オートマーズ

小森 輝

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5章 火星探査部への入部

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 そんな話をしているうちに、時間は来たようです。
「よぉし! 部活始めるぞ!」
 勢いよく開かれたドアから現れたのは、想像通り城山先生でした。
「ちゃんと、全員揃っているか?」
「いえ、今日も獅子舞さんはバスケ部に……」
 どうやら、今日も2年生のもう一人いる火星探査部の部員は来ないみたいです。まあ、今日は火星に行く予定はないという話なので、無理に参加する必要もないのでしょう。
「獅子舞は居なくてもいいだろ。どうせ、今日は勉強会みたいなもんだしな」
 城山先生の言うとおりなのですが、言い方が少し酷い気がします。私もいつかこんな憎まれ口を言われるのでしょうか。
「それじゃあ、早速、始めるか。大葉、頼んだぞ」
「はい。分かりました」
 そう言って、大葉部長が黒板の前に、そして、城山先生は部室の隅でドカッと座りました。
「あれ? 城山先生が話をしてくれるんじゃないんですか?」
「私は分からないことがあったときにアドバイスするだけだよ。そもそも、大葉の方が勉強熱心で私よりも詳しいかもしれないからな」
「そんなことはありませんよ。私なんて、まだまだ……」
 そんな大葉部長の謙遜を否定しないあたり、本当に城山先生の方が火星探査については詳しいのでしょう。火星にある基地を作ってくれたのも城山先生だと彦君が言っていました。ズボラな感じがしていましたが、ちゃんと部活の顧問をしているようで安心しました。
「私のことはいいんだよ。それより、早く始めてくれ。時間がもったいない」
「そうですね。すいません。話を脱線させてしまって」
 大葉部長が城山先生に謝りますが、話を脱線させたのは私が原因です。ですが、話を遮ってしまうのも悪いですし、それに、怒られたくはないので黙っておきます。
「まずはオートマーズの機能について説明しておきましょうか。たくさん機能があっても知らなければないのと同じですから」
 大葉部長はいざというときのことを話しているのでしょう。しかし、昨日の火星探索を思い出しても、そんな場面が訪れるとは思えません。
「でも、植物に水をあげるぐらいなら、そんなたくさんの機能なんていらないんじゃないですか?」
「お前、そんなんじゃ、明日痛い目見るぞ?」
「明日?」
 今日の火星探査はお休みですが、明日、授業のない土曜日は火星に行く予定があると聞きました。おそらく、彦君はそのことを言っているのでしょう。つまり、明日の火星探査は水やりだけではないと言うことです。勉強会だけだと言うことで、今日の私のテンションは低めだったのですが、一気に跳ね上がりました。
「明日って、何か特別なことをするんですか? もしや、新入部員の私が加わったことにより、ついに火星人を探しに行くとか?」
「そんな大それたことではないですよ。どちらかというと、ピクニックのようなものです」
「そうなんですか?」
「はい。ただし、普通のピクニックではありません。火星でのピクニックです。もちろん、危険は数え切れないほどあります。そのための、今日の勉強会ですよ」
 いよいよ、私が思い描いていたような危険と未知にあふれる冒険が始まってしまうようです。もちろん、今日はその前準備というわけです。
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