不思議なショートストーリーたち

フジーニー

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強制オークション

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時は西暦3488年
今より1000年以上も未来の話だ。

街の闇の奥深く、誰も表向きには知らない秘密のイベントがあった。

その名は「強制オークション」。

参加資格は、招待状を持っている者だけ。招待状は、暗号化されたメッセージや、匿名の手紙で届く。会場は毎回変わる──廃工場、地下駐車場、閉鎖された劇場。参加者は全員、仮面やフードで顔を隠す。

ルールは残酷で、絶対だ。

出品者は自分の「何か」を売りに出す。  
それは臓器、時間、記憶、感情、自由、将来の可能性──何でも構わない。  
一度落札されたら、契約は強制執行される。逃げられない。取り消せない。

司会はいつも同じ人物。黒いスーツに白い仮面。声はボイスチェンジャーで加工され、性別も年齢もわからない。

「それでは、本日のオークションを始めます」

#### 第一のロット──「人生の残り十年」

出品者は佐々木、三十五歳。元会社員。

会社の不正に巻き込まれ、数億円の借金を背負った。妻と子は家を出て行き、友人は連絡を絶った。自殺すら考えたが、それすらできなかった。

佐々木が出品したのは「自分の人生の残り十年」。

「落札者は、この男の十年間を完全に支配できます。労働力、遊び相手、実験台、何なりとお使いください」

スタート価格、一億円。

会場がざわめいた。

「一億二千万」  
「一億八千万」  
「三億」  
「五億」

数字が跳ね上がるたび、佐々木の肩が震えた。

最終的に落札したのは、後列の赤いドレスの女性。七億円。

彼女は立ち上がり、佐々木に近づいた。

「あなたは、私のものよ」

それから佐々木の十年は始まった。

女性の豪邸で使用人として働かされた。朝五時起床、庭の手入れ、料理、洗濯、運転。拒否は許されない。首輪のようなGPS付きの腕時計を付けられ、逃げようものなら即座に追跡される。

最初は絶望だった。

「床をもう一度拭き直しなさい。埃が残ってる」  
「夕食のステーキ、焼き加減が悪いわ」

佐々木は歯を食いしばった。

だが、数ヶ月経つと気づいた。

女性は佐々木を虐待しない。暴力はない。食事は栄養バランスが取れている。病気になれば病院に連れて行かれる。

ある夜、庭で星を見ていた佐々木に、女性が声をかけた。

「昔、私の兄があなたと同じ目に遭ったの。借金で追い詰められて、自ら命を絶った。私には何もできなかった」

女性は静かに続けた。

「だからあなたを買った。借金から守るために。七年働いてもらって、残り三年で自由にしてあげる」

七年後、佐々木は全ての借金を肩代わりされ、十億円の贈与とともに解放された。

今、彼は小さな町でカフェを開いている。時々、夜空を見上げてあのオークションを思い出す。

#### 第二のロット──「初恋の記憶」

出品者は二十八歳の女性、青山伊織。

恋人に裏切られ、詐欺に遭い、全財産を失った。心が空っぽになったとき、招待状が届いた。

彼女が出品したのは「初恋の記憶」。

「落札者は、この女性の人生で最も純粋で美しい初恋の記憶を、完全に自分のものにできます。彼女はその記憶を失い、二度と思い出せなくなります」

スタート価格、五千万円。

会場は静まり返った。記憶の売買は珍しい。

「六千万」  
「八千万」  
「一億二千万」

落札したのは、六十歳近い男性。眼鏡をかけた穏やかな顔。

伊織は震えながら契約書にサインした。

翌日、記憶が抜き取られた。

彼女はもう、高校時代に付き合っていた少年の顔も、名前も、手を繋いだ感触も、初めてのキスの味も、何も思い出せなくなった。胸にぽっかりと穴が空いたような感覚だけが残った。

男性は、伊織に連絡してきた。

「君の記憶を、僕の妻にプレゼントしたよ」

男性の妻はアルツハイマーで、若い頃の記憶を全て失っていた。

「妻が、君の初恋を自分のものとして語り始めた。笑顔で『あの頃の彼が優しかった』って。ありがとう」

伊織は泣いた。でも、どこか温かい涙だった。

彼女は失った穴を埋めるように、新しい恋を見つけた。記憶はなくても、心はまた恋できることを知った。

#### 第三のロット──「五年間の声」

出品者は二十二歳の歌手志望の青年、加藤悠人。

強い精神的ストレスから歌えなくなった。夢を失い、借金だけが残った。

彼が出品したのは「五年間の声」。

「落札者は、この青年の声を五年間独占できます。彼は五年間、一言も発せなくなります。落札者はその声で歌わせるも、命令するも自由」

スタート価格、三千万円。

すぐに競りが始まった。

音楽プロデューサー、声優事務所、富豪のコレクター。

最終的に落札したのは、無名のインディーズミュージシャンの女性。二億円。

彼女は悠人に言った。

「あなたの声で、私の曲を歌ってほしい」

五年間、悠人は自分の意思では声を出せなくなった。代わりに、女性のスタジオで、彼女の曲を完璧に歌った。彼のストレスは軽減されは奇跡的に回復していた。

女性の曲は大ヒットした。悠人の声が認められ、世の中が彼を探した。

五年後、契約が終わった。

悠人の声が戻った日、女性は全ての権利を彼に譲った。

「あなたはもう、私の声じゃない。自分の声で歌って」

今、悠人はトップアーティストだ。デビュー曲は、あの女性が作った曲のリメイク。

ライブで彼はいつも言う。

「この声は、誰かに救われた声です」

#### 第四のロット──「明日の一日」

出品者は四十歳のサラリーマン、田村。

末期癌で余命三ヶ月。家族に迷惑をかけたくない一心で出品したのは「明日の一日」

「落札者は、この男の明日の二十四時間を完全に支配できます。彼の体を借りて、何でも体験できます」

スタート価格、わずか百万円。

しかし、競りは激しかった。

「三百万円」  
「一千万円」  
「三千万円」

落札したのは、車椅子生活の少女。十五歳。

彼女は田村に言った。

「明日、私と一緒に遊んでください」

翌日、田村の体を借りた少女は、走った。海で泳いだ。遊園地でジェットコースターに乗った。アイスクリームを食べ過ぎてお腹を壊した。

夜、少女は田村に返した。

「ありがとう。おじさんの一日、最高だった」

田村は泣いた。

それから、彼は残りの日々を家族と過ごした。少女からもらった「生きている実感」を胸に。

強制オークションは、今もどこかで続いている。

出品されるものは、絶望と希望の境目。

落札されるものは、時に救い。

時に新たな始まり。

誰もが知っている。

一度入ったら、出られない。

でも、たまに──そこから新しい人生が生まれることもある。
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