【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷むぎ

文字の大きさ
33 / 100
第二章 討伐軍編

第三十三話 魔王討伐軍

しおりを挟む
王城・玉座の間。

高い天井から垂れ下がる大旗が、朝の光を受けて静かに揺れ、堂内の空気に荘厳な緊張を満たしていた。
深紅と白の絨毯が玉座へ真っすぐに伸び、左右には各師団の旗がずらりと並ぶ。
鎧の擦れる音も、文官の羽ペンの掠れる音も、張りつめた空気の中ではひときわ鮮明に響いていた。

私は治療班の白ローブたちの末席に立ち、居並ぶ騎士や将校、文官たちの背中を見つめていた。

(……いよいよ、始まるんだ)

喉がひゅっと鳴り、胸の奥が妙に冷たくなる。
背筋を正そうとしても、指先がわずかに震えているのが自分でもわかる。
目の前に広がるのは、物語の中でしか聞いたことのない“魔王討伐軍”の結成式――。

でも、今その場にいるのは、ただの“聖女の妹”でしかない私。

(私……本当に、この場所に立っていていいのかな……)

玉座の間に整列する勇者や将軍たちの背中は、朝の光を受けてまるで金色に輝いて見えた。
そのあまりの眩しさに、胸の奥で何かがぎゅっと縮む。

やがて、重厚な扉が音を立てて開かれた。
白地に黄金をあしらった礼服を纏う堂々たる王と王妃、そして深紅の礼装を纏った王太子シャルルが玉座へと進む。
左右には従者が整列し、朝の光が一筋、玉座の階段に差し込んだ。

その瞬間、堂内の空気がぴんと張り詰める。
無数の視線が玉座へと吸い寄せられ、喉を鳴らす音さえ響き渡るほどの静寂が広がった。

「――これより、魔王討伐軍の編成を告げる」

ヴァルミエール国王、ルネ十三世の低い声が、堂内を静かに揺らした。
列席者全員の背筋がぴんと伸び、息を呑む音が一斉に重なった。

まずは、討伐軍を束ねる総司令官の任命だった。

「薔薇騎士団長、ロベール・グランディール卿」

一瞬の静寂ののち、大きな拍手と歓声が堂内を満たした。
ロベールは堂々と前へ進み、片膝をついて玉座に跪く。

「この命、王と民のために」

短い言葉に、揺るぎない決意がこもっていた。

(……やっぱり、ロベールさんだ)

祝宴の夜、ひとりだった私に声をかけてくれた温かな笑顔が脳裏に蘇る。
ほんの一瞬、胸の奥にやさしい灯りがともった。

続いて、各師団の任命が続く。
第一師団長はロベール卿が兼任。第二から第三師団長や各副団長――その他、歴戦の騎士や将軍たちの名が告げられるたび、堂内は期待と緊張が少しずつ積み上がっていく。
参謀や輸送師団長、医療部隊長の名も続き、まるで巨大な戦の布陣が、目の前で組み上がっていくようだった。

そして――空気が再び、張り詰める。

「そして、軍団の要となる――勇者パーティについてだ」

国王の言葉が響いた瞬間、堂内の視線が一斉に玉座へと集まった。
全員が息を潜め、次に告げられる名前を待っている。
私の心臓も、鼓動のたびに波が押し寄せるように高鳴った。

(……来た)

「勇者――エリアス・ヴァロワ」

どよめき。
白銀の紋章を胸に刻む若き勇者が前へ進み、中央で跪く。
顔を上げまっすぐに玉座を見据えると、銀のサークレットの上に金糸の髪が揺れた。
堂内の空気が一気に沸き立ち、誰もが納得の表情でその姿を見つめた――
ただ一人、王太子シャルルだけが――その視線を、ほんのわずかに逸らした。

「聖女――アリシア・ルクレール」

静寂。
銀髪が朝の光を受け、堂内が一瞬柔らかな明度を帯びた。
姉の歩みに合わせて自然と道が開き、祈りにも似た沈黙が広がる。
列席者たちの目に浮かぶのは、敬意と揺るぎない信頼。

「騎士――バルド・カステルモン」

低いざわめきと共に、重い足音が絨毯を踏みしめる。
勇者と聖女の隣に並ぶその姿は、まさに“鉄壁”。
その存在感が場の空気をさらに引き締めた。

ここまでの三人は、誰もが予想した“王道の布陣”。
堂内には「順当」という空気が漂い、誰もがこのまま予定調和の人選が続くと疑わなかった――その刹那。

「弓使い――フィーネ・リスティアーナ」

名が響いた瞬間、空気が波打った。
最後列から進み出た銀葉の髪のエルフが静かに膝を折る。
ざわっ、と波が走った。

「まさか……」
「異種族を入れるのか?」

驚きと好奇が交錯する囁きが、あちこちから漏れ聞こえる。
皆が予想していなかった“異種族の四人目”に、場の緊張がほんの一瞬、異なる色を帯びた。

(フィーネさん……)

戦場で倒れ込んでいた私に手を差し伸べてくれた人。
誘いを全て断ってきたソロ冒険者の彼女が、このパーティに加わる――私は知っていた。
けれど、列席者たちには予想外の人選だっただろう。

(……次は、私)

呼吸が浅くなり、心臓の鼓動がじわじわと早まっていく。
ここまでの流れが予想外だった分、最後の“誰が呼ばれるのか”という注目がいやでも高まっているのが、肌でわかった。

「――白魔導士、セレナ・ルクレール」

堂内が一瞬、風さえ止んだかのように静まり返り、耳の奥で自分の鼓動だけがやけに大きく響いた。
私の呼吸も、同時に止まる。

一歩、前へ踏み出す。
無数の視線が、鋭く、突き刺さるように私へと注がれた。

「誰だ!?」
「ルクレール……? 聖女様の妹か!」
「子供じゃないか……」
「待て。先の戦いでは……」
「……いやいや、足手まといでは?」
「うむ……白魔導士など支援しかできぬ者が何の役に……」

ざわり、と波紋のように広がる囁き声。
背筋が硬直し、手のひらが冷え、汗がにじむ。

皆、よくて聖女の妹、むしろお荷物かおまけとしか思っていない。

とっくにわかっていた、予想していた反応。
それでも、実際に浴びると胸の奥がぎゅっと縮む。

(……本当に、“聖女の妹”でしかない私でいいのかな……)

喉の奥がひりつき、胸が痛いほど締め付けられる。

けれど――姉が静かにこちらを振り返り、柔らかな微笑みを向けてくれた。
その一瞬で、胸の奥に小さな灯がともる。

震える足を、それでも――もう一歩、前へ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

追放即死と思ったら転生して最強薬師、元家族に天罰を

タマ マコト
ファンタジー
名門薬師一族に生まれたエリシアは、才能なしと蔑まれ、家名を守るために追放される。 だがそれは建前で、彼女の異質な才能を恐れた家族による処刑だった。 雨の夜、毒を盛られ十七歳で命を落とした彼女は、同じ世界の片隅で赤子として転生する。 血の繋がらない治療師たちに拾われ、前世の記憶と復讐心を胸に抱いたまま、 “最強薬師”としての二度目の人生が静かに始まる。

悪役令嬢に仕立て上げたいなら、ご注意を。

潮海璃月
ファンタジー
幼くして辺境伯の地位を継いだレナータは、女性であるがゆえに舐められがちであった。そんな折、社交場で伯爵令嬢にいわれのない罪を着せられてしまう。そんな彼女に隣国皇子カールハインツが手を差し伸べた──かと思いきや、ほとんど初対面で婚姻を申し込み、暇さえあれば口説き、しかもやたらレナータのことを知っている。怪しいほど親切なカールハインツと共に、レナータは事態の収拾方法を模索し、やがて伯爵一家への復讐を決意する。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完結】侍女が王女に転生?!英雄と結婚して破滅の国を救います!

カナタカエデ
ファンタジー
八十歳で生涯を終えた、元王宮侍女カリナ。 その最期の瞬間――枕元に、かつて仕えた王女アメリアが現れた。 「お願い…私の人生をやり直して。国を、私を、救って――」 次に目を開くと、カリナは十八歳の“王女アメリア”として転生していた。 彼女は知っている。 このままでは王国は滅び、愛する主君が破滅する未来を。 未来を変えるため、アメリアは 冷徹と噂される英雄ヴァルクとの政略結婚を選ぶ。 これは、かつて守れなかった主人のための転生。 そのはずなのに――彼への想いは、気づけば変わり始めていた。 王女と英雄が紡ぐ、破滅回避ラブファンタジー開幕。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜 挿絵はA I画像を使用 10/20 第一章完結 12/20 第二章完結 2/16 第三章完結 他サイト掲載 (小説家になろう、Caita)

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

【完結】王子と結婚するには本人も家族も覚悟が必要です

宇水涼麻
ファンタジー
王城の素晴らしい庭園でお茶をする五人。 若い二人と壮年のおデブ紳士と気品あふれる夫妻は、若い二人の未来について話している。 若い二人のうち一人は王子、一人は男爵令嬢である。 王子に見初められた男爵令嬢はこれから王子妃になるべく勉強していくことになる。 そして、男爵一家は王子妃の家族として振る舞えるようにならなくてはならない。 これまでそのような行動をしてこなかった男爵家の人たちでもできるものなのだろうか。 国王陛下夫妻と王宮総務局が総力を挙げて協力していく。 男爵令嬢の教育はいかに! 中世ヨーロッパ風のお話です。

処理中です...