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4 妖精の宝物庫

アルスター 41

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「あぁ、あったあった。あそこよ」
 そう言われて先の方を見ると、確かにあった。
「見つかるか心配だったけど、これなら見つけるのに手こずらない」
 白い台座の上に、一つの黄金の塊が乗っていた。
「これが、黄金の果実ってやつなのか」
 この黄金の海の中で最も貴重な存在だと言うことが一目瞭然だ。
 手に取ると、本当にリンゴぐらいの大きさで、これが僕には想像もできないほどの力を秘めているなんて全く思えない。
「落としたぐらいじゃどうにもならないだろうけど、一応、大事に持ってね」
「う、うん……」
 落としても大丈夫と言われはしたが、緊張する。もし傷でも付けたら大変だ。そんなことをしたら、一生かけても償いきれない。緊張で手に汗が滲んでくるが、自分の体の為にもやめてほしい。黄金と言うだけあって表面はつるつるしているので、片手だと落としてしまいそうだ。
「それじゃあ、目的も果たせたし、帰りましょうか」
「了解」
 来た道を引き返そうとしたのだが、引き返す先に扉などは存在しない。瞬間移動のようにして来たのだから当たり前なのだが、これでは帰り道が分からない。
「これ……どうやって帰るの」
 この黄金の下に扉があって、そこまで掘り進めなければならなかったりするのだろうか。
 そんな原始的なことを魔法が使えるエルフがするわけがなかった。
「ちょっと待ってて……」
 再び、宝石のメリルが光だし、視界が白く包まれた。
 徐々に視界が戻っていくと、そこは元いた城の中にある祠の前だった。
 いつ経験しても、魔法というのはすごいものだ。
 ただ、ここまですごいと少し疑問が生まれる。
「宝物庫がこういう仕組みなら、盗賊がここまで来ても宝物庫に入れないんじゃないの?」
「まあ、そうね」
 平然と、そう答えた。
「じゃあ、ここまで城の警備を固める必要って……」
 宝物庫のための城と言っても過言ではない作りなのに、宝物庫の扉を開けれるのが妖精女王の権限を持っている者だけならここまで厳重にする必要はないきがする。
「さあ、帰りましょう。早くしないと追っ手が来るわよ」
 そう言って話をごまかしている。
「城の作り的に、追っ手は来ないんじゃないの?」
「…………」
 さっき、メリルは得意げにそう話していたのに、今はもう黙ってしまった。
 女王様をイジるなんて、きっと自尊心が傷ついたのだろう。謝っておいた方がいい。
 そう思った瞬間、夜空の天井が吹き飛び青空が顔を出した。
「な、なんだ!」
 敵の襲撃かと思ったが、全く違った。ただ、敵意があったのは確かだ。
「早く帰る為に、空から一っ飛びしましょう」
「え……ちょ!」
 僕の制止を聞くこともなく、体は浮かび上がり、なくなった天井から空へ浮かび上がった。
「い、いやいや、空はダメだって言ってただろ? 障壁があるからって」
「大丈夫。今は障壁はないから」
 今はメリルが城の所有権を持っているので、障壁を消すことも自由自在のようだ。
 そんな推測をしていたのだが、そんな余裕をもてる状況ではなかった。
「それじゃあ、出発!」
 その掛け声とともに、僕の体がすさまじいスピードで飛行した。
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