上流貴族の地位を継げないようなので大人しく一般人になります

夏樹

文字の大きさ
125 / 137

124話 ミトラスは何を願う

しおりを挟む
『この紅玉龍の遺跡こそが、私の墓なんです』

 シュンの頭の中で聞こえる声は、少しだけ小さくなったようにも感じる。

『私は、二千年もこの事を伝えるためだけにこの場所にいたのかもしれませんね。ここにいられる時間はもうそんなに長くないかもしれません』

 ミトラスが語りかける声は確かにだんだんと小さくなっていっていた。
 シュンは声を発せずにいたが、再び壁画を見て驚いた。

『シュン、壁画の一部を変化させました。その、龍の紋章に触れた時新たな能力を授けられます』

 ミトラス神が描かれていたところが龍の紋章に変化している。
 シュンがその紋章に近づいていったときにシュンの耳にミトラス以外の声が響いた。

「シュン!気を保て、操られていないか!?」

 父親だった。
 振り返ると同行していた父、兄、兄の妻は心配したようにこちらを見ていた。

『今は早く龍の紋章に触ってください!私の声が聞こえるうちに、早く!』

 僕は再び龍の紋章の方へ向いた。
 それは、決して父の言葉に背いたわけではなかった。

 ただ……

「僕には確かめておきたいことが一つだけある。それは、ミトラス神にだ」

 シュンは龍の紋章に手を近づけるが、まだ触れていない。

『ミトラス、一つだけ聞きたいことがある。転生者を僕にした理由だ』

『それを伝える時間は私には、もう……』

『いいや、答えは出ているんだ。それは……貴女が俺の妹だったから。そうだろ?』

『分かってたのなら、言ってくださいよ。……ずっと秘めようとしていたのに』

『僕は、納得してから次に進みたかったんだ。だから、ありがとう。_____』

 シュンは龍の紋章に触れる。
 その瞬間、その紋章はまばゆい光をあげたように感じて、シュンはその明るさに目をつむってしまう。

 次に目を開いたとき、そこには龍の紋章はなく、ミトラス神がそこにはいた。
 気のせいだろうか、壁画に描かれているミトラス神は心なしか微笑んでいるように見えた。

 もう、ミトラスの声は聞こえない。
 だが、その力は確かに継承していた。

「シュン、大丈夫か?」

「ご心配おかけしてすみません。でも、大丈夫です」

 シュンは同行した三人のもとへ向かっていき、そして壁画の方に向かって手を合わせた。

「……新郎新婦に、ミトラスの神の御加護あらんことを願います」

 もしも、まだ見守っていてくれるのなら、トリオスやレイシェルは巻き込みたくない。
 そう、僕はもう、シェイドと全面的に戦うことになるのだろうから。

「あれ、ハルカさんからメッセージ?一体どうしたのでしょうか?」

『私はハルカの夫のフルヤと申します。そちらに、シュンさんはいらっしゃいますか?』

「シュンさん、フルヤさんという方からメッセージです」

 フルヤさんはどうやらだいぶ慌てているらしい。
 レイシェルからカードを受け取ると、声をかけてみる。

『シュンくんだな、大変なことになった。……ユナが、さらわれた』

 ユナが、さらわれた?
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

最強スライムはぺットであって従魔ではない。ご主人様に仇なす奴は万死に値する。

棚から現ナマ
ファンタジー
スーはペットとして飼われているレベル2のスライムだ。この世界のスライムはレベル2までしか存在しない。それなのにスーは偶然にもワイバーンを食べてレベルアップをしてしまう。スーはこの世界で唯一のレベル2を超えた存在となり、スライムではあり得ない能力を身に付けてしまう。体力や攻撃力は勿論、知能も高くなった。だから自我やプライドも出てきたのだが、自分がペットだということを嫌がるどころか誇りとしている。なんならご主人様LOVEが加速してしまった。そんなスーを飼っているティナは、ひょんなことから王立魔法学園に入学することになってしまう。『違いますっ。私は学園に入学するために来たんじゃありません。下働きとして働くために来たんです!』『はぁ? 俺が従魔だってぇ、馬鹿にするなっ! 俺はご主人様に愛されているペットなんだっ。そこいらの野良と一緒にするんじゃねぇ!』最高レベルのテイマーだと勘違いされてしまうティナと、自分の持てる全ての能力をもって、大好きなご主人様のために頑張る最強スライムスーの物語。他サイトにも投稿しています。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

唯一平民の悪役令嬢は吸血鬼な従者がお気に入りなのである。

彩世幻夜
ファンタジー
※ 2019年ファンタジー小説大賞 148 位! 読者の皆様、ありがとうございました! 裕福な商家の生まれながら身分は平民の悪役令嬢に転生したアンリが、ユニークスキル「クリエイト」を駆使してシナリオ改変に挑む、恋と冒険から始まる成り上がりの物語。 ※2019年10月23日 完結 新作 【あやかしたちのとまり木の日常】 連載開始しました

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

処理中です...