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108話 スパイを送りこもう

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 どうやら貴族会というのは旧産業学科が拠点のようであった。
 しかし、迂闊に中に入り込めば何が起こるかは分からない。

 そのため、中に入ってもスパイだとバレないような人員が不可欠だった。

「というわけで、ミンキュさんに依頼をしようと思っています」

 その事をミンキュに伝えると「なんで私が?」と言って少し怪しげな目をこちらに向けた。

「生徒会の役員は顔が割れてるから貴族会には行けないんだ。バレないように工作はするからさ……」

 それでもやはりイエスとは言ってくれない。
 なんとかしてミンキュを説得したい。
 この役目が務まるのはあまりいないのだから。

「それじゃあ、今度そちらの好きな本を一冊進呈しますから」

「そんなもので私が釣られると思う?」

 無理か……?これ以上押すと流石に嫌がられるだろうか。

「十分に釣れるね。その交渉、乗ろうじゃないか」

 そうか、それなら……って良いの?

「なんなんだよ今の問答はさ……」

「その代わり、できるだけ自然な感じにしてよ。あと、貴族文字の本も良いんだよね?」

 単価にして一般文字の本と貴族文字の本は百倍ほどの差がある。
 まぁ、確かにそちらのほうがリスキーな仕事にとっては十分だろうか?

 ……と思ったけどよくよく考えれば一般文字の本が千円だとしたら百倍って十万円なんだよね。
 異世界人だし貴族だしで物価などの常識が壊れてしまっているのだ。

「やっちまったなぁ……」

 シュンは生徒会室でその事を思い出し、少しがっかりしたのだった。


「なんというか自分の学科のものじゃないリボンって少し不思議な感じがするね」

 結んでいた髪の毛を広げて櫛でとかし、さりげなく高い物を入れてみる。
 ついでにリボンはセイさんの妹が持っていた数学学科の青いリボンを付けると、別人のような感じがした。

 ちなみに僕が服装関係に手を出そうとした瞬間にユナが全て止めてくれた。
 連れてきて良かったよ……、ワンポイントすら僕には決めさせてもらえない辺り、本当に僕にはセンスが無いのね。

 ともかく、ミンキュの準備は整ったので今度はこちらの作戦を伝える。

 今回の目的は二つ。
 一つは、貴族会がどのような活動をしているのかを調査すること。
 二つ目は、貴族会の会長が誰なのかを探ること。

 なお、会長がいるとなればそれを見ただけでも誰かがわかるかもしれない。
 ギブ魔法で記憶を抜き取って照らし合わせる事ができるだけでも人物は突き止められる。

 それに、活動に関しては大まかな内容を聞くだけでもいいし、なんなら貴族会にいる人達の会話を盗み聞きするだけでも十分な成果になる。

 あまり調査の難易度が高すぎると怪しまれることにもなりかねない。
 とにかく、情報さえ分かればそれで良いのだ。

 タイミングを見計らい、ミンキュを貴族会に送りこんだ。
 ほぼほぼ安全だとは分かっていたが、スパイ活動というのは少しハラハラするものだ。

 そしてそれは、帰ってくるのを待っている僕たちよりもミンキュ自身が一番緊張しているということ。

 結果から言おう、半分成功半分失敗だった。

 情報は手に入ったのだが、貴族会側に感づかれたのだった。
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