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第二話 おめでたい茶番
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「僕の隣にいるのは――フェリシア・ルーン!」
婚礼の壇上、その中央で――第二王子セドリックが声を張り上げた。
正真正銘、この日の主役でありながら、芝居の一幕を演じるかのような笑みと共に。
「そう、見ての通り平民の娘だ。
だがそれが何だ? 僕は彼女を愛している!
この愛の前に、身分も過去も――塵芥に等しい!」
その顔には、“感動の告白劇”の主人公を気取るような晴れやかな笑み。
壇上の中央でまっすぐ前を見据えるその姿は、舞台の主役さながらだった。
セドリックの腕にすがるように寄り添う少女――フェリシアと呼ばれた娘は、夢見るようにその“英雄”の横顔を見つめていた。
身じろぎもせず、ただうっとりと、微笑みを浮かべながら。
周囲のざわめきも、空気の緊張も、なにひとつ耳に届いていないかのように。
透けるように白い肌。
異様なまでに整った、人形めいた顔立ち。
そして、その潤んだ瞳には、信仰にも似た輝きが宿っていた。
理性の影すらなく、ただひたすらに“王子だけ”を映す目。
見る者に寒気すら覚えさせる、異常な純度のまなざし。
「わたし……この身がどうなろうと構いません……
セドリック様の“真実の愛”に報いるためなら……命さえ、喜んで……」
震える声を捧げるフェリシアに、セドリックは満足げに大きく頷いた。
「よく言ってくれたね、フェリシア。
確かに、リシェルとの婚約は“政略”だった。
だが、僕が彼女に捧げるのは、そう、それだ――“真実の愛”なんだ!」
彼女のか細い囁きと、王子の演説めいた声が交錯し、
堂内の空気は、ひときわ重く――冷たく――張りつめていく。
王室関係者席の空気は、まさに凍りついていた。
王は椅子の背に身を預けると、額を押さえ、明らかに動揺を隠せない様子だった。
「ば、バカなことを……セドリック、ここは式だぞ!?
……な、なぜこんな真似を……」
――ぱたん。
沈黙の中に、ひときわ乾いた音が響く。
王女アメリアが静かに扇を閉じ、席から半身を起こした。
「お父様。ご決断はあとで結構です。
……その前に、リシェル嬢に“ご挨拶”のお時間をいただきましょう」
「な、なにを……ええと、待て、これは手順の問題だ。
誓いの言葉? いや花嫁の入場? いや……スピーチが……」
「お父様……リシェル嬢に」
「おお、そうだったな……リ、リシェル嬢、どうか……どうかお気を悪くされずに……!」
その瞬間、リシェルがゆるやかに手を上げると、王の声は不意に止んだ。
視線が集まる中、彼女はそっと胸元に手をあてる。
揺れるヴェールの奥から覗く、その唇に浮かぶのは――僅かに、けれど確かに、確かな笑み。
「……どうぞ。お気になさらず」
その一言で、空気が凍りついた。
誰もが言葉を失い、息をひそめる中――
リシェルは静かに一歩を踏み出し、純白のドレスの裾を音もなく揺らしながら、壇上を見渡す。
その視線が、最後に止まったのは――王子、セドリックの強張った顔。
「ふふ……このようなおめでたい茶番にお招きいただいたお礼に――」
一拍置き、微笑みの奥で瞳だけが鋭く光る。
「ひとつ、“祝辞”を差し上げますわ」
その声音は、凍てつくほどに優雅で――
そして、刺すように冷ややかだった。
婚礼の壇上、その中央で――第二王子セドリックが声を張り上げた。
正真正銘、この日の主役でありながら、芝居の一幕を演じるかのような笑みと共に。
「そう、見ての通り平民の娘だ。
だがそれが何だ? 僕は彼女を愛している!
この愛の前に、身分も過去も――塵芥に等しい!」
その顔には、“感動の告白劇”の主人公を気取るような晴れやかな笑み。
壇上の中央でまっすぐ前を見据えるその姿は、舞台の主役さながらだった。
セドリックの腕にすがるように寄り添う少女――フェリシアと呼ばれた娘は、夢見るようにその“英雄”の横顔を見つめていた。
身じろぎもせず、ただうっとりと、微笑みを浮かべながら。
周囲のざわめきも、空気の緊張も、なにひとつ耳に届いていないかのように。
透けるように白い肌。
異様なまでに整った、人形めいた顔立ち。
そして、その潤んだ瞳には、信仰にも似た輝きが宿っていた。
理性の影すらなく、ただひたすらに“王子だけ”を映す目。
見る者に寒気すら覚えさせる、異常な純度のまなざし。
「わたし……この身がどうなろうと構いません……
セドリック様の“真実の愛”に報いるためなら……命さえ、喜んで……」
震える声を捧げるフェリシアに、セドリックは満足げに大きく頷いた。
「よく言ってくれたね、フェリシア。
確かに、リシェルとの婚約は“政略”だった。
だが、僕が彼女に捧げるのは、そう、それだ――“真実の愛”なんだ!」
彼女のか細い囁きと、王子の演説めいた声が交錯し、
堂内の空気は、ひときわ重く――冷たく――張りつめていく。
王室関係者席の空気は、まさに凍りついていた。
王は椅子の背に身を預けると、額を押さえ、明らかに動揺を隠せない様子だった。
「ば、バカなことを……セドリック、ここは式だぞ!?
……な、なぜこんな真似を……」
――ぱたん。
沈黙の中に、ひときわ乾いた音が響く。
王女アメリアが静かに扇を閉じ、席から半身を起こした。
「お父様。ご決断はあとで結構です。
……その前に、リシェル嬢に“ご挨拶”のお時間をいただきましょう」
「な、なにを……ええと、待て、これは手順の問題だ。
誓いの言葉? いや花嫁の入場? いや……スピーチが……」
「お父様……リシェル嬢に」
「おお、そうだったな……リ、リシェル嬢、どうか……どうかお気を悪くされずに……!」
その瞬間、リシェルがゆるやかに手を上げると、王の声は不意に止んだ。
視線が集まる中、彼女はそっと胸元に手をあてる。
揺れるヴェールの奥から覗く、その唇に浮かぶのは――僅かに、けれど確かに、確かな笑み。
「……どうぞ。お気になさらず」
その一言で、空気が凍りついた。
誰もが言葉を失い、息をひそめる中――
リシェルは静かに一歩を踏み出し、純白のドレスの裾を音もなく揺らしながら、壇上を見渡す。
その視線が、最後に止まったのは――王子、セドリックの強張った顔。
「ふふ……このようなおめでたい茶番にお招きいただいたお礼に――」
一拍置き、微笑みの奥で瞳だけが鋭く光る。
「ひとつ、“祝辞”を差し上げますわ」
その声音は、凍てつくほどに優雅で――
そして、刺すように冷ややかだった。
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