オートマーズ

小森 輝

文字の大きさ
33 / 72
5章 火星探査部への入部

33

しおりを挟む
「昨日、説明した視覚補正機能は覚えていますよね?」
「はい! 覚えています!」
 記憶能力が低い私でも、その機能のことは覚えていました。使い道がないと感じることは覚えにくいのですが、大葉部長の姿がロボットに変わるという衝撃的な光景を目にしてしまえば、嫌でも記憶に残ります。
「視覚情報として反映されるものは他にもあります。例えば、気温とか風速、湿度なんかですね」
「へぇー。便利ですね」
「ただ、視界の妨げになるので、火星の環境やオートマーズに慣れてからの方がいいかもしれません。もちろん、それまでは私たち2、3年生がフォローしますから安心してくださいね」
「そうなんですね」
 私は納得できたのですが、納得できない強がりさんもいるかもしれないので、無言でそちらの方へと視線を向けました。
「なんだよ。俺もまだそこまではやってないぞ。そんなに自惚れてはいないからな」
「ほんとかなぁ?」
 疑いの眼差しを向けますが、全く意に介さないと言った様子です。
「視覚情報はそれぐらいなので、次はオートマーズに元からある標準装備の説明をしましょうか」
「標準装備ですか?」
「はい。視覚補正機能で今と変わらない見た目ですけど、オートマーズは火星探査に役立つ装備がたくさんあります」
 ロケットパンチはできないと聞いていましたが、実用的な機能が何かあるようです。
「まずは右腕。ここにはナノファイバーで作られた細くて強靱なワイヤーが入っています。重いものを背負うときや崖を降りるときなど、様々な場面で使えます」
 大葉部長が右腕をなぞりながら説明してくれているので、私も自分の右腕を触ってみます。
 もちろん、この体はオートマーズではないのでワイヤーなんてものはありません。しかし、昨日、オートマーズの体だった私ですが、そんなものがあったという記憶はありません。
 ワイヤーなんて一体どこにあったのでしょうかと疑問に思っていたのですが、彦君が気づいてくれたようです。
「あぁ、腕の中にあるんだよ。腕のところがパカってあいて、その中にワイヤーがあるんだ」
 腕をあけてその中にワイヤーがあるのを想像すると、少し不快感がこみ上げます。
「腕を開けるって……ちょっとグロくない? なんかワイヤーも血管みたいに感じちゃうんだけど」
「そんなグロいもんじゃねぇよ。視覚補正をしてても機械の見た目で反映されているし、ワイヤーだって、最初はちゃんと束ねられているわけだしな。まあ、手入れ怠ってぐちゃぐちゃにしたら別の意味でグロいけどな」
 紐が絡まり合ってどうしようもないような状況を想像して、私は絶対に手入れだけはちゃんとしようと心に決めました。
「楽しそうに話しているところ悪いんですけど、次の説明を始めてもいいですか?」
「は、はい! すいません」
 大葉部長の説明を遮ってしまったという申し訳なさもあるのですが、それ以上に、大葉部長の前で彦君と楽しそうに話していたことの方が申し訳なく感じました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...