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8章 未知との遭遇
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「……ね……きろ……っかり…………羽金!」
誰かに呼ばれて、目を覚まします。
見知らぬ天井……いえ、天井ではありません。目の前に見えるのは、城山先生の心配顔です。
「意識は戻ったか……。大丈夫か? ここがどこだか分かるか?」
そう言われて、首だけを動かして周りを見ます。何のために使うのか分からない機械たちと、奥に長机と椅子があります。この場所は知っています。
「部室の中……」
「大丈夫そうだな」
そう言って、城山先生は私が被っていたフルフェイスヘルメットのような機械を外してくれました。
「できる範囲でいい。何があったか聞かせてくれないか?」
私が寝ているときに何があったのか。この部室で……いいえ、今まで私が居たのは部室ではありません。それどころか、地球にもいませんでした。
私が居たのは、火星です。火星で、みんなと一緒に歩いて、そして、帰り道、私は竜巻に飲み込まれたのです。
「そうだ! みんな!」
もしかしたら、みんなも飛ばされてしまったのかもしれません。それなら、助けにいかないと。
そう思って、勢いよく起きあがったのですが、その威勢はすぐに勢いを失いました。
「いたたた……」
急に起きあがったからでしょうか。私の頭を痛みが襲います。締め付けられるような痛みで、頭が重たいです。
「無理するな。オートマーズの緊急転送で帰ってきたんだ。お前ほどの適正があっても転送酔いは免れない。むしろ、それぐらいで済んでよかったと思うんだな」
これが、彦君が火星に来る度に襲われていた転送酔い。辛いのですが、彦君程の転送酔いではなさそうです。頭痛だけで、頑張れば動けそうな気がします。
しかし、転送酔いとは無縁な人生だとマリさんと話していたのですが、まさか帰ってくるときにそれを味わうなんて考えてもいませんでした。それほど、私が帰還しなければならなくなった状況は壮絶だったのです。
「それで、何があったんだ? 大方、お前だけ砂嵐に巻き込まれて飛ばされたんだろ?」
「そうですけど……何で先生が知ってるんですか?」
先生は火星に同行していません。地球にいる先生に私たちの出来事を知る術はないはずです。
そう思っていたのですが、今の技術は私の想像以上に進歩しています。
「お前たちが動かしているオートマーズの位置情報をこっちでモニタリングしてるんだよ。そしたら、お前の位置情報だけピョーンと飛んでいったからな。そんな珍妙な動き、砂嵐ぐらいしかない」
竜巻に飲み込まれた私を位置情報で見ると、どんな風に映っていたのか気にはなりますが、それよりも先生の言葉の方が私にとっては大事でした。
「私だけってことは、他のみんなは飛ばされずに済んだってことですか?」
「おそらくな。位置情報では羽金以外に変な動きはなかった」
「よかった……」
飛ばされたのは私だけで、みんなは無事だったようです。
しかし、安堵するにはまだ早いです。みんなが無事なら私のことを探しているかもしれません。だとすると、二次災害の危険性があります。そのことを早く伝えなければなりません。
「じゃあ、こっちからメッセージとか送れませんか? 私を探して」
「その必要はない。他の部員は、皆、基地を目指して歩いている。時差を考慮すると、もう基地に着いて帰還の準備をしているころだろう」
「……そう、ですか……」
探さないように伝えようとしていたのは私ですが、元から探していないと聞くと胸に突き刺さる物があります。それは、見捨てられたことによる疎外感とは少し違います。信頼を裏切られたような、そんな感情です。
「気を落とすな。これは、お前が無事に地球へと帰還していることを信じての行動だ。別にお前を切り捨てた訳じゃない」
それは理解できるのですが、それでもこの胸のもやもやが晴れることはありません。
「それより、話だ。お前、砂嵐で飛ばされて、地面に落ちてからすぐに帰還してないだろ。数分間だが、位置情報はその場に止まっていた。そこから、バイタルが急変。そして、位置情報が喪失して緊急転送。何があった?」
「その……竜巻で飛ばされてる間に気を失っちゃって……」
「気を……? 乱雑に飛ばされて、多方向からの重力を検知したから一時的にオートマーズが機能を停止させたのか。だとしても、落ちてすぐに起動したはずだ。それからしばらくして、停止した。その間、何をしていた」
非常に言いたくはないのですが、これも火星探査部部員の報告義務なのでしょう。
「飛ばされた後も無事だったんですけど……それから不注意で崖に落ちちゃって……」
予想通り、私の言葉を聞いて、城山先生は頭を抱えました。だから言いたくなかったのですが、仕方ありません。
「なるほど。そこからさらに落ちたから、位置情報では止まって見えていたのか。そして、底まで落ちて機能停止って所か」
大体はそうなのですが、私は崖の底に落ちてすぐに意識を失った訳ではありません。パニックを起こしていましたが、少しだけ意識はあったんです。まず最初にそのことを報告するべきでした。
「そ、そうです!」
私はそこで会ったんです。出会ったんです。火星という生物の気配が一切ない土地で。死の底で恐怖に震えながら。私は出会ったんです。
「私、火星人を見たんです!」
誰かに呼ばれて、目を覚まします。
見知らぬ天井……いえ、天井ではありません。目の前に見えるのは、城山先生の心配顔です。
「意識は戻ったか……。大丈夫か? ここがどこだか分かるか?」
そう言われて、首だけを動かして周りを見ます。何のために使うのか分からない機械たちと、奥に長机と椅子があります。この場所は知っています。
「部室の中……」
「大丈夫そうだな」
そう言って、城山先生は私が被っていたフルフェイスヘルメットのような機械を外してくれました。
「できる範囲でいい。何があったか聞かせてくれないか?」
私が寝ているときに何があったのか。この部室で……いいえ、今まで私が居たのは部室ではありません。それどころか、地球にもいませんでした。
私が居たのは、火星です。火星で、みんなと一緒に歩いて、そして、帰り道、私は竜巻に飲み込まれたのです。
「そうだ! みんな!」
もしかしたら、みんなも飛ばされてしまったのかもしれません。それなら、助けにいかないと。
そう思って、勢いよく起きあがったのですが、その威勢はすぐに勢いを失いました。
「いたたた……」
急に起きあがったからでしょうか。私の頭を痛みが襲います。締め付けられるような痛みで、頭が重たいです。
「無理するな。オートマーズの緊急転送で帰ってきたんだ。お前ほどの適正があっても転送酔いは免れない。むしろ、それぐらいで済んでよかったと思うんだな」
これが、彦君が火星に来る度に襲われていた転送酔い。辛いのですが、彦君程の転送酔いではなさそうです。頭痛だけで、頑張れば動けそうな気がします。
しかし、転送酔いとは無縁な人生だとマリさんと話していたのですが、まさか帰ってくるときにそれを味わうなんて考えてもいませんでした。それほど、私が帰還しなければならなくなった状況は壮絶だったのです。
「それで、何があったんだ? 大方、お前だけ砂嵐に巻き込まれて飛ばされたんだろ?」
「そうですけど……何で先生が知ってるんですか?」
先生は火星に同行していません。地球にいる先生に私たちの出来事を知る術はないはずです。
そう思っていたのですが、今の技術は私の想像以上に進歩しています。
「お前たちが動かしているオートマーズの位置情報をこっちでモニタリングしてるんだよ。そしたら、お前の位置情報だけピョーンと飛んでいったからな。そんな珍妙な動き、砂嵐ぐらいしかない」
竜巻に飲み込まれた私を位置情報で見ると、どんな風に映っていたのか気にはなりますが、それよりも先生の言葉の方が私にとっては大事でした。
「私だけってことは、他のみんなは飛ばされずに済んだってことですか?」
「おそらくな。位置情報では羽金以外に変な動きはなかった」
「よかった……」
飛ばされたのは私だけで、みんなは無事だったようです。
しかし、安堵するにはまだ早いです。みんなが無事なら私のことを探しているかもしれません。だとすると、二次災害の危険性があります。そのことを早く伝えなければなりません。
「じゃあ、こっちからメッセージとか送れませんか? 私を探して」
「その必要はない。他の部員は、皆、基地を目指して歩いている。時差を考慮すると、もう基地に着いて帰還の準備をしているころだろう」
「……そう、ですか……」
探さないように伝えようとしていたのは私ですが、元から探していないと聞くと胸に突き刺さる物があります。それは、見捨てられたことによる疎外感とは少し違います。信頼を裏切られたような、そんな感情です。
「気を落とすな。これは、お前が無事に地球へと帰還していることを信じての行動だ。別にお前を切り捨てた訳じゃない」
それは理解できるのですが、それでもこの胸のもやもやが晴れることはありません。
「それより、話だ。お前、砂嵐で飛ばされて、地面に落ちてからすぐに帰還してないだろ。数分間だが、位置情報はその場に止まっていた。そこから、バイタルが急変。そして、位置情報が喪失して緊急転送。何があった?」
「その……竜巻で飛ばされてる間に気を失っちゃって……」
「気を……? 乱雑に飛ばされて、多方向からの重力を検知したから一時的にオートマーズが機能を停止させたのか。だとしても、落ちてすぐに起動したはずだ。それからしばらくして、停止した。その間、何をしていた」
非常に言いたくはないのですが、これも火星探査部部員の報告義務なのでしょう。
「飛ばされた後も無事だったんですけど……それから不注意で崖に落ちちゃって……」
予想通り、私の言葉を聞いて、城山先生は頭を抱えました。だから言いたくなかったのですが、仕方ありません。
「なるほど。そこからさらに落ちたから、位置情報では止まって見えていたのか。そして、底まで落ちて機能停止って所か」
大体はそうなのですが、私は崖の底に落ちてすぐに意識を失った訳ではありません。パニックを起こしていましたが、少しだけ意識はあったんです。まず最初にそのことを報告するべきでした。
「そ、そうです!」
私はそこで会ったんです。出会ったんです。火星という生物の気配が一切ない土地で。死の底で恐怖に震えながら。私は出会ったんです。
「私、火星人を見たんです!」
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