛に翻弄され続けた。 冷徹と名高い若き王、クラウド・ヴァルレイン。 その胸に秘められていたのは、ただ1人の女性への執着と、誰にも明かせぬ深い孤独。 「君が僕を“愛してる”と一言くれれば、この世のすべてが手に入る」 過去の罪、失われた記憶、そして命を懸けた選択。 光る蝶が導く真実の先で、ふたりが選んだのは、傷を抱えたまま愛し合う未来だった。 ⚠️この物語はフィクションです。やや強引なシーンがあります。本作はAIの生成した文章を一部使用しています。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

答えられません、国家機密ですから

ととせ
恋愛
フェルディ男爵は「国家機密」を継承する特別な家だ。その後継であるジェシカは、伯爵邸のガゼボで令息セイルと向き合っていた。彼はジェシカを愛してると言うが、本当に欲しているのは「国家機密」であるのは明白。全てに疲れ果てていたジェシカは、一つの決断を彼に迫る。

処理中です...