監禁された私には、時空の監視者の愛情は伝わらない

茂栖 もす

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◆◇第一幕◇◆ 時空の監視者の愛情は伝わらない 

♪あなたへの贈り物③

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 バルドゥールからの優しい口付けは、次第に激しいものへと変わっていった。

「あっ…………はぁ、んんっ…………はぁ」

 僅かな唇の隙間からバルドゥールの舌が滑り込めば、更に激しさが増す。舌を絡めとられ、吸われ、意識の全てをそこに向けられる。

 そんな中、不意にアシュレイさんの言葉を思い出してしまった。

【ははっ。ま、次に抱かれる時に、わかるさ。アイツは口で言うより、身体で訴えるタイプだからな】

 あの時のアシュレイさんは、中世的な容姿からは想像もできないくらい、魅惑的な大人の女性の表情だった。そして、彼女がそんな表情をしたのは、今日のこの触れ合いを予測していたからなのだろうか。いや、あの時の口ぶりは、多分とか、おそらくといった、曖昧な形容詞ではなく、断言に近いものだった。

 でも、こんなに意地悪な事ばかり言うバルドゥールは、私に何を訴えたいのだろうか。

 海を一緒に見た時の、不意打ちのような口づけは、頑張れと言ってくれたものだと今でも自分に言い聞かせている。でも、直接彼に本当の気持ちを確認した訳ではない。

 だから、わからない。............バルドゥールの気持ちが全然わからない。

「………………アカリ。もう、駄目だ。待てない」

 触れ合う肌が離れたと思ったら、バルドゥールは私を軽々と抱き上げた。そして、ベッドの中央に私を横たえる。次いで、膝裏に手を入れられたと思ったら、バルドゥールが私の脚を大きく開いた。

 私の最も熱い部分に当てられたのは、バルドゥールのいきり立つもの。そして彼は角度を確かめるように上下に擦り付けたと思ったら、一気に私の中へとそれを押し入れた。

 硬くて太いものが侵入すれば、押し出されるように私の中で潤っているものが溢れて、太腿を濡らしていく。くちゅりと、まるで熟れた果実を潰したかのように。

「あっ、んっ…………いや………んっ」

 バルドゥールのそれで貫かれると、電気が走ったかのような快感が体中に駆け巡る。けれど、あられもない声を上げるのがどうしても恥ずかしい。

 だから、これ以上声を聴かれたくなくて、口元を手で押さえようとすれば、それを察したバルドゥールに両手を掴まれてしまう。

「以前も言ったはずだ。声を上げるのは恥ずかしいことではないと」

 その口調は少し尖ったものだった。そこで私は、はっと気づいた。前回抱かれた時の、あのぎこちなさを。

 そっか、私はその後の経緯で既に過去の事にすることができたけれど、バルドゥールとったら、まだこれは心に不安を覚えることだったのだ。

「違うの………違うんです、バルドゥールさん。この前とは…………」

 私を満たす彼の刺激が強すぎて、上手く言葉にできない。けれど、バルドゥールはこの拙い説明だけで、わかってくれたようで、ゆっくりと頷いてくれた。次いで掴んでいた手を離して、私をその胸に抱え込む。そして私の背に手を回して、繋がったまま身体を起こした。

 それは以前、私が自殺未遂をしでかした後、彼がめちゃくちゃに私を抱いた時と同じ体位だった。

「バルドゥールさん………これは………やめてください」

 熱く火照った身体が、急に冷めていくのを感じた。

 あの時、密接したバルドゥールの身体から服越しに熱が伝わって、私は血の通った人間に犯されていることを実感したのだ。そして、これは夢でもおとぎ話の世界のことでもなく、現実なんだと実感したのだ。

 そして思い出すのは、力任せに突き上げられた鈍痛と、支配者の笑みを浮かべるかつてのバルドゥールの姿。

「大丈夫だ。手荒なことはしない」

 私の気持ちを察したバルドゥールは、同じ声で、でもあの時とは違う、遥かに優しい声音でそう言って、私の額に口付けをする。

 そして突き上げる彼のものは、あの日と同じように硬く熱いもの。けれど、突き上げる強さは、甘い痺れをもたらすもの。

「あぁんっ…………はぁ………んっ」

 今までとは違う角度でバルドゥールのものを受け入れれば、その刺激は言葉にできない程で、気付けば私は縋るようにバルドゥールの太い首に腕を絡ませていた。

 そうすれば荒い息を吐き出しながら、バルドゥールはこんな事を口にした。

「そうだ。そうやって、俺を求めてくれ」

 彼がうわ言のように呟いたその言葉に耳を疑った。

 今までこうして抱き合っている最中、バルドゥールは一度だって言葉にして自分の望みを口にしたことはなかったから。そして、今日の行為が何から何までいつもと違うのは───やっぱり、これしかない。

「バルドゥールさん…………今日まで、長かった…………ですか?」

 回した腕を解いて、彼を見上げてそう問えば、たまらないといった感じでバルドゥールは強く私を抱きしめた。

「ああ、長かった………堪えようもないぐらい、長かった」

 言いよどむことなくそう口にしたバルドゥールを見て、私はまた彼の事を一つ知った。

 バルドゥールは自身の気持ちを問えば、素直に返してくれるということを。

 なら、もう一歩踏み込んで聞いてみようか。『私の事、どう思っているのか』と。

 でも、その考えはすぐに打ち消した。相手の気持ちを確認してから、自分の気持ちを決めるのは間違っている。それは卑怯なやり方だし、そこで出した答えはきっと本当の答えなんかじゃないだろう。
 
 だからその質問は、口にしない。きっと、多分ずっと。

 そんなことを考えながら、じっとバルドゥールを見つめていたら………………。

「アカリ、やめてくれ」

 そう言って、バルドゥールは私から顔を背けてしまった。その急な変貌に不安に駆られた私に、彼は呻くようにこう言った。

「そんな目で、俺を見つめないでくれ」
 
 そんな目とはどんな目なのかわからないけれど、そう言われた私は少々腑に落ちない。

 だって、ついさっき、見ないでと懇願した私を無視してあれだけのことをしたのに、自分は駄目だという。それはちょっとズルいと思う。

 だから私はちょっとした意趣返しというか、いたずら心で、少し視界の上にある形の良いバルドゥールの耳に、ふっと息を吹きかた。そうすれば、バルドゥールは苦しそうに、うっと呻いた。けれど───。

「アカリ、良い度胸をしているな」

 弾かれたようにバルドゥールはこちらを向いた。そして潤んだ金色の瞳に射抜かれて、私は自ら墓穴を掘ったことに気付いてしまった。
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