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【改稿版】【番外編・幕間】第23.5話 目覚めの朝【後編】(ネタバレあり)
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「……その役目を、どうかこの私に。
お嬢様の隣にあること――それこそが、私の願いであり、すべてなのです」
リシェルの胸で鼓動が一拍、強く跳ねた。
――差し出された手はいつものように冷静で、それでも震えるほどの決意が宿っている。
(……今の言葉。まるで愛の誓いのように聞こえてしまった)
けれど――違う。これは忠義、任務への覚悟。
そうでなければならない。
……でなければ、わたくしたちは踏み越えてはいけないのです。
なのにどうして、こんなにも心が騒ぐのかしら……。
リシェルの睫毛が揺れ、ゆっくりとその瞼が閉じられ――
……そっと手が重なった。
「はい……わたくしの“伴”として、これからも隣にいてください」
言葉にした途端、胸の奥がひどく熱くなる。
これは彼の忠義を確認しただけ――そう言い聞かせながらも、なぜか頬がわずかに火照るのを止められない。
そのとき――仮面の奥の瞳が、ほんの一瞬だけ揺れた気がした。
気のせい……そう思おうとしたが、胸の鼓動は否応なく早まってゆく。
二人は並んで操作盤と砲座に手を置いた。
肩が触れ合いそうなほど近い距離で――
リシェルの指が紋様に触れると、クラウスの掌が静かに制御盤をなぞる。
石室には、二人の鼓動と古の遺構の低い唸りだけ。
その間、言葉はひとつも交わされなかった。
けれど沈黙は、拒絶ではなく、むしろ……かすかな甘さを含んでいた。
ぶうん――。
青白い光が走り、砲身がゆるやかに息づきはじめた。
わたくしの手の下で、紋様が脈動するのがはっきりと分かる。
……認められた。クレイモアの血脈を、わたくしを。
「……っ、反応して……」
思わず声が洩れる。
その瞬間――クラウスの手が、わたくしの手を強く握りしめた。
「クラウス……少し、痛いですわ」
いつも冷静な彼が、子供のように慌てて手を離す。
「……失礼しました。――嬉しさが、抑えきれず」
「……?」
胸が熱くなり、頬が赤く染まる。
(どうして……こんなことで、鼓動まで早まってしまうの……)
やがてクラウスは深く頭を垂れた。
「お嬢様……感謝します」
一拍、言葉を探すように口ごもってからのその一言。
「……どういうこと、ですの?」
彼はためらいながらも口にした。
「ご両親は――御父上がオペレーター、御母上がガンナーでした」
リシェルは思わず頬が熱くなり、つい拗ねたように言った。
「確かに、お母様は直系……でも、あの二人にはあまりにも似合わないですわ」
クラウスは仮面越しに静かに微笑む。
「いえ、たいへんお似合いでした。
ですから、どうかご安心を。お嬢様と私なら、必ず撃てます」
「……っ!」
胸の奥で何かが熱く脈打つ。
けれどそれを言葉にできず、リシェルはそっと砲身に視線を移した。
冷たい鋼は、まるで鼓動を持つかのように脈打っていた。
「搬入の段取りは整えてあります。道は――影の仕事にて」
「どうやって、とは……今は訊かないでおきますわ」
「終幕の舞台でご覧ください」
リシェルは微笑み、白い手袋をはめ直した。
砲塔の鋼は、朝の光に似た色で静かに脈打っている。
(人の結婚式に向かう朝に、わたくしは封庫で“祝砲”を目覚めさせる。
ずいぶんと、芝居めいた一日だこと)
彼女はゆっくりと身を引き、扉の方へと向き直った。
階段は来たときと同じだけ続いている。けれど、足取りはもう軽い。
ふと立ち止まり、リシェルは振り返った。
そして今度は、自らの手を差し伸べる。
「クラウス――」
仮面の下で一瞬だけ息を呑んだように見えたが、すぐに深く一礼し、その手を取った。
冷たいはずの手が、不思議と温かい。
扉が静かに閉ざされる。
ぶうん、と低い音がまだ地下の奥で鳴っている。
二人は扉を後にし、再び階段を上った。
地上の光が差し込み、本当の朝が始まったことを告げる。
手をしっかりと握りながら、リシェルは小さく微笑んだ。
「……今日は、ずいぶんと驚かされましたわ」
クラウスはわずかに目を伏せ、仮面の奥で息を整える。
そして――低く、しかし確かな声で答えた。
「……そうですか。ですが、お嬢様――」
彼の瞳が、銀の面の奥でひときわ強くきらめく。
「もしかすると、本日は……さらに驚かせることになるでしょう。
しかし、何があろうとも、私は――
お嬢様の隣にあり続ける――そう誓います」
銀の面の下、口元だけがわずかに緩む。
「……え?」
一瞬、意味を掴めず言葉を探した。
問い返す間もなく、鐘楼の朝鐘が街へと響き渡り――
胸の奥でざわめきが渦を巻く。それでも微笑みは揺るがない。
幕間は終わり、舞台は整った。
あとは、舞台の幕を上げるだけだ。
リシェルが階段の途中で立ち止まり、ゆるやかに振り向いた。
クラウスには、その姿だけが朝の光に縁取られて見えた。
光を含んだ金糸の髪と、白のドレスに纏う気高さ――凛とした碧の瞳が、仮面の奥にいる自分をまっすぐ射抜いてくる。
まるで舞台に立つ女王の立ち姿のようで、息を呑むほどの威厳と美しさだった。
クラウスは一瞬、呼吸を忘れる。
この人こそが、自らが命を賭して仕えるべき唯一の主――そう確信した。
「正しく――祝って差し上げませんとね」
主の言葉が落ち、クラウスもまた、その瞳を逃げずにまっすぐ見返していた。
わずかな沈黙――石室に響くのは、二人の鼓動と砲の低い唸りだけ。
その一瞬が、永遠のように長く感じられる。
そして同時に、二人は微笑んだ。
「では、祝辞代わりに花嫁ごと吹き飛ばしに伺いますわ」
「御意にございます――お嬢様」
――第24話「ちょっと待った!」へと続く。
お嬢様の隣にあること――それこそが、私の願いであり、すべてなのです」
リシェルの胸で鼓動が一拍、強く跳ねた。
――差し出された手はいつものように冷静で、それでも震えるほどの決意が宿っている。
(……今の言葉。まるで愛の誓いのように聞こえてしまった)
けれど――違う。これは忠義、任務への覚悟。
そうでなければならない。
……でなければ、わたくしたちは踏み越えてはいけないのです。
なのにどうして、こんなにも心が騒ぐのかしら……。
リシェルの睫毛が揺れ、ゆっくりとその瞼が閉じられ――
……そっと手が重なった。
「はい……わたくしの“伴”として、これからも隣にいてください」
言葉にした途端、胸の奥がひどく熱くなる。
これは彼の忠義を確認しただけ――そう言い聞かせながらも、なぜか頬がわずかに火照るのを止められない。
そのとき――仮面の奥の瞳が、ほんの一瞬だけ揺れた気がした。
気のせい……そう思おうとしたが、胸の鼓動は否応なく早まってゆく。
二人は並んで操作盤と砲座に手を置いた。
肩が触れ合いそうなほど近い距離で――
リシェルの指が紋様に触れると、クラウスの掌が静かに制御盤をなぞる。
石室には、二人の鼓動と古の遺構の低い唸りだけ。
その間、言葉はひとつも交わされなかった。
けれど沈黙は、拒絶ではなく、むしろ……かすかな甘さを含んでいた。
ぶうん――。
青白い光が走り、砲身がゆるやかに息づきはじめた。
わたくしの手の下で、紋様が脈動するのがはっきりと分かる。
……認められた。クレイモアの血脈を、わたくしを。
「……っ、反応して……」
思わず声が洩れる。
その瞬間――クラウスの手が、わたくしの手を強く握りしめた。
「クラウス……少し、痛いですわ」
いつも冷静な彼が、子供のように慌てて手を離す。
「……失礼しました。――嬉しさが、抑えきれず」
「……?」
胸が熱くなり、頬が赤く染まる。
(どうして……こんなことで、鼓動まで早まってしまうの……)
やがてクラウスは深く頭を垂れた。
「お嬢様……感謝します」
一拍、言葉を探すように口ごもってからのその一言。
「……どういうこと、ですの?」
彼はためらいながらも口にした。
「ご両親は――御父上がオペレーター、御母上がガンナーでした」
リシェルは思わず頬が熱くなり、つい拗ねたように言った。
「確かに、お母様は直系……でも、あの二人にはあまりにも似合わないですわ」
クラウスは仮面越しに静かに微笑む。
「いえ、たいへんお似合いでした。
ですから、どうかご安心を。お嬢様と私なら、必ず撃てます」
「……っ!」
胸の奥で何かが熱く脈打つ。
けれどそれを言葉にできず、リシェルはそっと砲身に視線を移した。
冷たい鋼は、まるで鼓動を持つかのように脈打っていた。
「搬入の段取りは整えてあります。道は――影の仕事にて」
「どうやって、とは……今は訊かないでおきますわ」
「終幕の舞台でご覧ください」
リシェルは微笑み、白い手袋をはめ直した。
砲塔の鋼は、朝の光に似た色で静かに脈打っている。
(人の結婚式に向かう朝に、わたくしは封庫で“祝砲”を目覚めさせる。
ずいぶんと、芝居めいた一日だこと)
彼女はゆっくりと身を引き、扉の方へと向き直った。
階段は来たときと同じだけ続いている。けれど、足取りはもう軽い。
ふと立ち止まり、リシェルは振り返った。
そして今度は、自らの手を差し伸べる。
「クラウス――」
仮面の下で一瞬だけ息を呑んだように見えたが、すぐに深く一礼し、その手を取った。
冷たいはずの手が、不思議と温かい。
扉が静かに閉ざされる。
ぶうん、と低い音がまだ地下の奥で鳴っている。
二人は扉を後にし、再び階段を上った。
地上の光が差し込み、本当の朝が始まったことを告げる。
手をしっかりと握りながら、リシェルは小さく微笑んだ。
「……今日は、ずいぶんと驚かされましたわ」
クラウスはわずかに目を伏せ、仮面の奥で息を整える。
そして――低く、しかし確かな声で答えた。
「……そうですか。ですが、お嬢様――」
彼の瞳が、銀の面の奥でひときわ強くきらめく。
「もしかすると、本日は……さらに驚かせることになるでしょう。
しかし、何があろうとも、私は――
お嬢様の隣にあり続ける――そう誓います」
銀の面の下、口元だけがわずかに緩む。
「……え?」
一瞬、意味を掴めず言葉を探した。
問い返す間もなく、鐘楼の朝鐘が街へと響き渡り――
胸の奥でざわめきが渦を巻く。それでも微笑みは揺るがない。
幕間は終わり、舞台は整った。
あとは、舞台の幕を上げるだけだ。
リシェルが階段の途中で立ち止まり、ゆるやかに振り向いた。
クラウスには、その姿だけが朝の光に縁取られて見えた。
光を含んだ金糸の髪と、白のドレスに纏う気高さ――凛とした碧の瞳が、仮面の奥にいる自分をまっすぐ射抜いてくる。
まるで舞台に立つ女王の立ち姿のようで、息を呑むほどの威厳と美しさだった。
クラウスは一瞬、呼吸を忘れる。
この人こそが、自らが命を賭して仕えるべき唯一の主――そう確信した。
「正しく――祝って差し上げませんとね」
主の言葉が落ち、クラウスもまた、その瞳を逃げずにまっすぐ見返していた。
わずかな沈黙――石室に響くのは、二人の鼓動と砲の低い唸りだけ。
その一瞬が、永遠のように長く感じられる。
そして同時に、二人は微笑んだ。
「では、祝辞代わりに花嫁ごと吹き飛ばしに伺いますわ」
「御意にございます――お嬢様」
――第24話「ちょっと待った!」へと続く。
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