13 / 16
強制オークション
しおりを挟む時は西暦3488年
今より1000年以上も未来の話だ。
街の闇の奥深く、誰も表向きには知らない秘密のイベントがあった。
その名は「強制オークション」。
参加資格は、招待状を持っている者だけ。招待状は、暗号化されたメッセージや、匿名の手紙で届く。会場は毎回変わる──廃工場、地下駐車場、閉鎖された劇場。参加者は全員、仮面やフードで顔を隠す。
ルールは残酷で、絶対だ。
出品者は自分の「何か」を売りに出す。
それは臓器、時間、記憶、感情、自由、将来の可能性──何でも構わない。
一度落札されたら、契約は強制執行される。逃げられない。取り消せない。
司会はいつも同じ人物。黒いスーツに白い仮面。声はボイスチェンジャーで加工され、性別も年齢もわからない。
「それでは、本日のオークションを始めます」
#### 第一のロット──「人生の残り十年」
出品者は佐々木、三十五歳。元会社員。
会社の不正に巻き込まれ、数億円の借金を背負った。妻と子は家を出て行き、友人は連絡を絶った。自殺すら考えたが、それすらできなかった。
佐々木が出品したのは「自分の人生の残り十年」。
「落札者は、この男の十年間を完全に支配できます。労働力、遊び相手、実験台、何なりとお使いください」
スタート価格、一億円。
会場がざわめいた。
「一億二千万」
「一億八千万」
「三億」
「五億」
数字が跳ね上がるたび、佐々木の肩が震えた。
最終的に落札したのは、後列の赤いドレスの女性。七億円。
彼女は立ち上がり、佐々木に近づいた。
「あなたは、私のものよ」
それから佐々木の十年は始まった。
女性の豪邸で使用人として働かされた。朝五時起床、庭の手入れ、料理、洗濯、運転。拒否は許されない。首輪のようなGPS付きの腕時計を付けられ、逃げようものなら即座に追跡される。
最初は絶望だった。
「床をもう一度拭き直しなさい。埃が残ってる」
「夕食のステーキ、焼き加減が悪いわ」
佐々木は歯を食いしばった。
だが、数ヶ月経つと気づいた。
女性は佐々木を虐待しない。暴力はない。食事は栄養バランスが取れている。病気になれば病院に連れて行かれる。
ある夜、庭で星を見ていた佐々木に、女性が声をかけた。
「昔、私の兄があなたと同じ目に遭ったの。借金で追い詰められて、自ら命を絶った。私には何もできなかった」
女性は静かに続けた。
「だからあなたを買った。借金から守るために。七年働いてもらって、残り三年で自由にしてあげる」
七年後、佐々木は全ての借金を肩代わりされ、十億円の贈与とともに解放された。
今、彼は小さな町でカフェを開いている。時々、夜空を見上げてあのオークションを思い出す。
#### 第二のロット──「初恋の記憶」
出品者は二十八歳の女性、青山伊織。
恋人に裏切られ、詐欺に遭い、全財産を失った。心が空っぽになったとき、招待状が届いた。
彼女が出品したのは「初恋の記憶」。
「落札者は、この女性の人生で最も純粋で美しい初恋の記憶を、完全に自分のものにできます。彼女はその記憶を失い、二度と思い出せなくなります」
スタート価格、五千万円。
会場は静まり返った。記憶の売買は珍しい。
「六千万」
「八千万」
「一億二千万」
落札したのは、六十歳近い男性。眼鏡をかけた穏やかな顔。
伊織は震えながら契約書にサインした。
翌日、記憶が抜き取られた。
彼女はもう、高校時代に付き合っていた少年の顔も、名前も、手を繋いだ感触も、初めてのキスの味も、何も思い出せなくなった。胸にぽっかりと穴が空いたような感覚だけが残った。
男性は、伊織に連絡してきた。
「君の記憶を、僕の妻にプレゼントしたよ」
男性の妻はアルツハイマーで、若い頃の記憶を全て失っていた。
「妻が、君の初恋を自分のものとして語り始めた。笑顔で『あの頃の彼が優しかった』って。ありがとう」
伊織は泣いた。でも、どこか温かい涙だった。
彼女は失った穴を埋めるように、新しい恋を見つけた。記憶はなくても、心はまた恋できることを知った。
#### 第三のロット──「五年間の声」
出品者は二十二歳の歌手志望の青年、加藤悠人。
強い精神的ストレスから歌えなくなった。夢を失い、借金だけが残った。
彼が出品したのは「五年間の声」。
「落札者は、この青年の声を五年間独占できます。彼は五年間、一言も発せなくなります。落札者はその声で歌わせるも、命令するも自由」
スタート価格、三千万円。
すぐに競りが始まった。
音楽プロデューサー、声優事務所、富豪のコレクター。
最終的に落札したのは、無名のインディーズミュージシャンの女性。二億円。
彼女は悠人に言った。
「あなたの声で、私の曲を歌ってほしい」
五年間、悠人は自分の意思では声を出せなくなった。代わりに、女性のスタジオで、彼女の曲を完璧に歌った。彼のストレスは軽減されは奇跡的に回復していた。
女性の曲は大ヒットした。悠人の声が認められ、世の中が彼を探した。
五年後、契約が終わった。
悠人の声が戻った日、女性は全ての権利を彼に譲った。
「あなたはもう、私の声じゃない。自分の声で歌って」
今、悠人はトップアーティストだ。デビュー曲は、あの女性が作った曲のリメイク。
ライブで彼はいつも言う。
「この声は、誰かに救われた声です」
#### 第四のロット──「明日の一日」
出品者は四十歳のサラリーマン、田村。
末期癌で余命三ヶ月。家族に迷惑をかけたくない一心で出品したのは「明日の一日」
「落札者は、この男の明日の二十四時間を完全に支配できます。彼の体を借りて、何でも体験できます」
スタート価格、わずか百万円。
しかし、競りは激しかった。
「三百万円」
「一千万円」
「三千万円」
落札したのは、車椅子生活の少女。十五歳。
彼女は田村に言った。
「明日、私と一緒に遊んでください」
翌日、田村の体を借りた少女は、走った。海で泳いだ。遊園地でジェットコースターに乗った。アイスクリームを食べ過ぎてお腹を壊した。
夜、少女は田村に返した。
「ありがとう。おじさんの一日、最高だった」
田村は泣いた。
それから、彼は残りの日々を家族と過ごした。少女からもらった「生きている実感」を胸に。
強制オークションは、今もどこかで続いている。
出品されるものは、絶望と希望の境目。
落札されるものは、時に救い。
時に新たな始まり。
誰もが知っている。
一度入ったら、出られない。
でも、たまに──そこから新しい人生が生まれることもある。
12
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる