【完結】婚約破棄に祝砲を。あら、殿下ったらもうご結婚なさるのね? では、祝辞代わりに花嫁ごと吹き飛ばしに伺いますわ。

猫屋敷むぎ

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【改稿版】【番外編・幕間】第23.5話 目覚めの朝【中編】(ネタバレあり)

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重厚な扉が内側に開くと――

ぶうん――と低く長い起動音が暗闇の奥で目を覚まし、冷たい石壁に伝わってくる。

「な、何かしら……」

闇の向こうから、油と金属の匂いが押し寄せる。

リシェルは反射的に半歩退いたが、クラウスの指がそれを制すように、ほんの少しだけ強く彼女の手を握った。

「ご安心を。これは、お嬢様のために遺された力です」

煤けた暗闇が息を吐く。
次いで――壁面の灯が、一斉にぱちぱちと灯った。

光が満ちるたび、巨大な影の輪郭が増えていく。
黒鋼と銀の複合装甲。根のように張り巡らされた魔導回路。
封じられた獣のような静けさで、いくつもの砲塔が眠っていた。

「……これは」

リシェルの声は、自分のものと思えないほど細かった。

「“滅魔砲”シリーズ。
 古の戦において、魔を祓い、虚飾を焼き払い、道を開くために作られた対魔兵装……」

クラウスが淡々と告げる。
説明の言葉はどれも鋭利で、しかし彼女の耳には不思議とやさしく落ちた。

「つまり……そういうことですのね。
 あのフェリシアという娘――ただの花嫁ではない、と」

「はい。ゆえに、本日は――祝砲として、役目を果たします。
 真実を、正しく祝うために」

ふと、右奥に目が止まる。

そこには、ひっそりと置かれた小さな丸い黒塊。
紋様がゆっくりと明滅し、まるでリシェルを呼んでいるようだった。

「この子は……?」

「それは最強と伝わる八式滅魔砲の“核”です。
 残念ながら、名も既に失われ、本体の所在も掴めておりません」

「そう……なのね……」

最奥に据えられた一基が、灯りに照らされて他よりもわずかに新しく見えた。
砲口は光を含み、呼吸のように微かに明滅している。

「七式滅魔砲《クレイモア》。お嬢様の御名と同じ名を冠する、対魔兵装の最終式です」

「わたくしたちクレイモア家に、魔族を滅ぼす力がある――
 そのことだけは父からも聞いておりました。
 でも……まさか、このようなものが現実にあるなんて……」

リシェルは巨大な砲身を見上げ、冷たい金属光沢に反射する自分の顔を見つめた。

(……父はいったい何を隠していたのかしら)

「恐ろしい……ですわね。けれど、どこか気高く、美しい……」

クラウスは仮面越しに頷く。
その声音には、抑えてもなお熱が滲んでいた。

「この子は、お嬢様を待っておりました。
 ――いえ、正しくは。私も、この瞬間をずっと待っておりました」

「……クラウス?」

一瞬胸が揺れる。だが彼はすぐに声を整えた。

「クレイモア家の“鍵”は血脈に宿ります」

クラウスは砲身脇の制御盤へ案内し、円環状の紋様に彼女の手を導いた。

「どうか、触れて――お名前を」

リシェルは一度だけ目を閉じ、手袋を外した。
冷たい金属の上に、白い指がそっと置かれる。

「少し震えておられる……」

クラウスの手が重なると、思わずぴくりとしてしまう。

「べ、別に怖くなど……」

気を取り直し、高鳴る鼓動を感じながら小さく囁く。

「……リシェル・クレイモア」

その瞬間、青白い紋光が、草原に走る風のように広がった。

砲身が低く鳴り、地下室の空気が一度だけふるえる。
遥か昔から続いてきた、家の呼吸に触れたような感覚――胸の奥のどこかが、確かに応えた。

恐れは消えていた。
残っているのは、奇妙な高揚と、静かな使命感。

「クラウス。……これは、わたくしに扱えるのね?」

「もちろん。お嬢様にしか」

仮面越しに、彼の声がわずかに柔らぐ。

「――ならば、わたくしが撃ちますわ」

クラウスは頷き、続けた。

「ただし、撃つには条件がございます。……強い絆で結ばれた“伴(とも)”が必要です」

「伴?」

リシェルは小さく息を呑んだ。
仮面の奥から射抜くような眼差しが返ってくる。

「はい。伴がオペレーターとして制御を担い、クレイモアの血を継ぐ者がガンナーとしてトリガーを引く。
 ただし……信頼が“一定の深さ”に至らねば、砲は決して応えません」

リシェルは一瞬、息を呑んだ。

「……つまり、わたくしに“伴”が必要なのね」

仮面越しに、クラウスの瞳が鋭い光を宿す。

一拍の後、覚悟を滲ませたクラウスの声が石室に響き、リシェルの胸がふいに高鳴った。  

「……その役目を、どうかこの私に。  
 お嬢様の隣にあること――それこそが、私の願いであり、すべてなのです」
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