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◆◇第一幕◇◆ 時空の監視者の愛情は伝わらない
本日最後のドッキリ
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私は望む望まないは置いといて、この世界で既に2ヶ月以上過ごしている。
その間いろんなことがあった。色んな事を体験した。そのどれもが最悪なことばかりだったけれど。でも、今日ほど色んなことを知った日はなかった。そしてこんなにも感情が動いた日はなかった。
ルークから貰った短剣を両手で握ってぎゅっと目を瞑る。
この世界に来てからずっとずっと辛かった苦しかった。そしてルークの説明を受けた今でも苦しいことは変わらない。
でもそれは知ってしまったからの苦しみで、知らなかった頃のとはまた別の辛さ。
知らないほうが良かったとは思わない。でも、知ってしまっても何も楽にはならなかった。
楽になる方法なんてわからないけれど、知ってしまった以上、知らなかった状態に戻すことはできないことだけはわかる。
ゆるゆると目を開ければ、ルークはもうここに居なかった。でも少し視線をずらせば、予想通りリンさんの傍にいた。
愛とは呼べない複雑で歪なものを抱えてルークは眠りについたリンさんを見つめている。
でも彼は必要以上にリンさんに触れたりはしない。縋るようなまなざしを送るだけ。そんな二人を夕陽が優しく照らしている。
ルークの栗色の髪が陽を受けて金色へと変わるさまを見て、私は向こうが明るいと思うときは、自分が暗い場所にいるからだと、ふとそんなことを考える。そしてこの暗闇に果てはあるのだろうかとも。
あとどれくらい進めば、果てを感じられることができるのだろうか。長く続く暗闇の先に、光はあるのだろうか。考えるだけでは駄目だ。歩き続けなければ見つけることができない。
でも、歩けばきっと何度も道に躓くのだろう。躓くことを承知で、
自分で動き出さなければ何も始まらないのは、アレに似ている。そう人生だ。もしかして人生というのは、結局そんな風に終わりのない真っ暗闇を歩いていくことなのかもしれない。
とまぁ…………そんな哲学的なことまで考え始めてしまった私は多分、物凄く疲れているのだろう。
「………疲れたよね。そろそろ帰ろうか」
気づかれないように、息を吐いたつもりだったけれど、しっかりルークはそれを拾っていたようだ。
気遣いと、この場を締めくくる言葉を紡ぎながらこちらに向かってくるルークに、私は素直にこくりと頷いた。
そしてルークは私に手を差し伸べながらこう言った。
「結構遅くなっちゃったね。カイナには1時間くらいって言っておいたんだけど、大幅に遅れたなぁ-。バルドゥールが戻っていなきゃいいけど」
「え?」
最後の言葉に私は、一文字を絞り出した後、固まってしまった。
そして疲れ切った頭で、ルークの言葉を何度も反芻する。ついでに耳まで疑ってみたけれど、聞き直すよりは、一歩踏み込んだ質問をしたほうが早いことに気づいて、おずおずと問いかけた。
「…………あの……今日ってあの人の許可を得てるんじゃないんですか?」
「え?違うよ」
「ち、違うって………だって、ルークさん今日は公認外出っていったじゃないですか?」
両手を口で覆って狼狽する私に、ルークはきょとんとしながら口を開いた。
「え?僕、別にバルドゥールの許可をもらったなんて一言もいってないよ。やだなぁ早とちり?────………って、うわぁっそれを振り上げないでっ」
そう言われて、自分が今まさに短剣で、ルークに殴りかかろうとしていることに気づいた。鞘を抜かなかったことに感謝をしてほしい。
それとどうでもいいけれど、このトリガーになったのは、ルークの【早とちり?】って聞いた後の茶目っ気ある笑顔だった。
ルークからしたら和まそうとしただけなのかもしれないけれど、笑顔の使い方が間違っているし、いい感じに私の神経を逆なでしてくれた。
これ見よがしに眉間に皺を刻んで、一旦、振り上げた短剣を膝に下ろす。
けれど、これはあくまで当面の間のこと。今後の発言次第では、バルドゥールに刃を向ける前にルークで試し切りをさせてもらおうと心に誓う。
ということで、私は大げさに胸をなでおろしている目の前の試し切り候補に向かって口を開いた。
「じゃ………誰に、許可を貰ったんですか?」
「カイナだよ」
「…………!?」
ここでまさかの侍女の登場に、声が出せないまま目を見張る。そんな私にルークは膝を付き、私と目線を同じにしてから口を開いた。
「カイナは、君のことをずっと案じていたんだ。だから君が外に出て連れ戻された後、すぐ僕にこっそりお願いをしに来たんだ。リンに会わせてあげてくれって」
「…………………」
「ああ、言っておくけど、リンがこういう状態なのはごく一部の人間しか知らないから。カイナはきっと、同じ異世界同士の人間の口から色々この世界のことを聞いたほうが、君が納得すると判断したんだろうね。ついでに愚痴でも不満でも、同じ女の子同士なら吐き出しやすいって思ったんじゃない?」
「…………………」
無言でいるのは、子供じみた無視をしているからじゃない。本当に本当に驚いてしまったから。
瞬きだけを繰り返す私を見つめるルークは、保護者が子供を見守るような眼差しだった。バルドゥールの屋敷に連れ戻された時に浮かべていたカイナの表情にすごく似ている。
なんていうか今日一日はずっとこれの繰り返しだった。
騙された、嘘をつかれた。そう思っても、斜め上の回答を押し付けられてしまう。こんなの要らないと思っても、突き返すことのできない真実だから受け止めるしかない。
用心に越したことはない。隙を見せてはいけない。簡単に信用してはいけない。
これは今でも思っているけれど、どこまで疑えば良いのか、どこを信じれば良いのかその境界線を引くのがすごく難しい。
でも、それは元の世界でも同じこと。………つまり、倫理観も常識も違うと思っていたけれど、全部が違うわけではない。
その振り分けはとても難しくて、悩みだすと止まらなくて………───気づけば私は、ルークと共に馬車に乗り込んでいた。
その間いろんなことがあった。色んな事を体験した。そのどれもが最悪なことばかりだったけれど。でも、今日ほど色んなことを知った日はなかった。そしてこんなにも感情が動いた日はなかった。
ルークから貰った短剣を両手で握ってぎゅっと目を瞑る。
この世界に来てからずっとずっと辛かった苦しかった。そしてルークの説明を受けた今でも苦しいことは変わらない。
でもそれは知ってしまったからの苦しみで、知らなかった頃のとはまた別の辛さ。
知らないほうが良かったとは思わない。でも、知ってしまっても何も楽にはならなかった。
楽になる方法なんてわからないけれど、知ってしまった以上、知らなかった状態に戻すことはできないことだけはわかる。
ゆるゆると目を開ければ、ルークはもうここに居なかった。でも少し視線をずらせば、予想通りリンさんの傍にいた。
愛とは呼べない複雑で歪なものを抱えてルークは眠りについたリンさんを見つめている。
でも彼は必要以上にリンさんに触れたりはしない。縋るようなまなざしを送るだけ。そんな二人を夕陽が優しく照らしている。
ルークの栗色の髪が陽を受けて金色へと変わるさまを見て、私は向こうが明るいと思うときは、自分が暗い場所にいるからだと、ふとそんなことを考える。そしてこの暗闇に果てはあるのだろうかとも。
あとどれくらい進めば、果てを感じられることができるのだろうか。長く続く暗闇の先に、光はあるのだろうか。考えるだけでは駄目だ。歩き続けなければ見つけることができない。
でも、歩けばきっと何度も道に躓くのだろう。躓くことを承知で、
自分で動き出さなければ何も始まらないのは、アレに似ている。そう人生だ。もしかして人生というのは、結局そんな風に終わりのない真っ暗闇を歩いていくことなのかもしれない。
とまぁ…………そんな哲学的なことまで考え始めてしまった私は多分、物凄く疲れているのだろう。
「………疲れたよね。そろそろ帰ろうか」
気づかれないように、息を吐いたつもりだったけれど、しっかりルークはそれを拾っていたようだ。
気遣いと、この場を締めくくる言葉を紡ぎながらこちらに向かってくるルークに、私は素直にこくりと頷いた。
そしてルークは私に手を差し伸べながらこう言った。
「結構遅くなっちゃったね。カイナには1時間くらいって言っておいたんだけど、大幅に遅れたなぁ-。バルドゥールが戻っていなきゃいいけど」
「え?」
最後の言葉に私は、一文字を絞り出した後、固まってしまった。
そして疲れ切った頭で、ルークの言葉を何度も反芻する。ついでに耳まで疑ってみたけれど、聞き直すよりは、一歩踏み込んだ質問をしたほうが早いことに気づいて、おずおずと問いかけた。
「…………あの……今日ってあの人の許可を得てるんじゃないんですか?」
「え?違うよ」
「ち、違うって………だって、ルークさん今日は公認外出っていったじゃないですか?」
両手を口で覆って狼狽する私に、ルークはきょとんとしながら口を開いた。
「え?僕、別にバルドゥールの許可をもらったなんて一言もいってないよ。やだなぁ早とちり?────………って、うわぁっそれを振り上げないでっ」
そう言われて、自分が今まさに短剣で、ルークに殴りかかろうとしていることに気づいた。鞘を抜かなかったことに感謝をしてほしい。
それとどうでもいいけれど、このトリガーになったのは、ルークの【早とちり?】って聞いた後の茶目っ気ある笑顔だった。
ルークからしたら和まそうとしただけなのかもしれないけれど、笑顔の使い方が間違っているし、いい感じに私の神経を逆なでしてくれた。
これ見よがしに眉間に皺を刻んで、一旦、振り上げた短剣を膝に下ろす。
けれど、これはあくまで当面の間のこと。今後の発言次第では、バルドゥールに刃を向ける前にルークで試し切りをさせてもらおうと心に誓う。
ということで、私は大げさに胸をなでおろしている目の前の試し切り候補に向かって口を開いた。
「じゃ………誰に、許可を貰ったんですか?」
「カイナだよ」
「…………!?」
ここでまさかの侍女の登場に、声が出せないまま目を見張る。そんな私にルークは膝を付き、私と目線を同じにしてから口を開いた。
「カイナは、君のことをずっと案じていたんだ。だから君が外に出て連れ戻された後、すぐ僕にこっそりお願いをしに来たんだ。リンに会わせてあげてくれって」
「…………………」
「ああ、言っておくけど、リンがこういう状態なのはごく一部の人間しか知らないから。カイナはきっと、同じ異世界同士の人間の口から色々この世界のことを聞いたほうが、君が納得すると判断したんだろうね。ついでに愚痴でも不満でも、同じ女の子同士なら吐き出しやすいって思ったんじゃない?」
「…………………」
無言でいるのは、子供じみた無視をしているからじゃない。本当に本当に驚いてしまったから。
瞬きだけを繰り返す私を見つめるルークは、保護者が子供を見守るような眼差しだった。バルドゥールの屋敷に連れ戻された時に浮かべていたカイナの表情にすごく似ている。
なんていうか今日一日はずっとこれの繰り返しだった。
騙された、嘘をつかれた。そう思っても、斜め上の回答を押し付けられてしまう。こんなの要らないと思っても、突き返すことのできない真実だから受け止めるしかない。
用心に越したことはない。隙を見せてはいけない。簡単に信用してはいけない。
これは今でも思っているけれど、どこまで疑えば良いのか、どこを信じれば良いのかその境界線を引くのがすごく難しい。
でも、それは元の世界でも同じこと。………つまり、倫理観も常識も違うと思っていたけれど、全部が違うわけではない。
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