オートマーズ

小森 輝

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3章 唐突な旅立ち

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「あぁ……。疲れたぁ! 毎日毎日……。ほら、部活始めるぞ! 準備しろぉー」
 部室へと入ってきた人には見覚えがあります。というか、今日も会いました。
「先生、今日は見学の生徒が来ていて……」
「見学……って、お前……」
「あの……ご無沙汰しています」
 新たに入ってきた彼女、城山先生は、私のクラスの科学担当教師でもあります。そして、科学は私の苦手科目でもあります。よく職員室に呼び出されましたし、授業中も何度も何度も怒られました。そんな城山先生ですが、不思議と苦手意識はありません。怖い先生というよりも、お母さん……いえ、どちらかと言えば、お姉さんといった感じでしょうか。怒られすぎて、今や親近感すら持っています。
 その城山先生がこの火星探査部の部室に来たということは、彼女がこの部活の顧問なのでしょう。
「こりゃまた面倒で手が掛かりそうな……。だが、背に腹は代えられない、か。仕方がない」
 一度は頭を抱えましたが、城山先生は決心を固めたようです。迷いのない足取りで私たちの方ではなく機械の方へと向かっていき、何かのモニターがある席へと座りました。おそらく、そこが先生の定位置なのでしょう。モニターと向き合っている後ろ姿が妙に様になっています。
 そんな感想を抱いていると、城山先生が電源を入れたのか、先ほどまで静かだった機械たちが次々とうなり声を上げ始めました。
「なになに?」
 もしかして、私が見学に来たからなにか特別なことを見せてくれるのでしょうか。これから何が始まるのだろうかと期待で目をキラキラしていると、城山先生が振り向くことなく質問してきました。
「羽金、お前、フルダイブ型のVRゲームとかやったことあるか?」
「VRゲームですか? 兄が持っていたから何度かはありますけど……」
「経験はありか……」
 フルダイブ型のVRゲームというのは、ゲームの世界に入り込んで自由に自分の体を動かせるようなゲームのことです。感覚としては、夢を見ているような感じです。今でも実物のコントローラーを使って操作するアナログなゲームは存在しますが、今時のゲームはフルダイブ型のVRゲームがほとんどです。私自身はあまりゲームをしないのですが、兄が持っているので、たまに借りてやったりします。
 それが火星と何か関係があるのでしょうか。
「身長は」
「えっ……。身長は……156センチです」
「身長も適正ね……。こんな都合がいい奴がホイホイついてくるなんて、春の新入部員集めで失敗したのは何だったんだろうな……」
 そう愚痴りながら城山先生は何かの機械を操作しています。すると、一際大きな卵形の機械が音と共に内部から光が漏れ出てきました。
「よし、羽金、これに入れ」
 城山先生が親指で指したのは、先ほど起動した卵形の機械です。
「先生、緋色さんは見学で、まだ入部する訳では……」
「堅いこと言うなよ。体験入部みたいなもんだから」
 大人しそうな美人の大葉部長が焦っているみたいですが、城山先生はそれを適当にあしらっている感じです。
「ほら、羽金、早くしろ」
「わ、分かりました」
 大葉部長も不安そうに見ていますし、先ほどまでのワクワク感はもうありません。
 城山先生に言われるまま卵形の機械の中に入ると、その瞬間に私はこの機械が何であるのか察しました。
 これはもしかすると転送装置なのではないのでしょうか。地球から火星へと一瞬でワープするという転送装置。昔からワープ装置の噂はされていました。まさか、もう完成して、こんな高校の部室にあるだなんて思いもしませんでした。
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