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5章 火星探査部への入部
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「昨日、説明した視覚補正機能は覚えていますよね?」
「はい! 覚えています!」
記憶能力が低い私でも、その機能のことは覚えていました。使い道がないと感じることは覚えにくいのですが、大葉部長の姿がロボットに変わるという衝撃的な光景を目にしてしまえば、嫌でも記憶に残ります。
「視覚情報として反映されるものは他にもあります。例えば、気温とか風速、湿度なんかですね」
「へぇー。便利ですね」
「ただ、視界の妨げになるので、火星の環境やオートマーズに慣れてからの方がいいかもしれません。もちろん、それまでは私たち2、3年生がフォローしますから安心してくださいね」
「そうなんですね」
私は納得できたのですが、納得できない強がりさんもいるかもしれないので、無言でそちらの方へと視線を向けました。
「なんだよ。俺もまだそこまではやってないぞ。そんなに自惚れてはいないからな」
「ほんとかなぁ?」
疑いの眼差しを向けますが、全く意に介さないと言った様子です。
「視覚情報はそれぐらいなので、次はオートマーズに元からある標準装備の説明をしましょうか」
「標準装備ですか?」
「はい。視覚補正機能で今と変わらない見た目ですけど、オートマーズは火星探査に役立つ装備がたくさんあります」
ロケットパンチはできないと聞いていましたが、実用的な機能が何かあるようです。
「まずは右腕。ここにはナノファイバーで作られた細くて強靱なワイヤーが入っています。重いものを背負うときや崖を降りるときなど、様々な場面で使えます」
大葉部長が右腕をなぞりながら説明してくれているので、私も自分の右腕を触ってみます。
もちろん、この体はオートマーズではないのでワイヤーなんてものはありません。しかし、昨日、オートマーズの体だった私ですが、そんなものがあったという記憶はありません。
ワイヤーなんて一体どこにあったのでしょうかと疑問に思っていたのですが、彦君が気づいてくれたようです。
「あぁ、腕の中にあるんだよ。腕のところがパカってあいて、その中にワイヤーがあるんだ」
腕をあけてその中にワイヤーがあるのを想像すると、少し不快感がこみ上げます。
「腕を開けるって……ちょっとグロくない? なんかワイヤーも血管みたいに感じちゃうんだけど」
「そんなグロいもんじゃねぇよ。視覚補正をしてても機械の見た目で反映されているし、ワイヤーだって、最初はちゃんと束ねられているわけだしな。まあ、手入れ怠ってぐちゃぐちゃにしたら別の意味でグロいけどな」
紐が絡まり合ってどうしようもないような状況を想像して、私は絶対に手入れだけはちゃんとしようと心に決めました。
「楽しそうに話しているところ悪いんですけど、次の説明を始めてもいいですか?」
「は、はい! すいません」
大葉部長の説明を遮ってしまったという申し訳なさもあるのですが、それ以上に、大葉部長の前で彦君と楽しそうに話していたことの方が申し訳なく感じました。
「はい! 覚えています!」
記憶能力が低い私でも、その機能のことは覚えていました。使い道がないと感じることは覚えにくいのですが、大葉部長の姿がロボットに変わるという衝撃的な光景を目にしてしまえば、嫌でも記憶に残ります。
「視覚情報として反映されるものは他にもあります。例えば、気温とか風速、湿度なんかですね」
「へぇー。便利ですね」
「ただ、視界の妨げになるので、火星の環境やオートマーズに慣れてからの方がいいかもしれません。もちろん、それまでは私たち2、3年生がフォローしますから安心してくださいね」
「そうなんですね」
私は納得できたのですが、納得できない強がりさんもいるかもしれないので、無言でそちらの方へと視線を向けました。
「なんだよ。俺もまだそこまではやってないぞ。そんなに自惚れてはいないからな」
「ほんとかなぁ?」
疑いの眼差しを向けますが、全く意に介さないと言った様子です。
「視覚情報はそれぐらいなので、次はオートマーズに元からある標準装備の説明をしましょうか」
「標準装備ですか?」
「はい。視覚補正機能で今と変わらない見た目ですけど、オートマーズは火星探査に役立つ装備がたくさんあります」
ロケットパンチはできないと聞いていましたが、実用的な機能が何かあるようです。
「まずは右腕。ここにはナノファイバーで作られた細くて強靱なワイヤーが入っています。重いものを背負うときや崖を降りるときなど、様々な場面で使えます」
大葉部長が右腕をなぞりながら説明してくれているので、私も自分の右腕を触ってみます。
もちろん、この体はオートマーズではないのでワイヤーなんてものはありません。しかし、昨日、オートマーズの体だった私ですが、そんなものがあったという記憶はありません。
ワイヤーなんて一体どこにあったのでしょうかと疑問に思っていたのですが、彦君が気づいてくれたようです。
「あぁ、腕の中にあるんだよ。腕のところがパカってあいて、その中にワイヤーがあるんだ」
腕をあけてその中にワイヤーがあるのを想像すると、少し不快感がこみ上げます。
「腕を開けるって……ちょっとグロくない? なんかワイヤーも血管みたいに感じちゃうんだけど」
「そんなグロいもんじゃねぇよ。視覚補正をしてても機械の見た目で反映されているし、ワイヤーだって、最初はちゃんと束ねられているわけだしな。まあ、手入れ怠ってぐちゃぐちゃにしたら別の意味でグロいけどな」
紐が絡まり合ってどうしようもないような状況を想像して、私は絶対に手入れだけはちゃんとしようと心に決めました。
「楽しそうに話しているところ悪いんですけど、次の説明を始めてもいいですか?」
「は、はい! すいません」
大葉部長の説明を遮ってしまったという申し訳なさもあるのですが、それ以上に、大葉部長の前で彦君と楽しそうに話していたことの方が申し訳なく感じました。
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