オートマーズ

3章 唐突な旅立ち

19

「それじゃあ、羽金、両手を広げて足を肩幅まで開け」
「は、はい」
　城山先生に言われるまま、私は転送装置の上で立ったまま大の字になりました。私が両腕を広げてもこの卵型転送装置の中には余裕があります。このまま準備運動を初めても全く支障がないほどの広さです。
「よぉし。両手を開いて……そうだ。そのまま動くなよ……」
　しかし、ワープするためなのに、こんな格好をする必要はあるのでしょうか。第一、こんな制服姿で火星に行っても大丈夫なのでしょうか。もっと宇宙服みたいなちゃんとした装備をしないとダメな気がします。
「それじゃあ、いくぞぉ……」
　まるで小テストの開始を告げるような気楽さです。そんな城山先生とは違い、私はとても焦っています。ですが、身動きがとれません。もし、動いてしまってワープが失敗し片腕だけ地球に取り残されるなんていう事態にだけはなりたくないのですが、このままでは瞬間移動させられてしまいます。
　どうにかできないかと頭を悩ませましたが、結局、どうすることもできず、そのときは来てしまいました。
　周りから目映いほど光に照らされ、思わず目を瞑りました。これが瞬間移動の感覚。特に謎の浮遊間もありませんでした。ゆっくりと目を開けると……。
「よし、出ていいぞ。次、彦、入れ」
　目の前に広がるのは、先ほどまでと同じ部室の景色。火星にも同じような施設があって、そこにワープした、というわけでもありません。ちゃんと城山先生はいますし、彦君は私が卵形の機械から出てくるのを待っています。
「あ、あれ……？」
　てっきり、これで火星に行くのだとばかり思っていたので、かなり拍子抜けしています。
　そんな私の様子に、彦君も気づいたようです。
「あれだろ？　これで火星にテレポートなんて考えてたんだろ？　まあ、こんなのがあったら誰だってそう思うよな」
「いえいえ、流石に物質を、それも人間を遠くへと瞬間移動させるなんて不可能ですよ」
「でも、想像できることは必ず実現できるっていいますし、それに、少し昔までは量子テレポーテーションを活用して火星に住もうとしてるなんて、想像もしてなかったわけだし」
「それでも限界はありますよ」
　彦君の興奮を大葉部長が窘めている様子です。しかし、私には全くついていけない話をしています。完全に蚊帳の外です。ただ、蚊帳の外は私だけではありませんでした。
「彦、早く入れ。時間がもったいない。羽金はそこのベッドにでも座ってろ」
　あまり時間がないのでしょうか。私からも質問したいことはたくさんあるのですが、おとなしくワープ装置だと思っていた機械から出てベッドに腰掛けました。