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《番外編※バレンタイン企画》♪この部屋の灯りを落とすようになった理由
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バルドゥールに抱かれる直前、侍女の手によって身体を拭かれ新しい夜着を纏う。それは彼の屋敷に保護されてから続く習慣。けれど最近、もう一つ新しい習慣になろうとしていることがある。それは───………………。
「アカリ、これぐらいで良いか?」
侍女達と入れ替わりに入室したバルドゥールは、部屋に灯されている蝋燭を3つ吹き消した。それによって、部屋はほんの少し暗くなる。でも、まだまだ明るい。
「窓と………あっちの、壁の蝋燭も消して下さい」
そう指で示しながら私が要望を伝えれば、彼は不服そうに口元を歪めた。けれど、無言で言われるがまま、先程と同じように蝋燭を吹き消してくれた。
でも、これ以上は駄目だと金色の瞳が力強く訴えている。…………本音は、あと一つか二つ消して欲しいけれど、これ以上は無理だと判断して小さく頷いた。そうすれば彼は上着を脱ぎながらベッドに腰かけている私の元に来ると、そっと私を横たえた。
「…………暗いな」
バルドゥールは不満を隠すことなく呟きながら、私の夜着のリボンに手を掛けた。でも、彼は部屋の灯りを付けることもしなければ、暗いからと言って自分の衣服を脱がない訳ではない。
それに薄暗くなった部屋でもバルドゥールの朱色の髪は色鮮やかで、金色の瞳は艶めかしく揺らめいている。だから暗いとこぼす程、この部屋の明るさは落ちていない。
そんなことを頭の隅で考えていたら、いつの間にか夜着が脱がされ、首筋に彼の熱い吐息を感じて、私も同じ温度の息を細く吐き出す。
「アカリ」
私の名を紡いだバルドゥールは、それが合図かのように、唇を首筋から下へと這わしていく。
そんな徐々に熱を高めていく仄暗い部屋で抱かれるようになったかと言えば、それはやり直しを始めて3回目の夜の出来事がきっかけだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「あ…………、これ以上は…………やめて」
そんなことを言っても、バルドゥールは私の背に手を回し、執拗に胸の頂きを舌で転がし続ける。そして吐息まじりにやめてと懇願すれば、彼は薄く笑って反対の手を伸ばし、もう片方の胸を優しく揉みしだいていく。
「バルドゥールさん…………んっ、はぁ」
息も絶え絶えに名を呼べば、彼は少し顔を持ち上げて金色の瞳で私をじっと見つめてくる。どことなく嬉しそうに。
でも唇は胸を愛撫したまま、離すことはしない。ただ、胸に当てていた手は、下腹部へと移動して足の付け根へと伸ばされていく。
「だめ………そこは」
「アカリ、逃げるな」
私の秘められた場所は、すでに彼のものを待つかのように潤っている。だからそこに触れられるのが恥ずかしくて身を捩れば、ようやっと胸の頂きから唇を離したバルドゥールから咎められてしまった。でも、言葉とは裏腹に、その声音は甘い熱を孕んでいる。
そして逃げられるわけもなく、彼の太い指がくちゅっという水が滴る音と共に、私の最も熱い部分に沈んでいく。
「はぁっ…………んっ、あ…………んんーっ」
沈みゆく途中で、中の壁を指の腹で擦り付ける様にされれば、与えられる衝撃にのけぞるように体を伸ばして、声にならない声を上げてしまう。
「そうか、ここもか」
揺らめく意識の片隅で、吐息交じりのバルドゥールの声が聞こえれば、更に私の身体は熱を帯びてしまう。そしてこの明るい部屋では身体が朱色に染まり、しっとりと汗ばんでいくのを隠すことができない。
「…………熱いな」
最奥まで彼の指が届いた途端、バルドゥールはそう呟いて、ゆっくりと中を解していく。
いつの間にか私は彼に抱き寄せられていて、肌が密着して互いの温度は同じ熱さになっている。縋るように見上げれば、その瞳は濡れるように煌めいて、視線が絡めば私の興奮を更に高めていく。
バルドゥールを見ちゃだめだ。汗が浮いた褐色の肌も、肌に擦れる朱色の髪も、私を写す金色の瞳も。そう自分に言い聞かせて、きゅっと眼を閉じれば───。
「…………アカリ…………」
余裕などかなぐり捨てたような、剥き出しの感情で名を呼ばれてしまう。まるでこちらを見ろと言わんばかりに。
「バルドゥールさん………だめ…………ああっ、んんっ」
その声に引き寄せられるかのように、うっすらと目を開ければ、バルドゥールの指は激しさを増し、今日もまた私は絶頂を迎えてしまった。
けれど、引き抜かれると思った彼の指は、まだうごめいている。それが指し示すのは、この絶頂は1回では済まないということ。
そしてその予感は現実となり、バルドゥールは2本の指と舌を巧みに操り、私を何度も彼にしか導けない白い世界へと連れて行った。
「バルドゥールさん、も、むり……………です」
与え続ける快感で、はしたない声を上げ続けた私の声は掠れていて、ほとんど声になっていない。でも、バルドゥールはきちんとそれを汲み取り、いつものように彼は素早い動きで私の足の間に移動した。
けれど、その素早い動きの中、私は見てしまったのだ。…………彼のアレを。
しかもチラッとではなく、視界の中央にがっつり収めてしまったのだ。
ちなみに感想はというと、何と言葉にして良いのかわからないけれど、とにかく規格外だった。いや、成人男性のアレを見たのは初めてだ。だから規格なんて知る由もないけれど、でももう、衝撃的なものだった。
どれくらいかと聞かれれば、屈強な体躯のバルドゥールにくっついていても、遜色ない…………というくらいに。
見なければ良かった。なぜ、あんなものを見てしまったのだろう。っていうか、この部屋が明るすぎるのだ。でもそんなことを考えても、後悔先に立たず。
そしてあまりの衝撃に素に戻ってしまった私が取った行動はこれだった。
「ちょっと待った」
肘を付き半身を起こした私は、手のひらでバルドゥールを制してしまった。
「ア、アカリ?」
突然、待てと言われた彼は、困惑したまま私の名を呼ぶ。けれど、彼のものは私の秘部に充てられたまま。このまま強行突破されては困る。本当に、困る。
だから私は、恥も外聞も掻き捨てて、思いっきり叫んでしまった。
「バルドゥールさん、無理ですっ、こんなの…………大きすぎて入りませんっ」
その瞬間、バルドゥールは思いっきり変な顔をした。
無理やり言葉にするならば、『お前、今更何を言っている』が一番近い表現なのだろう。
そしてもし仮に彼が、その言葉を口にしたならば、私はルークと同じような口調で【だよねー】と返すしかない。
と、そんな他事を考えていたら、バルドゥールは私の両肩を掴んで説得を始めてしまった。
「…………アカリ、この状態なら潤滑剤は必要ない。だから───」
「嫌ですっ」
極力感情を抑えたバルドゥールの言葉を遮るように、私はぶんっと音がするぐらい激しく首を横に振った。しかし彼は諦めない。
「お前の負担にならないよう、精一杯優しくするから───」
「無理です」
「…………眼を閉じておけ」
「眼を閉じたところで……もう焼き付いていて離れません」
「何とか忘れる方法はないのか?」
「…………逆に、あれば教えてください」
あの手この手でなんとか私を宥めようとしたバルドゥールだったが、とうとうこんなことを言いだしてしまった。
「なら、もう少し指を増やして解そう」
「はい!?」
思わず素っ頓狂な声を上げた私に、バルドゥールは意地の悪い微笑を浮かべた。
「夜は長いんだ。お前が俺をものを受け入れても不安にならないくらい、今日はこれでゆっくり解していこう」
これと言いながら、私の太ももに指を這わす。けれど、私は今までに無いほど素早い動きで、ベッドの上に正座をした。そして、そのままの流れで枕をお腹に抱える。
「…………そういう問題じゃないんです」
じゃあどういう問題か、など聞かないで欲しい。私だって答えられない。ただとにかく、あの残像が脳裏から消えない限り続行は不可能だ。
そしてこれ以上説得しても無理だという意思を込めて、ぷいと横を向けば、すぐ横で深い溜息が聞こえてきた。次いでギシッとスプリングが揺れ、衣擦れの音が聞こえてきた。
横を向いている私は見えないけれど、きっとバルドゥールはベッドから降りて、服を着ているのだろう。
やってしまった。
彼にとったらこれは恋慕の情交ではなく別のもの。思わず子供みたいな我儘を言ってしまった私に、気を悪くしてしまったのだろうか。そんなことを考えていたら、部屋の灯りが落とされ、仄暗くなる。ああ、きっとバルドゥールはこのまま部屋を出て行くのだろう。
今すぐ彼を引き留めるべきだ。でもやっぱり、どうぞして下さい、などと恥ずかしくて言えないし、だからと言って、とっておきの解決案など思いつく訳もなく…………肩を落として項垂れるしかなかった。
そんな中、再びスプリングが軋み、彼が私の元に戻ってきたのを気配で感じた。
「アカリ、こっちを向け」
「………………ごめんなさい、今はちょっ───………ひゃっ」
そう言われても気まずさで、どんな顔を向ければ良いのかわからず、更に俯いてしまった私の耳にバルドゥールは、ふっと息を吹きかけた。
不意をつかれた私は、くすぐったさを超えた悪寒がぞわりと這い上がり私は悲鳴をあげながら仰け反ってしまう。そしてその隙を彼が見逃すはずはなく────
「これが入っていると思え」
と言って、私の口の中に固形物を放り込んだのだ。それは、ほろ苦くでも蕩けるように甘い菓子。元の世界のチョコレートによく似たものだった。
「え?───…………ぅんっ、んんっー」
吐き出すわけにもいかず、そのまま口の中で転がした瞬間、あっという間に組み敷かれ、バルドゥールの熱く太いものが私の中へとゆっくり割って入る。
でも、未だに脳裏にちらつく残像と、彼を受け入れている現実が入り混じり、無意識に身体が強張ってしまう。そんな私に彼は優しい口調で問いかける。
「………痛いか?」
バルドゥールの問いに菓子を口に含んだまま、小さく首を横に振る。そうすれば、彼は一つ頷いた後、再び私に問うた。
「怖いか?」
これには即座に頷いてしまった。けれどすぐ後悔してしまう。ここまで来て往生際が悪いと呆れられてしまうのか。いや、もう彼を受け入れた以上、待ったなしで強引にことを続けるのだろう。───でも私の予想は外れた。
「…………なら、アカリが怖くなくなるまで、このまま待つとしよう」
そう言ってバルドゥールは目を細め、私に優しい口付けをした。そして微かに開いた唇から、彼の舌が差し入れられ、私の咥内では、絡み合う舌の熱で甘い菓子が溶けていく。
「甘いな」
一度唇を離し、バルドゥールはそう囁いた。そうすれば、同じ甘さを共感していることに気付き、恥ずかしさを通り越して、くにゃりと身体の力が抜けていく。
それからバルドゥールは普段よりも優しく私の中で動き始めた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その後、バルドゥールが私を抱くときは、部屋の灯りは、ずっと薄暗いまま。あの日の恥ずかしさを思い出せば、今でもうわっぁっと声にならない悲鳴を上げてしまうけれど、でも、明るいまま抱かれるよりはずっと、今のほうが良い。と、言う訳で、あれは怪我の功名だったのだ。…………そう、思い込もう。
と、何度も絶頂を迎えながら、昔という程は古い記憶ではない、ちょっと前の出来事を思い出していた。けれど───。
「アカリ、何を思い出している?」
私の身体の中心にいきり立つものを充てがったまま、バルドゥールは突然私に問うてきた。
「なっ、何も思い出していませ───あっ」
慌てて答えれば、バルドゥールはくすりと笑いながら、私の言葉を遮るように、一気に腰を進めてきた。でも、力任せではなく、ゆっくりと。
そして彼のものを全て受け入れれば、バルドゥールは私に覆い被さりながら、耳元に唇を寄せた。
「また、あの菓子を食べたくなったのか?」
「!?」
耳元でそんなことを囁かれ、私はあの日のことを鮮明に思い出してしまい、きゅっと体に力が入る。
そうすれば、バルドゥールは、くっと苦悶の表情を浮かべてしまった。
「不意打ちだったな」
「え?何が────………んっ、はぁ」
少し悔しそうに呟いた後、危なかったとも小声で紡ぐ。全くもって意味が分からない。そして素直に疑問を口にしようとした私を、バルドゥールは深い口付けで遮ってしまった。
そんな彼は口付けを交わしたまま、私の最奥を抉るように動き始める。くちゅくちゅと水の滴る音と共に。
仄暗い部屋のせいで、少し暗い朱色の髪。でも、瞳の色は変わらず金色。そして、注がれる眼差しはどこまでも優しいもの。
ついさっきあんな意地の悪いことを言われたはずなのに、その笑みに甘さを感じてしまうのは、あの日の菓子の味を思い出したからなのだろうか。
そんなことを考えながら、今日もまた彼の熱いもので突かれ、私は快楽の先へと導びかれていく。
「アカリ、これぐらいで良いか?」
侍女達と入れ替わりに入室したバルドゥールは、部屋に灯されている蝋燭を3つ吹き消した。それによって、部屋はほんの少し暗くなる。でも、まだまだ明るい。
「窓と………あっちの、壁の蝋燭も消して下さい」
そう指で示しながら私が要望を伝えれば、彼は不服そうに口元を歪めた。けれど、無言で言われるがまま、先程と同じように蝋燭を吹き消してくれた。
でも、これ以上は駄目だと金色の瞳が力強く訴えている。…………本音は、あと一つか二つ消して欲しいけれど、これ以上は無理だと判断して小さく頷いた。そうすれば彼は上着を脱ぎながらベッドに腰かけている私の元に来ると、そっと私を横たえた。
「…………暗いな」
バルドゥールは不満を隠すことなく呟きながら、私の夜着のリボンに手を掛けた。でも、彼は部屋の灯りを付けることもしなければ、暗いからと言って自分の衣服を脱がない訳ではない。
それに薄暗くなった部屋でもバルドゥールの朱色の髪は色鮮やかで、金色の瞳は艶めかしく揺らめいている。だから暗いとこぼす程、この部屋の明るさは落ちていない。
そんなことを頭の隅で考えていたら、いつの間にか夜着が脱がされ、首筋に彼の熱い吐息を感じて、私も同じ温度の息を細く吐き出す。
「アカリ」
私の名を紡いだバルドゥールは、それが合図かのように、唇を首筋から下へと這わしていく。
そんな徐々に熱を高めていく仄暗い部屋で抱かれるようになったかと言えば、それはやり直しを始めて3回目の夜の出来事がきっかけだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「あ…………、これ以上は…………やめて」
そんなことを言っても、バルドゥールは私の背に手を回し、執拗に胸の頂きを舌で転がし続ける。そして吐息まじりにやめてと懇願すれば、彼は薄く笑って反対の手を伸ばし、もう片方の胸を優しく揉みしだいていく。
「バルドゥールさん…………んっ、はぁ」
息も絶え絶えに名を呼べば、彼は少し顔を持ち上げて金色の瞳で私をじっと見つめてくる。どことなく嬉しそうに。
でも唇は胸を愛撫したまま、離すことはしない。ただ、胸に当てていた手は、下腹部へと移動して足の付け根へと伸ばされていく。
「だめ………そこは」
「アカリ、逃げるな」
私の秘められた場所は、すでに彼のものを待つかのように潤っている。だからそこに触れられるのが恥ずかしくて身を捩れば、ようやっと胸の頂きから唇を離したバルドゥールから咎められてしまった。でも、言葉とは裏腹に、その声音は甘い熱を孕んでいる。
そして逃げられるわけもなく、彼の太い指がくちゅっという水が滴る音と共に、私の最も熱い部分に沈んでいく。
「はぁっ…………んっ、あ…………んんーっ」
沈みゆく途中で、中の壁を指の腹で擦り付ける様にされれば、与えられる衝撃にのけぞるように体を伸ばして、声にならない声を上げてしまう。
「そうか、ここもか」
揺らめく意識の片隅で、吐息交じりのバルドゥールの声が聞こえれば、更に私の身体は熱を帯びてしまう。そしてこの明るい部屋では身体が朱色に染まり、しっとりと汗ばんでいくのを隠すことができない。
「…………熱いな」
最奥まで彼の指が届いた途端、バルドゥールはそう呟いて、ゆっくりと中を解していく。
いつの間にか私は彼に抱き寄せられていて、肌が密着して互いの温度は同じ熱さになっている。縋るように見上げれば、その瞳は濡れるように煌めいて、視線が絡めば私の興奮を更に高めていく。
バルドゥールを見ちゃだめだ。汗が浮いた褐色の肌も、肌に擦れる朱色の髪も、私を写す金色の瞳も。そう自分に言い聞かせて、きゅっと眼を閉じれば───。
「…………アカリ…………」
余裕などかなぐり捨てたような、剥き出しの感情で名を呼ばれてしまう。まるでこちらを見ろと言わんばかりに。
「バルドゥールさん………だめ…………ああっ、んんっ」
その声に引き寄せられるかのように、うっすらと目を開ければ、バルドゥールの指は激しさを増し、今日もまた私は絶頂を迎えてしまった。
けれど、引き抜かれると思った彼の指は、まだうごめいている。それが指し示すのは、この絶頂は1回では済まないということ。
そしてその予感は現実となり、バルドゥールは2本の指と舌を巧みに操り、私を何度も彼にしか導けない白い世界へと連れて行った。
「バルドゥールさん、も、むり……………です」
与え続ける快感で、はしたない声を上げ続けた私の声は掠れていて、ほとんど声になっていない。でも、バルドゥールはきちんとそれを汲み取り、いつものように彼は素早い動きで私の足の間に移動した。
けれど、その素早い動きの中、私は見てしまったのだ。…………彼のアレを。
しかもチラッとではなく、視界の中央にがっつり収めてしまったのだ。
ちなみに感想はというと、何と言葉にして良いのかわからないけれど、とにかく規格外だった。いや、成人男性のアレを見たのは初めてだ。だから規格なんて知る由もないけれど、でももう、衝撃的なものだった。
どれくらいかと聞かれれば、屈強な体躯のバルドゥールにくっついていても、遜色ない…………というくらいに。
見なければ良かった。なぜ、あんなものを見てしまったのだろう。っていうか、この部屋が明るすぎるのだ。でもそんなことを考えても、後悔先に立たず。
そしてあまりの衝撃に素に戻ってしまった私が取った行動はこれだった。
「ちょっと待った」
肘を付き半身を起こした私は、手のひらでバルドゥールを制してしまった。
「ア、アカリ?」
突然、待てと言われた彼は、困惑したまま私の名を呼ぶ。けれど、彼のものは私の秘部に充てられたまま。このまま強行突破されては困る。本当に、困る。
だから私は、恥も外聞も掻き捨てて、思いっきり叫んでしまった。
「バルドゥールさん、無理ですっ、こんなの…………大きすぎて入りませんっ」
その瞬間、バルドゥールは思いっきり変な顔をした。
無理やり言葉にするならば、『お前、今更何を言っている』が一番近い表現なのだろう。
そしてもし仮に彼が、その言葉を口にしたならば、私はルークと同じような口調で【だよねー】と返すしかない。
と、そんな他事を考えていたら、バルドゥールは私の両肩を掴んで説得を始めてしまった。
「…………アカリ、この状態なら潤滑剤は必要ない。だから───」
「嫌ですっ」
極力感情を抑えたバルドゥールの言葉を遮るように、私はぶんっと音がするぐらい激しく首を横に振った。しかし彼は諦めない。
「お前の負担にならないよう、精一杯優しくするから───」
「無理です」
「…………眼を閉じておけ」
「眼を閉じたところで……もう焼き付いていて離れません」
「何とか忘れる方法はないのか?」
「…………逆に、あれば教えてください」
あの手この手でなんとか私を宥めようとしたバルドゥールだったが、とうとうこんなことを言いだしてしまった。
「なら、もう少し指を増やして解そう」
「はい!?」
思わず素っ頓狂な声を上げた私に、バルドゥールは意地の悪い微笑を浮かべた。
「夜は長いんだ。お前が俺をものを受け入れても不安にならないくらい、今日はこれでゆっくり解していこう」
これと言いながら、私の太ももに指を這わす。けれど、私は今までに無いほど素早い動きで、ベッドの上に正座をした。そして、そのままの流れで枕をお腹に抱える。
「…………そういう問題じゃないんです」
じゃあどういう問題か、など聞かないで欲しい。私だって答えられない。ただとにかく、あの残像が脳裏から消えない限り続行は不可能だ。
そしてこれ以上説得しても無理だという意思を込めて、ぷいと横を向けば、すぐ横で深い溜息が聞こえてきた。次いでギシッとスプリングが揺れ、衣擦れの音が聞こえてきた。
横を向いている私は見えないけれど、きっとバルドゥールはベッドから降りて、服を着ているのだろう。
やってしまった。
彼にとったらこれは恋慕の情交ではなく別のもの。思わず子供みたいな我儘を言ってしまった私に、気を悪くしてしまったのだろうか。そんなことを考えていたら、部屋の灯りが落とされ、仄暗くなる。ああ、きっとバルドゥールはこのまま部屋を出て行くのだろう。
今すぐ彼を引き留めるべきだ。でもやっぱり、どうぞして下さい、などと恥ずかしくて言えないし、だからと言って、とっておきの解決案など思いつく訳もなく…………肩を落として項垂れるしかなかった。
そんな中、再びスプリングが軋み、彼が私の元に戻ってきたのを気配で感じた。
「アカリ、こっちを向け」
「………………ごめんなさい、今はちょっ───………ひゃっ」
そう言われても気まずさで、どんな顔を向ければ良いのかわからず、更に俯いてしまった私の耳にバルドゥールは、ふっと息を吹きかけた。
不意をつかれた私は、くすぐったさを超えた悪寒がぞわりと這い上がり私は悲鳴をあげながら仰け反ってしまう。そしてその隙を彼が見逃すはずはなく────
「これが入っていると思え」
と言って、私の口の中に固形物を放り込んだのだ。それは、ほろ苦くでも蕩けるように甘い菓子。元の世界のチョコレートによく似たものだった。
「え?───…………ぅんっ、んんっー」
吐き出すわけにもいかず、そのまま口の中で転がした瞬間、あっという間に組み敷かれ、バルドゥールの熱く太いものが私の中へとゆっくり割って入る。
でも、未だに脳裏にちらつく残像と、彼を受け入れている現実が入り混じり、無意識に身体が強張ってしまう。そんな私に彼は優しい口調で問いかける。
「………痛いか?」
バルドゥールの問いに菓子を口に含んだまま、小さく首を横に振る。そうすれば、彼は一つ頷いた後、再び私に問うた。
「怖いか?」
これには即座に頷いてしまった。けれどすぐ後悔してしまう。ここまで来て往生際が悪いと呆れられてしまうのか。いや、もう彼を受け入れた以上、待ったなしで強引にことを続けるのだろう。───でも私の予想は外れた。
「…………なら、アカリが怖くなくなるまで、このまま待つとしよう」
そう言ってバルドゥールは目を細め、私に優しい口付けをした。そして微かに開いた唇から、彼の舌が差し入れられ、私の咥内では、絡み合う舌の熱で甘い菓子が溶けていく。
「甘いな」
一度唇を離し、バルドゥールはそう囁いた。そうすれば、同じ甘さを共感していることに気付き、恥ずかしさを通り越して、くにゃりと身体の力が抜けていく。
それからバルドゥールは普段よりも優しく私の中で動き始めた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その後、バルドゥールが私を抱くときは、部屋の灯りは、ずっと薄暗いまま。あの日の恥ずかしさを思い出せば、今でもうわっぁっと声にならない悲鳴を上げてしまうけれど、でも、明るいまま抱かれるよりはずっと、今のほうが良い。と、言う訳で、あれは怪我の功名だったのだ。…………そう、思い込もう。
と、何度も絶頂を迎えながら、昔という程は古い記憶ではない、ちょっと前の出来事を思い出していた。けれど───。
「アカリ、何を思い出している?」
私の身体の中心にいきり立つものを充てがったまま、バルドゥールは突然私に問うてきた。
「なっ、何も思い出していませ───あっ」
慌てて答えれば、バルドゥールはくすりと笑いながら、私の言葉を遮るように、一気に腰を進めてきた。でも、力任せではなく、ゆっくりと。
そして彼のものを全て受け入れれば、バルドゥールは私に覆い被さりながら、耳元に唇を寄せた。
「また、あの菓子を食べたくなったのか?」
「!?」
耳元でそんなことを囁かれ、私はあの日のことを鮮明に思い出してしまい、きゅっと体に力が入る。
そうすれば、バルドゥールは、くっと苦悶の表情を浮かべてしまった。
「不意打ちだったな」
「え?何が────………んっ、はぁ」
少し悔しそうに呟いた後、危なかったとも小声で紡ぐ。全くもって意味が分からない。そして素直に疑問を口にしようとした私を、バルドゥールは深い口付けで遮ってしまった。
そんな彼は口付けを交わしたまま、私の最奥を抉るように動き始める。くちゅくちゅと水の滴る音と共に。
仄暗い部屋のせいで、少し暗い朱色の髪。でも、瞳の色は変わらず金色。そして、注がれる眼差しはどこまでも優しいもの。
ついさっきあんな意地の悪いことを言われたはずなのに、その笑みに甘さを感じてしまうのは、あの日の菓子の味を思い出したからなのだろうか。
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