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第二十四話 ちょっと待った!
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王都にそびえる、千年の歴史を抱く大聖堂。
天高く立ち上がるアーチの隙間からは、穏やかな陽光が差し込み、
天使と聖獣が描かれたステンドグラスを通して聖堂の床に七色の光が滲んでいた。
厳かなパイプオルガンの調べが静かに空間を包み込む中、
重厚な扉から伸びる純白の絨毯の上、
王子セドリックと、雪のように透き通る純白のドレスを纏ったフェリシアが、静かに祭壇の前に並び立つ。
その金糸を織り込んだベールが光を受けてきらめき、白磁のような肌と、神代の彫刻家が掘り出したような美貌。
この日のフェリシアは、まさに天上の花嫁のように美しかった。
参列者たちは一様に息を潜め、荘厳なその光景に心を奪われていた。
二人の未来が今、国と神の前で結ばれようとしている――誰もが、そう信じて疑わなかった。
神官が書を閉じる音が、静けさの中でひときわ鮮やかに響いた。
「――では、新郎新婦よ。
真実の愛を誓いのキスにて、互いの契りを結びなさい」
静寂。誰かが息を呑む音が聞こえた。
セドリックがそっとフェリシアのヴェールを持ち上げると、その頬へと手を伸ばす。
指先が肌に触れた瞬間、フェリシアの睫毛がふるりと揺れ、唇が僅かに震えた。
参列者の息遣いすら、白い石壁に反響して音楽の一部となる。
燭台の炎が、まるで祈るようにゆらりと揺れ、
永遠の誓いの瞬間――。
そして二人の瞼がそっと閉じられ、唇と唇が触れ合う直前――
フェリシアの唇の片端だけが、見えない誰かへ合図するように持ち上がった。
にやり――
それは、純白のドレスには似つかわしくない、勝ち誇った笑みだった。
その瞬間――
バァンッ!!
雷鳴のような轟音が石壁を走り、ついで突風が花々を薙いだ。純白の花びらが雪のように舞う。
その光景に、参列者たちの心臓までもが一瞬止まった。
「ちょっと待ったぁーーっ!」
凛とした女性の声が聖堂に響き渡った。
「ッ!」
「な、なに――」
「今度は何を破棄するんじゃ……!?」
ざわめく会場。
銀仮面に黒燕尾の男は胸に手を当てると、声の主に静かに頭を下げた。
「お嬢様。残念ながらそのお言葉は――
恋敵が叫ぶ定番にございます」
「あ、あら、そうでしたの……。一生懸命考えましたのに」
「……」
「……滑りましたかしら?」
「いいえ。むしろ、この茶番にはおあつらえ向きです」
リシェルはふっと笑い、扉口の逆光の中まっすぐ前を見据えた。
その眩しさのただ中で、ゆっくりと浮かび上がる巨影。
徐々に明らかになるその輪郭に、誰もが目を疑った。
それは――まさに、大砲だった。
黒鋼と銀の複合装甲。
微かな金属と冷えた石の匂いが漂い、砲口からは微光を帯びた魔力が吐息のように揺らぐ。
まるで“生きている”かのような存在感。
その背後に立つのは、
陽光を背に、純白のドレスの花嫁以上の気品を放つ少女。
――公女リシェル・クレイモア。
その瞳は凛と澄み、まるで「真実を撃ち抜く」ためにここに立ったかのようだった。
その傍らに控えるのは、黒燕尾に銀の仮面を纏う男。
――クラウス・フォン・ノイバウンシュタイン、名門の執事にして、王国の影。
列席の貴族たちはその迫力に気圧され、自然と道を開ける。
中央の花道が、その二人のために整えられていく。
二人を目に留めたセドリックは目を真ん丸にして叫んだ。
「彼女は招待していないぞ!! たぶん……」
近衛兵の手が一斉に剣の柄へ伸び――アメリアの横目一閃で凍りつく。
「いいえ、わたくしが招待したのですわ。あなたたちを正しく祝うために」
アメリアが冷たく微笑む。
「まあ……さすがは”彼”――完璧に準備は整ったようですわね」
次の瞬間、だいぶ遅れて王が席から勢いよく立ち上がった。
その顔は、見る間に蒼白になる。
「な、なにごとだ!? リ、リシェル嬢!!
い、いや……怒るのは無理もない……確かに、悪いのはわしらだが……だが大砲は行き過ぎ……いやどうやって入れた!?」
声は完全に裏返り、威厳のかけらもない。
「隣にいるのは……影の紅茶係、クラレンボではないか!!」
「いえ、”影”の執事、クラウスです……」
「……違うのか?」
「お父様、落ち着いて。こちらをどうぞ。
――芝居の終幕は、静かにご覧になるものですわ」
アメリアがそっと差し出した小皿から、
王は一粒のピーナッツを摘まみ、戸惑いながら口に放り込む。
――ポリッ。
咀嚼の音が、妙に静まり返った場内に響き、
参列者たちは一瞬、何が起こっているのか理解できないままだった。
セドリックも呆然とかつての婚約者の姿を見つめていた。
しかし、彼だけは彼なりの理解をしていた。
「ちょっと待って……だって? リシェル……まさか、君はまだ僕のことを……」
砲身が静かに角度を変え、祭壇の蝋燭がわずかに揺れた。
――フェリシアの花のような唇が、ぴくりと引きつっていた。
「あれは……まさか?」
天高く立ち上がるアーチの隙間からは、穏やかな陽光が差し込み、
天使と聖獣が描かれたステンドグラスを通して聖堂の床に七色の光が滲んでいた。
厳かなパイプオルガンの調べが静かに空間を包み込む中、
重厚な扉から伸びる純白の絨毯の上、
王子セドリックと、雪のように透き通る純白のドレスを纏ったフェリシアが、静かに祭壇の前に並び立つ。
その金糸を織り込んだベールが光を受けてきらめき、白磁のような肌と、神代の彫刻家が掘り出したような美貌。
この日のフェリシアは、まさに天上の花嫁のように美しかった。
参列者たちは一様に息を潜め、荘厳なその光景に心を奪われていた。
二人の未来が今、国と神の前で結ばれようとしている――誰もが、そう信じて疑わなかった。
神官が書を閉じる音が、静けさの中でひときわ鮮やかに響いた。
「――では、新郎新婦よ。
真実の愛を誓いのキスにて、互いの契りを結びなさい」
静寂。誰かが息を呑む音が聞こえた。
セドリックがそっとフェリシアのヴェールを持ち上げると、その頬へと手を伸ばす。
指先が肌に触れた瞬間、フェリシアの睫毛がふるりと揺れ、唇が僅かに震えた。
参列者の息遣いすら、白い石壁に反響して音楽の一部となる。
燭台の炎が、まるで祈るようにゆらりと揺れ、
永遠の誓いの瞬間――。
そして二人の瞼がそっと閉じられ、唇と唇が触れ合う直前――
フェリシアの唇の片端だけが、見えない誰かへ合図するように持ち上がった。
にやり――
それは、純白のドレスには似つかわしくない、勝ち誇った笑みだった。
その瞬間――
バァンッ!!
雷鳴のような轟音が石壁を走り、ついで突風が花々を薙いだ。純白の花びらが雪のように舞う。
その光景に、参列者たちの心臓までもが一瞬止まった。
「ちょっと待ったぁーーっ!」
凛とした女性の声が聖堂に響き渡った。
「ッ!」
「な、なに――」
「今度は何を破棄するんじゃ……!?」
ざわめく会場。
銀仮面に黒燕尾の男は胸に手を当てると、声の主に静かに頭を下げた。
「お嬢様。残念ながらそのお言葉は――
恋敵が叫ぶ定番にございます」
「あ、あら、そうでしたの……。一生懸命考えましたのに」
「……」
「……滑りましたかしら?」
「いいえ。むしろ、この茶番にはおあつらえ向きです」
リシェルはふっと笑い、扉口の逆光の中まっすぐ前を見据えた。
その眩しさのただ中で、ゆっくりと浮かび上がる巨影。
徐々に明らかになるその輪郭に、誰もが目を疑った。
それは――まさに、大砲だった。
黒鋼と銀の複合装甲。
微かな金属と冷えた石の匂いが漂い、砲口からは微光を帯びた魔力が吐息のように揺らぐ。
まるで“生きている”かのような存在感。
その背後に立つのは、
陽光を背に、純白のドレスの花嫁以上の気品を放つ少女。
――公女リシェル・クレイモア。
その瞳は凛と澄み、まるで「真実を撃ち抜く」ためにここに立ったかのようだった。
その傍らに控えるのは、黒燕尾に銀の仮面を纏う男。
――クラウス・フォン・ノイバウンシュタイン、名門の執事にして、王国の影。
列席の貴族たちはその迫力に気圧され、自然と道を開ける。
中央の花道が、その二人のために整えられていく。
二人を目に留めたセドリックは目を真ん丸にして叫んだ。
「彼女は招待していないぞ!! たぶん……」
近衛兵の手が一斉に剣の柄へ伸び――アメリアの横目一閃で凍りつく。
「いいえ、わたくしが招待したのですわ。あなたたちを正しく祝うために」
アメリアが冷たく微笑む。
「まあ……さすがは”彼”――完璧に準備は整ったようですわね」
次の瞬間、だいぶ遅れて王が席から勢いよく立ち上がった。
その顔は、見る間に蒼白になる。
「な、なにごとだ!? リ、リシェル嬢!!
い、いや……怒るのは無理もない……確かに、悪いのはわしらだが……だが大砲は行き過ぎ……いやどうやって入れた!?」
声は完全に裏返り、威厳のかけらもない。
「隣にいるのは……影の紅茶係、クラレンボではないか!!」
「いえ、”影”の執事、クラウスです……」
「……違うのか?」
「お父様、落ち着いて。こちらをどうぞ。
――芝居の終幕は、静かにご覧になるものですわ」
アメリアがそっと差し出した小皿から、
王は一粒のピーナッツを摘まみ、戸惑いながら口に放り込む。
――ポリッ。
咀嚼の音が、妙に静まり返った場内に響き、
参列者たちは一瞬、何が起こっているのか理解できないままだった。
セドリックも呆然とかつての婚約者の姿を見つめていた。
しかし、彼だけは彼なりの理解をしていた。
「ちょっと待って……だって? リシェル……まさか、君はまだ僕のことを……」
砲身が静かに角度を変え、祭壇の蝋燭がわずかに揺れた。
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「あれは……まさか?」
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