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◆◇第一幕◇◆ 時空の監視者の愛情は伝わらない
跛行する私達
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バルドゥールがこうと決めたら止められない事は、今までの経験から私は身をもって知っている。それはそれは嫌という程に。
彼はもう私以上に、私の身体を知り尽くしている。どこをどうすれば、私が快楽に溺れるかということなど、聞かなくてもわかっているはずだ。でも彼の意のままに与えられるこの快感は、拷問以外、当てはまる表現が浮かばない。
そして膝を割られ、大きく足を開かれ、一気に最奥まで突き上げられると思った。.........でも、違った。
「これが最後通告だ。今すぐ、さっきの言葉を取り消せ。でなければ、今度は泣こうが喚こうが容赦はしない。忘れているかもしれないが、俺は気が長い。お前が取り消さなければ、どんな手を使ってでも、その言葉をお前の口から引きずり出す」
両手を押さえつけられ、間近に顔が迫る。彼の瞳におびえた顔をする自分が映る。息が触れ合うほど顔を近づけていても、彼はまったく表情が動かない。淡々と私を見下ろすだけ。
「それとも、媚薬を使って、死ぬことすら考えられないようにされたいか?それが嫌なら、お前の足の健を切って、手枷を付けて強制的に死ねないようにされたいか?」
どれもこれも、最悪な選択だ。
思いっきり顔を歪めた私に、バルドゥールは溜息を零しながらこう言った。
「………酷い顔だ」
瞬間、かっと怒りで頬が熱くなる。
ぎりぎりと歯ぎしりせんばかりに睨みつけた私に、彼は拘束を解いて身を起こした。
「なぁ……俺がお前を無理矢理抱いて、何も思わないとでも思っているのか?」
だったら何故、私を抱くのだろう。………ああ、そうか。権利を放棄する気はないけれど、我が身は守りたいからこんなことを言うのか。そう思った途端、乾いた笑いが出た。
こんなぼろ雑巾のような私を抱いて、何が面白いのだろう。でも、説明など受けたくない。加虐趣味の人間の心理なんて知りたくはない。
そして気付いてしまった。この人は母と同じ人種だということを。
母は自分が産んだ子供には、何をしても良いと思っていた。子供は、命令を素直に受け入れることが当たり前で、自分の思い通りになると信じて疑わない人だった。
だから、命令を拒めば火が付いたかのように怒りだし、容赦なく手を挙げた。そして利用価値が無いと知ればゴミのように私を捨てた。
あ、そうか。なら、バルドゥールだって今は私に執着を見せているけれど、そのうち飽きるだろう。そして私をあっけなく捨てるのだろう。
その結論に至った途端、更に笑いが込み上げてきた。なんだ。そんなことなら、わざわざ死にたいなど、口にしなくても良かったのだ。
「なにが可笑しい?」
訝しげに眉を寄せたバルドゥールに、私は小首を傾げてこう言った。
「死にたいなんて、もう言いません」
────だって、あなたも近い将来、私を捨てるのだから。………その一文は口にせず、胸に留めた。
そして急に笑い出し、突然、前言撤回した私に、バルドゥールはどうしてと追及することはなかった。
そう、やっぱりバルドゥールは母と同じなのだ。
言われたことを、命令されたことを、ただ機械のように実行すれば、それで良いと思う人なのだ。相手が何を思って、それを口にしたかなんて、これっぽちも考えない人間なのだ。
「二度とそれを口にするな」
バルドゥールは念を押すように、重い口調でそう言い放つ。それを私は、機械の動作のように、こくりと頷いた。
それから部屋は静寂に包まれる。パチパチと薪が爆ぜる音だけが部屋に響き、ゆらゆらと暖炉の炎が私達の影を揺らす。
その影をぼんやりと見つめていたら、バルドゥールは静かに寝ろと言って、ベッドから降りていった。
瞼に温かさを感じて目を開ければ、部屋には朝日が差し込んでいた。
結局バルドゥールはあの後、私を抱かなかった。でも、私の身体は鉛のように重たい。少し目を動かすだけで、こめかみから尖った痛みが走る。
身体を横にして眠っていた私は身体の向きを変えれないまま、見るともなし前方に視線を向ければ、テーブルに着いているバルドゥールがいた。
彼は小さな箱を開け、思い詰めた表情でじっと中を見つめていた。箱の中身は見えない。けれど、彼をそんな表情にさせるものとは一体何なのだろうか。
そしてまた新たな発見があった。
こうして客観的にバルドゥール見れば彼の表情が何となく読み取れる。でも、まっすぐ見つめられると、どれだけ目を凝らしても月を掴もうとするかのように、宙をさまよってしまう。何故なのだろう………。
どうでも良い人に持つ疑問など捨て置けば良いのに、ぽんっと湧いて出たそれは何故か私の胸にひっかかり、そのままぐるぐると頭の中で考えてしまう。けれど、その答えが出る前に、バルドゥールがこちらに視線を向けた。
「起きたか」
その声と同時に、彼が片手で箱を閉じる。そして、コツコツと足音を響かせこちらに向かって来た。
「帰るぞ」
何の感情も読み取れない淡々とした口調で彼が言う。そしてベッドから起き上がることすらできない私を担ぎ上げた。
「嫌っ」
私は一糸まとわぬ姿のまま、バルドゥールの上着を掛けられているだけ。乱暴に抱き上げられれば、はだけた隙間から肌が露わになってしまう。せめて、夜着を着させて欲しい。
そんな私を見てバルドゥールは一度私をベッドに降ろし、自分の上着を私に肩から羽織らせた。そして金具を止め、今度ははだけないようしっかりと巻き付けた。そして再び担ぎ上げられ、外に出る。
痛いくらいの朝日の眩しさに、顔を顰める。さわさわと吹く爽やかな風が憎たらしい。
そんな悪態を付くけれど、私は彼の屋敷に連れ戻されてしまう。いつか捨てられる囚人として。
彼はもう私以上に、私の身体を知り尽くしている。どこをどうすれば、私が快楽に溺れるかということなど、聞かなくてもわかっているはずだ。でも彼の意のままに与えられるこの快感は、拷問以外、当てはまる表現が浮かばない。
そして膝を割られ、大きく足を開かれ、一気に最奥まで突き上げられると思った。.........でも、違った。
「これが最後通告だ。今すぐ、さっきの言葉を取り消せ。でなければ、今度は泣こうが喚こうが容赦はしない。忘れているかもしれないが、俺は気が長い。お前が取り消さなければ、どんな手を使ってでも、その言葉をお前の口から引きずり出す」
両手を押さえつけられ、間近に顔が迫る。彼の瞳におびえた顔をする自分が映る。息が触れ合うほど顔を近づけていても、彼はまったく表情が動かない。淡々と私を見下ろすだけ。
「それとも、媚薬を使って、死ぬことすら考えられないようにされたいか?それが嫌なら、お前の足の健を切って、手枷を付けて強制的に死ねないようにされたいか?」
どれもこれも、最悪な選択だ。
思いっきり顔を歪めた私に、バルドゥールは溜息を零しながらこう言った。
「………酷い顔だ」
瞬間、かっと怒りで頬が熱くなる。
ぎりぎりと歯ぎしりせんばかりに睨みつけた私に、彼は拘束を解いて身を起こした。
「なぁ……俺がお前を無理矢理抱いて、何も思わないとでも思っているのか?」
だったら何故、私を抱くのだろう。………ああ、そうか。権利を放棄する気はないけれど、我が身は守りたいからこんなことを言うのか。そう思った途端、乾いた笑いが出た。
こんなぼろ雑巾のような私を抱いて、何が面白いのだろう。でも、説明など受けたくない。加虐趣味の人間の心理なんて知りたくはない。
そして気付いてしまった。この人は母と同じ人種だということを。
母は自分が産んだ子供には、何をしても良いと思っていた。子供は、命令を素直に受け入れることが当たり前で、自分の思い通りになると信じて疑わない人だった。
だから、命令を拒めば火が付いたかのように怒りだし、容赦なく手を挙げた。そして利用価値が無いと知ればゴミのように私を捨てた。
あ、そうか。なら、バルドゥールだって今は私に執着を見せているけれど、そのうち飽きるだろう。そして私をあっけなく捨てるのだろう。
その結論に至った途端、更に笑いが込み上げてきた。なんだ。そんなことなら、わざわざ死にたいなど、口にしなくても良かったのだ。
「なにが可笑しい?」
訝しげに眉を寄せたバルドゥールに、私は小首を傾げてこう言った。
「死にたいなんて、もう言いません」
────だって、あなたも近い将来、私を捨てるのだから。………その一文は口にせず、胸に留めた。
そして急に笑い出し、突然、前言撤回した私に、バルドゥールはどうしてと追及することはなかった。
そう、やっぱりバルドゥールは母と同じなのだ。
言われたことを、命令されたことを、ただ機械のように実行すれば、それで良いと思う人なのだ。相手が何を思って、それを口にしたかなんて、これっぽちも考えない人間なのだ。
「二度とそれを口にするな」
バルドゥールは念を押すように、重い口調でそう言い放つ。それを私は、機械の動作のように、こくりと頷いた。
それから部屋は静寂に包まれる。パチパチと薪が爆ぜる音だけが部屋に響き、ゆらゆらと暖炉の炎が私達の影を揺らす。
その影をぼんやりと見つめていたら、バルドゥールは静かに寝ろと言って、ベッドから降りていった。
瞼に温かさを感じて目を開ければ、部屋には朝日が差し込んでいた。
結局バルドゥールはあの後、私を抱かなかった。でも、私の身体は鉛のように重たい。少し目を動かすだけで、こめかみから尖った痛みが走る。
身体を横にして眠っていた私は身体の向きを変えれないまま、見るともなし前方に視線を向ければ、テーブルに着いているバルドゥールがいた。
彼は小さな箱を開け、思い詰めた表情でじっと中を見つめていた。箱の中身は見えない。けれど、彼をそんな表情にさせるものとは一体何なのだろうか。
そしてまた新たな発見があった。
こうして客観的にバルドゥール見れば彼の表情が何となく読み取れる。でも、まっすぐ見つめられると、どれだけ目を凝らしても月を掴もうとするかのように、宙をさまよってしまう。何故なのだろう………。
どうでも良い人に持つ疑問など捨て置けば良いのに、ぽんっと湧いて出たそれは何故か私の胸にひっかかり、そのままぐるぐると頭の中で考えてしまう。けれど、その答えが出る前に、バルドゥールがこちらに視線を向けた。
「起きたか」
その声と同時に、彼が片手で箱を閉じる。そして、コツコツと足音を響かせこちらに向かって来た。
「帰るぞ」
何の感情も読み取れない淡々とした口調で彼が言う。そしてベッドから起き上がることすらできない私を担ぎ上げた。
「嫌っ」
私は一糸まとわぬ姿のまま、バルドゥールの上着を掛けられているだけ。乱暴に抱き上げられれば、はだけた隙間から肌が露わになってしまう。せめて、夜着を着させて欲しい。
そんな私を見てバルドゥールは一度私をベッドに降ろし、自分の上着を私に肩から羽織らせた。そして金具を止め、今度ははだけないようしっかりと巻き付けた。そして再び担ぎ上げられ、外に出る。
痛いくらいの朝日の眩しさに、顔を顰める。さわさわと吹く爽やかな風が憎たらしい。
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