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8章 未知との遭遇
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興奮して前のめりになった私ですが、城山先生に思いっきりおでこを叩かれて、痛みに悶えながらベッドへと戻りました。
「何を馬鹿なことを言い出すのかと思えば……。「火星人を見た」だと? つくにしてももっとましな嘘をつけ。火星探査の歴史がどれだけ長いのか知らないのか」
「歴史とかは知りませんけど……。でも、ちゃんとこの目で見たんです!」
実際に見たのは、この生身の目ではなくオートマーズのカメラなのですが、それは些末なことでしょう。いいえ、些末ではありません。むしろ、好都合です。
「映像とか残ってないんですか? 私、ちゃんと見たんですから」
見たのはオートマーズのカメラです。生身の体ではなく機械なので、記録に残っていてもおかしくありません。
「オートマーズに映像を送る機能はない。ただし、画像ならカメラ機能を使って送ることができるが……」
「うっ……それは……」
おそらく、昨日、大葉部長に説明してもらっているのでしょうが、記憶にはありませんでした。
「まあ、機能停止直前の出来事だ。画像を記録したとしても送信する余裕はなかっただろう」
世紀の大発見のチャンスを棒に振ったのかと思いましたが、どうやら、どの道ダメだったようです。
「夢でも見ていたんじゃないのか?」
「違いますよ! ちゃんと見ました!」
「落ちてパニックになって幻覚を見たとか」
「パニックにはなりましたけど……。でも、見たのは冷静になってからです」
「はぁ……どうしたものか……」
先生は私の言うことを……いいえ、それ以前のことを信じていないのです。
「先生は、火星人がいるって信じてないんですか?」
そう私が問いかけると、先生は苛立った心を静めて、ゆっくりと話し出してくれました。
「……私だって、探したんだよ、火星人。でもさ、私は見つけられなかったんだ、火星人を。いいや、火星人どころじゃない。知的生命体がいた痕跡も見つけられなかった。それどころか生物が生きていた痕跡すら見つけられなかったんだ。だから、私は火星人がいるなんて信じてない」
城山先生はこの桜井高校火星探査部のOGです。つまり、先生も私と同じ学生の頃は、火星にロマンを求める一人の少女だったのです。しかし、火星探査を進めて、ロマンを探したけれど、何一つ見つけられなかった。城山先生は、夢に破れてしまったのです。
しかし、先生の眼差しは上へと、火星へと向いていました。
「でもね、私の生徒が、私が顧問をしている火星探査部の部員が、火星人がいたって言うんなら、私はそれを信じるよ」
先生は夢に破れてしまったけれど、それでも諦めることはできなかったのでしょう。だから、こうやって教師になって、火星探査部の顧問として、後輩に夢を託しているのです。そうでなければ、私が信じられないようなことを言っているのに、笑顔で背中を押してくれるはずがありません。私はいい教師に巡り会えたようです。
「しっかし、「火星人」か……。火星探査2日目でとんでもないことをしてきたもんだ」
これが本当なら、世紀の大発見として歴史の1ページに名前を刻むでしょう。しかし、そんなことは、正直、どうでもいいのです。火星人を助けさえできれば……。
そこでようやく、私は思い出しました。
「そ、そうだ! 私、火星人に助けを求められてたんだった! 早く火星に行かないと!」
「待て待て。落ち着け。今、お前のオートマーズは機能を停止してるんだ。新しいオートマーズの申請を……って、なんで助けを求めてるなんて分かったんだ? その火星人と話でもしたのか?」
「話はしてないですけど……。でも、たすけてって言われたんで」
「言われたって……。お前、火星語でも分かるのか?」
「いえ、日本語だったんで……」
「日本語って……。こりゃきな臭くなってきたな」
確かに、冷静に考えれば、火星人が日本語を話すなんて不思議です。でも、火星探査の歴史は長いと言っていました。その間に日本語に触れた可能性だってあります。
「とりあえず、話の続きは一度全員が帰ってきてからだ。それから、今後の活動方針を決めよう。それまで、お前は少し休んでろ」
「分かりました……」
こうして、私の怒濤の火星探査2日目は終わりを告げました。
「何を馬鹿なことを言い出すのかと思えば……。「火星人を見た」だと? つくにしてももっとましな嘘をつけ。火星探査の歴史がどれだけ長いのか知らないのか」
「歴史とかは知りませんけど……。でも、ちゃんとこの目で見たんです!」
実際に見たのは、この生身の目ではなくオートマーズのカメラなのですが、それは些末なことでしょう。いいえ、些末ではありません。むしろ、好都合です。
「映像とか残ってないんですか? 私、ちゃんと見たんですから」
見たのはオートマーズのカメラです。生身の体ではなく機械なので、記録に残っていてもおかしくありません。
「オートマーズに映像を送る機能はない。ただし、画像ならカメラ機能を使って送ることができるが……」
「うっ……それは……」
おそらく、昨日、大葉部長に説明してもらっているのでしょうが、記憶にはありませんでした。
「まあ、機能停止直前の出来事だ。画像を記録したとしても送信する余裕はなかっただろう」
世紀の大発見のチャンスを棒に振ったのかと思いましたが、どうやら、どの道ダメだったようです。
「夢でも見ていたんじゃないのか?」
「違いますよ! ちゃんと見ました!」
「落ちてパニックになって幻覚を見たとか」
「パニックにはなりましたけど……。でも、見たのは冷静になってからです」
「はぁ……どうしたものか……」
先生は私の言うことを……いいえ、それ以前のことを信じていないのです。
「先生は、火星人がいるって信じてないんですか?」
そう私が問いかけると、先生は苛立った心を静めて、ゆっくりと話し出してくれました。
「……私だって、探したんだよ、火星人。でもさ、私は見つけられなかったんだ、火星人を。いいや、火星人どころじゃない。知的生命体がいた痕跡も見つけられなかった。それどころか生物が生きていた痕跡すら見つけられなかったんだ。だから、私は火星人がいるなんて信じてない」
城山先生はこの桜井高校火星探査部のOGです。つまり、先生も私と同じ学生の頃は、火星にロマンを求める一人の少女だったのです。しかし、火星探査を進めて、ロマンを探したけれど、何一つ見つけられなかった。城山先生は、夢に破れてしまったのです。
しかし、先生の眼差しは上へと、火星へと向いていました。
「でもね、私の生徒が、私が顧問をしている火星探査部の部員が、火星人がいたって言うんなら、私はそれを信じるよ」
先生は夢に破れてしまったけれど、それでも諦めることはできなかったのでしょう。だから、こうやって教師になって、火星探査部の顧問として、後輩に夢を託しているのです。そうでなければ、私が信じられないようなことを言っているのに、笑顔で背中を押してくれるはずがありません。私はいい教師に巡り会えたようです。
「しっかし、「火星人」か……。火星探査2日目でとんでもないことをしてきたもんだ」
これが本当なら、世紀の大発見として歴史の1ページに名前を刻むでしょう。しかし、そんなことは、正直、どうでもいいのです。火星人を助けさえできれば……。
そこでようやく、私は思い出しました。
「そ、そうだ! 私、火星人に助けを求められてたんだった! 早く火星に行かないと!」
「待て待て。落ち着け。今、お前のオートマーズは機能を停止してるんだ。新しいオートマーズの申請を……って、なんで助けを求めてるなんて分かったんだ? その火星人と話でもしたのか?」
「話はしてないですけど……。でも、たすけてって言われたんで」
「言われたって……。お前、火星語でも分かるのか?」
「いえ、日本語だったんで……」
「日本語って……。こりゃきな臭くなってきたな」
確かに、冷静に考えれば、火星人が日本語を話すなんて不思議です。でも、火星探査の歴史は長いと言っていました。その間に日本語に触れた可能性だってあります。
「とりあえず、話の続きは一度全員が帰ってきてからだ。それから、今後の活動方針を決めよう。それまで、お前は少し休んでろ」
「分かりました……」
こうして、私の怒濤の火星探査2日目は終わりを告げました。
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